*** 307 古参中級神さま方終了のお知らせ ***
「サトルくん、どうもありがとう」
あ、最高神さままた浮いた……
あー、光り方が激しくなったわー。
「ということで、そなたたちには8つの嫌疑がかかっている……」
おー、すっげぇ威厳に溢れた声だわー。
「まずは、己のプライドを優先し、飢えた民の要請を無視して救済機関にこれを取り繋がなかった罪。
これには自らの管理する世界の瑕疵を隠蔽しようとする意図もあったと確認されている」
最高神さまが手を振ると、議場の神たちのコンソールに赤い光が灯った。
お、前列から500席ぐらい赤くなってるわー。
「尚、このサボタージュに関しては、救済機関の長であるサトル神が挨拶に来ず、また金品の付け届けも無かったことに腹を立てていたためでもあるという証言も得られている。
これが2つ目の罪」
はは、また500席ぐらいに2つ目の光が灯ったか……
「次に管理下の惑星政府に虚偽の救済申請をさせて、『銀河救済機関』から資材・食料を騙し取ろうとした罪。
さらには飢えた民の口に入るべき貴重な食料を横領し、それを売り飛ばして着服した罪。
これは大罪に当たる。
さらに各惑星政府からの救済申請を仲介するに当たって、手数料としてお布施を強要した罪。
これも『お布施強要』という厳重禁止事項に触れているために大罪扱いだ。
加えて、この管区担当神会議という重大な場で謀議を巡らし、多大なる功績のあった神を解任させようとした罪。
それから『解任決議案』採決に当たり、『救済機関』接取後の利益の配分を約束して、採決の際に賛成もしくは棄権するよう勧誘した罪。
これは贈賄罪に当たる。
もちろんそれを受け入れて賛成、もしくは棄権した者は収賄罪だ」
「お、お待ちください最高神さま……
わ、わたくしが棄権したのは利益に釣られてではなく、判断がつかなかったからでして……」
ビカビカドーン!
「ぐげぇぇぇぇぇぇ~っ!」
あー、『雷神』シュリフィスラーナの雷が落ちたよ……
ま、まあ『首狩り神』の鎌が飛ばなくってヨカッタよな……
「キミは統括管理下の民数千億の命を救ってくれた神に対し、その解任決議に判断がつかなかったと言うのかな?
それは神にあるまじき道義心の無さということで、充分罪に値するね。
加えて、そうした利己的な陰謀を知ったにも関わらず、最高神政務庁に報告を怠った罪も大きいんだよ」
あー、なんか半分以上のコンソールが真っ赤っかになっとる……
はは、最前列なんか8つずつ光が灯ってるわー。
「さて……
諸君はこれら8つの罪のうちいずれか、または全てを犯したことになる。
2つの大罪のうちどちらか一方でも犯した者は、管区統括職を解任の上、神格も剥奪して神界追放とする。
むろん神としての年金は支払われない。
「「「「「 !!!!!!!!!! 」」」」」
あー、みんな今度は顔がまっ白になっちゃってるぞー。
「それから大罪以外の罪を犯した者は、今日中に辞表を提出するように。
理由はなんでもかまわないよ。
まあ表向きは『辞任』だけど、公職追放でもあるからね。
今後2度と神界の職には就けないから。
それから一応神として年金は受け取れるけどね。
財政難だった神界がきみたちに年金を払ってやれるのは、こちらのサトルくんが神界に莫大な寄付をしてくれたからだからね。
だから、これからはサトルくんに感謝しながら生きて行くように」
「「「「「 ……………… 」」」」」
あははは、まっ白になった上にガクブルかー。
「それから8つの罪全てを犯した者。
あ、125人もいるのか……
神界がここまで腐っていたとは……
諸君らは神格剥奪の上、終身懲役刑となる。
「お、お待ちください最高神さまっ!」
ひゅーーーーーーっ…… カキーン……
あー、『魔神』製の中級神の氷漬けの出来上がりかぁ……
「キミたちの声はもう聞きたくもないよ。
弁明なら神界重罪裁判所で披露してくれ。
ということでサトルくん。
おかげで管区の大掃除が出来たよ。
本当にどうもありがとう。
でもさ、これで当面神界は管区担当中級神の任命に忙殺されちゃうんだ。
だから申し訳ないんだけど、『神界運輸・通信部門』の活動内容説明は、次回の管区統括神会議でして欲しいんだけどいいかな」
「畏まりました、最高神さま」
「そうそう、ウルフォン議長」
「はっ、最高神さま」
「キミたち種族代表の50人には、全員管区統括神になって貰いたいんだ。
今初級神のひとも全員中級神になって貰うから」
「「「「「 !!!!! 」」」」」
「よ、よろしいのでしょうか……」
「うん、頼むよ。
種族会と掛け持ちで忙しくなるだろうけど、キミたちのような神々の意見も必要だと思ったんだ」
「あ、ありがとうございます……」
「それからサトルくん」
「はい」
「ここにいる重罪犯たちってさ、なんでこんなに腐っちゃったんだと思う?
それから、今後こうした腐敗を防ぐにはどうしたらいいと思う?
是非キミの意見を聞かせて欲しいんだ」
(はは、これ今議場にいる全員に聞かせるために、今俺に聞いてるな……)
「それでは畏れながら……
ここにいる中級神たちが犯罪行為にまで暴走したのは、『中級神在任期間が長い程偉い』という思想が蔓延していることに加えて、『その暴走を抑止する部下や上司が不在だった』ことが挙げられると思います。
つまりまあ、『わしは偉いのだから何をしても構わんのだ』と思い、同時に『誰もわしを止めようとしないのは、当然わしが正しいからなのだ!』と思い込んでいたせいでございましょう」
「それじゃあそれを改革するのにはどうしたらいいと思う?」
「まずは年功序列制の撤廃ですね。
全面的に撤廃するというよりは、年次に加えて幸福ポイント数も評価に加えるとかしてもいいでしょうが……
理想を言えば、880の管区中級神に序列を与えず、平等の扱いにしてみてもいいかもしれません。
それから、諸悪の根源として『上司が部下の人事権を一手に握っている』という現状がございます。
これでは浄化作用が全く働きません。
管区本部の初級神以下の職員は全て神界人事部の直属とし、また10年ほどで頻繁に異動させるべきでありましょう。
そうそう、過去3万年の間に管区本部から解任された初級神たちのヒアリングを為されてみたら如何でしょうか。
彼らは、ここにいる中級神たちの悪事に際し、諫言した結果解任されていた可能性が高いですから。
中には次の管区統括中級神候補もいるかもしれませんし」
俺はそこで言葉を切って議場全体を見渡した。
「そして、ひとつ非常に興味深い事実がございます。
この場にいる神のうち、在任期間の短い方々は全く罪を犯していません。
ということは……
管区ナンバーの小さい世界の統括神、すなわち在任期間の長い神ほど重罪を犯しているということになります。
これは、取りも直さず神界最高神政務庁の人事政策の罪と言えましょう」
はは、みんな愕然として硬直してるわ。
なにしろ最高神さま直属の最高神政務庁を真っ向から糾弾してるんだから。
でも事実だから仕方が無いよな……
「ここにいる罪人たちも、中級神に昇格したばかりの頃は希望に燃えた有意の人材だったことでしょう。
それが例外無くここまで腐ってしまったのは、功績よりも在任期間で昇格を決めるという神界の人事政策の責任と思われます。
どんなに民の為になるよう働いてもまったく評価されないことがわかれば、何もしなくなるのは当然ですから。
その鬱憤が尊大な心と蓄財に走る根源となったのでございましょう。
つまりは神界の人事政策に大いに問題があったからということになります」
「サトルくん。
真摯な指摘、本当にありがとう……
そうだね、ここまで多くの犯罪者を出してしまった責任は、ボクにも大いにあるんだね……」
「まあ、神界上層部の責任と言うより、保守的な神界全体の行政体系のせいだったかもしれませんが。
また、たいへん僭越ながら、こうした犯罪行為の再発を防ぐためには、私が構築する予定の『インター・プラネット・ネットワーク』がお役に立てるかもしれません。
現在のヒト族世界では、特に組織や企業の不正行為に際し、匿名性の保てるこうしたネット上での『内部告発』が有力な摘発手段になっておりますので。
もちろん謂われの無い誹謗中傷も多いのですが、それはわたくしのネット運営組織が遮断可能です」
「なるほどね。
自分の身を危険に晒さない内部告発手段の確保か……
それじゃあその『インター・プラネット・ネットワーク』の構築をよろしく頼むよ」
「ははっ」
「それからゼウサーナくん。
いまサトルくんから提案のあった汚職防止対策なんだけど、ボクには実に有効な手段だと思えるんだ。
だから実行をお願いしてもいいかな?」
「畏まりました、最高神さま」
「ふう、これで神界の大掃除も済んだかな……
それにしても思ってた以上の『ゴミ』が出たねぇ。
みんな、お疲れさま……」
1時間後。
ゼウサーナ上級神の執務室には、最高神さまのお姿に加えて神界最高顧問会議メンバー4人の姿もあった。
地球産最高級の紅茶を口にした最高神さまが、頬を緩めた後に口を開く。
「それにしても、あのサトルくんって本当に凄い神だね。
あの場であそこまで真摯にボクも含めた上位神に諫言出来るとは……
なんかボク、改めてサトルくんに惚れ直しちゃったよ……」
その場の多くの神が苦笑しつつも真剣に頷いた。
「それからさ。
サトルくんがああした『神界運輸・通信部門』を作りたいって言って来たのって、やっぱり『破滅の雷』の来襲に備えてのことなのかな?」
「いえ、どうやらあ奴はまだ『破滅の雷』の件につきましては、なにも知らぬようでございます」
「ふーん。
まずは神界に莫大な財源手段を作り、次に『銀河救済部門』を大成功させ、そうして『運輸部門』を作るのか……
それって、まるで『破滅の雷』で滅亡する世界を救うための行動そのものなんだけど……」
「はは、あ奴らしいですの。
それもあ奴が持つ慧眼というか予知というか運というか……
そういったもののひとつなのでございましょう」
「ほんとに凄い男の子だねえ」
最高顧問の神々も嬉しそうに微笑んでいる。
「それじゃあさ、ボクからもお願いするよ。
サトルくんがやろうとしていることに、神界としても精一杯の協力をしてあげようよ。
それが結果として1万8525の世界、52兆の民の命と幸福を救うことにも繋がるかもしれないんだから」
「御意のままに……」
ということで俺も無事ガイアに帰って来たんだけどさ。
アダムが録画してた『管区統括神会議』の映像を奥さんたちに見せてあげたらもう、ちょー大ウケよ。
映像が終わると、みんな潤んだ目をして服脱いで抱きついて来たもんな。
ああ、お母さんのそんな姿見て、意味分かんないながら子供たちまで抱きついて来たよ。
あ、ロザリアちゃん、おむつは脱がなくていいからね。
そんなとこまでお母さんのマネしないでいいから……
それにしても、くだらない任務の後に、こうして『家族』に癒して貰うのってサイコーだわ……