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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第2章 銀河宇宙篇
318/325

*** 318 惑星ミクスチャー 2/2 ***

 



 3日後。


「アイルーンさま。

 作戦地域から恐竜たちはほぼ逃走致しました。

 怪我や病気で逃げられなかった個体や卵などは、現在ドローン部隊が移送中であります。

 あと10分ほどで作戦地域に恐竜はいなくなるでしょう」


「アイルーンさま。

 大型・小型とも大規模土木工事用エネルギーランス砲の準備完了致しました。

 現在双方ともエネルギー充填率100%、放射可能時間はそれぞれ1時間と30分であります」



 画面では、平原の東側に設置された3基の大型エネルギーランス砲がその禍々しい姿を晒している。

 駆逐艦搭載の大規模土木工事用のランスを移送して来たものだ。

 さすがに大型輸送艦搭載の超大型ランスは持ってくることが出来なかった。

 艦体の主軸に作りつけになっている上に、長さも500メートルを超えているためだ。

 惑星上ではその自重を支えることすら不可能だろう。


 大型エネルギーランス砲の横には、大型装軌車に搭載された小型ランス砲が10基、その姿を見せている。



「アイルーン指揮官殿。

 本作戦計画続行のご許可を要請致します」


「許可する。

 計画に従って、秒読みを開始せよ」


「はっ! 作戦開始30分前の秒読みを開始致しますっ!」


 軍服を着た派遣部隊のAI司令官のアバターがそう言うと、スクリーンの隅にカウントダウンが表示され始めた。

 全部で5カ所ある共同施設でも、おなじ光景が映し出されていることだろう。

 この施設にも2万人の共同体メンバーが集まって、固唾を呑んでスクリーンに見入っている。



 また議長が心配そうに話しかけて来た。


「本当にそのようなことが可能なのでしょうか。

 もし可能だとしたら、まさしく神の御業としか思えません」


「ええ、あのお方様はまさしく神そのものですから。

 深遠なる慈悲の御心と万能の能力をお持ちです……」





 画面上には、エネルギーランス砲の後方に設置されたカメラから、ランスの遥か向こうに連なる8000メートル級の大山脈の威容が映し出されていた。

 カウントダウンの数字が刻々と減って来ている。


「本作戦開始10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ。

 ファイアー!」



 画面が赤みがかった白に染まった。

 すぐにカメラが光量調節し、ランスの膨大なエネルギーが一直線に西の山脈に伸びている絵を映す。

 太いランスの光条の先の山が、無音の爆裂とともに吹き飛んだ。

 水に高温のエネルギーを打ち込むと水蒸気爆発が起きるように、瞬時に気化した花崗岩が急激に体積を膨張させて、いわゆる『岩石蒸気爆発』を引き起こしている。


 ランスの砲台はゆっくりと旋回し、次第にその強大な破壊力を横に広げていった。

 微かに見える煙のようなものは花崗岩が気化した岩石蒸気だろう。

 すぐに大気で冷やされて、砂礫となって落下して行く様子も見える。

 だが山脈の西側では……



「大陸西部上空の輸送機部隊に命令!

 山脈西側密林地帯に誘導消火弾投下を開始せよ!」


「輸送機部隊、誘導消火弾投下開始!」


 同時に300機の輸送機から、間隔を開けて誘導式消火弾が投下された。

 ランスのエネルギーで煮えたぎる溶岩が密林地帯に飛ばされ、大火災を起こすのを防ぐための措置である。


 画面は2分割され、一方はランスの光条の先で爆発するように消えていく山脈。

 もう一方は、高空から無数の消火弾を投下する、輸送機部隊の映像になっていた。


 30分ほどで大型ランス砲の光条が停止するが、すぐに隣のランス砲が光を発した。

 ランスを横薙ぎにして、300キロ近い幅で山脈を削っていく。

 画面は無音だが、現場ではランス砲の冷却装置がフル稼働する音でたいへんな騒音になっていることだろう。

 その後、2時間ほどの照射で、大山脈の標高6000メートル以上の部分が幅300キロ、奥行3000キロに渡って消失した。


 それから大口径ランス砲は仰角を変え、水平射撃に移って山脈に穴を穿ち始める。

 30分ほどで山脈を貫通する大トンネルが出来上がったようだ。


 それからは10基の小型ランスが極めて細く収束された光条を放ち、山脈の標高3000メートル以上の部分を切り刻み始めた。



「あれは何をしているのですかな?」


「あれは石材を作っているのですよ。

 工兵ドローンたちの手間を省いてやるために、予め少し切っておいてやっているのです」



 その後は3基の小型ランス砲が仰角20度ほどで東の山脈にも穴を穿ち始めた。

 東山脈の中央部に作るダムまでの水路トンネルである。

 当初は水資源確保のためのダムだが、将来は水力発電所の設置も可能だろう。


 次は南のカルデラ湖の上、約20メートルほどのところにも、南側密林地帯に向けて仰角マイナスの穴が穿たれる。

 東山脈の水が流れ込んで来ても、カルデラに洪水が起きないようにするための排水路になる。


 最後は、軌道上の大型輸送艦から東山脈の中央部に断続的にランスが照射された。

 水資源ダム建設予定地の岩石を切り刻み、工兵ドローンたちの作業を容易にしてやるための措置であった。



「さて、岩石蒸気が固化した砂礫が舞うのが収まるのに3日。

 その後の皆さまの住居を建設し、農業用水路などを掘るのに1カ月。

 併せて畑の区画を整理するのにさらに3カ月ほどかかります。

 余裕を見て、皆さまにはあと6カ月ほどこの船内でお過ごしいただきたいのですが……」





 6カ月後。

 わたしは共同体の住民たちを連れて、改造の終わったカルデラ平原に降り立った。


 大人たちが痺れたように硬直する中、最初に大歓声を上げたのはやはり子供たちだ。


「うっわー! 水! 水が流れてるっ!」


「なになになにこの溝! 

 ものすっごくたくさんあって、たくさんお水が流れてるっ!」


「あー! 畑があんなにたくさん! 端が見えないぐらいたくさん!」


「すごい! すごいよ! 湖が倍ぐらいの広さになってるう!

 これならいっぱい泳げるし、お魚さんの生簀もたくさん作れるっ!」


「西のお山があんなに低くなってる……」


「あっ! 畑の向こうの広場にいっぱい草が生えてるっ! 

 わぁ~いっ!」


 馬族や牛族の子供たちが走って行って、はしゃぎながら牧草を食べていた。

 宇宙船内の食事の方が遥かに美味しかっただろうに、このカルデラ平原に新たに生えた草を食べられることが余程に嬉しかったのだろう。



「これでもう私の人気も終わりですな」


 そう言って立ちつくす、もぐら族のおじさんの目からは嬉し涙が零れ落ちていた。



 それからは、10万人の集団を元の村を中心とした100ほどのグループに分けて、ミニAIの部下に引率させての見学会が始まった。

 わたしは、議長を始めとする村長たち主要メンバーを引率する。


「あ、あの巨大な建物はなんなのでしょうか……」


「あれはみなさんが一度に集まれるように作った集会場です。

 これからは雨も降るでしょうから屋根付きにしましたが、屋根は収納式ですからお好きなように使って下さい」


「あ、あの透明な板に囲まれた建物群は……」


「あれは温室です。

 冬でも暖かいので作物が作れますが、それだけではなく、熱帯作物も作れますよ。

 今植えてあるのは、バナナ、マンゴー、パパイヤ、パイナップル、カカオ、サトウキビなどですね。

 将来を考えて、温室は少し多めに作ってあります。

 作付け面積は全部で2平方キロほどありますか」


「あの北に見える緑は木なのでしょうか……」


「はい、手前の低い木は果樹園ですね。

 今は、ミカン、リンゴ、ブドウ、モモ、ナシなどが植えてあります。

 果樹園は20平方キロほどですが、その奥には広葉樹林帯や針葉樹林帯が2万平方キロほど広がっています。

 木の実などの森の恵みの他、薪や建物に使う木材のための森です。

 もちろん森には道も作ってありますから、中に入るのも楽ですよ。


 それから以前の皆さんの村があったところには、皆さんの家を移築してありますが、その隣には新しく石造りの家を用意してあります。

 雨が降っても大丈夫な家ですので、どうかご自由に住んでください。

 もちろん水道もトイレもついていますよ。

 トイレで流した水は、地下に埋めた排水管を通ってこのカルデラの外に流れ出ますから、湖を汚すことはありません。

 まあ、カルデラの外の恐竜たちにはちょっとだけ迷惑かもしれませんが……」


「あ、あの…… 畑が向こう側が見えないぐらい広いんですけど、いったいどれぐらいの広さがあるんでしょうか」


「ええ、とりあえず幅20キロ、長さ100キロに渡って畑として耕してあります。

 ですが、この10万平方キロのカルデラ平原全域に渡って土を敷いてありますし、川も農業用水路もありますから、その気になればすべて農業地に出来ます」


「はあ、そんなに作物を作っても食べきれませんねえ」


「はは、東の岩山をくり抜いて、余剰作物用の倉庫も作ってあります。

 もし大量に余りましても、サトル神さまが買い取ってくださるでしょう。

 その作物は、食べるものが足りなくて困っている星に運ばれることになりますね。

 それに、その代金で皆さんが欲しい商品が買えるようになりますよ」


「あの、『かう』ってどういうことでしょうか?

 それから、『しょうひん』とはなんですか?」


「いずれは街や村の公民館にカタログを置くことになりますが……

 まあ、最初は服やお菓子になるんじゃないでしょうか」


「お菓子って、あの船で頂いた甘いもののことですよね。

 お菓子が『かえる』ようになったら子供たちが喜ぶでしょうねえ」


「ふふ、サトウキビがありますから、みなさんもお菓子を作れるようになりますよ。

 今度集会場で料理講習会でも開催しますか」




 見学会が一段落すると、全員が集会場に集まった。

 簡単な食事の後は、またわたしが皆に説明をする。


「それではお伝えさせていただきます。

 皆さまにはサトル神さまより2つのプレゼントがあります」


「これだけ頂いておきながら、まだ何か頂戴出来るんですか!」


 傍らの議長閣下が驚いたような声を出した。

 わたしは微笑みながら続ける。


「ええ。この銀河宇宙でも類を見ない平和で幸せな共同体を作り上げて来た皆さまへの、サトル神さまからのプレゼントです。

 1つめは、15万平方キロに及ぶカルデラ外の大密林地帯ですね」


「でっ、でもカルデラの外には恐ろしい恐竜たちが……」


「大丈夫ですよ。

 皆さまが授かる密林地帯には恐竜たちはいません。

 大山脈の西側、幅300キロ、長さ500キロの領域は、全て石垣で囲ってあります。

 厚さ10キロ、高さ3キロの石垣ですから、陸の恐竜はおろか翼竜も入って来ることは出来ません。


 すべて西の山脈を標高3000メートルにまで削った際の花崗岩を使って作った石垣です。

 石垣の上部にはショックランス砲が配備されていますから、万が一小柄な恐竜や翼竜が石垣を乗り越えて来ようとしても大丈夫です」


「そ、そんなものすごい大工事を……」


「まあドローンたちは優秀ですからね。

 数百年後、数千年後にみなさまの人口が大幅に増えたとき、その居住地を確保するための場所でもあります。

 どうかお好きなようにお使いください」


「は、はあ…… 考えてみます」



「それからサトル神さまからの2つ目のプレゼントです。

 ですがこのプレゼントは、受け取るか受け取らないかはみなさんの自由です。

 もし受け取らなかったとしても、サトル神さまは決してご不快には思われないそうでございますよ。

 そうしてこのプレゼントを受ける受けないは、皆さまの共同体ではなく、みなさま個人個人がご検討くださいませ」


「そ、それはどのようなプレゼントなのでしょうか?」



 わたしは微笑みながら皆を見渡した。


「みなさんは、これからご希望された場合、『異種族間交配』が可能になります。

 サトル神さまの御神力により、異なる種族の間で子供が出来るようになるのです。

 生まれて来る子供の種族は、父方母方のどちらかを選んでください」


 群衆がどよめいた。


「例えば、大型の犬族の方と馬族の方、ゴリラ族と牛族の方。

 それから猿族と猫族の方などなら容易です」


 最前列で手を繋いで座っていた猿族の子と猫族の子が、お互いを見やって真っ赤になっている。

 わたしはさらに微笑みながら続けた。


「もし大幅に体格が異なっても神殿にご相談ください。

 出来るだけのことはさせて頂きます。

 そうですね。

 希望されるカップルの方々には、新たに設置された神殿にて、この異種族間交配能力を付与させていただくことに致しましょうか。

 もちろんこの能力を得るかどうかは皆さまのご自由ですが……」





 夜も更けて来た頃、わたしはひとり外に出て星空を眺めていた。

 凄まじい数の銀河の星々が、この星の未来を祝福するかのように輝いている。



「アイルーンさま……」


 後ろを振り返ると、ウサギ族の議長閣下とダルメシアンのご婦人が立っていた。


「もしよろしければ、わたくしどもを異種族間交配能力付与の第1号にしていただけませんでしょうか……」


 微笑む私を前に議長閣下は続ける。


「もちろん子供が出来ないのはわかっておりました。

 それでも子供のころから幼馴染として育ち、愛し合ったわたくしたちは一緒に暮らしていたのです。

 それがまさか子供が出来るようになるなんて……」


 議長夫人は静かに泣いていた。


「おめでとうございます。

 お子さんはウサギ族になさいますか? 

 それとも犬族になさいますか?」


「ううううううっ。ほ、本当にありがとうございますっ!

 わ、わかってはいたんです。

 こ、この異種族間結婚こそが我々コミュニティーの人口衰退の原因だと……」


「それも皆さまが平和な異種族混合社会を作り上げて来られたからこそですね。

 そうでなければそうした暮らしはそもそも有り得なかったでしょうから……」




 議長閣下夫妻は、まず最初の子をウサギ族にすることを選んだ。


 だが……

 わたしも含めて皆サトル神さまのご神力の扱い方に不慣れだったため、初めての異種族間交配による子供は……

『ダルメシアン柄のウサギ族』になってしまったのである。


  ダルメシアン柄ウサギ族の赤ちゃんは、大粒の涙をぽろぽろ零すお母さんに抱かれてすやすやと眠っていた。

 それを取り囲んで、やはり感動の涙を流しているダルメシアン族の妙齢の御婦人たち。

 その周囲では、ダルメシアンの男たちとウサギ族の男女がおんおん泣いている。


 それ以外にも、第1世代には、背中に真っ白な羽の生えた猫族の子が生まれた。

 シマウマ柄の牛族の子や、パンダ柄のゴリラ族の子もだ……



 まあ、これこそが異種族間交配の象徴だとして、親たちは全員号泣して喜んでいたのだが。

 当然、共同体メンバーたちからもたいへんな喝采を浴び、この珍妙な交配はそのまま放置されることになってしまったのである。


 おかげで、子供が生まれる度にわたしがハラハラすることになったのだが、これは内密にしておこう。



 それにしても……

 100年後、1000年後には、この惑星のヒューマノイドたちは、いったいどのような姿になっているのだろうか……


 後世の歴史家は、それをすべてわたしの責任にするのだろうな。



 だが……

 あのダルメシアン柄ウサギの赤ちゃんの写真や、愛くるしい羽猫の子の写真は、サトル神さまの奥方さま方がいたく気に入られ、私室に飾ってくださっているそうなので、まあよしとしよう……



 その事実をもって、歴史の審判にわたしの温情判決を願うとするか……





(惑星ミクスチャー篇 了)



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