*** 83 やっぱ地球の喰い物は、どの種族にも大ウケだったぜ! ***
俺は新しく作った小屋でみんなに微笑みかけた。
「さあみんな、座ってくれ。
塩と作物の交換が終わったら飯でも喰うか。ごちそうするよ」
俺はアイテム鞄からたくさんの軽食を取り出して、テーブルの上に並べ始めた。
お、今日はサンドイッチか。はは、おにぎりまであるぞ。
玉子焼きにウインナーに鳥の唐揚げに、後はスープに味噌汁とフルーツ盛り合わせか。なんか行楽弁当みたいで楽しいな。
「な、なあ……
なんでそんなに小さな鞄からそんなにたくさんの食べ物が出て来るんだ?」
「ん? この鞄の中はシスティフィーナさまの天使域とつながっていて、いくらでも物が取り出せるんだ」
「い、いくらでもか……」
「そこにある岩塩の1000倍の量の荷物を入れてもまだまだぜんぜんゆとりがあるな。
重くもならないし」
「べ、便利な鞄だのう……」
「さあみんな食べてくれ。システィフィーナさまからの賜わり物だ」
「うう、お、畏れ多くて食べられん……」
「さあさあ、そんなこと言わずに」
「こ、これは……
これはパンに野菜なんかを挟んでいるようだが……
これ、白っぽくて焼いてあるものって、ひょっとしたら、肉か?」
「そうだよ。鳥の肉の燻製だ」
「お、俺、肉食べるの3年ぶりだ……」
「な、なあ、これ魚の匂いがするんだが……」
「それはマグロっていう海の魚の身を茹でてほぐしたものだな。旨いぞ」
「うう…… 生まれて3回目の魚だよぉ……」
「それにしてもこの肉と野菜を挟んでいるもの…… これは小麦のパンか?
いったいどうしたら小麦からこんなに柔らかいパンが出来るというのだ……」
「お、おい…… こ、これ卵を茹でたものだよな……」
「俺まだ生まれてから2回しか卵食べたこと無い……」
「こ、これも鳥の肉か!
し、しかも油が周りについてる! な、なんという旨さだ!」
「それは鳥の肉を熱くした油に入れて揚げたものなんだ。
ほかにも香辛料とか入ってるけど」
「そんな…… 使っているのは貴重品ばっかりじゃないか……」
「う、旨い、旨いよ!」
「そうか、まだまだたくさんあるからな。どんどん食べてくれ」
(アダム、あと300人前追加な)
(はい)
「ああ…… な、なんでこんなにパンが柔らかいんだ……」
「こ、この野菜にかかってるもの、これも卵の味がする……」
「な、なんというごちそうだろうか……」
「その野菜にかかってるものはマヨネーズって言うんだ。
ほら、これを野菜に塗って食べると旨いぞ」
俺はマヨネーズのチューブを10本ほど取り出してみんなに勧めた。
兎人族がキャベツを剥いてみんなに配っている。
はは、キャベツにマヨネーズつけたの食べて、みんな目がまん丸だ。
「さあさあ、こっちのスープも飲んでくれ。
あとこれは『おにぎり』っていうんだがこれも旨いぞ」
「あちち!」
「ああすまん。熱いから気をつけてくれな」
「な、なんでこんなに熱いんだ?」
「そりゃあシスティフィーナさまの食糧倉庫に入れてあったもんだからなあ。
いつまでも作りたての熱さのままだし、腐りもしないんだよ」
「食糧が腐らないのか…… そ、それは便利だのう……」
「こ、この『おにぎり』っていうもの、これたぶん湿地帯に生えてる草の実なんだろうけど…… なんでこんなに旨いんだ?」
「塩だな…… この『おにぎり』には塩がたっぷりとかかっているんだ」
「うおっ! 中に魚を焼いたもんまで入っているぞ!」
「この魚にはもっと塩が使ってあるのか……」
「こ、このスープもだよ。いったいどれだけの塩を使ってるのか……」
「な、なあ。あんた方は塩も採掘してるのか?」
「ああそれ、海の塩なんだ。
でも使徒さまが海の水から塩だけ抜き取ったものだから、ぜんぜん苦くないだろ。
海の水からいくらでも取れるんで、たくさんあるぞ」
「も、もし塩を持ってたら見せてくれないか?」
「この壺に入ってるんだ」
「な、なんだよこの土器! なんでこんなにまっ白で綺麗なんだ!」
「うおっ! 中の塩もまっ白で綺麗だなあ……」
「な、なあ。これからもここでこの塩を食べ物と交換してもらえないかな……」
「俺たちはドワーフさんたちの商売を邪魔する気は無い。
だけど、もしドワーフさんたちがここに来られなくなったら、そのときはこの小屋に旗を立ててくれ。そうしたら塩を持ってまた来るから」
「どれだけ持って来てくれるんだ?」
「あんたたちが必要とするだけいくらでも持ってこよう。
そうそう、もうドワーフさんたちとの交易は終わったのかな。
そしたら、ここに塩の壺を置いておくから、帰りにはひとりひとつずつ持って帰ってくれ」
「も、もう俺たち交換する食べ物が無いぞ……」
「いいんだ。『初めてのお客様にはサービスしろ』って使徒さまが仰ってたからな」
「その使徒さまってすげえひとなんだなぁ」
「なんせシスティフィーナさまがわざわざ別の世界から呼び寄せたお方だ。
街を造り、家を造り、食べ物を用意してくださってるんだ。
それに、信じられないぐらい強いんだぜ」
「そうか……」
「な、なあ、あんたらいつもこんな旨いもの喰ってるのか?」
「システィフィーナさまの街に移住してからは毎日な」
「毎日卵や魚が食べられるのか…… それどんな天国だよ……」
「そんなに気になるなら、みんなで一度街の見学に来ないか?
使徒さまに紹介してやるから、それで街を見学させてもらえばいい」
「そ、そんなことが出来るのかい?」
「俺がこうしてやって来たのも、みんなを見学会に誘うためでもあるんだ。
みんなが来てくれたら、システィフィーナさまもお喜びになるだろう。
ひょっとしたら、俺もまたお言葉をいただけるかもしらん」
「あ、あんた、システィフィーナさまにお言葉を頂いたことがあるんか?」
「西のいろんな種族を見学会に大勢招待したら、お褒めのお言葉を下さったんだ。
しかもその見学者たちのほぼ全員が移住してくれたからなあ。
おかげで俺みたいなもんにまでお褒めの言葉を下さったんだよ」
「そ、そうか…… 実に羨ましいわ」
「マナが薄れたせいで、もうすぐこの辺りにもヒト族がやってくるだろう。
その前に移住を検討しているんだったら、是非システィフィーナさまの街も検討の対象に入れてくれ。
そうだな、今から10日後、族長を連れてここに集まってくれれば、街の見学会に連れていくよ。
行くときは『転移』で行けるからその日のうちに帰って来られるぞ」
「お、俺たちも転移させてもらえるんか?」
「もちろん。西の種族たちが移住するときも、全員転移で移住させてもらったからな。
だからどんなに遠いところに住んでる種族でも、移動にはまったく時間がかからないんだ。
そうそう、もと住んでた村と街の間の転移も自由だから、前の村に通って畑の世話をしてる種族もいるわ。
ゴブリン族も、そうやって岩塩の採掘を続けてるんだ」
「そ、それは便利だなあ」
「さあ、みんなもっと喰ってくれ。食べ物はいくらでもあるぞ」
それからも、雑多な種族たちはさまざまな食べ物を大喜びしながら食べてたんだ。
はは、狐人族がおいなりさん食べて、感激のあまり泣きながら茫然としてるわ。
そのときちょっと小さなリザードマンが俺のところに来たんだ。
「今日は美味しい食べ物をたくさん食べさせて頂きまして、本当にありがとうございました」
ほほう、礼儀正しいいい子じゃないか。
「副村長、それでは僕たちはそろそろ塩を持って村に帰りますので」
「わしはもう少しここにいる。村長にそう伝えてくれ」
「もう帰るのか。それじゃあ最後に甘いものでも食べてってくれ」
「甘いもの?」
俺は菓子パンを100個ほど取り出して配ったんだ。
それを口にした途端に彼らの顔色が変わったよ。
「う、旨い…… な、なんなんだこの味は……
こ、これが『甘い』っていうことなのか……」
そしたらさ、そいつ、食べかけのあんパンを大事そうに籠にしまってるんだよ。
「どうしたんだ? もう食べないのか?」
「い、いえすいません。
あ、あの…… 弟や妹たちにも食べさせてやりたいと思って……」
「感心なやつだな。それじゃあ好きなだけ持って帰ってくれ」
俺が菓子パンを300個ほどアイテムボックスから出すと、その場の全員の目がまたまん丸になった。
「こ、こんなに…… い、いいのか?」
「ああ副村長、使徒さまがいくらでも下さるんだよ。
あ、みんな、そこの白い壺の塩も忘れないようにな。
ひとりひとつずつ持って帰ってくれ」
「お前たちじゃあちょっと荷物が多すぎるな。
重いものは俺の籠に入れな。途中までは同じ道だから俺が持っていってやるよ」
「牛人族さんどうもありがとう。でも本当にいいんですか?」
「い、いや、こんな旨いもの喰わせてもらって、俺なんか今すっごく幸せな気分になってるんだ。
だからかまわんさ」
他の種族の若い連中も、みんな俺に頭を下げてお礼を言いながら、大きな荷物を持って帰り始めている。
大勢の牛人族や馬人族がその荷物を持ってやって、なにやら食べ物の感想を語り合いながら一緒に楽しげに帰って行った。
その場に残ったのは、各種族の塩交易のリーダー連中とその補佐ばかりのようだ。
「なあ、ゴブリンさん。折り入ってお願いがあるんだが……」
「なんだい交易長さん」
「俺の兄貴が今戦士頭をしているんだが、来るべきヒト族との戦に備えて、せめて女性と子供だけはこの平原に逃がして隠れさせようって言ってるんだ。
でも、そう族長に進言したら、族長が激怒して兄貴は最前線の第3砦に飛ばされちゃって、そこで砦の守備隊長をしてるんだが……」
「なんで族長は激怒したんだ?」
「そ、それが……
族長は、俺たちの住んでいる洞窟こそは、創造天使システィフィーナさまが我らドワーフの始祖に下されたものなのだから、ずっとそこで暮らすべきだって思ってるんだ。
噂によれば族長は生まれてから一度も洞窟から出たことが無いらしいんだけど……
で、でも兄貴が、それでドワーフが滅んだら意味がありませんって言ったもんだからさ、『それなら最前線でお前がドワーフを守れ!』って言われて砦に飛ばされちゃったんだ」
「なんで族長はそんなに理解が無いんだ?」
「普段から『システィフィーナさまは、始祖ドワーフさまにこう仰られた』とかばっかりなんだよ。
その教えを守って洞窟で暮らして行くことこそ、システィフィーナさまが我らに与えてくださった役目なんだとさ」
(システィがそんなこと言うわけないのにな。
さてはどっかで伝言ゲームを間違えたか……
それともその洞窟を離れたくない理由があるのか……)