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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
54/325

*** 54 300頭のベヒーモスたちが仲間になった! ***

 


 俺はベヒーモス族の族長を振り返った。


「さてベヒラン族長。

 これで納得して貰えたかな。

 システィは、みんなに戦って欲しかったんじゃあないんだ。

 ただただ今のまま幸せに生きて行って欲しかっただけなんだよ」


「あ、ああ、使徒殿本当にありがとう。

 まさかシスティフィーナさまにお会い出来るとは……

 この日はベヒーモス族の歴史に刻まれる日になろうて……」


「さて、それじゃあまずは固体マナを食べてみてくれないかな」


 俺はその場に300個程の純粋マナのブロックを取り出した。


「あんまりいっぺんに食べるとけっこう大変なことになっちゃうからさ。

 少しずつ食べてみてくれないか?」


「う、うむ」


 そうして族長が50センチ角ほどのブロックを1個だけ食べたんだ。


「ふぅおおおお!

 な、なんだこれは!

 みるみる体中にマナが満ち溢れて行っておる!

 なんだこの感触は! かつて無い満腹感だ!」


 族長は喜んでたんだけどさ。

 それでもやっぱり例のジェット噴射は始まっちゃったんだわ。


 ぼとぼとぼとぼと。

 ぶおおおおおおおおおおおおおおお~。


 うん、すっげぇ量の糞も出とるわ。これ1トン近くあんぞ。


「す、素晴らしい! 待望のお通じまで!

 し、使徒殿! これは皆も頂いていいものなのだろうか!」


「あ、ああ、もちろん……

 だけど食べ過ぎるとたいへんだから、特に小さい子は少なめにな……」


 それで群れのみんなも大喜びしながらマナブロックを齧ったんだけどさ。

 やっぱりみんなしてジェット噴射始めちゃったんだわ。

 もう辺りには膨大な量の糞が溜まりまくってたんだけど……



「いや失礼致しましたの。

 なにしろ木などを食していたせいで、皆腹の中に糞が溜まって苦しんでおりましたのです。それが腹はくちくなるわすっきりするわで、最高の気分ですわ」


「そ、それはよかった……」

(やっぱり草食獣ってどこでも糞をする習性なんだな……)


「それにしてもこのマナブロックは素晴らしい。

 これ1個あれば私の巨体でも10日は満腹ですぞ。

 ですが使徒殿。このような貴重なもの、大喰らいの我がベヒーモス一族が頂いてしまっても本当によろしいのでしょうか……」


「もちろん大丈夫だ。

 このブロックは山のように作ってあるんだ。

 そうだな、群れの数が10倍になって、それでみんなが1000年食べ続けても、100万分の1も減らないだろう」


「それはそれは…… 凄まじいお力ですのう……」


「まあ、他にも旨い喰い物も用意出来るしさ。

 システィもああ言ってたし、もしよかったら俺たちの『街』に来てくれないか?」


「それが……」


 なんだか族長の困った気持ちが伝わって来たぞ。


 そのときちょうど、近くにいた小さいベヒーモスが苦しそうに泣きながら体を揺すり始めたんだ。

 そしたら、すぐに隣にいた中ぐらいのベヒーモスが、その子の甲殻を持ち上げて隙間を舐め始めたんだわ。そうしてなにやら黒いものを口から吐き出しているんだよ。


「マナが薄れて仕方なく森に移住しましたところ、我らは虫にたかられてしまいましてな。特に子供たちの甲殻の隙間から入り込んだ虫が、可哀想に皮膚を齧ってしまっておるのですわ。

 このように害ある虫を抱えたまま『街』に行けば、街の皆さんに大いなるご迷惑をかけてしまうでしょう。

 ですから残念ながら我々は街にお邪魔するわけにはいかないのです……」


「アダム。この寄生虫を駆除する方法はあるか?」


 アダムの声が全員に聞こえた。


「サトルさまの『クリーン』の魔法の効力を、その昆虫にも及ぼすよう設定いたしました」


「さすがだな。

 それじゃあみんな、もっと近くに寄ってくれ。

 今からその虫を駆除するぞ。

『クリーン!』それから『グランドキュア!』」


 その場の全員が暖かい光に包まれると、小さいベヒーモスが泣きやんだ。

 不思議そうな顔をして首を傾げている。

 その子の甲殻を持ち上げて中を覗き込んだ母親らしきベヒーモスが驚きの声を上げた。族長も覗き込んで驚いている。


「こ、これは…… あれだけいた害虫が一匹もいない……

 しかも喰われて腫れていた皮膚が元通りになっている!」


「はは、上手く行ってよかったな。

 これでもう大丈夫だ。これからも誰かに日に1回はこの魔法をかけさせよう。

 『街』には虫除けの魔道具も設置しようか」


 小さいベヒーモスが近寄って来て、「おにちゃんあいがと」と言いながら俺の顔をぺろぺろ舐め始めた。

 母親はぺこぺこと頭を下げている。

 はは、他のみんなも嬉しそうだわ。


「それにベヒラン族長。

 マナが薄れた今、これからは森がどんどん広がって行くだろう。

 だから虫除けのある『街』に住む方がいいんじゃないかな」


「お、おお…… 仰る通りです……

 何から何まで本当にありがとうございまする……」


「ところで他に何か困っていることはあるかな?

 この際だから何でも言ってくれ」


「い、いえ、些細なことしかございませんので……」


「その些細なことが重要なんだよ」


「そ、それではお言葉に甘えまして……

 我々のうち、高齢の雄は角が大きくなり過ぎて困っておるのです。

 もうあまりの重さに首が凝って仕方がないのですな。

 古代のベヒーモスはその角の大きさで力を誇示して族長を選んでいたようなのですが、もはや我々は皆の話し合いや族長の指名で次期族長を選ぶようになりました。

 それで不要になったこの左右2対の角を捨て去りたいのですが、どうにも固くて齧ろうにも岩に叩きつけようにも折れないのです。

 はぁ、この角さえ無ければ随分と楽になるでしょうに……」


「ほんとにそんなに立派な角が要らないのかい?」


「ええ、もはや無用どころか首が痛くて仕方ありません」


「なあアダム。レーザーなら切れると思うんだがちょっと危険だよな」


「はい、レーザーの熱が生体に害を及ぼすかもしれません。

 ですが、『練成』でサトルさまが触れた部分だけ液状化すれば、なんの問題も無く切り取れると思われます」


「なるほど。

 でもまあ出来れば一度試してみたいな。

 なあ族長、既に折れた角とかどこかに無いかな」


「それでは我ら一族の墓地にご案内致しましょうか」


「そ、そんな場所に俺たちが行ってもいいものなのか?」


「はは、システィフィーナさまの使徒さまともあれば、何の問題もございませぬよ。

 ここからあちらの方角に100キロほど行った谷がその場所でございます。

 我らは死期が近付くと、皆その場に行って眠りにつくのです」


「アダム、その場所がどこかわかるか?」


「はい、今見つけました」


「それじゃあ今からみんなでその場所に『転移』しようか」


「『転移』…… でございますか……」


「実はシスティフィーナさまに頂いた力なんだけど、どんなに離れた場所にも一瞬で移動できるんだ。

 今からみんなでその墓地に行かないか?」


「そ、そのようなことすら出来るとは…… ええ、お願い致します」


「それじゃあアダム、『転移』を頼む」


「畏まりました……」



 途端に俺たちは谷と言うか、窪地の前に立っていた。

 そうしてその窪地には、見渡す限り巨大な骨と甲殻があったんだ……


 ベヒラン族長が手前にある一際大きな骨格の前に行った。

 そうして恭しく頭を下げたんだ。


「前族長べヒールさま。

 本日我らの前にシスティフィーナさまがご降臨下さいました。

 そうして我らの生きようを寿いで下さったのです。

 さらにはこのまま幸せに暮らすようにも仰ってくださられました。

 誠にありがたきことでございます……」


 族長はそのまま1分ほどこうべを垂れていたが、晴れ晴れとした顔で俺を振り返ったんだ。


「さて、それでは是非この前族長殿の分厚い左右一対の角を切り取ってやって下さいませ」


「ほ、本当にいいのか?」


「はい。前族長は死ぬまで角の重さに苦しんでおりました。

 何度もわたくしにその角を齧り折るよう命じられたのですが、残念ながら折れたのはわたくしの歯の方でした。

 もし角を折り取って差し上げれば、何よりの供養かと存じます」


 すげえよこいつら、『供養』なんていう概念まで持ってるわ……

 俺は驚きながらも前に出て、前族長殿の巨大な角に触れた。

 おお、微かに齧ったような跡もあるじゃないか……

 そうして俺は、直径1メートルはあろうかという角の基部を両手で挟んだんだ。


「練成…… 液状化……」


 そう唱えた瞬間に、基部から上が倒れかかって来た。

 な、なんだよこの重さは! これ、比重が優に50はあるぞ!

 金の2倍以上の比重だわ……

 Lv100万の今の俺でも驚く重さだ。

 1本で優に3トンはあるだろうな。


「「「「「 おおおおおおお…… 」」」」」


 ベヒーモス達のどよめきが起きる中、俺は白い布を転移させてその上に角を横たえた。そうしてもう一方の角も『練成』で切り取ったんだ。


「アダム、頭蓋骨に影響は出てるかな」


「全く影響はございません。

 この『練成』を使用すれば生体への損傷も皆無と思われます」


「そうか」


 そのとき、ガシャーンと大きな音がしたんだ。

 驚いた俺が振り返ると、前族長の下顎の骨が下に開いていた。


「おおおおおお! 

 前族長べヒールさまが微笑んでいらっしゃる!」


 そう…… それはまるで頭蓋骨が嬉しそうに笑っているかのように見えたんだ。

 さらに……

 ガラガラガッシャーン!

 その背にあった巨大な甲殻が地面に落ちて、俺の目の前に転がって来たんだよ。



 しばらくは誰も口を開かなかった。

 そしてようやくベヒラン族長が微笑みながら口を開いたんだ。


「前族長は、生前、『もし俺の角を折り取ってくれる者がいたとしたら、俺の死後そやつに俺の甲殻を与えてその偉業を讃えるものとする!』と仰っていました……

 死して尚その約束を守られるとは、律義なお方様だ……」


 そう言いながらも族長の目からは滝のように涙が落ちていたんだ……


 300頭のベヒーモスが俺に向かって一斉に地に頭をつけた。

 どうやら俺は奴らの英雄になっちまったみたいだな……



 こうして300頭のベヒーモスたちが仲間になったんだ。


 俺は『フェンリル街』の隣に『ベヒーモス街』も作ってやった。

 意外なことに奴らは家も喜んだ。

 特に大きな家で家族そろって寝るのが嬉しいらしい。

 そうして俺は、雄の成獣たちの角を片っ端から取ってやったんだ。

 なんだか床屋さんになった気分だったぜ。


 奴らは軽くなった頭をぐるぐる回して嬉しそうだったよ。

 そうして、それら切り取られた全ての角は、俺に進呈されたんだ。

 前族長の甲殻や角も含めて、なんだかとんでもないお宝をゲットした気分だったわ……



 そうそう、連中にマナ以外にもいろんな食べ物を振舞ってみたんだけどさ。

 なんか、何を食べてもみんな旨い旨いって感激しながら食べてくれるんだわ。

 そりゃまあどれも木よりは旨いだろうけどな。


 特に気に入ってもらえたのが、茹でたジャガイモに塩をたっぷりとかけたやつと、オレンジジュースだったよ。

 今度地球に大量のオレンジジュースを追加注文せんといかんな。

 アメリカのカリフォルニア州辺りの農家も大喜びだろう。


 それから俺は、ベヒラン族長に相談の上、ベヒーモスの墓地を白い城壁で囲んだんだ。

 あのまま放置しておくのもなんか忍びなかったからさ。

 土の精霊たちに頼んで墓地らしい装飾もして貰ったんだけど、ベヒーモスたちが感激してくれてたよ。





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