*** 66 『9時街』のインフラ完成! ***
新造『9時街』の巨大な中央棟の円筒形の建物の外周部分は、土の精霊たちの趣味の真骨頂だった。
外周は、まず幅が20メートルもある回廊部分がある。
そうしてその回廊の屋根を支えているのが、古代ギリシャの神殿にあるみたいな多くの柱だ。ちゃんと縦の溝も掘ってあって、中央部が少し膨らんだエンタシスも入ってるぞ。
そうして、柱の上部の張り出しや回廊の途中には、呆れるほど多くの彫刻が置いてあるんだ。建物の壁一面もほとんどレリーフで覆われている。
もう床面以外には平らな部分なんて無いんだぜ。
ノームくんに言わせれば、『平らな部分なんか作ったら、それは白地の残っている絵画と同じで芸術作品では無いだ!』だそうだけど……
その床面にも細かい溝を掘ってくれって言ってあったんだ。
雨に濡れたりすると滑って危ないから。
それが良く見るとその溝も絵になってるんだよ。一見絵には見えないけど、遠くを見ると動物や植物の姿に見えるんだ。こ、凝ったことするね……
フードコートの周囲の壁一面にも、平原に暮らすすべての種族たちのレリーフが掘ってあるし。
天井なんか、純金を使った超豪華なモールディング装飾に加えて、フレスコ画まで描いてあるんだぜ。あれどう見てもミケランジェロの絵画だよな。
あ、天使の姿だけシスティになっとる……
そうしてこの中央棟の周囲の通路からは、南の正面入り口と北門方向以外の100の方向に屋根付きの幅15メートルの廊下が伸びていて、それぞれが3階建ての居住棟群に繋がっているんだ。
廊下の長さは3キロメートルもあって、100メートルの間を挟んで25重の輪になった3階建て低層マンション群と接続される予定だ。
まあ、放射状廊下やユニット住宅内には300メートルおきぐらいに『転移の魔法陣』が設置してあるから、移動もそれほどは負担にならないだろう。
この廊下沿いの低層マンション群は、1階が大家族用の120平米の3LDK、2階が核家族用の90平米の2LDK、3階が単身世帯用の60平米の1LDKになっている。どうだ広いだろう。
もちろん各家庭には、キッチンや風呂やトイレも完備されているぞ。
そうそう、この風呂についてはちょっと悩んだ結果、シャワールーム風の『クリーンの魔道具ボックス』にしたんだ。
中に入って魔法陣に触れると『クリーンの魔法』が発動されて、綺麗な体になれるんだよ。
この『クリーンの魔道具ボックス』は、玄関入ってすぐのところに設置する。
なんかどの種族もほとんど靴なんか穿いて無いらしいからなあ。
家の中の清潔を保つためにも、外から帰ったらこのボックスで土や汚れを落としてもらおう。
そうだ、外の家庭菜園スペースにも、300メートルおきぐらいに水浴び場を作るか。
転移の魔道具つきの水槽を設置して、その脇に黒い石で浅いプールを作っておけばいいだろうな。排水は畑に撒いてもいいだろうし。
いくつかのマンション群は、身長2メートルから3メートル級までのデカい種族も入れるようにする。
ミノタウロスやトロールたちの何割かは、こっちに住みたいって言うかもしらんからな。
水道は、中央棟の屋上に設置した大水槽に、北部山岳地帯の飲用水用ダムからの水を転移させて溜めて、そこから各低層住宅ユニットの屋上に置いた水槽に再転移させる予定だ。
下水も住宅ユニットの地下部分の下水槽に集める方式になるだろう。
もちろんそこには『クリーンの魔道具』を配置して、綺麗な水は南方海上の無人島の海岸へ、残りの乾燥した汚物はアダムの汚物倉庫に転移させる。
各居住棟の1階部分には、ランドリーコーナーとして、小型の『クリーンの魔道具』が置いてあるから、各家庭の洗濯はここでしてもらう予定だ。
そうそう。居住棟の外側、城壁との間には、温水プールや露天風呂を4つずつ作ったぞ。
もちろんウォータースライダーもだ。
入浴や水泳の楽しみは、ここで味わってもらおうか。
俺は中央棟の正面入り口から南の城門にかけて散歩してみた。
散歩といいつつも、つい道の両側を区画整理してしまう。
幅100メートルの白い石畳の道を作り、両側は商店を作りやすいように水平を出しながら階段状に整えて行く。
その商店の裏は幅10メートルほどの路地を挟んで、背中合わせにもう1列商店用地を作り、さらに40メートルの道を挟んで住宅地に接する所にも商店用地を作る。
大通りの反対側も同様にしてみた。
ふふ、この辺りは飲食店街かな。
中央棟では出さないアルコール類を出す飲み屋とか、凝ったラーメン屋とか。
おしゃれなイタリアンの店とかも出来るといいなあ。
そうだ、大通りの中央は屋台街にするか。
ゴブリンのおじさんが焼く焼きトウモロコシの屋台とか、綿あめ屋さんとか、駄菓子屋さんとか、毎日縁日が開かれているような空間……
そこにシスティ銅貨を握りしめた子供たちが来て、今日は何を食べるか迷ってる……
そんな商店街になるといいなあ。
俺はそんな将来を想いながら、北の大通りに向かった
中央棟から北門に延びる道の両側には、大きな4階建ての建物を計50棟建設してある。
まあ、外見はほとんどおなじだから、後で建物の用途を説明して、土の精霊たちに装飾を頼もうか。
別に作り直してもかまわんし。
一番中央寄りの建物には行政府が入る。主な仕事はまず戸籍作りになるだろう。
この街に移住して来た住民には、まず最初に必ず戸籍を作ってもらうからな。
大通りを挟んで向かいの建物は、2つ繋げて転移ポートにするつもりだ。
居住棟のあちこちに設置した『転移魔法陣』からは、まずこの建物に転移してもらい、そうしてここからまた転移したい場所に飛べばいいだろう。
その北側の建物は、病院にしよう。
白衣を着た光の精霊たちが待機していて、みんなの怪我や病気を治してくれるんだ。
その奥の建物は劇場や図書館や体育館にするか。
劇団もまだ無いから、最初は映画の上映ばっかりだろうが。
図書館にもまだ地球の本しかないからなあ。
そのうち識字率が上がったら地球の印刷機でも買って、出版も始めたいもんだわ。
そこから北の建物は、ほとんどが学校になる。
中央に近い方から、『初期学校』、『保育園』、『幼稚園』、『小学校』、『中学・高等学校』、『大学』、そして研究施設にする予定だ。
もちろん『小学校』や『中学・高等学校』には広大な校庭と体育館が隣接する。
サッカーグラウンドもいくつか作ろうか。
ここに移住して来た種族たちは、まず全員がこの『初期学校』に入ってもらって、文字や簡単な計算を覚えてもらおう。
転移ポートの行き先表示が読めないようだと、この街で暮らせないからだ。
この9時街の居住施設の最大収容人数は約40万人だ。
へへ、現代日本人もびっくりのすげえ街だろ。
もうちょっと大きくして、住居と住居の間をもう少し狭くすれば、100万人都市にも出来るぞ。
魔法マクロの内容をちょっと書きかえるだけだから簡単に出来そうだ。
この『9時街』からは、やはり放射状に5キロほど離れたところに、収容人員2万人ほどの12の『衛星村』を作るつもりだ。
基本設計は中央街と一緒だが、その小型版になることだろう。
この村々は農業の起点になる。
なんといっても発展途上世界の基盤は農業だからな。
さてと、そろそろ家屋の建物工事も本格化させるか。
俺たちには魔法でコピペする、っていう力があるから、いったんモデル建物を作ったら、それを増やすのは簡単なんだ。
つまり、最初にユニット式集合住宅を作るんだよ。
1階は大家族向けを4室、2階は核家族向けを6室、3階は独身者向けを8室作る。
各階は階段状にして、各部屋のベランダが下の部屋のリビングの上に来るような構造だ。
1階部分の余ったスペースは、通り抜けの廊下やランドリーコーナーや転移魔法陣スペースや倉庫になるだろう。
俺たちは中央棟近くに『ユニット式集合住宅製造工場』を作った。
ここでまず原型となるユニット住宅棟を完成させる。
ふふ、原型だけあって、土の精霊たちがここでも張り切ってるわ。
階段の手摺や廊下部分のモールディング装飾なんか見事なもんだ。
なんかパステルカラーや落ち着いた色の染料も混ぜたマナ建材を使って、随分と凝ったものを造ってたぞ。
あれ? 金ラメの染料なんてあったっけか?
あ! こ、これ本物の純金使うとる!
集合住宅の屋上には、『転移の魔道具』を埋め込んだ水槽を設置する。
これは、水槽内の水が一定量以下になると、中央棟の大水槽から自動的に水を転移させて来る機能が付いた優れものだ。
ついでに、隣で量産しているマナ建材製の水道管と下水管を建物内の壁の溝に嵌め込んで、溝をマナ建材で埋め、屋上の水槽と繋げれば配管工事も終了だ。
配管工事が終わった住宅ユニットには、何人かの土の精霊たちが入り込んで、カーペットのサンプルを敷きつめてたよ。
何色も試してはあーでもないこーでもないって、材質と色を真剣に選んでたわ。