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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第2章 銀河宇宙篇
314/325

*** 314 破滅の雷と不幸な偶然 ***

 


 それにしても、不幸な2つの偶然ってなんなんだ?



(ME3205には、対を為していた連星がございました。

 もっとも星と言うよりはブラックホールでございますが。

 そうしてME3205の自転軸は、このブラックホールの方向に向いていたのでございます……)


「ち、ちょっと待ってくれ。

 連星系って普通自転軸は平行に近くなるんじゃないか?」


(それは地球を含む太陽系内の惑星の自転軸が、公転軌道面に対して垂直に近い状態になっているためにそう思われるのですね?)


「あ、ああ……」


(ですが地球の自転軸は、公転軌道面に対して23.4度も傾いています。

 また、天王星はその自転軸をほぼ太陽に向けていますし、金星の自転方向は他の惑星の逆方向です。

 つまり自転軸が180度傾いているとも言えます。

 まあ、太陽系の誕生時に同じ局所星間物質から作られた惑星は、元の星間物質の移動方向が同じであったために、おおむね自転軸が平行になりますが。

 金星と天王星が、銀河の別の領域から飛来して太陽引力に捉えられた星とされる所以でもありますね。


 このME3205とブラックホールの連星系も、もともと同じ場所にあった星間物質を元にしたものではなく、別々の場所でそれぞれの星となった後に互いの重力で引かれて連星系を構成していたものと考えられています。


 ですが……

 ME3205の自転軸は、このブラックホールの方向から僅か2.5度しかずれていないという不幸な状況にありました。


 そうして、このような大質量星同士の連星系としては珍しく、両者は10光年ほどしか距離の無い連星系を維持していたのです)


「…………」


(ME3205の一方から放出されたエネルギー、まあほとんどが超々高エネルギーガンマ線になりますが、このエネルギーもブラックホールの大重力に引かれてその進路を変え、ほぼ正面からこのブラックホールを直撃致しました)


「な、なあ、それでその超々高エネルギーガンマ線って、ブラックホールに吸収されなかったのか?」


(残念ながら、このブラックホールは太陽系の太陽の3億倍もの質量を持ちながら、そのシュバルツシルト半径は僅かに50キロメートルしかございません。

 まあいわゆる『小さくて重いブラックホール』だったのです)


「そ、そうか……」


(そのため0.35光年ほどの範囲に拡散していたガンマ線は、その3%ほどがブラックホールによって吸収されるに留まりました。

 そうしてブラックホール近傍を通過したガンマ線は、ブラックホールの重力レンズ効果によって収束してしまったのです)


「えっ……」


(もちろん大半はそのまま拡散を続けるか、ブラックホールの後方で収束した後にやはり拡散して行きました。

 ですが、その10%ほどは、半径0.2光年ほどに収束された極めてコヒーレントな状況になってしまったのですよ)


「ま、まるで『ガンマ線レーザー』だな……

 それも信じられないぐらい強力な……」


(そうですね、あたかもSFの中に登場するガンマ線レーザー兵器のようです。

 ただしその威力はケタ違いですが……)


「そうしてそのガンマ線レーザーの進行方向が銀河系を向いていたと……」


(正確に申し上げれば、当時は向いてはおりませんでした。

 ですが、158万年後に銀河系が通過する位置を向いていたのでございます。

 それも中央部を通過する方向に。

 これが2つ目の不幸でございますね)


「でっ、でもさ。

 そのガンマ線レーザー、直径が0.2光年しか無いんだろ。

 だから、いかに銀河系に知的生命体居住恒星系が9000万近くあるっていっても、直撃される恒星系はほとんど無いんじゃないか?」


(仰る通りです。

 銀河中心部より手前・・の宙域では……)


「…………………」


(このガンマ線レーザーが銀河系内に侵入し、銀河中央部に位置する超巨大ブラックホールに近づくまでに被害を被る恒星は僅かに2つしかございません。

 しかもどちらも生命体非居住の恒星系でございます。


 ですが…… 

 どちらも太陽質量の50倍を超える大重力星でございまして、その中心部には相当な量の鉄原子が溜め込まれています。

 おそらくこのままでもあと数万年程の間に超新星爆発を起こしていたことでございましょう。


 その恒星に超々高エネルギーガンマ線が到達すると、やはり光崩壊を引き起こして超新星爆発を惹起させることになります。

 この場合に被害が予想される周囲の知的生命体居住恒星系は22ほどになってしまうのです)


「そうか……」


(さらにこのガンマ線は、銀河中央部の超巨大ブラックホールの近くを通過することがわかっています。

 そうして……

 ブラックホールに近い位置を通過するガンマ線はその進路を大きく曲げられ、遠い程小さく曲げられます。

 結果として直径0.2光年だったガンマ線レーザーは、角度30度ほどの歪んだ円錐形となって拡散して行くことになるのです)


「そ、それって……」


(はい。

 銀河系の恒星は、その中心部に近い程密集して存在しています。

 知的生命体居住恒星系もです。

 従いまして、ガンマ線が中央部を通過した後は、100光年の範囲内にあるおよそ120の恒星系が拡散を始めたガンマ線の直撃を浴びます。

 これらは18個の超新星爆発も誘発するでしょうし、それ以外の恒星も惑星もすべて光崩壊反応により別の元素や中性子に分解してしまうでしょう。


 中央部ブラックホール近傍を通過して拡散し、単位面積当たりのエネルギー量の減少したガンマ線も、生物の体、特に遺伝子には極めて有害です。


 銀河中心部より後方、およそ500光年の範囲では、ガンマ線の到来と共に生物はすべて即死し、また2000光年以内では遺伝子に致命的な打撃を受けるために、50年以内に生物は死に絶えると見込まれています。


 完全にガンマ線の影響が拡散してしまうには、少なくとも銀河中心部から5000光年以上は離れている必要があるでしょう)


「…………………………」


(神界は、この直径0.2光年、長さ3光時に及ぶ超々高エネルギーガンマ線を、『破滅エクシティウムトニーテュラ』と名付けました。

 実際には2.8×10の49乗ジュールものエネルギーを持つガンマ線の塊りですが。


 この災厄が銀河系に被害を及ぼし始めるまでにはあと3万年、そうして影響がほとんど無くなるまでにはさらに5万5000年を要するのでございます)



「それさ……

 銀河のヒューマノイドたちはみんな知ってるのか?」


(はい、多くのヒューマノイドは知っておりますでしょう。

 ですがまあ、3万年後まで生きていられる者はおりますまい。

 ですから、大災厄が近づいていると言っても危機感はそれほど無いかもしれません)


「そうか……」


(ですが神界にとってはすぐ先の話になります。

破滅エクシティウムトニーテュラ』が襲来して来たときにどう対応するか、または何もせずに1万8525の恒星系、52兆のヒューマノイドが滅ぶのを見殺しにするか……


 僭越ではございますが、最近神界が『ヒューマノイドを見守るのみ』という従来のスタンスを変更して『自然災害による被害は救済する』という決断をしたのも、この『破滅エクシティウムトニーテュラ』の襲来に備えてのことだったのではございませんでしょうか)


「なるほど……」


(その際には、当初時間をかけて知的生命居住可能惑星を用意し、被害予想世界の住民を移住させようという計画が為されていたのでしょう。

 だからこそその住居を作るために『神界土木部門』への都市製作マクロの訓練を依頼し、あわせてその費用を捻出するために資源抽出のマクロ伝授も依頼して来たのでしょう。


 また、あの惑星ウールの危機に於きましても、そのまま放置してウールの住民を絶滅させるわけにはいかなかったと思われます。

破滅エクシティウムトニーテュラ』の襲来までに銀河のヒューマノイドの疎開事業を開始するとして、『ならば何故あのウールは救済しなかったのだ』と言われる訳にはいかないでしょうから……)


「そうだったのか……」


(そこに来てこのサトル神さまの『銀河救済機関』と『神界運輸・通信部門』の事業です。

 さらにそれに『空間転移装置』という発明が加わりました。


 これはもはや、被害予想恒星系の住民を疎開させるための施策だったと言っても過言ではありません。

 3万年から8万5000年もの時間があれば、今から入植した惑星もヒューマノイドにとっては母惑星と同じ認識になるでしょうね。

 しかも『空間転移装置』を多数用意してやれば、母惑星と入植惑星の行き来も自由になるでしょうから。

 神界が喜んでいるのも無理ないことでございましょう)


「なるほどなぁ……

破滅エクシティウムトニーテュラ』を知らない俺が、いつの間にかそんな準備をしちゃってたんか……

 偶然の一致って凄いな……


 なあアダム、今の『神界運輸・通信部門』には、こうした被害予想世界の入植惑星への輸送能力ってあるよな?」


(なにしろ3万年以上の時間がございますので、容易であると思われます)


「それにしても、知的生命体は全員助けられても、母惑星の動物や植物は全滅か……」


(それでも数万年の月日があれば、多くの動物や植物を入植惑星に移すことも出来るでしょう。

 母惑星で死滅する動物や植物も、子孫や兄弟が生き延びられればよろしいのではないのでしょうか?)


「うーん、それでもなぁ……

 あ、そうだ。

『空間転移装置』って、どのぐらいまで大きく出来るのかな?)


(理論上は特に制限はございません。

 例えば地球を転移させられるだけの大きさのものも作れるでしょう)


「そ、それがあれば……」


(ですが転移後の軌道を確立させるのが大変でございましょうね。

 転移先の恒星系で、新たな太陽を巡る軌道に乗せるのは実に精密な制御誘導が求められます。

 少しでも制御が狂えば、その惑星の公転軌道が楕円形になって、暑熱期と氷河期を繰り返すことになってしまいますから)


「そうか……

 それ失敗するわけにはいかないからなぁ……

 それにしても、全部助けるいい方法は無いもんかね?

 みんなも少し考えてみてくれないか?」


((畏まりました))




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