*** 45 地球からの物品輸入と『フェンリル街』の完成…… ***
そのころ、先日上級天使が顕現したNY州北部の広壮な別荘では。
エルダリーナ上級天使の使い魔である中悪魔が、ヒト型になって別荘に出現した。
まもなく別荘所有者一族の執事長の事務室に通される。
「これはこれはベギランさま。ようこそお越しくださいました」
「ザックス執事長殿。こちらこそ急な訪問を受け入れて下さり、痛み入り申す」
「はは、お互い主の命を受けてのことですからな。
どうか御遠慮なさらずに」
「うむ。それでは早速用件に入らせていただく。
わが主エルダリーナさまより、購入希望商品の一覧を届けるように命を受けたのだ。
内容を精査いただき、金額の見積もりを頂戴したい」
「畏まりました。わたくしも我が主より、エルダリーナさまのご要望には全力を挙げて取り組むようにとの命を受けております。
それでは早速ご購入希望品のリストを拝見させていただけますでしょうか」
「うむ。こちらになる」
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<購入希望品>(廉価品希望)
註)10万人が1年間生活するための品の予定
ベッド用マットレス及びベッドマット
キングサイズ用 各1万枚
クイーンサイズ用 各3万枚
シングルサイズ用 各6万枚
その他簡易マットレス 5万枚
防水シート
各種大きさを計5万枚
毛布 20万枚
シーツ 20万枚
枕 各種サイズ 10万個
枕カバー 各種サイズ 20万枚
クローゼット
(アルミ合金製。カラフル系、シック系など様々な塗装希望)
大10万台
中10万台
チェスト
(アルミ合金製。カラフル系、シック系など様々な塗装希望。
尚引き出しはスムーズに可動のこと)
大20万台
中20万台
カーテン(金具付き)
縦サイズ2.3メートル、横サイズ1.8メートル 10万枚
カーテンレール 10万個
タオル 30万枚
バスタオル 10万枚
石鹸 100万個
衣類
男性用各種衣料品(下着含む)30万セット
女性用各種衣料品(下着含む)30万セット
子供用各種衣料品(下着含む)30万セット
厨房品
大型寸胴 5000個
大型鍋 1万個
大型フライパン 1万個
各種調理器具セット 5000セット
食糧
小麦粉各種(袋入り) 10万トン
パン用イースト 100トン
パンケーキミックス 1000トン
乾燥パスタ 10万トン
業務用パスタソース 5万トン
砂糖、胡椒 各1万トン
各種調味料 1000トン
各種スープの素 1000トン
植物油 2万トン
バター・チーズ等乳製品 10万トン
牛乳 10万リットル
各種野菜 20万トン
各種冷凍魚介類 10万トン
菓子、焼き菓子、生菓子、ケーキ等各100万食
ソーセージ 1万トン
卵 1万トン
ペットフード各種 1万トン
飲料
ビール 10万リットル
各種蒸留酒 1万リットル
各種果実ジュース 10万リットル
簡易食品
インスタントスープ各種 50万食
インスタントラーメン各種 100万食
大画面テレビ 1000台
テレビ用ケーブル 1000メートル×1000
テレビ用カメラ 10台
その他(日本製に限る)
乳児用粉ミルク 1万トン
ペット用粉ミルク 1万トン
哺乳瓶 1万個
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「こ、これはこれは…… ま、まるで難民用の資材のようですな……」
「使用目的は極秘事項である」
「こ、これは失礼いたしました……
それでは、早速に商品サンプルをお取り寄せさせて頂きますので、その際にご希望の品をお選びいただけますでしょうか。
その後、金額の見積もりを出しましてご連絡させていただきますです」
「うむ。よろしく頼む。
これらの品はまずは手始めであり、事態が順調に進めば、多少の内容の変更があるとしても、あと数百回の注文が見込まれよう。
場合によっては1000回になるやもしれぬ。
取引回数については確定次第連絡することにさせていただくが、少なくとも50回を下回ることは無いのでそのつもりでご準備いただきたい」
「す、凄まじい量ですな……
クローゼットとチェストだけで、最低3000万台でございますか……」
「それから、もし構わぬのなら、そちらも連絡担当官と専用の部屋をご用意願えまいか。
いちいち執事長殿の手を煩わせるわけにはいかんのでな」
「いえ、我が主は、わたくしを専属の担当官に任命されました。
エルダリーナさまに万が一にもご迷惑のかからないための配慮だとのことでございます。
専用の部屋もこちらの部屋でけっこうでございます」
「それはかたじけない」
「いえいえ、実はわたくしもそろそろ歳でしてな。
執事長の座を後任に譲って引退しようと思っていたのですが、このような閑静で自然に溢れた土地で老後の生を送れるのは、実にありがたいことでございます」
「それは重畳であるな」
「それで、金額のお見積りの方は1週間後までにご連絡させていただくとして。
やはりこの場であなた様をお呼び申し上げればよろしいのでしょうか」
「うむ。それでよろしく。
もしわしがおらずとも、必ずや代理の者が現れるであろう。
認証手段は必要か?」
「まさか。お呼び出しさせて頂くと同時に現れていただけるなど、あのお方様のご卷族のお方以外にはありえません。不要でございます。
ところでベギラン様。少々ご質問とご相談があるのですが……」
「如何なる質問と相談事か?」
「まずはこのリストの中にはベッドがございません。
ベッドはご不要でございましょうか?」
「かまわぬ。現地で自作するとのことであった」
「左様でございますか。
またこのリストには、肉類がほとんどございません。
それでよろしゅうございましょうか?」
「うむ。要らぬ争いを避けるために、タンパク質はなるべく植物性のものをとの主の意向である」
「かしこまりました。要らぬご質問をして誠にご無礼いたしました」
「無礼ではない。
そのように我らの不備の可能性を検証して頂けるのは重畳である。
それで提案というのは如何なることか?」
「はい。こちらのリストにある物資なのですが、いずれもこの土地よりも離れた場所にある工場や農場で作られるものでございます。
ですから受渡し場所をこの別荘に致しますと、その輸送コストも馬鹿になりません。
品物の価格を下げるためにも、もしよろしければ、産地や工場に近い場所を複数受け渡し場所にさせていただけないものかと思います」
「建設的な提案痛み入る。
むろん主の承認は必要となるが、その意見は前向きに検討されると確信している。
ただし、受け渡し場所となる倉庫は、相当なセキュリティが必要となろう。
なにしろ大量の物資が一度に消え失せるのだからな」
「ありがとうございます。
ご要望のセキュリティも併せて倉庫の準備も急がせます」
「それから我が主は、これら物品、特に農産物の大量購入によって現地価格が高騰することをお望みでない。
よって、品不足によって価格が高騰しそうな物品があればご相談願いたい。
代替品を探すこととなるであろう」
「畏まりました。
それからリストの中の生鮮食品についてなのですが。
あの…… 腐敗の防止も兼ねまして、一度の搬入ではなく日々、もしくは数日おきの搬入ではいかがでございましょうか」
「生産上の都合での生鮮食品複数回搬入は当然のことである。
だが搬入後のことについてはご配慮は無用としていただきたい」
「と仰られますと…… ま、まさか……」
「そうだ、我が主は完全腐敗防止の倉庫をお持ちである。
さらに温度さえも変わらぬがな。その倉庫内では時間すら停止しておるのだ」
「さ、さすが……」
「そうそう、本日は主より新たな金塊を100トンほど預かって来ておる。
この場に搬入してもかまわぬか?
そのうちに金塊の搬入は1000トン単位になることと思われるが、床の補強も併せてお願いしたい」
「は、はい……」
すぐに眩い光とともに、その場に金塊の山が現れた。
「リストの商品の価格見積もりまでに、その金の純度チェックも併せてお願い申す」
「畏まりました。それではただいま受領書をご用意させて頂きますれば」
「かたじけない」
そうして短い挨拶を交わした後、使い魔は姿を消した。
(ふう。『この世ならぬ御方』との取引は、この老体にはちと疲れるものだな。
だが、これほどわくわくする経験も久しぶりだの……)
2日後のフェンリル一族との話し合いは上手くいった。
ってゆーか、一族全員が集まっている広場にシスティが現れた途端に、全員が腹を上に向けてちんちんの姿勢になったんだよ。
これって、犬や狼の完全服従のポーズだろうに。
システィの威光ってすげぇんだな。
「そ、創造天使システィフィーナさま……
ご尊顔を拝して、これに勝る喜びはございませぬ……
どうか我々一族をご配下としてご存分に使ってやってくださいませ……」
あー、なんかこの歳とったフェンリル、泣いちゃってるよ。
そうか、こいつが長老か……
「わ、わたくしども女衆会も、もちろん全面的にご協力させていただきますです。
なんなりとご用命くださいませ……」
お、ということは、このメスフェンリルが、フェンちゃんの女房になったフェリナちゃんか。
でも……
なんかフェリナちゃん、すっげぇデカいんですけど……
ま、まあ体長はそうでもないんだけど、幅が……
後ろから見たらイノシシと間違えそうなんですけど……
そうか、28頭も子供生むと女はこうなっちゃうんだな。
ま、まさかシスティも子供出来たらこうなったりするんかな。
う、うん。それまでに『ダイエットの魔法』も作っておくか……
その後俺はフェンリルたちの前に、大量の純粋マナ鉱石を取り出したんだ。
「いっぺんに食べるとエラいことになるからさ。少しずつ齧って食べてくれな」
仔フェンリルの為に少し砂糖も出してマナ鉱石にかけてやったんだけど……
おかげで仔フェンリルたちが食べ過ぎちゃって、尻からジェット噴射出してまた転げ回ってたよ。失敗失敗。
フェンリルたちは、テリトリーの移動にも合意してくれた。
っていうより感激してくれた。
どうも少しでもシスティの近くにいたいらしいな。
これからはシスティにも下界の拠点にいる時間を増やしてもらおうか。
俺たちはフェンちゃんと10頭ほどのフェンリルを連れて『2時街』予定地に転移した。
早速フェンリルたちは土の大精霊くんたちと一緒に住みかの検討を始めている。
俺の仕事は、まずは外壁の設置と上下水道の整備なんかの簡易的な街の整備だな。まずは外壁から作るか。
俺は半径1キロほどの範囲をマナ建材の壁で覆い始めた。
厚さは10メートル、高さ20メートルほどの壁だ。
また簡易魔法マクロを作って、1時間ほどで壁が完成し、完成と同時に内側が白く輝いた。
フェンリルたちがびっくりしてたんで、ここはもうシスティの『準天使域』になったって教えてやったら、みんな大感激して喜んでたよ。
周囲はまっ白で綺麗な壁だが、一面平らで武骨なのは仕方ない。
あとで土の精霊たちが内側に彫刻でも作ってくれるだろう。
とりあえず門は1か所だけにした。
俺はさらに隅の方に台を作り、その上に蓋付きの大きな箱を作った。
ここに飲料水ダムから水を転移させて溜めておく。
その貯水槽からは、また魔法マクロで水道管を作り、街の中央にも池と噴水を作ってそこに繋げた。これで水飲み場の完成だ。
水飲み場の下にはやはり池を作って水浴び場にしてやった。
清潔は大事だからな。
この水浴び場は、ダム工事のときに出た黒っぽい石を使って作ってある。
こうすれば氷が溶けた冷たい水も、太陽の光で暖められて子供でも水を浴びやすくなるだろう。
やや離れたところには、共同トイレも作ってそこにも水道管を通し、水洗式のトイレにした。下水も下水管を作って地下に埋める。
塀の外には大きくて深い蓋付きの穴を掘って下水はそこに流すようにしてある。
穴がいっぱいになったらアダムに頼んで海にでも捨ててもらおうか。
まあ、将来は沈殿槽でも作って下水処理場も作るつもりだが、今はこれで取りあえずよしとしよう。池からの水もここに流して水洗トイレ用の水にした。
そうそう。もともと犬や狼って、巣の中ではフンをしないんだよ。
わざわざ散歩に行って、離れたところでするんだ。
まあ、匂いを辿って巣を外敵に襲われないようにする本能らしいんだけど。
だから各家にトイレを作る必要は無くって、むしろ離れた場所の共同トイレの方が嬉しいそうだ。
そのうちにフェンリル用シャワートイレでも作って設置してやろうかな、はは。




