*** 62 ロックオンスキルゲットだぜ!***
また或る日のこと。
「なあ、アダム」
(はい。なんでございましょうか)
「あの『隠蔽』ってさ、相手を限定して解くことって出来ないのかな。
それから『威圧』も、ある特定の相手だけに喰らわせるとか……」
(たぶん可能でございますね。『魔法はイメージ』でございますから。
練習されてみられたらいかがでしょうか?)
「そうだな。練習してみるか」
俺は大陸中南部の無人の平原に転移した。
もちろん周囲にはほとんど生物は存在していない。
ところどころに草が固まって生えているだけだ。
(すまんが実験台になってもらうぞ……)
俺は手近な草叢のうち、数本の草をターゲットにして『隠蔽』を解いてみた。
最初は上手く行かなくって、草叢全体が枯れ始めちゃったんだけどさ。
繰り返しているうちにだんだん特定の範囲の草だけを枯らせることが出来るようになって来たんだ。
(あの、サトルさま、『加護のネックレス』の中の『ロックオン(攻撃力ゲージつき)』のスキルをご使用になられてみたらいかがでしょうか)
それでアダムの言う通りにそのスキルを取ってみたらさ、俺が枯らそうと思って見ていた草に、『ロックオンマーク』がついたんだ。
おお! これいいな! まるで戦闘機みたいでカッコいいわ!
そうして『隠蔽』を外すと、その草だけが枯れ始めたんだよ。
おー、これ便利だわあ。
次は別の草にロックオンして『隠蔽』を外し、少しだけ『威圧』を出してみたんだ。
そうしたら視野の中にゲージが出て来て、そのとき出してる威圧を%表示してくれるんだ。
ますますもってゲームみたいだよな。これいいわぁ。
それでその草だけ一瞬で枯れちゃったんだ。
俺はそれからも何度か練習したが、すべて上手くいったんだよ。
「なあアダム、このロックオン機能なんだけど、動標的にも使えるのかな」
(使えるようでございますね。よろしければ『詳細鑑定』でご覧になられてみたらいかがでしょうか)
なになに、同時に500個までの物体にロックオンすることも可能とな。
まあ、慣れないうちは時間がかかってしまうだろうがな。
ほほー、ロックオンはいったんつけたら、俺が『解除』を命じるまでそのままなのか。
しかも対象がどれだけ離れても有効なのか……
こ、これさ。例えばある敵をロックオンしたら、そいつをしばらく泳がせておいて、仲間たちと合流したところに『広域ショックランス』とか落とせば全員気絶させられるかもだな。
な、なんて便利な機能なんだ……
よし、それじゃあ実験してみるか。
俺は5人ほどの光の精霊を伴って、城壁建設中のベギラルムのところに転移した。
「おお、サトル殿、ご視察でございますかな」
「い、いや実は新しい攻撃スキルを手に入れたんで実験してみたいと思ってな。
あ、こ、こらベギラルム、逃げるな! 痛くない、痛くないから!
『隠蔽』を解いてちょっとだけ『威圧』を出すだけだから!」
俺は魔力で拘束したベギラルムを立たせて、悪魔っ子たちにその周りを囲むように指示したんだ。
子供たちは少し不安そうな顔をしながらも言う通りにしてくれたよ。
(ターゲット、ロックオン。隠蔽解除)
途端にベギラルムがダラダラと汗を流し始めた。
よし、周囲の悪魔っ子たちは何ともないぞ。
みんな不思議そうにベギラルムを見ているだけだわ。
それじゃあ『威圧』3%だ。
あ、ベギラルムの目玉が裏返った。手足もだらんって垂れてるわ。
周囲の子たちは…… やっぱりなんともないぞ。
うんうん、成功だな。
俺は『威圧』を解いてまた『隠蔽』を纏った。
すぐに光の精霊たちに言って、ベギラルムに治癒をかけてもらう。
気がついたベギラルムは地面に座り込んで首を振ってたよ。
「い、今のはなんだったのでございますかな……」
「ああ、特定のターゲットにロックオンして、そいつだけに『隠蔽』を解除したり、また出力を調整して『威圧』出来るようになったんだ」
「そ、それはまた便利なスキルでございますな……
おかげで生きた心地もしませんでしたが……」
「それじゃあベギラルム。この森の中を逃げて行ってくれるかな。
10分後にショックランスで攻撃するから」
「な、なんですと!」
「ああ大丈夫だよ。出力は1%にするから。
だからちょっと痛いだけだよ」
途端にベギラルムが跳ね起きて逃げて行った。
おお! これ面白いわ。
森の中でロックオン表示が動いてる上に、ご丁寧に木の上に矢印まで出とるぞ。
おー、あいつけっこう走るの早いな。もうあんなところまで行ったのか。
あ、10分経ったかな。
(ショックランス出力1%。ロックオンターゲットに照射)
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!」
森の中から叫び声が聞こえて来た。
大げさなヤツだな、たかが1%で……
あ、しまった! 勲章外すの忘れとった!
や、やっちまった……
Lv100万の力で1%出力って、それってLv1万の全力じゃん!
俺は慌ててベギラルムのところに飛んで行ったんだ。
あー、可哀想に。ベギくん黒コゲだわ……
ま、まあ相当レベルの高い防御の加護あげてるから命に別条は無いけど。
で、でもこれだとベルミアが怒ってもう俺にスープ作ってくれないかも……
よ、よし、『ハイパーキュア』100連発だ!
これでコゲも治ってくれるといいんだけど……
あ、ベギラルムが光り始めた……
おお、みるみる治っていくじゃないか。
ヨカッタヨカッタ。
ベギラルムはがっくりと肩を落としながら座っていた。
「ま、また恐ろしい力を手に入れられたものですのう……」
「ち、ちょっと加減を間違えちゃったんだ。すまんかったな。
あ、ああ、今日はもう仕事はいいから、家に帰ってゆっくり休んでくれよ」
「はあ…… ありがとうございます……」
その晩、システィの天使域のリビングで、ベルミアがまだ少しコゲ目の残るベギラルムの背中に薬を塗ってたんだよ。
「あなた。きょうはお仕事たいへんだったのですね。ほんとうにお疲れ様でした」
とか言いながら優しく塗ってたんだ。
はは、ベギラルムのあのだらしない顔ったら……
あとでアダムの映像記録でもプリントアウトしておくか……
翌日から俺は、土の大精霊と一緒に、大森林の種族を受け入れるための街や住宅の設計を始めた。
設計とは言っても、ノームくんが地球の建物の資料を見て、勝手にふんふん頷きながら小さな模型を作ってたんだよ。
「どうもサトルさまの故郷の日本の建築は、画一性が高いと言うか面白味に欠けるだすなあ」
「それは建築基準法っていうもんがあってな。
耐震建築でなければならないとか、全ての部屋に窓が無ければならないとか、柱の間隔は何メートル以下で無ければならないとか。
それにコストを考えたら余計に画一的になっちゃうんだろうな」
「その点海外の住宅は面白くて参考になるだすな。
おらたちが使えるマナ建材は、耐震性も抜群で、なにより造形も自由だすからどんなデザインにも対応出来るだすし……
あ、これなんか斬新だす」
おいおい、ノームくん。それ未来の月面基地の想像図だろうに……
それにしてもキミ、地球の住宅にずいぶんと詳しくなってるのね……
そういえば地球の建築関係の本を、アダムに翻訳してもらいながら楽しそうに読んでたっけ。
「サトルさま、このアルミサッシって作れるだか?」
「あ、ああ、出来るぞ」
「それじゃあこのドアとドア枠のセットは?」
「それも作れるな。
もっともドアは薄いマナ建材製かアルミ合金製になるだろうが」
「あとは、『照明の魔道具』、『冷暖房の魔道具』、『蛇口の魔道具』、『温水の魔道具』、『クリーンの魔道具』、『調理用熱の魔道具』なんかだすけど、みんな作れるだすよね?」
「お、おお、簡単だな。元になるもんを作っておいて、後はコピペすればいいからな。
魔道具は俺がオリジナルを作るわ」
「ベッドはマナ建材で作るとして、マットレスは地球からの輸入品で、クローゼットも輸入でと。
厚手のカーテンはどうするだすか?
いつもは穴倉で暮らしてて、暗い方が落ち着く種族もいるだすよ」
「お、おお。それ考えて無かったわ。それじゃあ遮光カーテンも追加で注文しておくわ」
「それじゃあ住宅と中央施設の設計はおら達チームに任せてもらうとして……
サトルさまには、街のインフラ整備と城壁と各種魔道具の製造をお願いするだ」
「お、おう。任せろ」
なんかもうノームくん、プロの建築家みたいになっとるわ。
俺が余計な口を出すより全部任せた方がよさそうだなあ。
それじゃあ俺は、街の建設予定地の準備でも始めるか。
あと、サッシのサンプルと、遮光カーテンの追加注文だな。
あ、そう言えば農業機械の注文もしておくか…… もちろん電動式のやつ。
それからあれもあったか。そうそうあれも。
うーん、これ半日ぐらい部屋に籠って注文書を作った方がよさそうだなあ……