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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
52/325

*** 52 『匂い付け』されちゃった…… ***

 


 俺は『フェンリル街』の隅に練兵場を作った。

 まあ、地面を平らにして、隅に屋根付きのベンチとトイレを置いただけだけど。

 翌朝そこに悪魔っ子たち50人が整列したんだ。


「このお嬢さんが、お前たちの訓練教官を務めてくださるフェミーナさんだ。

 皆挨拶をしなさい」


「「「「「「「「 よろしくお願いします、マム! 」」」」」」」」


「教官をお引き受けくださり、誠にありがとう存じます。

 どうかよろしくお願い申し上げます」


 はは、ベギラルムも最敬礼してるよ。


「こちらこそよろしくね。

 それじゃあ最初は、格上の『威圧』に耐える訓練から始めましょうか。

 みんな私を取り囲むように並んでくれるかしら」


 悪魔っ子たちがおずおずとフェミーナを取り囲んだが、ちょっと腰が引けている。

 城壁建設見学のときなんかには仔フェンリルとじゃれあって遊んでたけど、成獣はまた別みたいだな。

 確かに体長5メートル近い狼って迫力あるわ。なんか目は優しそうだけど。


「それじゃあ少しだけ『威圧』を出すわね。

 みんな耐えられなくなったら離れてもいいわよ」


 途端にフェミーナから『威圧』が噴き出て来た。

 すげえなこれ。

 加護のネックレスが無かったら俺でもキツイかもしらん。これで少しかよ。

 あー、悪魔っ子たちの足が震えてるわ。何人かはその場に座り込んじゃったか。

 事前に全員トイレに行かせといて正解だったな。



「はい、みんなよくがんばりましたね。

 今日はこのぐらいにして、慣れたらだんだん『威圧』も上げて行くから、早く耐えられるようになってくれたら嬉しいわ。

 それじゃあ次は4人ずつわたしの両脇にならんで、わたしに体当たりしてくれるかしら」


 フェミーナの両側に並んだ悪魔っ子たちが、少し助走をつけて体当たりを始めた。

 だんだん力を入れて当たり始めるが、教官は微動だにしない。


「もっと力を込めて。全力を出してね。わたしを弾き飛ばすつもりで……」


 それでも子供たちの体当たりは、ぽふんぽふんと教官の毛皮に弾かれている。

 まあ、総合レベルに2ケタもの差があったらこんなもんかな。

 蚊が恐竜に体当たりしているようなもんなんだろう。


 だけどそのうちに、悪魔っ子たちのうちのひとりから、アダムのサブシステムの音声が聞こえて来たんだ。

「ぴろりろり~ん。攻撃力がレベルアップして19になりました。総合レベルがレベルアップして22になりました」


 そう、昨日アダムに相談して、本来俺やアダムにしか使えない『鑑定』の音声を、その場で聞えるようにしてあったんだ。

 その方がみんなやる気が出るだろうからな。


「あらおめでとう。レベルアップしたみたいね。

 ふふ、まだこれぐらいのレベルだと、けっこう上がりやすいのね。

 なんだかわたしもうれしいわ。

 さあ、それじゃあ全員がレベルアップするまで体当たりを続けてね」


 そうして全員がレベルアップを果たしたところで、フェミーナが左右にしっぽをひと振りしたんだ。

 悪魔っ子たちが全員吹き飛ばされて10メートル程ごろごろと転がっていく。

 すぐに光の精霊たちが飛んで行って『治癒キュア』をかけていた。


「ぴろりろり~ん。防御力が1上がって20になりました」


 はは、しっぽの一振りでもう防御力が上がったのか。

 さすが格上を攻撃したり攻撃されたりすると、レベルも上がりやすいんだなあ。

 俺のときはレベル100ぐらいのベギラルム相手だったけど、こいつらはなんとレベル1823を相手にしてるから、レベルアップも相当に早いんだろう。


 まあ、自然界では普通ありえない強化方法だもんな。

 遥かに次元の違う強者が攻撃させてくれたり、手加減して攻撃してくれるなんて。

 しかもここは俺の作った壁に囲まれてるし、『加護』もかけてあるから、この子たちも万が一のことがあってもすぐに生き返るから安心だわ。

 相当に恵まれている訓練環境だろう。

 そのうちにもっとレベルが上がればレベルアップもしにくくなるだろうけど、今はこれで充分だ。

 まったくありがたいことだわ。



 次の8人が体当たりを始めると、俺はその場を離れてフェミーナの家の横に倉庫を作り始めた。

 そうしてその中に、50リットルほどのオレンジジュースとアップルジュースとグレープジュースの缶を置き、また大量の大皿を置いておいたんだ。

 そうそう、フェンリルたちってさすがのMP4ケタで、この程度の缶の蓋だったら魔力を使って簡単に開けられるんだよ。



 俺はその足でフェンリーくんの家に行った。


「キサマ、ボスである我の許可も無いままフェミーナを訓練教官にしおって……」


「まあまあ、フェミーナがやってあげるって言ってくれたんだよ。

 それに昨日頼みに来たとき、お前家に頭突っ込んで寝てたしな」


「ううっ、だ、だからと言って……」


「そんなこと言ってると、フェミーナが報酬のウィスキーを分けてくれなくなるぞ」


「うっ……」


「それからさ。こんなものがあったんで、持って来たんだけど。

 お前の子供たちとかに見せたら喜ぶかと思って……」


 俺はアダムにプリントしてもらった大判の写真をフェンリーくんに見せたんだ。

 そこにはまだ2歳だったボスが、システィにひざ枕してもらってお腹をなでなでされている姿が鮮明に写っていた。

 はは、あまりの気持ち良さに、はふはふしながらだらしなく舌を出してるし、両脚もおっぴろげてるわ。

 あっ、よくみればちょっとしっこ漏らしてもいる……


 その写真を見た途端、フェンリーくんの毛が逆立って膨らんだ。

 あー、こいつ、写真喰っちまったよ。


「も、もごもご…… こ、このようなもので我を脅迫するとは……」


「ええー、脅迫じゃあないよう。子供たちが喜ぶかと思ってー (棒)。

 それにまだまだ写真は山ほどあるんだけどなー (棒)」


「きっ、キサマ……」


「それにこんなものもあるんだけど……」


 それはエルダさまが神界で売り出したフェンリーくんのぬいぐるみだった。

 もちろん口を180度に開いて目をまん丸にした『伝説のアホ面』である。

 なんだかアホ可愛いってけっこう売れているそうだ。

 あー、こいつ、ぬいぐるみも喰っちゃったよ……

 そんなもん喰ってるとハラ壊すぞ。



「それじゃあフェミーナ教官の件、ボスの了解は頂いたっていうことでいいかなー」


「くっ、し、仕方あるまい…… も、もう既に訓練は始まってるからな……」


「ありがとー (棒)」




 悪魔っ子たちの訓練が終わって、フェミーナが戻って来た。


「フェミーナ、本当にどうもありがとう。

 お礼はキミの家の隣に倉庫を作って中に入れておいたから」


「ふふ、わたしも久しぶりに小さな子たちの相手が出来て楽しかったわよ。

 あら、じゅーすがこんなにたくさん。いいのかしら?」


「もちろんだ。キミはそれだけのことをしてくれたんだし」


 そのころになると、俺とフェミーナは何十頭もの仔フェンリルたちに囲まれていた。

 みんなお行儀よく地面に座っているが、しっぽだけはぶんぶんと盛大に振られている。

 はは、その外側には若いメスたちも座ってるわ。


「さあ、システィフィーナさまの使徒さまがまたじゅーすを持って来てくださったわよ。

 みんなでいっしょにいただきましょうか」


「「「「「「「「 わぁ~いっ!!! 」」」」」」」」


「あ、あの…… フェミーナお姉さま……」


「あら、あなたたちもじゅーす飲みたいのね。それじゃあ一緒に頂きましょうか。

 でも、じゅーすは毎日ではないのよ。毎日飲んだらみんな太っちゃうし」


「は、はい。ありがとうございます……」



 その後は全員で楽しそうにジュース飲んでたよ。

 子供たちははふはふしながら「おいちいおいちい」って夢中で飲んでたし、若いメスたちもきゃっきゃ言いながら嬉しそうだったし。


 翌日からは、少し小さなメスたちも悪魔っ子たちの訓練を手伝ってくれるようになったんだ。

 それにしても、フェミーナって人望、い、いや狼望あるよなあ。

 聞くところによると、フェンリルってオスとメスに戦闘能力の差はほとんど無いそうだ。

 それに、狼の群れって本来はメスが率いるものらしいからな。

 これ、この娘、将来の族長有力候補なんじゃないのか?



 そのころになると、地球からの資材の搬入も始まってたんでさ。

 俺はドッグフードも『フェンリル街』に持ち込んだんだけど、これも大好評だったよ。

 子供たちがまた「おいちいおいちい」ってカリカリ食べてたわ。

 そうして3カ月も経つと、子供たちや若いメスたちの毛艶が明らかに変わって来たんだ。それまでも綺麗な黒色や銀灰色だったんだけど、それがみるみる艶々になって来たんだな。

 やっぱりマナだけでも生きていけるけど、ビタミンやミネラルも大事だったんだろう。

 おかげでジュースやドッグフードは『美容食』っていう扱いにもなって、年上のメスたちにも大人気になってたわ。

 オスたちは月に1度のウィスキーを楽しみにしてるし、長老たちは子供たちの艶々の毛を毛づくろいしながらおんおん嬉し泣きしとるし。


 はは。なんか俺、完全にフェンリルの餌づけに成功しちゃったみたいだ。

 俺が現れると、みんなしっぽぶんぶん振って歓迎してくれるしな。

 フェミーナなんか、群れの中での序列が急上昇してるみたいだよ。

 なんか相当に上位のオスたちがお婿さん候補に上るようにもなったそうだ。


 おかげでなんか知らないけど、俺の幸福ハピネスポイントも爆上がりしてたわ。

 そうか…… やっぱり食の幸せ、っていうのも大きかったんだなあ……



「なあ、フェミーナ。

 これでお婿さん選びにも苦労しないようになってよかったな」


「ふふ。みんなサトルさんのおかげよ。でも……」


「でも?」


「サトルさんみたいなフェンリルっていないのかしら……」


 そう言って、フェミーナはペロンと俺の頬を舐めたんだ。

 なんだか潤んだ目をして体も擦りつけて来たし……


 おかげでシスティの天使域に帰ったときに、システィにくんかくんかされちゃったんだよ。

「なんだか女の子の匂いがする」って……


 お、俺、フェミーナに『匂い付け』されちゃってたんか……





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