*** 49 大城壁建設見学会にフェンリルさま御一行御招待 ***
俺たちは大平原西部での城壁造りを続けた。
「それではみんな。
ひとりひとつずつバケットの横に行って、順番に転移の魔道具に触れて砂漠地帯の円柱のところに転移してくれ。
そうしてさっき設置した最初の円柱のところにバケットを降ろすんだ。
足の上に降ろさないように気をつけろよ。
そうして『解体の魔道具』を作動させれば、マナ建材が消えて建材は自動的にアダムの倉庫に戻るからな。
そうして個人用の転移の魔道具でまたここに転移して戻って来てくれ。
対になってる転移の魔道具をここに置いて行くのを忘れるなよ。
次の人は、前の人が戻ってから、バケットを持って移動すること。
そうしないと前の人にぶつかっちゃうからな。
そうして前の人が降ろした大地の横に隣り合うようにバケットを降ろして、順に東西方向に並べて行ってくれ。
東西方向が一杯になったら今度は1列南にズレて同じ作業だ。
多少の隙間は構わないが、なるべくキューブ同士の隙間が大きくならないようにな。
円柱に沿って並べればそんなに方向もズレないだろう。
そうして切り取った大地を移動し終わったひとは、また帰って来て、マナ・ポーションを飲んでしばらく休息だ。
次の順番が回って来るまでけっこう休めるだろう。
まあ、こうした作業もそのうち全部お前たちで出来るようになるだろうな」
「「「「「「「「 はぁーいっ♪ 」」」」」」」」
それから俺たちは、次から次へと大地を切り取っては砂漠に移動させて行ったんだ。
システィはそんな作業をずっと楽しげに横で見ていてくれたよ……
その日は、距離にして40キロほど大地を切り取って城壁の土台を作ることが出来た。まだまだ先は長いけど、頑張っていればそのうちにもっと作業に慣れて早く出来るようになるだろう。
翌日は悪魔っ子たちも慣れて来たんで55キロほど進むことが出来た。
でも明日はローテーションで初めての子たちが来るから、また40キロぐらいかな。
その日の夕食時。
「のうサトルよ。なんぞ面白そうな作業をしておるらしいではないか。
わたしも見学したいのだがの」
「あ、あの…… 出来ればわたくしも……」
「サトル殿。そ、某も後学のためにその……」
「そうか、それじゃあ全員仕事を休んで城壁建設見学会でもしましょうか。
あ、そうだ。それ明日じゃなくって明後日でもいいですか?」
「もちろんかまわんが…… なんぞ理由でもあるのかの?」
「ええ、ちょっとした下準備を……」
「それじゃあサトル、またお弁当用意してみんなでピクニックね♪
そうそう、フェンリルさんたちも呼んであげましょ♡」
翌日早朝、俺はアダムのアバターと2人で城壁建設現場に降り立った。
「なあ、アダム。今まで造った土台で5度以上傾いてるところってあるかな?
ああ、進行方向に対して垂直な線が水平線に対して傾いてるっていう意味だけど」
「ございません。最大でも1.5度でございます」
「それじゃあ0.3度以上の傾きのあるところを、俺の脳内ディスプレイに赤く表示してくれないか」
「はい、サトルさま」
途端に俺の視界にある白い土台の一部が赤く染まった。
俺は空中を飛びながら、その赤い部分に『水平平滑』の魔法をかけて水平にして行ったんだ。
30分ほどで、それまでに造っていた100キロ弱の土台がすべて白く見えるようになった。
土台を少々追加して100キロ少々にし、併せて横に転移の魔法陣の大きなものを設置しておく。
「ふう。こんなもんかな。
それじゃあ城壁の起点付近に100万立方メートルほどマナ建材の転移を頼む」
建材の用意が出来ると、俺は起点上空に転移して浮かんだ。
「魔法マクロ定義、マクロ名【城壁構築1】
『このマナ建材の土台上、中央線に沿って、幅20メートル、高さ50メートル、長さ50メートルに渡って垂直に砂状のマナ建材を置け。
次にマナ建材を液状化した上で固化せよ。
尚、底面は土台のマナ建材とよく融合させること。
また、城壁と土台の接合部分内側には、3メートル×3メートルの断面が直角三角の形状をしたマナ建材の棒材を置き、壁と土台双方に融合させて補強せよ。
さらに城壁の上面の左右は、R1メートルでテーパーせよ』
以上、魔法マクロ定義終了」
すぐに幅20メートル、高さ50メートル、長さ50メートルの城壁が出来上がる。
よし、次だな。
「魔法マクロ定義、マクロ名【城壁構築100】
『最後に造った城壁部分を起点として、魔法マクロ【城壁構築1】を100回実行せよ。尚、前回作成の城壁との接合面はよく融合させて馴染ませること。
隙間があれば、追加でマナ建材を使用して塞げ』
以上、魔法マクロ定義終了」
はは、やっぱすげえな。
5分ほどで5000メートルの長さの城壁が出来て行ったわ。
順番に100個、まるで結晶が出来るときみたいに延びて行ったぜ。
へへ、このショーはまたみんな驚いてくれそうだな。
さて、残念だが、この城壁はいったん解体するとしようか。
「アダム、すまないが、この城壁に『解体の魔道具』を設置して、いったん倉庫に戻しておいてくれるか」
(畏まりました)
さて、それじゃあフェンちゃん達の為に観客席でも造るか。
俺は起点の横に、横500メートル、幅100メートル、高さ100メートルの台を造った。念のため上面から5メートルほど下がったところには、幅8メートルの張り出しと頑丈な柵も作っておく。
いくらフェンリルでも、この高さから落ちたら大けがするだろうからな。
おお、いい眺めだ。ここからなら城壁が出来る様子がよく見えるだろう。
ついでに降りるときのための階段も作っておいてやったよ。
「アダム、この観客席の上に、転移の魔道具の大きいヤツを設置しておいてくれるか。対になった魔道具は明日フェンリル街に設置しよう」
(はい)
その日はそれからまた悪魔っ子たちと地道な土台工事を続けたんだ。
子供たちは巨大観客席が気になるようで、みんなちらちら見ていたな。
はは、休憩時間にはみんな飛んでって上で遊んでるわ。
俺はその日造った分の土台の水平も取って、システィの領域に帰ったんだ。
翌日、俺たちはまず全員で『フェンリル街』へ転移した。
街の隅に大型の転移の魔道具を設置する。
「それじゃあこれからみんなで城壁建設現場に行って、建設の現場を見てもらいたいんだ。
この魔法陣の上に乗って、『転移』って念じると現場に転移出来るからな。
転移先はちょっと高いところにあるからびっくりしないように」
「ふん。我ら誇り高きフェンリル一族が、高いところごときで驚く訳がなかろう。
それより、キサマの言う大城壁が本当に出来るかどうか見極めてやろうぞ」
「はは、とくと見てやってくれ。
それじゃあみんな。魔道具に乗って、『転移』って念じてくれるか」
魔道具に乗ったフェンリルたちが次々に消え失せていった。
あれ? 急に転移しなくなったぞ?
あ、これ受信側でつかえてるな……
「みんなちょっと待っててくれ。
いちど向こうに行って、魔道具の上を空けてくるから」
俺はすぐに転移した。
あー……
やっぱりみんな、高いところコワかったんだね……
フェンリル達、魔道具の上や周りでほとんどみんな平らになっちゃってるわ。
足全部真横に開いて真っ平ら。な、なんか毛皮の敷物みたい……
み、みんな体柔らかいのね……
あ、仔フェンリルがじゃーじゃー漏らしてる……
「きっ、キサマ、このようなことで我らを驚愕させるとは……」
「えー、さっき高いとこなんか怖くないって言ってたじゃーん」
「たっ、高すぎだっ!」
「それじゃあ文句の多いボスは放っておいて、みんなちょっと魔法陣の上を空けてくれるかなー。その上にいると、街のみんなが転移して来られないんだよー」
はは、みんな必死になって匍匐前進してるよ。
あー、台の端っこに行ったやつが後ろから押されて「ひーっ!」とか言ってる。
立ち上がって逃げればいいのに……
仕方ないな、俺が動かすか……
俺が左右方向の開けたところにフェンリル達を移動させると、ようやく後続組も転移して来た。
でもやっぱり真っ平らになってるか。やれやれ……
何度も移動を繰り返すと、ようやくフェンリルが全員揃った。
わはは、みんな平らでなんかフェンリルの絨毯みたいだな。
「それじゃあ城壁建設を始めるよーっ!
みんなよく目を開けて見てるんだよー」
「「「「「「「「 はぁーい♪ 」」」」」」」」
はは、もともと飛べる精霊たちや悪魔っ子たちは元気いっぱいだな。
あ、ローゼさまが夢中でカメラ回してるよ。
「それじゃあ魔法マクロ発動、【城壁構築100】ーっ!」
それは手前側から始まった。
地面に埋まっている白い石の帯の上に、横にあった砂の山からマナ建材がざーっと音を立てて飛んで行く。
見る間に幅20メートル、高さ50メートル、長さ50メートルの壁が形成される。
それが急にどろりと溶けたかのように見えると、次の瞬間には光沢のあるつるつるの壁に変化した。
上部のフチには丸みも出来て行く。土台との接合部分の補強も同様だ。
すぐにまたマナ建材の砂が飛び、壁が形成されていった。
1枚辺り約3秒。驚くほどの速度で壁が伸びて行く。
「「「「「「「「 わーーーーーーっ! 」」」」」」」」
「「「「「「「「 きゃーーーーーーっ! 」」」」」」」」
「「「「「「「「 すっごぉーーーーーーいっ! 」」」」」」」」
あはは。やっぱり精霊たちや悪魔っ子たちは大喜びだ。
みんなよく見ておくんだよ。こうして俺たちの国が出来て行くんだ。
フェンリルたちは……
あー…… みんな大口開けちゃって……
ヤツらの口ってあんなに大きく開くんだな。ほとんど180度開いてんぞ。
そ、それにしても…… ぷくくくくくぅ……
500頭近い巨大狼たちが揃って目をまん丸にして、しっぽ盛大に膨らませて、大口開けてる姿って……
wwwwwwwwwwwwwwwwwww
ひぃーっ、く、苦しいっ……
そ、そうか…… こ、こいつらって、破壊系の魔法は使えても建築系の魔法って初めて見るんだ!
そ、それにしても、『伝説の霊獣』の『伝説のアホ面』……
ひ、ひぃーっ、も、もうダメ…… 腹筋爆ぜるぅ……
腹がミシミシ言ってるぅっ!
俺は追加で魔法マクロ【城壁構築100】を20回実行した。
このマクロの便利な点は、こうして連続で実行しても、ちゃんと全部行使されることなんだ。
後は俺は何もする必要は無く、実にラクチンである。
この辺りは起伏の穏やかな場所なんだけど、それでも高いところから見ると、その起伏に沿って巨大な城壁が続いているのがわかる。
まあ、昔写真で見た万里の長城みたいだわ。
お、ようやく城壁構築が終わったようだ。
「「「「「「「「 わぁーーーーーっ! 」」」」」」」」
「「「「「「「「 パチパチパチパチ……」」」」」」」」
へへ、大歓声と大拍手だな。
あ、フェンリルたちも前足合わせて叩いてくれてる。
で、でも足は左右に180度開いて腹は下の石につけたまんまだ。
き、器用なことするね……
「さあ、それじゃあみんな、次は土台づくりの実演だ。
あの壁の端まで100キロ転移するから地面に降りてくれ」
「「「「「「「「 はぁーいっ! 」」」」」」」」
はは、みんな口々に、「すごかったねー♪」とか「面白かったねー♪」とか言いながら移動し始めたか。
「さあ、フェンリルたちも、その階段を降りて移動してくれるかな」
ん? 誰も降り始めないぞ…… どうしたんだ?
あ、ボスが降り始めた。
ああ、しっぽがびーんって立って膨らんどるわ。
そうか。ヤツらには階段が狭すぎて怖いんだ……
フェンちゃんは残りの20メートルほどを飛び降りて地面に降り立った。
おー、尻尾が元通りになっとる。
「おい! お前たち! なにをグズグズしておるっ! 早く降りて来いっ!」
フェンちゃん無茶言ってるよ。自分がもう降りたからって……
お、デカイのが頑張って降り始めた。
あー、足が震えてるよ。こっから見てもわかるわ。
お、次も降り始めたか。みんながんばれ。
あー、今度のヤツ。両脚180度開いてハラを階段につけたまま、前足だけでずりずり降りてるわ。
完全に腰が抜けちゃってるのね。あれじゃあハラが痛いだろうに。
あーあ、台の上に残ったヤツらがみんな涙目になってるよ。
「おいアダム。可哀想だから上の連中を転移で降ろしてやってくれよ」
(畏まりましたサトルさま)
あはは、下に転移してもらったメスたちや小っこいのが、大地に頬を擦りつけて泣いて喜んでるよ。
「おっ、おいキサマっ! 転移で降ろせたなら何故最初からそうせんのだっ!」
「えー。だってボスの威厳を示させてあげようと思ってぇー。(棒)」
「ばっ、ばかもの! そのようなことをせんでも、もはや威厳は充分にあるっ!」
「そうだったんだ。そりゃーよかったー。(棒)」