*** 65 巨獣・巨人たちとの吞み会…… ***
『9時街』建設ショーが一段落すると、フェンリーが近寄って来て口を開いたんだ。
「見事だったぞサトルよ。
お前が言っていた『中央平原のすべての種族を集めて国を作る』という言葉、今こそ信じてやる」
お、フェンリーくん、今日は殊勝なこと言ってくれるじゃないの。
建設ショーがよっぽど気に入ったのかな。
その後は恒例みんなでお弁当だったんだけどさ。
メシ喰ってたら、神界の『観察者になろう』のカメラクルーのチーフが挨拶に来たよ。
「い、いやはやもう、まさかこれほどまでのものでありましたとは……
たったの5台しかカメラを持って来ずにたいへん失礼をいたしました。
あ、あの……
次回街を建設されるときには、またお邪魔させていただけませんでしょうか。
神界報道部と共同で、カメラ30台体制で撮影させて頂きたいと思います……」
その日の夜は、『2時街』に行って、ウィスキーや焼酎をふるまったんだ。
例のギャラリースタンドだと、酔っ払って落ちる奴がいるかもしれないから、酒は街に帰ってからだ。
そしたらさ、焼酎をひとくち舐めたフェンリーくんが、焼酎の皿を俺の方にずいっと押しやって来たんだよ。
そしたら、賑やかだった周りのフェンリル達が急にシーンって静まりかえっちゃったんだ。
あ、俺がこの皿の酒を呑むかどうか緊張して見てるな。
まあ、俺まだ未成年だけど、ここは地球じゃあないからいいか。
俺はその皿を持ち上げて、一気に半分ほど呑んだんだ。
途端にフェンリル達から大歓声が上がってたよ。
俺は微笑みながら残りの焼酎が入った皿をフェンリーくんの前に押しやった。
奴も残りを呑み干して満足げだったわ。
どうやらこれって、『義兄弟の契り』みたいな意味があるらしいな。
本当にボスが俺を対当な存在として認めてくれたっていうことなんだろう。
それをフェンリルたちがこんなに喜んでいるっていうことは……
まあ、俺も本当に群れに認めてもらえたっていうことなんだろうな。
へへ、なんか嬉しいぜ。
もちろんそのあとは、俺とベヒラン族長とドラゴンの族長たちとミノタウロスの族長とトロールの族長とで巨大な皿の焼酎を回し飲みしたんだ。
自分たちの族長が飲む度に、各種族から大歓声が沸き起こってたな。
さて、それじゃあフェンリーくんにももう一度……
あ、フェンリーくん、寝ちゃった……
まああんなにいっぺんに焼酎呑んじゃったからなあ。
仕方が無いんで長老が残りを飲み干して、すぐにぶっ倒れてたよ。
だけどまあ、俺には『加護のネックレス』があるからさ。
余分なアルコールは、体内侵入毒物として認識されて、中和されちゃうんだ。
特にアルコールが分解される途中のアセトアルデヒドは、人体が作り得る最悪の毒物だそうだから、すぐに中和されるんだ。
このネックレスをつけている限り、俺は絶対に悪酔いしないんだと。
おかげでその後もみんなと一緒の皿の酒を呑んだり、フェミーナと呑んだり大変だったわ。まあ楽しかったけどな。
さて、今日も街づくりを進めるか。
そうそう、実は城壁のサイズについては少し迷っていたんだ。
もう少し小さくてもいいかと思ったんだけど、結局大城壁とおなじ高さ50メートル、幅20メートルの壁にしたんだよ。
最初はみんなしっかり守られていた方が安心するだろうからな。
目ざわりだったら後で小さくすることも出来るし。
おかげで土の大精霊くんが街の中心部に建設する予定だった塔の高さが、100メートルになっちゃったんだ。
「街の象徴たる塔の高さが城壁より低いわけにはいかないだす!」とか言って。
まあ厚さ5メートルものマナ建材製の塔だから、強度的には充分なんだろうけどさ。
念のために、俺が10分の1模型に風速100メートルの風を吹かせて当ててみたけど、少し揺れただけでなんともなかったし。
それに、試しに純粋鉄に少し炭素も混ぜた鋼鉄材も作って、鉄筋+マナ建材の塔の縮小模型も作ってみたんだけど、これ、不思議なことにマナ建材だけの塔の方が、強度的には遥かに上だったんだ。
だって鉄筋入りはベギラルムの一撃で壊れちゃったのに対して、純マナ建材製の方は、いくらベギラルムが青筋立てて殴っても「へへ~んだ♪」とかってまたヘンな音を出すだけでぜんぜん壊れないんだもの。
ほんとマナって不思議な物質だよな。
そうしてこの中央塔は、なんとエレベーター付きになった。
最上部の展望台まで直通運転する。
もちろんマナ建材製の箱に『浮遊の魔道具』と『移動の魔道具』をつけて、レールに沿って上下させるだけだけど。
まあ予備の『浮遊の魔道具』を10個もつけて常時稼働させるようにしといたから大丈夫だろう。
完成した塔の周囲にはもちろん螺旋状の階段もつける。
誰も落ちたりしないように、側面は超強化ガラスで覆うようにするつもりだけど……
そしたら街の基盤づくりを見てた土の精霊たちが燃えちゃってさ。
なんだかすっげぇ塔になっちまったんだよ。
なんかこう、未来的なデザインというかなんというか……
塔の周囲を回りながら設置された階段は4本あった。
『初心者向け』が2本で、『中級者向け』と『上級者向け』が1本ずつだ。
どれも幅は8メートルあって、ベヒたちでも昇れるんだぜ。
『初心者向け』は昇り専用と下り専用になっている。
階段から上80センチほどは白い壁になっているが、その上はドーム状の超強化ガラスになってて見晴らしもいいんだ。
でも『中級者向け』とか言って作った階段は、昇りも降りも最初は『初心者向け』と同じなんだが、真ん中部分の高度差にして20メートルだけ、構造材以外は全て超強化ガラス製だったんだよ。
壁どころか床まで全部ガラス製……
それも通路を覆うガラス構造物の断面は半楕円形で、すっげえ未来的な雰囲気なんだ。
こんなもん21世紀地球にも無いぞ!
『上級者向け』に至っては、総ガラス張りだ。
しかも途中で塔から離れて空中回廊になってるところまであるんだぜ。
なんか外から見ると、ガラスのチューブがうねうね塔にまとわりついていて、実に不思議な光景だったわ。
これもう完全にアトラクションだよなあ……
またここにフェンリルたちでも連れて来てやるか……
ボス達は『上級者向け』の方に誘導して……
この塔の基部は、巨大な円筒形の建物に覆われている。
半径300メートル、高さ30メートルの円筒内は、3つの階層に分かれていて、街の中心になっているんだ。
1階部分は、8割が厨房とレストランになっている。
まあ超巨大なフードコートをイメージしてくれればそれでいいだろう。
外壁に沿って大きな厨房が並んでいて、放射状に並んでいるカウンターから各種の料理を出して内側にいる客に提供する形だ。
基本『時間経過無し、容量無制限』の倉庫があるから、たっぷり料理を作ってそこに入れておいたのを出すだけなんだけどな。
だからたとえ10万人の客がいっぺんに来ても、単に料理を渡す時間がかかるだけなんだ。
悪魔っ子たちには、目標として、完成した料理の保存倉庫には最低100万食分のストックを溜めておくように言ってある。
まあ、料理作りにも魔法マクロは使えるから、そこまで大変な作業でも無いだろう。
そのうち1億食ぐらいストックしておくか。
料理の内容は内周沿いの店によって異なっていて、ラーメンやパスタなんかから、天丼や野菜炒めやオムレツなんかの卵料理まで、なるべくたくさんの種類をそろえるように努力しているぞ。
まあ、オーク族や牛人族や鳥人族に配慮して、なるべく肉は使わないようにするつもりなんだが……
そのために、タンパク質はなるべく植物性のものを摂ってもらうつもりでいる。
フードコートの中央部、塔の基部周辺には軽食コーナーを作る。
売りモノは、ポテトチップスやポテトフライなどのポテト系に、各種フルーツの盛り合わせ、チーズやヨーグルトなんかの乳製品だ。
ドリンクバーとサラダバーはあちこちに配置する予定でいる。
1階部分の残り2割は、物資の配給所にする予定だ。
各家庭で作る料理の材料とかを配る場所だな。
2階部分は、4分の1がガイア国内TV放送の場だ。
最初はこの施設の使い方とか、システィのお話とかを放映するつもりだが、そのうちに種族対抗少年サッカー大会とかも放送したいもんだなあ。
残りの4分の3のスペースは、8つのシアタールームになっている。
さすがはエルダさまで、公衆への閲覧許可の出ている映画ソフトを、料金を払って大量に集めてくれた。
たとえ無料映画会でも、著作権料を払わないと違法だからな。
創造天使に違法行為をさせるわけにはいかんよ。
2時街にもシアタールームは作ってやらんといかんな……
ここで放映するコンテンツは、最初はヒト族の登場しないものを厳選しようと思っている。
まあ、動物たちがお互いに助け合って、仲良く生活して行くようなものが中心になるだろう。
いつかは、オタク系の映画なんかも流すようになるんだろうか……
3階はショッピング街にしようと思っている。
服や文房具や台所用品や菓子なんかを売る場所だな。
もちろん商品はレストランを含めてすべて無料にしようと思っているけど。
そのうち移住者にいくらかのカネを渡して、その中から選んでもらうようにでもするか。経済観念も持ってもらいたいし。
あ、だったら硬貨も作らんといかんな。
うん、システィの笑顔をデザインした、『システィ銅貨』と『システィ銀貨』でも作るか。
材料は文字通り山ほどあるし。




