*** 99 ビクトワール大王国第3王子軍 ***
7日後の夕刻。
(サトルさま。
ビクトワール大王国第3王子率いる5万の軍勢が、もう間もなくギャランザ王国の王宮に到着致します)
「ようやく来たか。待ちくたびれたぜ」
(今までの進行速度からして、王宮からボルグ男爵領までは6日、それからは多少速度が速まりましょうから、ギャランザ王国最西端の山間の村まで5日、第3砦まではそこから5日半の行程でございましょう)
「大王国軍も1日ぐらいは休むだろうから、実質戦闘は18日後か。
ほんっと悠長な戦争だな。
それじゃあその軍勢とやらを見てみるか」
なんだよこれ、このバカデカい馬車はなんなんだ?
これ、幅5メートル、長さは10メートルぐらいあんぞ。
馬は6頭立てにもなってるし……
あはは、王宮の城門内の曲がり角を抜けられなくって兵士たちが慌ててるわ。
あ、小型の馬車を用意してる。ここで乗り換えるのかな。
「アダム。音声は拾えるか?」
(すでに多数の小型マイクとカメラの魔道具を配置しております)
「サンキュ」
お、なんかすげぇデブがデカ馬車から降りて来たぞ。
ふーふー言いながら馬車を乗り換えてるわ。
これが第3王子サマか……
あー、兵士が5人がかりでケツ押してやって、ようやく馬車に乗れたか。
あ! なんだよあれ! デカい馬車からケバい女たちが5人も出て来た!
女連れで戦争かよ!
女達はなんか文句言いながら小型の馬車の後ろを歩いてるわ。
ようやく王宮正面入り口に到着したか……
あ、後ろにずらずらと続いてた小型の馬車からも、女たちが50人ぐらいも降りて来てるわ!
「ビクトワール大王国第3王子、ドラグント・ビクトワール殿下、ようこそギャランザ王国へ。
わたくしは宰相のビジルス・マケンザと申します。
どうかお見知りおき下さいますようお願い申し上げます」
「宰相よ! なんだあのみすぼらしい門は!
おかげで俺様が馬車を乗り換えるのに8歩も歩くハメになったではないか!
すぐにもっと大きく広く造り変えよ!」
「は、はい。畏まりました……」
なんだよコイツ。
身長は150センチぐらいしか無いのに、体重は200キロ以上ありそうだわ。
な、なんというウルトラスーパーグランドデブだ……
こいつ、自分のちんちんとか見えたこと無いんじゃないか?
それに門内外の道をわざと狭くして曲がり角を造るって、侵入して来た敵を攻撃するための築城の基本中の基本なのにな。
そんなこともわからない程のアフォ~なのか……
お、ビクトワール大王国の兵士たちがなんかデカい輿みたいなもんを用意したぞ。
おいおい、まさかコイツ、王宮内を輿に乗って移動する気かよ。
それも12人ものギンギラゴテゴテの服着た兵士に担がせた輿で……
あ、しかも兵士に持ち上げられて輿の上に移動しとる!
「そうそう、宰相よ」
「ははっ!」
「なぜ、俺様が来るとわかっていて、街道の途中に離宮を用意しておかなかったのだ!」
「は?」
「おかげで暑苦しい馬車で寝るはめになったではないか!
帰路のために、至急離宮を用意せい!
それから道が荒れていて馬車が揺れた。
すぐに街道も平らに整備するように申しつける!」
「は、はい……」
うっわー、こいつ真性の莫迦だわ…… こんなんが第3王子なんかよ。
お、謁見室か、王とのご対面だな。
あー、当然のようにギンギラ服達が王子を正面の王座に運んでるよ。
わはははは。デブ過ぎて座れないでやんの!
ああ、慌ててソファ持って来たか。
おいおい、3人掛けのソファにひとりしか座れないじゃねえか。
「ギャランザ王、デスルギ・フォン・ギャランザよ」
「ははっ、ドラグント・ビクトワール殿下!」
「先ほど宰相にも文句を言ったが、キサマら、宗主国の王子である俺様に少し敬意が足りんのではないか?」
「は……」
「街道が荒れていて馬車が揺れた。途中に離宮を用意していなかったので馬車で寝るハメになった。城門前の道が狭くて馬車が通れなかった。
おかげでこの俺様が8歩も歩かされたのだぞ!
おまけにこのみすぼらしい玉座だ。
もそっと俺様を敬うように申しつける!」
「ははっ!」
「さて、それではしばらくゆっくりと逗留することとしよう。
あ、食事は1日5食だからな。
同じものを出すような粗相の無いように」
「あ、あの…… 洞窟ドワーフ領侵攻は……」
「ん? ああ、軍監は既に向かわせた。
2日後には後詰軍2万が進発する。残り3万は俺様の護衛だ」
「は、はい……」
「将軍位の部下に部屋の用意は出来ておろうな。
こ奴らの部屋は俺の部屋の隣室とする。
それから俺の部屋の周囲100メートル以内にギャランザ人の立ち入りも禁ずる」
「は、はい……」
「それではさっそく寛ぐとしよう」
そうしてまたギンギラ服達に運ばれて輿に乗った王子サマは、女たちと一緒に部屋に引っ込んだんだ。
おいおい、部屋の窓の外には完全武装の兵士を1000人近くも配置させてるぜ。
あー、ヒト族の支配階級ってここまでアフォ~だったんだなあ……
(サトルさま、ビクトワール軍の軍監と思しき人物が、供を連れて馬車でボルグ男爵領に向かっております)
「確か6日ほどの距離だったな。
それじゃあボルグ男爵の邸に近づいたら教えてくれ」
(畏まりました)
さてと、それじゃあお望み通り『離宮』でも作ってやろうか……
2日後……
ビクトワール大王国とギャランザ王国を結ぶ街道沿いでは、近隣の村人たちが集まっていた……
「お、おい。なんだこれは……」
「き、昨日まではただの草原だったのに……」
「なんちゅうデカい城壁だ……」
「これ、高さ10メートルはあるぞ」
「うん、ギャランザ王の王宮の城壁よりデカいな」
「それに、この街道からの道もまっ白で綺麗だなあ」
「まるで貴族さまの邸の床みたいに平らだしの。街道もこの前後だけ白くて平らになってるし」
「あ、なんか入口に文字が書いてある……」
「俺たちじゃあ読めんな。村長を連れて来よう」
「村長、これなんて書いてあるんですかい?」
「ふむ、『歓迎 ビクトワール大王国軍御一行様専用野営陣地』とあるな……」
「なんですかいそれは?」
「ようわからんがひとつだけはっきりしていることがある。
よいか皆、この付近に近づいてはならん。
村のみんなにも伝えておけ」
「「「「 へーい 」」」」
同様な会話は、ギャランザ王国内街道沿いの10か所ほどで行われていたのであった……
4日後。
(サトルさま、ビクトワール軍の軍監がもう間もなくボルグ男爵邸に到着致します)
「魔道具の配置は終わったか?」
(はい、男爵とその側近たちの服や鎧、及び軍監とその護衛たちの服と鎧全てに複数の超小型魔道具を設置済みでございます。
また、室内には超小型虫型カメラを30個ほど用意いたしました。
御指示頂ければわたくしが起動いたしますです。
ひとつひとつは数時間ほどの運用しか出来ませんが、これだけの数があれば充分かと……)
「サンキュ。さすがだな」
(はは、なにかわたくしもこういうことに慣れてまいりました)
「あはは、俺もだ。
お、そろそろご到着だな。
それじゃあ音声と映像の魔道具を一つずつ起動してくれ」
(はい)
「これはこれはビクトワール大王国第3王子軍軍監、シミテール・ザイグン子爵閣下。
このような辺鄙な田舎町にようこそお越しくださいました。
わたくしはこのたびギャランザ王国ドワーフ討伐軍の責任者を務める、ダストワール・フォン・ダゴラーザ侯爵と申します。
こちらは先鋒を務めるギルダス・ボルグ男爵でございます。
どうかお見知りおき下さいませ」
「シミテール・ザイグン子爵閣下、遠路はるばるようこそお越しくださいました。
さぞやお疲れでございましょう。ささ、応接室へどうぞ」
「うむ。ザイグン子爵である。
さすがに少々疲れたわ。しばし座って休息させて貰おうか……」
「まずは子爵さま。
今回わたくしどもの討伐軍の軍監をお勤め下さいまして誠にありがとうございます。
これは些少ではございますが……」
「ほう。この重さ、ビクトワール金貨30枚ほどか。張り込んだものよの」
「ははっ! 子爵さまのお役目を思えば些少過ぎて赤面の思いではございますが」
「ふふ、まあよい。
それで洞窟ドワーフ領侵攻の準備は全て整っておるのか?」
「はっ、ボルグ男爵領軍5000に加えまして、近隣の地に3万の軍勢が配置され、いつでも進発可能でございます」
「ふむ。よかろう。
それでは明日の朝出立することとしようぞ」
「あ、あの……
子爵さま、後詰の第3王子さま率いるビクトワール大王国軍は……」
「後詰軍2万は2日後にこの地に到着の予定だ。
後の3万は第3王子ドラグント殿下の護衛として王宮に留まることとなろう」
「か、畏まりました……
それでは風呂など用意させますので、本日はごゆるりとお過ごしくださいませ……」
「うむ。大義である」
「アダム、魔道具のスイッチを切っておいてくれ」
(はい)
「それじゃあ俺もゆっくり休ませてもらうとするか。明日からは忙しくなりそうだからな。
夜の間の監視は頼んだぞ」
(おまかせくださいませ……)




