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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
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*** 8 エルダお姉さまは、ばいんばいんのぶりんぶりんだった…… ***

 


「もうひとつ。人類学者どもが面白い実験をしておった。

 E1人類とE6人類を集めてゲームをさせたのだよ」


「ゲーム?」


「まずはE1人類2人の前に1ドルコインを10枚置くのだ。

 まあ連中も金があれば欲しい何かが買えるということはわかっているが。

 そうして試験監督者が順番を決めて、1人目に好きな枚数だけコインを取らせる。

 そいつは1枚から9枚まで好きな枚数のコインを取れるわけだ」


「はい……」


「そうして、2人目には2つの選択肢がある。

 それは残りのコインを貰うか、ゲーム無効を宣言するかだ。

 ゲーム無効を宣言すれば、2人ともコインはもらえない。

 お前が1人目だったらどうする?」


「まあ、無難に5枚取りますかね?」


「それが、E1人類たちは、ほとんど全員1人目は9枚取ったのだよ」


「なるほど。2人目はそのままだったら1枚貰えるけど、無効を宣言すれば0枚だからですね。だから1人目も安心して9枚取るわけだ」


「その通りだ。やつらは頭が悪いわけではないからな。

 だがその場合、2人目のほとんどの連中がゲーム終了後に1人目を襲撃してコインを奪おうとしたそうだ……」


「まあそうなるでしょうねえ……」


「これをE2人類やE3人類でやると、1人目の取る枚数が8~7枚と減って行く。

 E5以上の人類の場合はほとんどが5枚になる。

 中には3枚や4枚などという者もいたそうだが。

 なぜ彼らが3枚や4枚などと少ない枚数を選んだと思う?」


「う~ん…… 2人目に遠慮したんですかねえ?」


「ヒアリングの結果もそうだった。

 万が一にも相手を怒らせて不快にさせたくなかったそうだ。

 特に1人目が2人目の顔を見て、美形な異性だったときにその傾向が強かったかな」


「ははは…… 好意を持ってもらいたいナンパの一種ですかね」


「1人目に2人目の顔を見せないブラインド方式だと、ほぼ全員5枚だったそうだが。

 因みにゲーム終了後の諍いはほとんど無かったそうだ。

 つまりだ。

 E1人類にとっては、闘争や戦争とは当たり前のことだったのだよ。

 コインや資源が限られていて、相手が持っているならばそいつを殺して奪えばいいだけの話だったのだ。

 相手の感情もわからないし、相手に感情移入出来ずに自分の心も傷まないから当然の判断だ」


「なるほど……

 でも今地球でE1からE6までの人類が混在しているっていうことは……」


「そうだ。

 100年ほど前から地球のヒト族は急速に遺伝子階梯を上げて来ておるのだ。

 特にここ50年の進化は目覚ましいな。

 中にはお前のようにE7になりつつある者まで現れた。

 結果として特に日本などでは面白いことになっておる。

 60歳以上の老人たちは、まだほとんどがE2から良くてもE3ぐらいなのだ。

 その親たちはほとんどE1からE2だったからな。

 だから戦争などしておったのだろう。

 一方で若者たちの間では急速にE4からE6が増えて来ておる。

 つまり現代人類は、生まれだけでは無く、環境と行動によって自らの遺伝子を進化させ始めているのだよ」


「ここ100年で、人類が新たな進化の道を踏み出したかもしれないんですね……」


「そうだ。

 E6.5の遺伝子階梯を持つお前などは、日本が太平洋戦争を起こした理由なぞ全く理解出来んだろう」


「はい。歴史の教科書を何度も読みましたが、資源が乏しかったことと、侵略戦争を起こしたことの因果関係がどうしても理解出来ませんでした」


「はは。教科書を書いた歴史学の権威たちとやらも、E階梯は低かったのであろうな。

 ヤツらにとっては、資源が足りないことと戦争を起こすことはイコールであって、疑問の余地は無かったのだろう。

 だから因果関係を説明する必要を感じなかったのだ。


 故に今の地球でのテロとの戦いなぞは、E1人類とE6人類の戦いと言えるかもしらん。

『なぜ殺してはいけないんだ?』と『なぜそんなに酷いことが出来るんだ?』とでは永遠に分かりあえないだろうからな。


 だがそれも時が解決してくれることだろう。

 E1人類は絶滅の方向に向かっておるし、E6人類は着々とその数を増やしておる。

 あと300年も経てば地球人類はE6以上ばかりになって、さらに平和で豊かな星になることだろうの」


「なるほど……

 地球人類の進化は閉塞しているように見えて、実は今急速に進行しつつあったんですね……」


「そうだ。

『進化』とはゆっくりと為されるものではなく、あるとき急激に為されるものだからの」


「みんなのE階梯が見えてたらどうなっていたんでしょうかねえ」


「はは、見えていなくとも分かるポイントはたくさんあるぞ。

 例えば、『寄付』行為だ。

 E1階梯の人類、日本では老人がほとんどだが、やつらは『寄付』をしたことが無いし、また理解出来ないのだよ」


「えっ…… あの大震災の後とかでもですか?」


「そうだ。E1人類にとって、『寄付』とは常識の遥か外にある行為なのだ。

 なにしろ他人に同情出来ないのだからな。

 もし寄付したとしても、それはせいぜい財布の中の1円玉を数枚募金箱に入れただけだったろう。

 それで周囲の連中と同じことをしているという満足感を得ただけだ」


「寄付が出来るか否かか……」


「それからその大震災の後の行動も興味深かったのう。

 若者たちは、『被災地に少しでも電力を供給するために、大幅な電力の節約をお願いします』という政府の呼び掛けに応えて、驚くほど熱心に節電を心がけていただろう」


「はい。有名アニメの作戦になぞらえて、ネット上では『ヤ○マ作戦』って言われてましたね」


「それがE5~6階梯の新人類だ。

 だがその間、E1~2階梯の老人たちは何をしていたか……

『こうしちゃいられん!』と興奮してスーパーの列に並んで、トイレットペーパーの買い占めに走ったのだよ」


「そ、そんなこともしてましたねえ……」


「連中にはな、『自分が必要以上に大量に買ったら、他に買えない人が出て来る』『特に被災地にトイレットペーパーが送れなくなって困る人が出て来る』……

 そういうふうに他人に迷惑がかかるという発想が持てないのだよ。

 もともと他人の立場に立ってモノを考えることが出来ないからな」


「なるほど……

 だから老人たちと話していると、胸がザワついたり不快感を感じたりしてたのか……」


「ははは、まあE1人類とE6人類はお互いに分かりあうのは無理だろうからの」


「それで、このガイアのヒト族は、まだ全員がE1だったということですね……」


「だがここに経験者がいるではないか。

 お前はE階梯6.5もの進化過程に立ち、地球の情報も経験も持っておる。

 さらにIQは驚きの160だ。これは100万人にひとりのレベルだぞ。

 つまり日本人の上位120人に入っていることになる。

 故に、お前なら地球人類を進化させつつある環境についても考えることが出来るはずだ」


「たぶん……

 最初に必要なのは、『広範な情報』なんでしょうね。

 観察出来る他人が近親者や同じ村の村人ばかりでしたら、他人の感情に触れる機会は少なかったでしょうから。

 だから、そうした情報が得られるようになったここ100年で進化が始まったんでしょうか」


「そういう意味でテレビと新聞の果たした役割は大きいかのう。

 どちらもそれまでとは比較にならないほどの『他人と接する機会』を提供したのだから。

 テレビやネットを含むマスメディアの発達につれてE6人類が増え始めたのかもしらん」


「はは、そういう意味で、子供に『テレビばっかり見ていてはいけません!』とか言うのは逆効果なんですね」


「そうさの、わたしの見る限り、アニメの影響も大きいぞ。

 あれほど他者に感情移入出来るものも少ないからな」


「あとは、まだ残っている闘争本能を発露させてやるためのスポーツの発展ですか……

 それからゲームやラノベですね」


「マスメディアの登場で人類のE階梯が上昇を始め、スポーツとゲームやラノベの登場で若者中心にE6が急増し始めた……

 これは偶然では無いだろうの。

 故に、『ゲームしたりやラノベばかり読んでいないで勉強しなさい』と喚く親世代はEレベルが低いのだ。

 たぶんE階梯も3ほどで、IQも低くて現状が認識出来ないのだろうな。

 ヤツらにとっての勉強の終点は受験戦争という生存競争であって、『戦争』の名の通り闘争本能の延長でしかないのだろう」


「だからあなたはラノベに介入したんですね……」


「ふふ…… あはははは……

 さすがはIQ160だ。そこに気がつくとは!」


「いやわかりますよ。

 いくらなんでもシスティが創り出した種族と、地球のラノベ世界の住民がそっくりだなんて有り得ないでしょう。

 エルフだのドワーフだの獣人だの……

 つまり、初期の人気ラノベはあなたが、もしくはあなたの使徒が書いていたんですね。

 それでさらに人類のE階梯進化を促そうとしたと……」


「ははは。

 確かに初期の人気ラノベ作品はわたしの使徒であった悪魔族が書いたものだ。

 システィの創った種族があまりにも魅力的だったので借用したのだよ。

 その世界が、まさかこれほどまでにラノベ世界のディファクト・スタンダードになるとは思わなんだがな」


「それじゃあ魔物や魔族や魔王を登場させたのも……」


「そうだ、システィの世界の住民たちだけでは、人類の闘争本能や殺戮本能を昇華させてやるにはいささか優し過ぎたのでな。

 まあわたしほど人類を理解している者はおらんだろう。

 なんせ創造してやった上に、ここまで育ててやったのだから」


(初期の人気ラノベ作家って…… 何人かはその正体が悪魔だったのか……)



「さて…… この世界ガイアはE1ヒト族ばっかしですか……

 どうしたもんかなあ……

 強制隔離してスポーツでもやらせるかなあ……」


「それほど悲観したものでもないぞ。

 特に希望を持たせてくれるのは『他種族』かもしらん。

 なにしろやつらはこの優しいシスティが想いを込めて創った種族だからな。

 既にE3からE4レベルの遺伝子を持っている者も多いぞ。

 中には稀にだがE5までおる」


「そうか……」





 理解が進んで実のあった歓談が終わると、しばらくしてお姉さまとシスティが一緒に風呂に入ることになった。


「サトルも一緒に入れ」というひと言で硬直した俺は、部分的にも硬直しないように必死で般若心経を唱えながら体を洗った。


 エルダお姉さまは……

 なんと言うか、ばいんばいんのぶりんぶりんだった……

 大人の女のひとってスゲえな……

 システィもいつかあんなふうになるのかな……


 あ、お姉さまの背中の翼は2対4枚か……

 中級天使になると翼の数が増えるのか……




 3人で湯船に浸かっているとお姉さまが言い出したんだ。


「ところでシスティ。

 この使徒を働かせて使命を果たさせるメドは立ったか?」


 システィが嬉しそうににっこりと微笑んだ。

「はい、お姉さま。

 サトルは努力してくれることを約束してくれました。

 今2人でお勉強しながら戦略を練っているところです」


「ふむ。どうやら気に入ったようだの。

 もしも使命を果たせたなら、こやつをシスティのもうひとつの夢の実現に使ってやってもよいのではないか?」


「お、お姉さまっ!」


 お姉さまは俺に向き直った。

 俺はともすれば下がりそうになる視線を必死で支え、お姉さまの顔を見続ける。

 お姉さまの表情は少しだけ真剣だった。


「サトルよ。

 システィには、この世界の存続以外にも夢があってな。

 それは自分でも子を生んで母になりたいというものなのだ。

 そうして平和な世界で家族で暮らして行きたいらしい。

 だから任務達成の暁には、この娘に胤を仕込んでやって一緒に暮らしてやってくれんだろうか。

 お前の遺伝子ならば、システィの遺伝子とかけ合わせるのにふさわしかろう」


 システィは小さく悲鳴を上げて湯船に沈んで行った。

 お湯越しでも顔が真っ赤になっているのがよくわかる。

 俺もナゼか脚を閉じて曲げ、前屈みになった。

 俺もぶくぶくと湯に沈んで行く。

 湯の中でシスティがちらりと俺の顔を見たのがわかったよ……





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