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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
77/325

*** 77 ゴブリン族の『行商』 ***

 


 俺たちはキングの要請で、中央棟のレストランスペースに戻ったんだ。

 そうしてキングが話し始めたんだよ。


「サトル殿。

 今日は素晴らしいものを見せて頂いて本当に感謝しておる。

 これほど驚き、かつ感動した経験は初めてだ」


 はは、多くの村長さんたちも頷いてるか……


「この街に移住させてもらえれば、我々の抱える問題はほとんど解消されるだろう。

 まずは部族の安全保障、次に食料の確保、そして清潔で治療体制の整った暮らし。さらには子供たちの教育と、素晴らしいことづくめだ。

 まさに理想の暮らしと言っても過言では無い。

 だがしかし、我々にはまだ大きな問題が2つも残っておるのだ……」


「続けてくれ」


「うむ。まずは我々の生き方の問題だ。矜持の問題といってもいい。

 我々の言葉に、『働いた者だけが食べることが出来る』というものがある。

 だが、残念ながらここでは我々の働く余地がほとんど無いのだ。

 そのうち農産物も作るようになるだろう。

 だが、それは我々ゴブリン族の本業ではないのだよ」


「…………」


「我々の住んでいた岩山の地下には、実は岩塩鉱山があっての。

 我々の本業は、その岩塩を大森林中部一帯に配達することだったのだ。

 代わりにその地域の特産品、川の魚を干したものだったり、旨い木の実だったりはするが、そうしたものと交換するという形で、ゴブリン族だけではなく他の種族の役にも立っておったのだ。

 我々はこれを『行商』と呼んでいたのだが……

 この行商を通じて、大森林中部のあらゆる部族の命の綱の塩を配って回ることこそが、我々岩山ゴブリン族の大事な仕事であり、かつ誇りでもあったのだ。

 しかも決して過大な対価を要求すること無く、塩を配って他の部族の笑顔を支えることこそが、我らの喜びだったのだよ。


 それが……

 もし我らがこの街に移住したら、塩の行商が出来なくなってしまうのだ。

 それは我らの仕事が無くなることを意味するだけでは無く、大森林の部族たち全員の不幸をも意味してしまうのだよ。

 他の地域の岩塩鉱山は小さいうえに深いところにあって、採掘が大変だからな。

 故に我らはこの街への移住を躊躇せざるを得ないのだ……」



 沈黙が広がった。

 多くのゴブリン達が項垂れている。

 自分たちだけのことを考えれば移住は幸福だが、それは同時に他種族の不幸を意味してしまうかもしれないからだ。


 俺は心底感動したよ。

 こいつら本当に立派な奴らだわ。



「それには何の問題も無いだろう」


「な、なんだと……」


「あなた方はここに移住してからも塩の行商を続ければいい。

 忘れたのか。俺たちには『転移』の力が有る。

 その気になれば、毎日あの岩山に通って岩塩採掘と行商を続けられるぞ」


「!!!」


「この『転移』の力を持つ『転移の魔道具』を貸そう。

 1万人に貸しても構わんぞ。

 それに、この『転移の魔道具』は、2つひと組になっている。

 そのうちの一つを行商先の村に置いておけば、いつでも直接その村に行けるだろう。

 つまりあと1回行商すれば、次からはもう重い荷物を担いで歩く必要は無くなるんだ。

 そうすれば毎日この街に帰って来て、子供たちと一緒に食事が出来るようになるぞ」


 ゴブリン達の顔に笑顔が広がっていく。

 やはり行商で長期間家を空けるのは、彼らにとっても辛いことだったんだろう。



「それにあんた方には、凄まじく有利な点がある」


「有利な点?」


「そういう行商をしていたということは、あんた方が光の精霊や土の精霊に感謝しているように、あんた方も各地の種族や部族にも感謝されているんだろ」


「あ、ああ、行くたびにすごいもてなしを受けてはいるな」


「ということはだ。

 あんた方がこの街に住み、その種族部族にこの街の良さを伝え、そうして彼らにもこの街への移住を勧めてくれたとしたら……

 それは俺たちにとってこの上なく素晴らしい『仕事』になるんだ。

 それこそあんた方9万人に100年分の食料を払ってもお釣りが来るぐらいの素晴らしさだ。

 俺なんかが歩き回って説得するよりも、1万倍は効果があるだろうからな。

 キングだって、俺を信用してここまで来てくれたのは、精霊たちやフェンリルたちが俺を信じていてくれるのを見たからだろ。

 信用ってそういうもんだと思うんだ」


「そうか…… そうだろうな……

 まあ精霊さまやフェンリルさまは、サトル殿を信じているというよりも、崇拝しているとか愛していると言った方が正しいだろうが……」


「俺だって彼らを愛しているぞ。

 信じ合うってそういうことなんじゃないのか」


「はは、そうかもしれんの。

 わしらは部族の仲間だけでなく、森林の種族たちも愛していたということになるの」


「それでキング。

 塩の行商の帰りに、出来れば各部族種族のおさたちを、この街への視察に連れて来て欲しいんだ。

 そうしてくれれば後は俺の仕事だ。

 今日みたいにみんなを歓迎して、この街や他に作る同じような街へ移住してもらえるように頑張るつもりだ」


「うむ。ヒト族の脅威がある以上、説得に応じる連中は多いだろう。

 もともと彼らは定住せずに、森の恵みを求めて数年おきに村を移動させるのが通例だからの。

 だが、森の種族全員がこの街に移住してしまえば、今度こそ本当に我らの仕事が無くなってしまうのう。ははは」


「そのときは是非あんた方のもうひとつの特技を活かして欲しいんだ」


「もうひとつの特技とな……」


「それはあんた方の『行商』の経験に加えてその指と器用さだ。

 それがあれば、この街で『商売』を始められるだろう」


「『商売』……」


「残念ながら俺に用意出来る服は、ヒト族に似た体形の種族用の服しか無いんだ。だから、布と糸と針は俺が用意するから、獣人種族のための服を作ってやって欲しいんだよ。

 それからあんた方だったら料理も出来るだろう。

 これから大勢やって来る連中の為に、中央棟の厨房で『ゴブリン料理』を作ってやってはもらえないだろうか。

 俺たちには、魔法の力も資源も財力もあるが、圧倒的に足りないのが『労働力』なんだ。

 だから働きたかったら、是非そういう分野で働いて欲しいんだよ」


「サトルさま。そのお仕事、わたくしたちのような者にも出来ますでしょうか……」


「ああ、奥さん。

 むしろ奥さん達の方が、俺なんかがやるよりよっぽど適していると思いますよ」


 はは、ご婦人方が嬉しそうに顔を見合わせて微笑んでるわ。

 あの子供服を自分たちでも作れるかと思うと、本当に嬉しいんだろうなあ……



「それじゃあキング。

 これでだいたい街の紹介は終わったんだが、このあと『2時街』に行ってみないか。 

 フェンリル族やベヒーモス族なんかの族長たちを紹介したいんだ」


「う、うむ……」



 それで俺たちはみんなで『フェンリル街』の入り口前に飛んだんだけどさ。

 俺が現れた途端に、入口近くにいた仔フェンリルが、「あーっ! サトルさんだぁっ!」って叫んだんだよ。

 そうしたら、街中の仔フェンリルたちが「「「「「わぁーっ♪」」」」」」って言いながら集まって来ちゃったんだ。

 俺もう小さなフェンリルたちに飛びかかられてもみくちゃだわ。

 小さいって言ってもフェンリルで、みんな地球の大型犬ぐらいの大きさだから、もうたいへんよ。

 でもみんなしっぽぶんぶん振ってくれててちょっと嬉しかったけどな。


「あらサトルさん、いらっしゃい。

 長老にもボスにもサトルさんがお客様を連れてくるって伝えてあるわよ」


「おお、フェミーナ、ありがとうな」


「そうそう、その前にサトルさんにお願いがあるんだけど」


「どんなお願いだい?」


「あのね、わたしの同期の娘が、お昼ごろ仔供を産んだのよ。可愛い仔を2頭も。

 それでサトルさんにその仔たちを抱っこしてやって欲しいの。

『生まれてすぐに強き者に触ってもらった仔は強くなる』ってフェンリル族の言い伝えにあるのよ」


「そういうのって、普通はボスの役割なんじゃないか?」


「ええ、ボスにはもう舐めてもらったんですって。

 それでボスがサトルさんにも抱っこして貰えって言ったそうなの」


「そうか、それじゃあ案内してくれるかな。

 こらこらキミタチ、俺の頭の上に乗ろうとしてケンカしないように。

 ここにまたジュース置いておくからそれでも飲んでなさいね」


「「「「「 ええ~っ! 違うよお! 

 ジュースはいつだって飲めるけど、サトルさんはそんなにいつも来てくれないじゃないかーっ! だから今はサトルさんの方がいいんだよぉ!!! 」」」」」


 はは、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。


 膨大な数の仔フェンリルにまとわりつかれた俺に、キングたちもちょっと引き気味だわ。

 そうして俺は仔どもらを引き連れてフェミーナの案内でその娘の家に行ったんだ。

 仔を生むための大きな家の中では、地球産マットレスを敷いた上に、若いメスと子供たちが寝ていた。


「ほんとに可愛い仔たちねえ。フェルリナ、サトルさんをお連れしたわよ」


「す、すみません、サトルさま。このような場所に……」


「ぜんぜんかまわんぞそんなこと。おお、本当に可愛いなあ」


「あ、あの…… どうかその仔たちを抱いてやって頂けませんでしょうか……」


 傍らではお父さんらしき若いオスも頭を下げてたよ。


「よし、それじゃあまず手を『クリーン』で綺麗にしてと……

 おお、まだ目も開いてないじゃないか。

 あー、柔らかくって暖かいなあ。

 よしよし、それじゃあ抱っこしてあげようか……」


 その仔たち、最初はちょっと固くなってたんだけどさ。

 でもそのうちに俺の顔の匂いをすんすん嗅ぎ始めたんだ。

 そしたら俺の頬をぺろぺろ舐め始めたんだよ。

 ああそうか、さっきフェミーナに舐められてたからフェンリルの匂いが付いてて安心したんだな。ふふ、可愛いなあ……


 じょじょー。じょろじょろ……


 あ…… ああっ! こ、こいつら俺の腕に抱かれたまましっこした!


「ご、ごめんなさいサトルさま!」


「い、いやぜんぜんかまわんぞ。生まれたばかりなんだから当たり前だよ、はは」


(アダム、地球の子犬用のミルクと、出産期の母犬用のペットフードを届けてくれるか。

 少し暖めてな)


(はい、かしこまりました)


「さあ、これは子供たちに。それからこれはお母さん用の特別食だ。

 よかったら食べてくれ」


「ほ、本当にありがとうございます……」


 はは、お母さん涙目だわ。


 俺は後ろの子供たちを振り返った。


「お前たち、この仔たちとも仲良くしてやるんだぞ」


「「「「「「「「 えー、そんなの当たり前だよー! 」」」」」」」」


「そうかそうか。お前たちもいい仔だな。それじゃあここでジュース飲むか」


「「「「「「 わぁーい♪ 」」」」」」


 俺は大量の皿とジュースの缶を置くと、キングたちを振り返った。


「いやお待たせして申し訳ない。

 それじゃあ長老やボスのところに行こうか」


「あ、ああ…… そ、それにしても、フェンリルさまたちとここまで親しいとは……」



 子供たちは迷った挙句、半分ぐらいは俺たちについて来たよ。

 しっぽぶんぶん振りながら。

 はは、まるで家来を引き連れて歩いてるみたいだぜ。

 次は猿族やキジ族と仲良くするか……





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