*** 316 銀河VRツアー ***
それからあの惑星スキモーノに作らせた例のサイトも超人気サイトになったんだ。
そう、あの『銀河VRツアー』のサイトだ。
俺のVRゲームを買うと、このサイトに接続してVR世界で人気のリゾート惑星とか銀河でも有名な景勝地を巡る旅行なんかに行けるんだよ。
御当地名物料理もいくらでも食べられるし。
つまり、あのVRゲーム機にログインしてたら、ほとんどリアルと変わらん旅行が楽しめるんだ。
そのために、感覚接続したAI族のアバターを10万人ほど銀河各地に派遣して旅行させてるし。
それでユーザーは、好みの場所に居るアバターに接続して一緒に旅行出来るんだ。
現地のひとたちとは普通に交流もしてるし。
それで当初3カ月は俺のゲーム機持ってる人には無料で旅行を開放したんだ。
3カ月後からは月額5クレジットで旅行し放題にして。
そしたらさー、評判が評判を呼んで、俺のゲームがバカ売れ状態になっちゃったんだ。
あっという間に銀河宇宙での普及率が25%を超えて、それで『みんなが持ってるからボクも買わなきゃ!』のスタンピード現象が起きちゃって、それでさらに普及に加速がついて……
とうとう普及率70%まで行っちまったんだわ。
ま、まあ、地球に於けるケータイやスマホとおんなじ現象だな。
昔の日本だったらテレビや冷蔵庫みたいなもんだ。
でもさ……
あのゲーム、今1個300クレジットで売ってるだろ。
でもって、あれアプリだけ売ってるから事実上製造コストゼロだろ。
それで銀河全域25京人の70%に売れちゃったんで、5000京クレジットも儲かっちゃったんだわー。
これ、『神界運輸・通信部門』の初期投資額超えてんぞ……
まいったよな……
でもまあ、おかげでVRゲーム用のハードウエアも銀河全域で売れに売れてるそうだし、『銀河VRツアー』への接続数は1日1000兆件に迫ってるそうだし、みんな喜んでくれてるから良しとするか……
それで『銀河VRツアー』の接続数人気ランキングを作らせたんだけどさ。
驚いたことに、『ガイア幼稚園』がベスト30入りしてたんだわ。
銀河52種族のうち、ガイアには半数の26種族がいるけど、それ以外の26種族とも似たような種族がいるだろ。
それでどうやら銀河宇宙には、そうした多種族が集まって暮らしてる星はほとんど無かったらしいんだわ。
だから自分たちの子供と似たような姿をした子供たちが、他の種族と入り乱れて遊んでる姿って、相当に珍しかったそうなんだ。
それで、『おひるねのじかん』とかに26種族の子供たちが集団で固まって寝てる姿なんかが大人気になったんだと。
警備のフェンリルのみんなにもヘッドセットつけて貰ったんで、数十人の寝ている幼児たちにみっちりと囲まれてる感触とかも体験出来るんだよ。
子供たちの乳臭い匂いとか体温とか、もちろんもふもふの感触も感じられるし。
ついでに保育士さんたちにもヘッドセットつけて貰って、子供たちの毛を梳いてやるとかマッサージしてやる感触も味わえるし……
なんかパンダ族の星の幼稚園と並んで大人気コースになってるらしいぞ。
常時数兆人が接続しているそうだからな。
ま、まあ出演料として子供たちのおやつは少し豪勢にしてやるか……
ドラゴン族にヘッドセットつけさせて、『ガイア国上空遊覧ツアー』させたらこれも大人気になってたわ。
特に飛べない種族の連中には。
みんな『ローゼマリーナのガイア観察日記』のおかげでガイアのことはよく知ってるけど、こうして空から見たり、ドラゴニュートに変身した奴の視線で街の中を見たりすると喜ぶようだ。
あれかね。
有名ドラマのロケ地なんかのツアーが人気になるのとおんなじなんかね?
おかげでまあ、『神界運輸・通信部門』の活動は、銀河中で大歓迎されたんだ。
みんな他の種族に興味を持ち始めたし、それによってどうやらE階梯も少しずつ上昇し始めてるようだ。
もちろん銀河経済に与えた影響は大きかったよ。
まずは銀河全体の恒星間商取引が5000倍にもなっちゃったんだ。
これからはもっともっと増えそうなんだと。
まあ、今までは飢饉のときの緊急食糧輸入とかばっかりで、コストの高い恒星間商業貿易はあんまり無かったそうだからなあ。
そのせいで、GGPが0.5%も増えて、銀河宇宙の平均失業率が0.2%も減って、その余裕で新生児出生数もさらに増えたんだ。
おかげで俺の幸福ポイントも爆発的に増えてたわ。
もう19ケタを通り越して20ケタに迫ろうかってぇ勢いだもんなぁ。
それに来年からは資源採掘が本格化するそうで、GGPはもっと伸びるだろうと言われてるそうだ。
資源価格が徐々に下がり始めたおかげで、銀河各地でのインフラ建築の計画も10倍ぐらいに増えてるそうだしな。
なんか普通公共投資の乗数効果って2倍ぐらいなそうなんだけど、俺の『神界運輸・通信部門』の投資による乗数効果って50倍以上って言われてるそうだ。
俺の投資で儲けたカネでみんなの所得も増えて、そのカネで銀河の商品を購入して、それで商品を買って貰った連中が儲けたカネでまた別の商品を買って……
そうした連鎖反応がスゴいらしいわ。
まあ、恒星間貿易がほとんど無かったところにあんな便利な装置持ち込んだら、こうなるのは当然か。
それでどうやらあの『説明会&商談会』に来てくれた大統領さんたちの支持率も相当に上がって来ているらしい。
おかげで『銀河連盟設立のための準備委員会』の活動も順調だそうだ。
みんな惑星経済が豊かになって支持率も高い状態で安定してると、最後に名誉を求めたがるのかもしれないな。
『あの銀河連盟設立時の大統領』って呼ばれたいらしいんだ。
それでどうやら1年以内ぐらいには、本当に『銀河連盟』が設立されちゃうかもしらんそうだわ。
驚きだよ。
そんな具合に俺たちの仕事は実に順調だったんで、俺はまた家族や親戚友人と神界の別邸で休暇を取ることにしたんだ。
俺の家族は例の温泉付きの離れに泊まったんだけど、両親や叔父さん一家やベギラルムたちやアダムたちは、あの神殿に泊まって貰った。
そうして昼間には、子供たちはみんなウサギもどきたちと入り乱れて遊んでるんだ。
俺はそんな子供たちを見て寛いでいた。
「なあアダム、今のところ仕事は順調だよな」
「はい」
「それでさ、カネも余裕があるしケイちゃんたちにも何かお礼をしてやろうかって思うんだよ」
「それはよいお考えでございますね」
「それでさ、奴らにお前たちみたいなアバターをプレゼントしてやりたいって思うんだ。
VRの世界で動き回るのもいいけど、リアルの世界で歩き回ってみてもいいんじゃないかな。
それで、珪素生命体用のアバターって作れるかな?」
「それでは惑星イルシャムに相談してみます」
「ああ、頼んだわ」
そしたらほんとに出来ちゃったんだわ。
珪素生命体用のアバターが。
10名ほどのケイちゃんたちにそのプロトタイプを試してみて貰ったんだけど、みんな本体をぷるぷるさせて盛大に喜んでくれたんだよ。
それでその新設計のアバターを銀河宇宙に1兆体ほど発注したんだ。
珪素生命体の総人口は100兆だけど、あいつら寿命も長いから死ぬまでの間には交代で何十年かずつリアルの銀河旅行にも行けるだろう。
小遣いとして銀河通貨もたっぷり渡してやったし。
全部で300京クレジットばかりかかったけど、あいつらそれだけの働きはしてくれてたからな。
そしたらさー。
珪素系生命体生息惑星20万から、俺のところにアバターの大使節団が来ちゃったんだわ。
なんでも種族史上最大にして最良の幸福に対し、どうしてもお礼を言いたかったんだってさ。
おかげで俺の諮問機関の職員も数万人になっちまったらしいぞ。
或る日の定例会議にて。
「なあアダム、『銀河救済機関』や『神界運輸・通信部門』の活動は順調か?」
(はい、極めて順調です。
加えてインター・プラネット・ネットワークの通信量もかなり増えて参りましたし、『銀河VRツアー』の加入者数も1京人を突破したそうです。
更には遠方恒星系での資源開発も本格化したそうでございまして、今年度の銀河鉱工業生産は昨年度比10%増が見込まれているそうでございます。
さらに恒星間貿易も依然高水準にあるために、GGPも前年比8%を超えそうだということでございますね)
「インフレの兆候は?」
(通常であれば、これほどの好景気の下では年率4%近い物価上昇率になるそうですが、資源価格下落の効果で消費者物価指数の伸びは1.2%ほどに抑えられているそうでございます)
「インフレ無き大好景気か…… 理想的だな。
やっぱりエネルギーを有限な化石燃料に頼らなくて済む世界は素晴らしいわ」
(はい)
「まあ銀河世界は順調なようだからいいとして、俺はちょっとヒマで困ってるんだよ。
AI族が優秀すぎて、俺のところまで問題が上がって来ないもんな」
(す、すみません……)
「いやまあアダムが謝るようなことじゃあないんだけどさ。
それじゃあケイちゃんたち、なんか俺の仕事って無いか?」
(サトル神さまのご任務というほどのことはないのですが……
神界が関与していない知的生命体自然発生世界の中に、ひとつ素晴らしい世界を見つけたのでございます。
まあその惑星も、現在危機下にあると言うわけではないのですが、その文明はある2つの制約のせいで徐々に衰退に向かっておりまして、このままでは1万年以内に滅んでしまうかと……)
「そんなに素晴らしい世界なのか?」
(はい、自然発生した知的生命体があれほどまでに平和な文明を築き上げたとは。
まさに銀河宇宙の宝と言っていい世界かと)
「その世界は『銀河救済機関』の力で助けられるのか?」
(はい。
環境的な制約の方は多少のコストをかければ充分に対処可能でございます。
もうひとつの制約も、サトル神さまのご神力をお借りすれば対処可能でございます)
「そうか、それじゃあ過剰関与にならない範囲でそいつら助けてやってくれるか?
あ、どんな世界をどんなふうに助けられるか楽しみだから、事前計画はケイちゃんたちとAI族だけで立ててくれるかな」
((おまかせくださいませ))
「そうそう、それからさ。
これはまあ俺の道楽みたいなもんなんだけど、ちょっとした技術上の実験をしてみたいと思ってるんだわ。
それでその実験装置の設計をケイちゃん達にお願いしたいんだよ。
それで開発出来そうだったら、惑星イルシャムの技術陣に頼んで実験装置を作らせて欲しいんだ。
AI族には実験そのものを頼みたいんだわ」
(畏まりました。
それではその『道楽』の詳細をお聞かせ頂けませんでしょうか)
「それじゃあまずはだな……」