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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第2章 銀河宇宙篇
322/325

*** 322 旧石器時代のウサギもどきたちの星 ***

 


 次の惑星は多細胞生物の世界だったんだけど、氷河期が来て惑星全域が氷に覆われていたんだ。

 或る程度の地域が氷に覆われると、その分だけ惑星のアルベド(反射能)が上昇してますます気温が下がって、あっという間に惑星全域が雪と氷に覆われるらしい。

 いわゆる『全球凍結』ってぇやつだな。


 地球も何度かこの全球凍結に見舞われたらしいわ。

 一番最近のものでは8億年ほど前に。



 でもさ、分厚い氷に覆われた海の底では、多細胞生物が生き残っていたんだ。

 海底火山の熱水噴出孔の周りに。

 つまり生物の99%が絶滅する中で、僅かに熱水噴出孔の周辺にいた生物だけが生き残り、氷河期の後の生命大進化の祖先になったんだ。


 ということは、生命が発生する惑星の条件としては、『或る程度以上の質量と大きさがあること』があるっていうことだな。

 火星みたいに小さな惑星だと、すぐに芯まで冷えてしまってマントル対流が起きないために、こうした全球凍結で単細胞生物が絶滅しちゃうから。

 それに重力も小さくて大気を維持出来ないから、陸上生命も生きて行けないし。



 それにしても『水』ってすごいよ。

 もちろん生命の元になるアミノ酸やコロイドを溶液として内包出来るっていうこともあるんだけど。

 でもさらに凄いのは『あらゆる液体中で、水だけが液体から固体に相転移したときに体積が増える物質・・・・・・・・だっていうことだろう。

 おかげで海や湖の表面が完全に凍りついても、その下の水中の生物が生き延びることが出来るんだ。


 もしも水が、普通の物質みたいに液体から固体に変化したときに体積が減る物質だったとしようか。

 まあほとんどの物質がそういう性質なんだけど。

 そうすると、海の表面で冷たい大気に晒されて凍った水が、体積が減って密度が上がることで沈んじゃうんだよ。

 そうしてまた表面が凍って沈んで……

 それで最後には海や湖が、底から表面まで完全に凍結しちゃうんだ。

 もちろんそうなったら、せっかく発生した生命も絶滅だよな。


 つまりさ、『生命の母なる海』の主要成分たる水って、生命そのものを発生させるだけじゃあなくって、『固体になると体積が増える』っていう物質としてはほとんど唯一の性質によって、生んだ生命を氷河期から守ってもいたんだ。

 自然の摂理ってほんっと大したもんだよ。





 次の映像は、魚類から両生類っぽいやつに進化した連中が、海辺で寝そべっている姿だった。

 大きいのも小さいのも、時折波打ち際に潜ってはまた陸に這い上がって来ている。


「なあアダム。

 こいつらまだ肺呼吸に慣れてないみたいなんだけど、なんでわざわざ陸上に上がったんだろうな?」


(海中には大型の肉食魚類が多く生息しております。

 たぶんそれらから逃げるためであるかと)


「なるほどな。

 それで無理して陸上に上がる度に肺が進化して行ったのか……」



 その映像では、陸上に現れた裸子植物を齧っている両生類の姿もあった。

 でもまあ味が気に入らなかったのか、すぐに吐き出してたけど。

 たぶんあと1000万年ぐらい経ったら、キミの子孫もむしゃむしゃ植物を食べてるようになるだろうね……





 次の映像はヒト族の原人たちの映像だった。

 かろうじて直立2足歩行はしているが、道具も火も使わずに、洞窟で集団生活している姿だ。

 みんなほとんど裸のままで、洞窟内にも草が敷いてある程度だ。



「なあアダム、今の地球のヒト族って、クロマニョン人が進化したものって言われてるんだけどさ。

 そのクロマニョン人の化石と、その遥か以前から生きていたはずのネアンデルタール人の化石の間には大きな隔絶があるんだよ。

 つまり、クロマニョン人の元になった原人の化石が見つかっていないんだ。

 地球ではミッシングリング(失われた環)って言われてるんだけどな。

 これって……」


(はい。それこそがエルダリーナさまの業績でございます。

 エルダリーナさまが地球の担当天使となった際、短期間で原人からクロマニョンへの進化を促されました)


「やっぱりそうだったのか……」


(この惑星はもともと神界の用意した試練世界ではないために、この原人たちには急速な進化は見られないことでしょう。

 ですが、あと数百万年もすれば石器時代から青銅器時代ぐらいまでの進化は可能かと思われるのですが……)


「でもそれも『破滅エクシティウムトニーテュラ』のせいで途絶えてしまうんか……」


(はい……)




 次の映像は、『石器時代の兎人族』の映像だった。


 おお、俺の別邸のウサギもどきみたいな連中が村を作って暮らしてるじゃないか……


 こいつらはもう直立2足歩行してるのか。

 ウサギもどきたちよりちょっと手足も指も長くなってるんだな。

 そうか、あのウサギもどきたちも、あと数百万年ぐらい経ったらこいつらみたいになるかもしれないんだ……



 その村は高さ4メートル、厚さ2メートルほどの石垣に囲まれていた。

 門のところには木で組んだ櫓も見える。

 村の中央には木の柱の周りに日干しレンガを積んだ大きな家もあった。

 その横にあるのは炊事場かな。

 たくさんの石の竈の上に土器が置いてあって、そこでなにかをぐつぐつ煮てるわ。


 おお、石垣の外側には畑もあるじゃないか……

 あれはたぶん小麦だろうな。



 畑の先には細い水路もあった。

 さらにその先には川も流れている。

 川から水路を引いて農業用水にしてるのか……


 その横には河原から石を運んでいる一団がいた。

 草で編んだ籠に土を入れて運んでいる者もいる。

 彼らが向かう先には建築中の石垣があった。

 石と粘土で新たに開墾した畑を囲む石垣を作っているんか……


 ん?

 そういえば炊事場にいた兎人は、子供以外はみんな草で編んだ前掛けをしてたけど、石垣工事の連中はほとんど裸だ……


 そうか!

 前掛けしてるのはメス、い、いやみんな女性か!

 ということは、こいつら衣服の概念も持ち始めてるんだな……


 それにしても、こんなに苦労して石垣を作ってるっていうことは……

 危険な外敵でもいるんかな?

 それともまさか同族同士で争っているんじゃ……




 そのとき、石垣の上の櫓にいた兎人が指笛を吹いた。

 なんかぴゅーいぴゅーいっていう感じの指笛だ。


 それを3回ほど繰り返すと、村や畑の兎人たちが耳を上げて注目している。


 ぴぃっ! ぴぃっ! ぴぃっ! ぴぃっ!


 今度は短く4回の指笛だ。

 併せて櫓の上の監視員が門の外を指差している。

 途端に兎人たちの動きが慌ただしくなった。

 小屋に駆け込む者、小屋から槍のようなものを持ち出している者、水がめみたいなものを抱えて歩き出した者、2本の棒の間に草で編んだ布のようなものを結びつけた担架みたいなものを持ち出している者……


 なんだこれ?

 どうやら戦争じゃないみたいだけど……



 カメラが監視員の指差す方向を向いてズームアップした。

 そこに映ったものは……


 土で汚れ、ふらふらと歩く2人の兎人の姿だった。

 いや、大きいほうの兎人は背中に小さな子供を背負っている。

 やや小さくて、ボロボロの前掛けを付けた兎人はさらに小さな子を抱えていた。

 どちらの子供もぐったりとしていて意識も無いようだ。


 20人ほどの集団が走って行った。

 急いでる時は走るっていうよりは跳ねるんだな。



 集団が親子連れと見られる兎人たちに接触した。

 まずは、前掛けをつけた兎人が旅の兎人に水の入っているらしい壺を渡している。

 お、2人とも水を含んでまずは子供たちに口移しで飲ませているのか。

 しばらくすると、子供たちも薄眼を開けて水を飲み始めた。

 すかさず壺から木の容器に移した水が手渡される。

 子供たちも自力で水を舐め始めているようだ。


 旅の兎人は集団に頭を下げてしきりに何か言っている。

 集団のリーダーと見られる大きな兎人は頷いていた。



 と、そのとき……

 櫓の監視員がひと際大きくぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーっと指笛を吹いたんだ。

 途端に100メートル程離れたくさむらに向かって槍らしきものを構える兎人たち。

 集団の中から2人の兎人が進み出て、子供たちを受け取ると村に向かって走り始めた。

 旅の父親と母親は促されるままに担架に横たわって、それを持ち上げた兎人たちも村に向かって走ってゆく。


 同時に村の中から50人ほどの集団が走り出て来た。

 みんな大きいし前掛けをしていないので男性なんだろう。

 手にはそれぞれ槍や杭、草で編んだロープを持っている。



 叢がごそごそ動いたかと思うと、そこから巨大なカメが姿を現した。

 体長は4メートルを超えているだろう。

 甲羅の高さは2メートル程で、兎人たちよりも遥かに高い。

 そのカメは大きく口を開けて兎人たちを威嚇した。

 その口には大きくは無いものの、鋭い牙が並んでいる。


 そうか……

 肉食のカメが兎人族を狙って襲いかかろうとしてるのか……

 あの村を囲む石垣も、この巨大ガメから村を守るためのものだったのか……



 兎人たちのリーダーが、長い槍を受け取った。

 その槍の先端にはなにかの塊りが結びつけられている。

 槍の柄の端にはいくつもの短い棒が括りつけられていて、その棒には何本ものロープが結びつけられていた。



 リーダーが槍を巨大ガメに向けた。

 すかさず槍の先端に喰いつくカメ。

 ああそうか、あれ何かの肉なんだな……


 巨大ガメが肉を飲みこもうとしてやや口を開けた。

 すかさず槍を押し込むリーダー。

 槍の先端が肉を貫いてカメの喉に刺さったのだろう。

 凄まじい声を発しながらカメが噛んだままの槍を振り回した。

 リーダーはたまらず飛ばされたが、1回転して見事に着地している。


 その間にも大柄な戦士たちが槍に結び付けられているロープに取りついた。

 8本のロープに5人ずつほどが取りつき、力を合わせて引っ張っている。

 すると、他の兎人たちがロープの横の地面に杭を打ち込み始めた。

 大柄な8人の兎人たちが太い木の棒に括りつけた石で杭を打っている。

 すぐにロープが杭に結び付けられた。


 そうか、これで巨大ガメの動きを封じたのか……



 その間にもカメの後ろに回ったリーダーがしっぽにロープを掛けようとしていた。

 予め投げ縄のように輪を作ってあるロープを、跳ねまわるしっぽを避けながら苦労して掛けたようだ。

 すかさずその輪から延びている2本のロープが地面に固定された。


 次の兎人たちの狙いは片側の前足と後足のようだ。

 やや時間はかかったものの、これも地面に固定された。


 巨大ガメは暴れてはいるものの、これだけロープで固定されていると為すすべはないようだ。

 もしも喰いついている肉つきの槍を離せばなんとかなるかもしれないが、こうした肉食獣はいったん喰らいついた肉は離さないのだろう。



 前足と後足を固定した側に、兎人たちが甲羅に沿って杭を打ち込み始め、5本ほどの杭が打ち込まれると、反対側に兎人が集まる。

 また苦労して足にロープをかけると、今度は10人ほどずつでそのロープを前後に引っ張り始めた。


 手足の爪の脅威が遠ざかると、3本の棒がカメの腹の下に差し込まれ、その棒をみんなで上に持ち上げて僅かにカメの甲羅を浮かせた。

 そこにすかさず2人がかりで運ばれた大きな石が置かれる。

 今度は大勢の兎人たちが棒にぶら下がった。


 そうか、こいつら梃子の原理も理解しているのか……






長らくお読みいただいて来た拙作も、あと3話ほどで完結を迎える予定であります。

今までのご愛顧を感謝するとともに、最後までお楽しみいただければ幸いです……

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