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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
61/325

*** 61 『耐威圧訓練会』 ***

 


 或る日の『フェンリル街』。


「あのねサトルさん、わたしちょっとあなたにお願いがあるの」


「なんのお願いだ?」


「わたしの教えている娘たちの前で、あなたのその『隠蔽』を解いてあげて欲しいのよ。

 みんなに本当の強者の雰囲気も教えてあげたいと思って。

 それにもしよかったら、『威圧』も出してあげてやって欲しいんだけど……」


「ああ、そんなことか。ぜんぜんかまわんけど、でもここでやると騒ぎになっちゃうかもしれないから、街から少し離れたところでやろうか」


「うふふ。どうもありがとう」



 そしたらどうやら俺のパフォーマンスが噂になったらしくって、結局群れ全員参加の『耐威圧訓練会』になっちゃったんだ。

 最初に会ったパトロールグループの連中はなんか遠慮してたみたいなんだけど、みんなに冷やかされて渋々参加してたよ。

 まあ、妊娠中のメスとか生まれて間もない仔とかにはご遠慮願ったけど。

 しかも、噂を聞きつけたドラゴンたちもベヒーモスたちもミノタウロスたちもトロールたちも集まっちゃって、もうお祭り騒ぎになっちゃったんだ。


 念のため参加者たちには全員トイレを済ませてもらって、街から10キロほど離れたところに全員が集合した。

 ベギラルムに連れられて、悪魔っ子たちも俺から100メートルほど離れたところに集まってるようだわ。

 はは、ローゼさまがまた夢中でカメラ回してるよ。



「おらおらお前たち! なにをそんなに離れてやがるんだ!

 もっと前に来んかいっ!」


 あー、あれ、若手オスフェンリルグループのリーダーだよな。

 俺の目の前2メートルほどのところまで近づいて来てるぞ。

 あ、フェンリーくんがニヤニヤしとる……



 俺はいつもの『加護のネックレス』に加えて『銀聖勲章』も身につけた。


「それじゃあそろそろ『隠蔽』を解くぞー、みんな準備はいいかー」


「おう! いつでも来いやぁっ!

 ヒト族ごときの威圧なんぞ、俺が吹き飛ばしちゃるっ!」


「それではほいっと」


 はは、『隠蔽』解くの久しぶりだわ。なんかこう、ちょっとすっきりだな。

 さてとみんなはどうかなー……


 あー…… 悪魔っ子たちは全滅かあ。みんなその場に倒れてるわ。

 あ、ローゼさまもひっくり返ってぴくぴくしとる。

 殺虫剤浴びたハエみたい…… って俺殺虫剤かよ!

 お、パンツ丸見え…… 今日は赤のレースのTバックか……

 やっぱ大人の女性って色っぽいなぁ……



 ああ、ドラゴンもベヒーモスもミノもトロールも、小さいのはみんな倒れてるか……

 はは、後ろの方の少年少女フェンリルたちも、ハラ上にしてひっくり返ってぴくぴくしながら気絶しとるわ。


 えーっと、若手オスのリーダーくんは……

 あ、またあのポーズか。両脚180度開いて腹を地面にくっつけて座ってる。

 うわっ! こ、こいつ座りしょんべんしやがった!

 だからさっきトイレに行っておけって言ったのに!

 そんな近くでしたら俺にしぶきがかかるじゃねえか!


 意識は…… はは、なんか目がガラス玉みたいになっとるわ。

 黒目が上向いて、口も180度に開いて舌もでろんって垂れてるぞ。

 でもまだかろうじて意識はあるみたいだな……



「す、凄まじい迫力ね…… も、もう『威圧』を全開にしてるの?」


 おっ、さすがはフェミーナだな。

 まあ、俺に敵意が無いってわかってるから平気なんだろうな。


「いいや、まだ『威圧』は出していないんだけど……

 実はまだ俺、『威圧』って出したこと無いんだよ。そんな必要、今まで一度も無かったから。

 でもこんな状態で『威圧』なんか出して、ほんとにだいじょうぶかな?」


「え、ええ。も、もうほとんどみんな気絶してるから大丈夫だと思うわ……」


「それじゃあ試しに出してみるけど準備はいいかい?」


「は、はい……」



 俺は少しずつ『威圧』を発散した。

 おお! これ面白いな!

 単に周囲を威圧するだけじゃあなくって、なんだか俺の力がさらに増していくような気がするぞ!

 そうか! 『威圧』って、自分も鼓舞されるんか!

 すげえ、すげえぞこれ!

 あーなるほど、体内マナを大量消費する代わりに、実際の力も上げることで相手を威圧するんだな!

 そうかあ、『威圧』って虚仮威しじゃあなくって、一種の『身体強化』だったんだあ。

 わはははははははは、これ気持ちいいわー♪


 それで俺調子に乗っちゃってさ。

 つい『威圧』を全開放しちゃったんだよ。

「があああああああああああああああああああーっ!」とか叫びながら……





 その日、そのとき…… 

 南北1万キロ、東西2万キロに及ぶ巨大大陸上のすべての生物が動きを止めた。

 いや大陸上だけではなく、空を飛ぶ鳥も、惑星上の全ての海を泳ぐ魚たちも動きを止めた。

 動きだけではなく、半径1万キロ以内の弱い生物は、数瞬の間だけだったが鼓動すらも止めていた……


 そうして次の瞬間、皆いっせいに動いたのである。

 弱きものはその場に倒れ、強き者はその全力を持って走り始めたのだ。

 そう…… それは脊髄反射とも言うべき本能的な動きであった。

 空中では意識の戻った鳥たちが、地中では虫たちも、さらには海中ではすべての魚たちやプランクトンですら逃げ出していた。

 そうしてそれらすべては、大陸中央部から少しでも離れようとする、生命が持つ生存本能の最大限の発露だったのである……



 ある生物は泣きながら、またある生物は喚き散らしながら、己の全速力で動いていた。

 そして、とうとう大陸中央部の2時街付近を中心に、放射状に木々の葉も枯れ始めたのである。

 その現象は爆心地とも言うべき場所を中心に一気に広がり、ついには中心に近い木から、まるで中心から逃れようかというかのように倒れ始めたのだ。



 そしてついには……


 ぐごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご……


(緊急連絡! 総員に緊急連絡! 

 大陸中央部、『2時街』付近を震源とする大地震が発生しました!

 震度は7、マグニチュードは7.5と推定されます!

 サトルさま! 直ちに避難するか、システィさまの天使域に転移してください!)



 はっ! ど、どうしたんだ俺?

 地震だって? あ、確かに揺れとる。

 ま、まさかこれって…… 

 俺は慌てて『威圧』を解除し、『隠蔽』も纏った。

 何故かすぐに揺れも収まってきたようだ。


(サトルさま、ご無事ですか?)


「あ、ああ、アダム。無事だわ。ありがとう。

 あ、あれ? どうしたんだ? 周りに誰もいないぞ……

 ああっ! み、みんな吹き飛んでるっ!」


 俺の超強化された視界に、半径300メートルほどの無人地帯が見えた。

 その周りにはドラとベヒとミノとトロ達が倒れている。

 さらにその外側には、散らばるフェンリルたちや悪魔っ子たちの姿が見えた。

 全員が土埃にまみれていてぴくりとも動かない。



「サトルより緊急指令!

 すべての光の精霊、並びに『治癒キュア魔法』を実行可能な精霊たちを、全員『2時街』近くの俺の周囲に転移させ、巨人巨獣族や悪魔っ子たちの治療に当たらせよ!

 システィ! すぐに2時街全体に『広域キュア』をかけてやってくれっ!

 それから各街の見回りも頼むっ!

 妊娠中の女性たちや幼児たちが心配だっ!」


「わ、わかったわ! すぐに行きますっ!」





 1時間後……


「ご、ごめんなさい…… も、もう2度としません……」


 2時街の集会場で、俺はみんなを前にして土下座していた。

 指も両脚も揃え、両肘は開き、額は地面にめり込ませた、もうカンペキな土下座である。


「あ、頭をお上げくだされサトルさま。

 もとはと言えば我々がお願いしての耐威圧訓練でありましたし」


 俺は額を地面に埋めたまま答える。


「し、しかし長老。俺、限度もわきまえずに力一杯……」


「まあ、幸いにしてみな無事でしたしの……

 精霊のみなさまやシスティフィーナさまにまで手当てをして頂き、かえってご迷惑をおかけ申した……」



 そうなんだよ。

 さすがに巨獣や巨人たちって強靭でさ。

 妊娠中のメスや生まれたばかりの子供も、気絶はしてたけどみんな無事だったんだ。

 ほんっとよかったよ。


 俺は頭を上げた。

 俺の額に砕かれた小石の破片がぱらぱらと落ちる。



「だが、あの一帯の木はどうするつもりだ……」


「す、すまんフェンリー……

 今植物の精霊と土の精霊たちが総出で助けてやっているところだ……

 新開発の強化肥料も与えれば、なんとか復活してくれると思うんだが……」



 そう。

 俺を中心にして半径3000キロ以内の木がみんな葉っぱ落しちゃってたんだ。

 それに、半径500キロ以内の木はみんな放射状に倒れちゃってて、半径300キロ以内は枯れちゃってたんだよ。

 誰だよこんな酷いことしたのは!



「それにしても…… 迂闊に『威圧』も出せんのか。難儀なやつよ。

 まあ何頭か毛色が変わってしまった者もおるが、それは自業自得だから良しとしよう」


 うん…… あの若手オスのリーダーくん。見事な白狼になっちゃっててさ。

 あ、恥ずかしそうに俯いたわ……

 ま、あれはあれでちょっとカッコいいからいいんじゃない?



 その晩、ベギラルムにも言われちゃったんだ。


「それにしても、まさに『大災害級』というか『惑星生命絶滅級』と言うか……

 恐ろしいご存在になられていたのでありますな、サトルさま。

 それがしも、あれほどまでの恐ろしい経験は、若い頃誤ってエルダリーナさまのおみ足を踏んでしまったとき以来ですわ……



 え、エルダさまも『大災害級』だったんですね……


「わたくしも恐ろしさの余りどうにかなってしまいそうでした……

 読者にあの雰囲気が伝えられないのが残念で……」


 ローゼさま……

 あのひっくり返ったお姿を添付すれば、男性読者は充分にご満足されることと思われますが……

 あ、そうか、そういう風に思うのって俺だけか……




 その日、植物の精霊たちがシスティにちょっと不思議なお願いをしていたんだ。


「あの。

 システィフィーナさまが入られた後のお風呂のお湯を頂戴出来ませんでしょうか……」


「別にかまわないけど、なにに使うの?」


「あの。

 2時街周辺の木を助けるために、システィフィーナさまの天使威の籠った水を薄めてかけてあげたいんです……」



 これ驚いたよ。

 なんかものすごい効果があるみたいなんだ。

 実験の結果、1万倍ぐらいに希釈した風呂の残り湯をコップ1杯ほど根にかけてやると、枯れかけていた木がみるみる葉をつけ始めるんだ。

 3時間もするとすっかり元気になってるんだもんなあ。

 ふつーの状態の植物だったら10万倍の希釈液で充分らしいけど。

 なんていうか、これが創造天使の力なんだな。いや畏れ入ったわ。




 それから俺はちょっと心配だったんだよ。

 もうフェンリル達や悪魔っ子たちが仲良くしてくれないんじゃないかって。


 でもありがたいことに、それは杞憂だったんだ。

 ほらフェンリルって強さを尊ぶだろ。

 悪魔族もそういう意味ではけっこう体育会系だし。

 だから仔フェンリルたちや悪魔っ子たちには英雄視されるし、フェンリルのメスたちはやたらに近寄って来て俺にカラダ擦りつけて来るようになったし……

 それ見てフェミーナがちょっとぷんすかしてたけど。

「わたしが一番最初に匂い付けしたのに!」とか言って……


 でも悪魔の娘たちよ。

 キミタチまでボクに匂い付けしなくてもいいからね……

 どうしてそんなにボクにくっついて、すりすりしてくるようになったのかなー。




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