*** 34 新魔法開発! ***
戦略会議に於けるエルダさまの追求というか確認は続いていた。
「それでは食料資源はどうする。
終身刑囚だけでなく、当初の難民たちを養うだけでも膨大な量の食料が必要になるであろうに」
「まあ、彼らも多少は作物を作れるでしょうが。
ただ、幸いにも我々には素晴らしいアドバンテージがあります」
「ほう」
「まずはシスティの天使力と膨大な管理用ポイントです。
それからエルダさまのおかげで手に入れられる、21世紀地球の農業知識と農業機械や肥料ですね。
さすがに機械や肥料を全て輸入するのは自粛しますが、いくらか購入させていただいて、それを参考にこちらでも簡単なものを作れるようになりたいと思っています。
そうした機械や肥料を生かしてくれる、熱心かつ非常に有能な植物の精霊たちの力もありますから」
植物の精霊のリーダーが、頬を紅潮させて力強く頷いた。
俺は彼女に微笑んで続ける。
「そして、農業や暮らしに欠かせない綺麗な水を用意してくれる水の精霊たちの力」
水の大精霊が頷いた。
なんだか感激のあまりうるうるしているようにも見える。
「さらに、高山の氷を溶かして水を作ってくれたり、寒い冬にも国民たちに暖かい火を提供してくれる火の精霊の力」
火の大精霊が微笑みながらぶんぶんしっぽを振っている。
「そして、風の力で夏の酷暑から作物を守ってくれたり、ゆくゆくは風力発電でも国に電化をもたらしてくれるであろう風の精霊の力」
「任せとけってーっ♪」
「国民が病に倒れてもすぐに治してくれる、頼れる光の精霊の力」
「ふ、ふん。アタシたちだったらそんなの簡単なんだから!」
「もちろん、それだけの国民に住居を提供してくれる土の精霊の力もあります」
「任せてくれろ!」
「そうして…… それらの仕事を強力に手伝ってくれるであろう、忠実で優秀で実に熱心な悪魔の子たちもいます」
はは、ベギラルムがぼろぼろ涙を零しながら拳を握りしめているぜ……
「ついでに、膨大なガラス資源もありますから、これを抽出出来れば温室を作って冬でも野菜を栽培出来るようになるでしょう」
「ふふふ。それら強力なアドバンテージに加えて、お前の恐るべき知力と深謀遠慮と超越的な力があるわけだな。
これだけアドバンテージが揃えば失敗する気がせんな」
「油断は禁物です。
ですからもう少々ゆとりを持たせるために、出来れば私の資産を増やしておきたいとも思いました。
砂漠の砂から金を抽出するための魔法の開発を急ぎますので、その際はエルダさまにもよろしくお願い申し上げます」
「はは、任せておけ。わたしもワクワクしてきたぞ。
それに、もう少々お前の資産を増やしてやれる心づもりもあるしの」
「ありがとうございます……」
その日の晩のこと。
(サトルさま。
どうやら『抽出』と『相転移』と『練成』の魔法式が出来上がりました)
「おお! さすがはアダムだな!
参考になるような魔法式を見つけたのか?」
(はい、まずは『抽出』でございますが、これは加護のネックレスに付随する『解毒』のスキルを参考に致しました。
これはネックレス装着者の体内に入った毒物を認識し、その分子化合物のみをブロックして体外に排出するスキルなのですが、その対象毒物の分子式を抽出物の分子式に置き換えます。
さらに排出する対象を、体内から鉱石などの対象物に置き換えることで『鉱物抽出』の魔法式が出来ました)
「うーん、素晴らしい。さすがはアダムだ」
(いえ、サトルさまが明確な魔法イメージをお伝えくださったおかげであります。
それから『液状化』と『固化』ですが、これは『相転移』というスキルそのものがございました。その中でも温度変化を伴う魔法式部分を、他の『恒温化』というスキルの魔法式と合わせることで、温度変化無しの相転移を可能にしております)
「す、素晴らしい……」
(また、『練成』につきましても、『融合』と『攪拌』と『恒温化』及び『化学反応』というスキルを合成して作成致しました。
これは練成して得られる物質の詳細情報が必要となるのですが、少なくとも各種ガラス素材と鉄合金やアルミ合金などについては、現在地球で使用されているものにつきまして既に登録済みでございます)
「なあアダム。
これほどまでの素晴らしい功績に報いてやりたいんだけどさ。
なにか俺に出来ることで欲しいものは無いか?」
(えっ……
で、ですがまだ魔法式を組んだだけでして、実行可能かどうかは実証されておりませんが……)
「いやお前のことだから間違いないだろう。
それじゃあ早速明日実験してみようか。
それで上手く言ったら、イブとも相談して欲しいものを決めてくれ」
(は、はい……)
翌朝、俺は世界管理システムに頼んで、システィの天使域内倉庫に取りあえず1立方キロほど砂漠の砂を運んで用意してもらった。
総重量は30億トンほどになる。
まあ、砂漠はアダムの直接管理下に無いこともあって、さすのアダムでも20分ぐらいかかったようだ。
これじゃあ砂漠の砂をそのまま全て転移させて持ってくるのは無理そうだな。
でも資源の抽出にも時間がかかるから、システムの負担の少ない時間とかに、毎日少しずつでも運んでもらおうか。
そのうち発電が始まれば、もっと楽に出来るようになるだろう。
うーん。それにしても砂もこれだけ集まると壮観だぞ。
でもまあ倉庫自体も超巨大だからな。
っていうかこれ、倉庫の端がよく見えないんですけど……
(広さの定義は特にしておりません。
必要に応じていくらでも広げることが可能でございます)
あ、あそう。べ、便利な倉庫だね。
じゃあここってアイテムボックスの中みたいなものなんだね。
容量ほぼ無制限の……
「じ、じゃああと2つばかり1立方キロの砂山を出しといてくれるかな……
あ、ゆっくりでいいからさ」
(かしこまりました、サトルさま)
俺はゼウサーナさまの加護のネックレスを装着した。
全てのレベルが100倍に跳ね上がる。
そうして、アダムが開発してくれた魔法『鉱物抽出』で、まずは金を取り出してみることにしたんだ。
ついでに俺もそろそろ魔法をマクロ化出来るようになりたかったんで、練習してみることにもした。
まずはどれぐらいの体内マナを使うか実験だな。
『鉱物抽出:金(Au)』!
おお、これ、それなりのマナ操作の力が必要だぞ。
こりゃ『加護のネックレス』つけてなきゃ無理だわ。
でもまあ『銀聖勲章』まで重ねる必要は無いかな。
ん? でもすぐに体内のマナが無くなるほどでもないのか……
ってゆーか、体内マナはほとんど減って無いぞ?
なんか使う端から補充されてる感じだ…… なんでだ?
あっ! そ、そうか。
この砂、もともとマナ噴気孔の周りの砂漠にあった砂だから、マナが豊富に含まれてるのか!
まあ何万年もあんなマナ濃度の高いところにあったんだもんな。
なるほどー。こりゃ最高の鉱石だわ。
しばらくすると、俺の目の前にさらさらした金の小さな山が出来始めた。
ちょっと感動だぜ!
「おいアダム! 大成功だな!」
(実際に成功してようございました)
「うーん、これで物資調達の目途が立ったぞ! いや素晴らしい!」
実は金という鉱物は、俺の前世地球でも割とありふれた物質だ。
なにしろそこいらへんの地殻の中にも、岩石1トン当たり0.003グラムの割合で含まれているからな。
だが、その岩石を粉砕したり化学処理をしたりして、その金を取り出すのには莫大な手間とコストがかかるんだ。
なにしろ「他の物質と化合しにくいために、経年劣化しない」というのが金の価値のひとつなわけだから、何か他の物質と化合させて取り出すのが大変なわけだ。
1トンの鉱石を完全に処理しても、わずか0.003グラム、時価にして約13円の金しか得られないのでは全く採算が取れないだろうからな。
だからいわゆる金鉱山で採れる優良な金鉱石と呼ばれるものは、鉱石1トンにつき金30グラムほどと、ケタ違いの品位を持っているそうだ。
普通の岩石の約1万倍だな。時価にして約13万円だ。
21世紀地球の技術でも最低でも鉱石1トン中0.5グラム以上の品位が無いと、鉱山業として成り立たないと言われている。
しかも、高品位の金鉱石には金と一緒に水銀や砒素などの有害物質が多く含まれており、環境に配慮すればするほどますます精錬コストが上がってしまう。
さらに、昔はその精錬に水銀を使っていたために、それが蒸発した水銀蒸気で深刻な健康被害が起きていたそうだ。
故に昔の金山では、精錬に罪人を使うことが多かった。
もちろんすぐに重篤な水銀中毒になって、最悪死んでしまうからだ。
鉱山内の事故によるよりも、精錬所の方が遥かに死亡率が高かったほどらしい。
しかも金鉱石は、人間の目で見ても、余程の高品位石でなければ金の合有量は判断出来ない。
金色をしているわけではないからだ。
よって、片っぱしから鉱石を精錬する必要があるため、金の採掘と精錬は極めて大変な事業だったんだ。
だがまあ、あの輝きと不変性が歴史上多くの人々を惹きつけて来たせいで、砂金だけでは需要に追い付かず、地球でも遥か紀元前から鉱石からの採掘が行われて来たわけだが。
だが…… ふっふっふ……
俺には『鉱物抽出』の魔法があるからな。
精錬コストも危険も環境汚染も無い。
また、抽出精度もほぼ100%だ。
残った砂の中にはまだ微量の金が残っているかもしれないが、今俺の目の前にある金の純度は完全に100%ということだな。
つまり今の地球人類でさえ手に出来ない『完全純金』だ。
俺は『鉱物抽出:金(Au)』をいったん停止して魔法マクロを組んでみることにした。
「魔法マクロ定義 マクロ名【金抽出初動】
『魔法『鉱物抽出:金』を発動し、目の前の砂の山の中から合有される金を98%以上抽出せよ。抽出先は術者と砂山を結んだ線上、術者から30メートル。この場所を金抽出先として保存せよ』
以上、魔法マクロ定義終了」
「魔法マクロ定義 マクロ名【インゴット形成(低)】
『魔法マクロ、マクロ名【金抽出初動】を実行し、抽出した鉱物を質量50キロごとにインゴットにせよ。
インゴットの断面は、12センチ×8センチの長方形。長さはインゴット重量50キロになるよう自動調整。角はR1センチでテーパーせよ。
形成したインゴットは高さ2メートル以内の円錐台形に積み上げよ』
以上、魔法マクロ定義終了」
見ている間に俺の目の前に純金のインゴットが積み上がって行った。
文字通り黄金色に輝く美しい姿をしている。
俺はアダムに頼んで金の重さを量ってもらった。
ふむ。約9000キログラム、9トンか。
ということは、この世界の地殻中にも、地球と同じ割合で金が含まれているということか。まずは朗報だな。
それにしても9トンの金……
エルダさまに1グラム4000円で売れば、360億円……
これだけの量を売り捌くのはいくらエルダさまでも大変だろうから、利益を折半したとして180億円……
ぐふふふふふ…… ボロい! ボロ過ぎる!
ぐははははははははははーっ!
はっ!
い、いかんいかん! れ、冷静にならねば!
それにしてもだな、確か砂漠の砂は全部で15万立方キロほどあったよな。
その全てから金を抽出したとして……
うおおおおおおっ! 135万トンの金っ! に、2700兆円!
そ、そそそ、それ、現代地球の世界全体の年間産金量の540年分っ!
日本の国家予算の300年分っ!!!
すっ、すげぇ…… スゴすぎる……
こっ、これでもうなんでも買える……
うはは…… うはははは…… うはははははは~~~~~~っ!
勝つるっ! これで勝つるわ俺っ!
ぎゃははははははははははははははははははは~~~~~~っ!
はっ。
お、落ちつけ俺……
落ちついてよく考えろ……
お前がそれだけのカネを手にするには、今の作業をあと15万回やらんといかんのだぞ。
でっ、でもさ……
これって慣れたら土の精霊でも出来る作業だよな……
報酬は毎日各種ケーキ食べ放題とかで……
あ、いかんいかん、俺から黒オーラが……
それからいくらエルダさまでもこれだけの金を売りさばくのは……
でっ、でもさ……
あのお方って、地球人類の創造主だよな。エラいんだよな。
それに金マーケットの偉いさんとかに包丁とお醤油見せて、「この金買ってくれないとお刺身にしちゃうぞ♪」とか言いかねないよな……
ま、まあ、なんとかなるかな……
いっぺんにカネ使うわけでもないしな……