*** 33 これからの国造りの方向性…… ***
システィのおかげですっかり元気になった(すっきり元気とも言う)俺は、翌日の『戦略会議』に臨んだ。
「土の精霊たちのおかげで地上界に拠点も出来たし、風の精霊たちのおかげで拠点を囲む空も青くなったし、さらには拠点の壁の中がシスティの準天使域にもなった。
実に素晴らしい。
そこで次の段階に進みたいと思う。
まずは拠点を取り囲むように、衛星都市となる街の場所を決めたい。
拠点からそれぞれ50キロほど離れた場所に、街の予定地を定めよう。
1時の方向から12時の方向まで放射状に12カ所だ。
予定地を定めるだけで、実際にはまだ建設は始めないがな。
まあ、中心部に小屋ぐらいは建てるか。
アダム、標高や水利、気候や植生などにも配慮して、街の予定地の選定を頼む」
(かしこまりましたサトルさま)
「同時にこの拠点の周囲5キロ程の所にも12か所の小さな村を作るために、村予定地を定める。まあ、これも当初は小屋を建てるぐらいで十分だ。
土の大精霊、本当に小屋で十分だぞ」
「えへへ。はい使徒さま」
「それから飲用水の確保だが、まず俺が北部山岳地帯に大きなダムを作ろう。
そして、そこから各街に上水道を引くのではなく、綺麗な水を貯水槽に転移させるようにしたいんだ。
そこでアダム」
(はい)
「いつもお前に水を転移させてもらうのもなんだからさ。
『転移魔方陣』って開発出来ないかな。もしくは『転移の魔道具』を。
マナを固めたものなんかをエネルギー源として、地上界のモノを自動的にシスティの天使域に転移させて、それをまた対になってる魔法陣や魔道具のある場所に転移させるようなヤツ」
(それは便利そうな装置でございますね。
それに必要な魔法式とも呼べるものは、すでに我々管理システムの中では定式化されておりますので、汎用化は十分に可能でございましょう。
ただし、誠に申し訳ないのですが、わたくしども地上界管理用の中級システムには、物品製造などの行為は禁じられております。
ですから設計はさせて頂いても、試作や製作はサトルさまにお願いしなくてはならないのですが……)
「もちろんかまわんぞ。夕食後の空いた時間なんかに一緒に作ろうや」
(ありがとうございます)
「ところで、『中級システムには』っていうことは、それ以上のシステムには認められているんか?」
(はい、上級システムからは認められるようになりますですね……
まだまだ先の話でございますが)
「そうか……」
(あとはマナを固めた物質の開発でございますか。
サトルさまの前世の世界の『電池』のような)
「うん、その通りだ。
その『マナ電池』だけど、まずはマナを圧縮して固体化することからかな。
まあ俺もいろいろ考えてみるわ。
たぶん、『練成』の魔法で出来るんじゃないかと思うんだけど」
(畏まりました。よろしくお願いいたします)
「その魔法陣というか魔道具を使って、ゆくゆくは俺が作るダムから各街に飲料水を転移させるつもりだから開発はがんばらないとな。
農業用水については、当初はその飲料水を転用してもいいが、国民が増えて農地も増えてきたときのために、農業用水の整備も始めておこう。
これはまず、すでに存在する大きな川の近くに溜め池を作る。
そこからまた水を転移させて、農地の近くの貯水槽に送ろう。
あまりいっぺんに溜め池に水を溜めると、下流の魚が全滅するからゆっくりやるぞ。
雨期に河が氾濫するような場所には堤防工事も行って、せっかくの農地が流されないようにしよう。
それから、居住地区の近くには下水処理場も作るぞ。
なんと言っても都市整備の基盤になるのは上下水道だ。
中世ヨーロッパみたいに家の前に排泄物を捨てるようなクサい街にはしたくないからな。
こうした各種の大工事のために、土の精霊以外にもいわゆる土魔法を覚えてもらいたいんだ。
まあ、土魔法と言っても、マナを使って土や砂を固めてあの拠点の周囲の外壁を作るようなものだから、他の精霊でもすぐ使えるようになるだろう。
彫刻も不要だからな。
土の大精霊、配下の精霊たちに言って、みんなに土魔法のコツを教えてやってくれるか?」
「はいだす、使徒さま」
「みんなも最初はたいへんかもしらんが、頼んだぞ」
「…… 水を流す仕組みだから大切 ……」
「なんか岩を溶かして動かすみたいで面白そう」
「その川と溜め池の間の水路に、あの水車ってやつを作れば電気も作れそうだな!」
「ふん! 仕方が無いから手伝ってあげるわよ!」
「みんなありがとう。それからベギラルム」
「はい、使徒殿」
「悪魔っ子たちも各種魔法を使えるようにしたいんだ。
彼らは俺やシスティの使い魔だから、お前と同じようにアダムの魔法補助機能を使用する許可を与えようと思う。
それに、システィが管理用ポイントを使ってあの子たちに『能力上昇促進』の神授スキルを授けてくれるからさ。
みんなに魔法をたくさん練習させて欲しいんだ」
「ありがたいことでございまする」
エルダリーナさまが興味深そうに俺を見た。
「のうサトルよ。
それほどのインフラ整備を進めれば、素晴らしい国になるのは間違いないだろうが。
ヒト族の国に攻め込まんでもいいのか?
小国ぐらいなら、お前とベギラルムだけで、1日もあれば充分屈服させることが出来るだろうに」
「あの、確かに簡単でしょう。俺もいったんはそう考えました。
ですがそれだと、俺の行為は侵略になってしまうんです。
仮に戦闘による死傷者を出さずに示威行為だけで屈服させられたとしても、その国の国民にとっては充分に迷惑な侵略ですから、その不幸が積もり積もって罪業ポイントになってしまうかもしれません」
「ふむ。この世界の罪業ポイントを減らそうとする行為が、一時的に罪業ポイントを増やしてしまうということか……」
「ええ、それに結果として長期的に罪業ポイントが増えるのを抑制出来たとしても、幸福ポイントを増やすことは出来ないんです。
ですから、まずは幸福に溢れた幸せな国を作って住民を増やしたいと思いました」
「ふむ。住民はどうやって増やすつもりかの?」
「まずは、ヒト族に脅威を感じているこの中央大平原の亜人族や獣人族を保護して住民になってもらいます。
特に大陸西部には大森林地帯を挟んで多くのヒト族の国家があります。
大森林のマナも薄れて来ていますから、ヒト族の脅威を恐れ始めた種族も多いことでしょう」
「ふむ、なるほど」
「その亜人、獣人たちを集めて国の基盤を作り、そうして物資も十分に揃えて極めて豊かな国にします」
「ふふ、そうなれば、後はヒト族の国が噂を聞いて、略奪のために勝手に攻め込んで来てくれるということか……」
「はい。
攻め込むよりも攻め込まれる方が、敵の戦力を削るには遥かに楽でしょうし、侵略者を捕虜にしても罪業ポイントは増えません。
奴隷兵たちにとっては、待遇も相当に良くなるでしょうから、幸福ポイントの増加も期待出来ます。
そうして攻め込んで来たヒト族を再教育してこれも国民にします。
まあ最初は隔離とかも必要になるでしょうけど」
「ははは。国民予備軍が勝手に向こうから来てくれるというわけだな。
それで、遠方過ぎて攻め込んで来ないような国はどうするのかの?」
「ふふ。その場合はヤツらに『経済戦争』の恐ろしさを教えてやりましょう」
「経済戦争とな」
「はい、ヤツらは武力による戦争でも相当レベルが低いです。
斥候の概念もありませんし、地形に合わせた陣形すら知りません。
ですが、それ以上に理解していないのが経済戦争の恐ろしさです。
ヤツらに地球仕込みの経済による攻撃の恐ろしさを思い知らせてやりますよ」
「ふははははは。それは楽しみなことよの。
だがそれではその国の民も苦しむだろう」
「はい。ですから彼らには難民になってもらいます」
「難民……」
「はい、難民になって、俺たちの国に流入してもらいます。もしくは各村などに移民募集所を作って転移で連れて来ます。
そこで十分な食料を与え、文字や計算を教え、娯楽も楽しんでもらうんです。
そうして、最低でも『汝、殺すなかれ』と『汝、盗むなかれ』の精神を持って貰いましょう。
特に15歳以下の若い世代には、スポーツやゲームも楽しんでもらって、地球の若者のようにE階梯を上げて行って貰いたいと思います。
今の世代では無理かもしれませんが、次の世代ぐらいからE階梯の上昇が始まるように努力します」
「年寄りや中年世代はどうするのかの」
「難民として受け入れる際に、『鑑定』で年齢とE階梯と罪業ポイントをチェックして割り振りを行うつもりです。
例えば「50歳以上、E階梯1、罪業ポイント100以上」などというヒトは、残念ながら矯正の余地がありませんから特別収容所に入って貰うことになります」
「そこで獄死などされては、お前の罪業ポイントが増えてしまうことになると思うが」
「はい。ですから特別収容所には、ひとり、もしくは近親者と2人ぐらいで入ってもらい、建物と水と畑と各種作物の種を与えて静かに余生を送って貰います。
したがって、収容所は脱出不能な壁に囲まれた、1人当たり1万平方メートルほどのスペースになるでしょう。
またセンサーや観察によって病気や栄養不良と判断された場合には、ただちに食料を援助したり治癒魔法をかけてやることになります。
つまり健全な環境下での終身懲役刑です。
彼らはそれだけの罪を犯していたのですから。
また、定期的なチェックによって、もしもE階梯が上がったならば、収容所を出所させてやることも出来るかもしれません。
十分更生したと見なして」
「なるほど……
救いようのない凶悪なヒト族は隔離して、これ以上この世界の罪業ポイントを増やさせないようにするということか……」
「はい。その通りです。
罪業ポイント100以上などというヒトは、地球の基準で言えば死刑数十回にも相当するでしょうが、ここでは終身刑で許してやるということですね」
「ふむ。だが、それには途方もない広さの土地と、膨大な食料資源が必要になるだろうな」
「ええ。
ただ幸いなことに、このガイア最大の大陸中央部にはおよそ半径5000キロ、7800万平方キロにも及ぶ無人地帯があります。居住に適した土地ということでも、少なく見積もっても5000万平方キロの土地があります。
つまり日本の面積の約130倍の居住可能面積があるわけです。
日本の場合は山岳地帯が多く、居住可能地域は国土の25%ほどに過ぎませんから、居住可能地の比較で言えば約500倍です。
そこに最大でも2400万人の人口ですから、十分に暮らせるでしょう。
最終目標人口は10億人ですが、それでも日本の人口の10倍以下ですから、相当に余裕のある国に出来ると思います。
さらに、その際には大陸東部や西部地域も併呑出来るでしょう。
そうなれば居住可能地域は4倍になりますから、さらに余裕が出来ます。
仮に終身刑囚1人当たり100メートル四方の土地を与えたとしても、それが100万人であっても1万平方キロほどにしかなりません。国土全体の4000分の1です。
たとえヒト族全員2000万人を隔離したとしても、その必要面積は我々の国の総面積の0.5%ほどでしょうね」
「はは、なるほどな……」