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高校生のリビドー

 男なら誰でも共感できると信じています!

 梅雨が終わり、日差しが強くなる。フライング気味の蝉が鳴いていた。

 車一台分の幅がある道路を一人の少年が自転車を漕ぐ。

 真新しい高校の夏服に身を包む田嶋健司は、学校の帰り道のとある場所で速度を落とす。

 それは、自動販売機の前だった。

 その自販機では映画などのDVDを販売していた。有名なものから古いものまで様々だ。

 健司はゆっくりと自販機の前を通り、流し目で自販機にあるひとつの商品を凝視した。

 見ていたのはパッケージに風呂場の写真が写っているDVDだ。帯には十八禁の文字。金額は五百円。

 この道を通るようになってからずっと気になっていたものだ。

「……………………」

 そのパッケージをみるたびに、思春期真っ盛りの男である健司の頭の中では、桃色の妄想が拡がり続けていた。その広さは無限大。

 しばらく自転車を走らせて悩みの末、

「よし……買おう」

 自転車の速度を一気に加速させた。数か月悩み続けた末の決断だ。


 その日の夜、健司はこっそり家を抜け出した。制服は着ていない。目立たないような地味な服に、帽子を被った。この格好なら高校生だとすぐにはバレないと、健司は思った。

 健司は自販機のある道から少し離れた場所に自転車を止め、辺りを警戒しながら目的地へ向かった。

 自販機はポツンと昼と同じ場所に立っていた。ひと気はなく、一本の街灯がその場を照らしていた。

 健司は自販機の前に立った。商品の中から目当てのDVDを見つける。風呂場のパッケージに十八禁の帯。喉が鳴った。

 左右を見て人影がいないか確認した。

「…………よし」

 緊張した面持ちで財布から五百円玉を取り出して……、

「田嶋くん? 何しているの?」

「うわあああああっ!?」

 突然声をかけられた健司は叫び声をあげ、持っていた五百円玉を落とした。チャリンと音を出して地面に転がる。

「大空さん!?」

 健司は裏返った声音で、少女の名前を呼んだ。

 暗がりから街灯の明りに照らされて現れたのは、クラスメイトの大空夏美だった。

 クラスでも群を抜いた美少女で、男子のファンも多い。健司も少なからず好意を持っていた。

 夏美は健司が落とした五百円玉を拾い上げた。

「五百円? 何か買おうとしてたの?」

 そう言って、夏美は五百円玉を健司に渡す。

「ありがとう」

 健司はドギマギした表情で夏美を見る。近づいた彼女からシャンプーの香りを感じた。夏美は風呂に入っていたようだ。服装も制服ではなく、私服。しかもTシャツに短パンとかなり薄着で、肌色が多かった。

 健司は十八禁DVDのことで頭がいっぱいだったため、余計に想像を掻き立ててしまう。顔が一気に熱くなり、慌てて視線を逸らした。誤魔化すように、自販機に並ぶDVDから十八禁の帯の無いものを適当に指さした。

「こ、これを買おうとしたんだよ」

 夏美は、健司が指しているDVDの値段を見て、不思議そうにしていた。

「でもそれ……五百円じゃ買えないよ?」

「え?」

 夏美の指摘に、健司は指さしたDVDを改めて見る。値札には五千円と書いてあった。

 健司は口を大きく開けて、目を見開く。陳列している商品の中で一番高いDVDを選んでいたのだ。

「そ、そうみたいだね。あは、あははは……」

 恥ずかしさを笑い声で誤魔化し、慌てて財布の中身を確認する。

 その様子をクスクス笑いながら夏美は眺めていた。

 健司の財布の中にはちょうと五千円札があった。心の中で涙を流し、自販機に投入する。

 購入ボタンを押して、買ったDVDを取り出した。

「でも意外だね。田嶋くんは恋愛映画とかに興味がないと思っていたよ」

「ああ、実はちょっと興味があって……ね」

 健司が買ったのは、男女のキスシーンがパッケージにプリントしてある恋愛映画だった。一番に目に入ったものがこれだったのだ。

「じゃあ、俺はこれで……またね」

「うん、また学校でね」

 健司は夏美に見送られながら、足早にその場をあとにした。五百円の十八禁DVDではなく、五千円の恋愛映画のDVDを握りしめて。


 健司を見送った夏美は、彼の姿が見えなくなると、ほっと息を吐いた。

「危なかったあ……。もうすこし早く来ていたら、わたしが田嶋くんになるところだったなあ」

 そう言って、夏美はポケットから小さな財布を出した。中から五百円玉を取り出す。

 自販機に硬化を投入して、すぐに十八禁の帯があるDVDを購入した。

 夏美も通学中に見かけてからずっと、このDVDが気になっていた。それで夜に買おうと思って来てみたら、健司と鉢合わせてしまったのだ。

「まさか田嶋くんもこのDVDを買おうとしてたなんて思わなかったなあ……」

 自販機に並ぶDVDでちょうど五百円で買えるのはコレだけだった。同じものを買おうとしていた夏美にはすぐにわかった。

「でも同じ日同じ時間に買おうとするなんてね。気が合うのかな……?」

 夏美は健司が帰っていた方向を見て、クスっと笑った。

 お読みいただきありがとうございます。

 

 まだインターネットが普及していなかったとき、田舎でエロビデオの自販機を見たことがあります。その時代を懐かしみながら書きました。


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