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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第2章 銀河宇宙篇
313/325

*** 313 破滅の雷 *** 

 


 数日後。


「なあアダム、ケイちゃん。

 今のところ仕事は順調だからさ、そろそろあの『破滅エクシティウムトニーテュラ』ってなんなのか教えてくれないか?」


(サトルさま、『破滅エクシティウムトニーテュラ』についての情報を脳内転写されますか?)


「いやアダム。

 あれは単純に知識を得るのには有効なんだけどな。

 こうした新しい概念を知るのにはどうもあまり向かないんだよ。

 だから最初は口頭で教えてもらって、後から細かい内容を脳転写して欲しいんだ」


(畏まりました)



(神界調査部の最新の調査結果は拝見させて頂きました。

 わたくしから御説明させて頂いてよろしゅうございますでしょうか)


「おおケイちゃん、頼んだわ」



(まずは『破滅エクシティウムトニーテュラ』とは、3万年後から8万5000年後にかけて、この銀河系に災厄を齎す最悪の天体物理現象の名称でございます)


「3万年後って…… そんな先のことがわかってるのか?」


(はい。3万光年先から光速で飛来して来ている存在ですので、到達予想日はかなり正確に予想出来ております)


「そ、それってどんなものなんだ?」


(端的に言って、直径0.2光年、長さ3光時ほどの超々高エネルギーのガンマ線レーザーでございますね)


「ガンマ線か…… それ体に悪そうだな……」


(体に悪いどころか、仮にその進路上に地球が有った場合、地球上には3時間の間に10メガトンの核爆弾10兆個分のエネルギーが降り注ぐことになります。

 それだけの高エネルギーガンマ線を浴びた物質は、光崩壊現象を起こして元素転換してしまうでしょう。

 つまり、地球は跡かたも無くなり、後には変換後の元素の粒子と中性子しか残りません)


「な、なあ、『光崩壊現象』ってなんなんだ?」


(物質に或る一定以上の強度の高エネルギーガンマ線を照射すると、元素転換して崩壊する現象のことです。

 鉄以下の原子量の元素は吸熱反応を起こして崩壊し、それより重い元素は放熱反応を起こして爆撒いたします。

 まあ、核融合反応の逆の過程かと)


「そ、そんな物騒なもんが宇宙を飛んでるのかよ……

 そ、それまさか人為的なもんじゃないよな」


(純粋に天体物理学上の現象でございますよ)


「なあ、なんでそんな現象が起きてるのか、詳しく説明してくれないか?」


(畏まりました。

 それでは詳細にご説明させて頂きます。


 今より155万年前、銀河円盤平面を158万光年延長した先にある小型銀河の中で、ME3205と呼ばれる恒星が極超新星爆発を起こしました。

 その質量は、地球の属する太陽系の太陽の5000倍に達する超重量星でございます)


「な、なあ、地球の天文学では、『宇宙には太陽質量の500倍以上の恒星は存在しない』って言われてるんだ。

 そんな5000倍もある恒星があったのか?」


(失礼ながらそれはまだ地球の天文学が未熟であるからでございましょうね。

 まず第1に、地球では未だ恒星の質量を計測する際に、重力波からではなく伴星の運動量からこれを求めていらっしゃいます。

 これでは数万光年より遠い星の質量観測は困難でしょう)


「で、でもさ、500太陽質量以上の恒星だと、その輻射圧力が重力結合エネルギーを上回ってしまうんで、すぐに拡散して小さくなっちゃうって言うじゃないか。

 これは観測じゃあ無くって理論物理学の世界の話なんだそうだが……」


(それはダークマターの存在を考慮に入れていない理論上の仮説でございますね)


「ダークマター……」


(はい、この宇宙の物質の内、約25.5%を構成する主要な素粒子でございます。

 銀河宇宙では『第5の素粒子』とも呼ばれておりまして、現在では83種類のダークマターが確認され、それぞれに名前もつけられております)


「まるで元素みたいだな……」


(はい。

 そうしてこのダークマターに共通する性質として、『極めて小さい』、『他の物質とほとんど相互座用しない』、『光学観測が困難である』、『電磁波も発しない』、『極めて小さいために質量も小さいが、しかしその粒子の比重は鉄以上に重い』、『従って体積当たりでは充分な重力を持っている』という性質が知られております。

 そのために『見えない質量』という意味で、地球では『ダークマター』などと名付けられたのでございましょう)


「そ、そうか……」


(ダークマターは宇宙を構成する普遍的な物質です。

 もちろんこの場にも星の中にもございます。

 ニュートリノなどと同様に、こうしている間にも我々の体の中を、1秒当たり数千億のダークマターが通過していることでしょう。

 もっとも通常の環境下では物質と相互作用しないために、我々は何も感じませんが)


「ニュートリノと同じ性質なのか……」


(ところがこのダークマターは、ある一定の条件の下ではそのふるまいが変わるのです。

 例えば太陽の中心部等では、その相互作用性の低さから、核融合反応を抑制する働きを持つのでございます)


「まるで原子炉の制御棒みたいなもんか……」


(その通りでございますね。

 たぶんこの先の未来では、地球の天文学者たちも、『太陽の質量から予想される核融合反応に比べ、太陽からの輻射エネルギーがかなり小さい』という問題を発見することでしょう。

 これこそがダークマターの核融合反応抑制機能なのですが。


 また、水素や酸素などと言った通常物質と同様に、この宇宙にもCP対称性の破れからダークマターは偏在しています。

 そうして原始巨大恒星が誕生した際に、その成分として通常の濃度よりも大量のダークマターが集められた場合、その恒星の核融合反応による輻射圧力は小さくなり、大質量を維持したままでの存続が可能になるのです。

 現在知られている宇宙最大の大質量恒星は、地球の太陽質量の8000倍ほどございますので)


「な、なるほど……」


(しかし、これらの大質量恒星にも終焉はやってきます。

 自らの内部通常物質のうち、核融合反応によってまずは水素を燃やしてヘリウムを作り、そのヘリウムを燃やして炭素を作り、その後も、ネオン、酸素、珪素といった物質を燃やして最後には鉄を作ります。

 その生涯の末期に差し掛かった恒星では、こうした物質が内部に同心球状に形成されていることでしょう。


 ただし、鉄は極めて安定した物質ですので、もうこれ以上の核融合反応は起きません。

 そうして、中心部に鉄原子が増えて来て核融合反応、つまり輻射圧力の減った恒星は、その大重力のために収縮を始めます。

 この収縮が起き始めた恒星では、その重力エネルギーが熱に変わり、却って中心部の温度と圧力が急激に上昇するのでございます。


 太陽質量の50倍程度以上の恒星であれば、この時の中心部の温度は約80億ケルビン以上となり、黒体輻射エネルギーの作用によって高エネルギーガンマ線が放出され始めることでしょう。

 そうして、この高エネルギーガンマ線は恒星内部物質の光崩壊反応を一気に誘発し、例えば鉄は熱を失いながらヘリウムと中性子に分解されてしまうのです。

 この反応は短時間に一気に進みます。


 こうして中心部の温度と圧力が急激に下がっても、その質量は変わりません。

 そうした恒星は、その重力によって非常に激しい収縮を引き起こすのですが、その周辺物質の収縮が中心部と衝突した際の運動エネルギーが衝撃波を引き起こして大爆発します。

 これが通常の超新星爆発のメカニズムでございますね。

 宇宙では比較的ありふれた現象でございます)


「あ、ああ。

 地球の天体物理学の教科書にも書いてあるよ」


(ですが……

 この時のME3205は、中心部にある鉄原子がある一定以上の割合になって収縮を始めたときに、中心部の温度が1000億ケルビン以上、圧力が2000億気圧を越えてしまったのです。


 それで生成された超々高エネルギーガンマ線は、光崩壊反応を誘発して恒星中心部を崩壊させるのみならず、ダークマターにすら作用して、その特異な反応を惹起してしまったのでございます)


「『特異な反応』……」


(はい。ダークマターのほとんどは、温度およそ800億ケルビン、圧力1500億気圧以上では、物質からエネルギーに変わってしまうという性質を持っているのです)


「えっ……」


(このときのME3205でもこうした『ダークマターのエネルギー変換』が行われました。

 その膨大なエネルギーは、通常物質すらも崩壊させてエネルギーに変えてしまい、想像を絶する大爆発を引き起こしたのでございます。


 こうしてME3205は、その中心部にブラックホールを残すことすら出来ず、僅か3時間でその質量の80%をエネルギーに変えて爆撒消滅してしまいました。

 ご存じの通り、物質がエネルギーに変換されるときには、そのエネルギーは膨大なものになります)


「…… E=MC^2か ……」


(その通りでございます。

 物質1グラムが全てエネルギーに変換されたとすると、そのエネルギーは90兆ジュールとなり、TNT火薬20キロトンの爆発エネルギーに匹敵致します。

 つまりまあ、たった1グラムの物質が小型戦術核級のエネルギーになるわけです。


 135万年前、ME3205がその生涯の最後の爆発で放出したエネルギーの総量は、その質量の約80%がエネルギー転換されたために、7.2×10の50乗ジュールと推定されています。

 そうしてそのエネルギーは、ほとんどが超々高エネルギーのガンマ線として放出されたのでございますよ)


「…………」


(そうして、ME3205は比較的速い自転速度を持っておりましたので、爆発エネルギーは全天方向に約20%、自転軸の方向2°ほどの範囲内にそれぞれ40%が放出されました)



「そ、その自転軸方向がガンマ線バーストか……」


(はい。

 地球の方々は超新星爆発とガンマ線バーストを区別されておられる方もいらっしゃるようですが、元は同じものになります。

 地軸方向数度の範囲内にある星から見ればガンマ線バースト、それ以外の星から見れば超新星爆発ということになります)



「で、でもさ。

 いくら2°しか範囲が無い範囲に膨大なエネルギーが収束されていても宇宙は広大だろ。

 1万光年も離れれば、それだけのエネルギーでも相当に拡散されるんじゃないか?」


(仰る通りです。

 通常爆発原から遠ざかるにつれてその被害は減少して行きます。


 当初この恒星から10光年以内にあった、つまり通常の極超新星爆発の影響を受けた星は生命もろともすべて『光崩壊現象』を起こして消滅致しました。

 また、500光年以内にあった星も、ガンマ線によって生命の遺伝子が壊滅的な損傷を受けたために程なく死滅しております。


 幸いなことと言っていいのかはわかりませんが、このME3205の周囲には生命を擁する恒星系はほとんど無く、あっても単細胞生物の世界でございましたが……


 地軸方向2°、つまりガンマ線バーストの影響下にあった星々は、50光年以内では原子の光崩壊反応を励起されて全て崩壊爆発、500光年以内の生命はガンマ線の到達と共に即死、そして2000光年以内の生命は、遺伝子の損傷によりそれより30年以内にすべて滅亡致しました。


 サトル神さまの仰る通り、2°という拡散範囲は、本来であればその移動距離に対して3.5%ほどの拡散が為されます。

 つまり、1万光年進めばその影響範囲は直径350光年に広がり、実質的にはほとんど影響を及ぼさなくなるはずでございました……)


「は、『はず』って……」



(ここまでは通常の天体現象でございます。

 まあありふれているとまでは申しませんが、それでも奇跡的というほどのものではございません。


 ですが…… 極めて不幸な偶然が2つも重なってしまったのです)


「………………」



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