*** 306 俺の降格・解任決議案 ***
「それじゃあ次に、年功の内の『功』について考えてみよう。
お前たち管区担当中級神のうち、第1管区から第300管区までの中級神が過去半年間に得た幸福ポイントは、僅かに合計1200ポイントしか無かったんだ。
これには俺も驚いたがな。
それで念のために調べてみたんだが、それらポイントを出した、つまりお前ぇらに感謝したのは、ほとんどが『お前ぇらから食料衛星を買った商社の連中』だったんだ。
きっと法外な安値で食料を売ってくれたお前ぇたちに感謝してくれたんだろう。
そうして、商社の連中以外の幸福ポイントは、なんとたったの53ポイントしか無かったんだよ。
な、驚きだろ」
「「「「「……………」」」」」
「まあお前ぇらの中級神在位3万年での幸福ポイントの合計は、僅か400万ポイントでしか無いから、だいたい計算は合ってるけどな。
そうそう、俺たちが救済活動した星の連中に聞いてみたんだよ。
『あなた達の星の属する管区を統括する中級神さまの名前を知っていますか?』ってな。
そしたら知ってた奴って、たったの0.01%しかいなかったんだよ。
つまりまあ、1万人にひとりだ。
それじゃあいくら待ってても感謝の祈りは届かねぇよなぁ」
「「「「「…………………」」」」」
「ところでな。
俺の『銀河救済機関』が活動を始めてから、その活動にかかわる感謝の祈りで得た幸福ポイントは、救済機関の活動に関わる分だけでどれぐらいあったか知ってるか?」
「「「「「………………………」」」」」
「あのなあ、半年で5000兆ポイントもあったんだよ」
「「「「「 !!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」」」
「まあそりゃそうだよな。
銀河50万世界の1000兆人が平均5回ずつ俺に感謝の祈りを捧げてくれた勘定になるからな。
ということでだ。
俺の『功』は、お前ぇたち300人をひっくるめた分の18兆倍あったってぇことだ。
在任期間全てでカウントしても、2億5000万倍あるからなぁ。
だから『年功序列』で敬意を払うんだったら、お前たちが俺に敬意を払うのがスジってぇもんじゃねぇのかぁ?」
「も、もう我慢出来んっ!
議長!
こ奴の中級神からの降格と『救済機関』の長からの解任を求める動議を提出いたしますっ!」
ははは、前列近くのジジババどもがみんな頷いてるよ。
そうか、事前にこの動議の根回しは済んでたんだな。
まあ、会議は5日も開催されてたからなぁ……
「それでは、ただいま第3管区統括のザイサスフォーナ中級神より提出されました動議につきまして、まずは採決を行うか否かの可否を問いたいと思いますが、その前に動議提出者はその理由を明らかにして下さい」
「その理由なぞは明白です!
このサトルという若造は、長年神界と銀河世界に尽くして来た我ら中級神に対し、敬意を払うどころか暴言を吐いております!
あまつさえ根拠のない非難を繰り返し、我らの行動を調査するなどという無礼すら働いたのですから!」
「それでは解任動議の対象となったサトル中級神。
弁明はありますか?」
「はい議長閣下。
特に弁明はございませんが、ひとつだけ動議提出者に質問がございます」
「どうぞ」
「もしこの解任動議が採決されて可決され、わたしが『銀河救済機関』の長から解任された場合、その後任はどうするおつもりなのですか?
まさかあなた方の中から代表者を選ぶなどということはありませんよね?」
「この莫迦者めが!
長年ヒューマノイド世界に尽くして来た我々こそが、ヒューマノイド救済に相応しいのは当然ではないか!
そうそう、いったん『救済機関』に提供した資産や資材はすべて置いていけよ!
それらは既に神界の公的機関の資産なのだからの!」
「なるほど。
つまりあなた方は『銀河救済機関』の持つ資産に目が眩み、わたしを追い落としてその資産をパクって分配するおつもりだったのですね。
そうして、そのための根回しは既に済んでいると……」
「わはははは、今さらわかってももう遅いわ!
最初に頭を下げて我らに従っていればよかったものを!
それでは議長閣下。
まずはこやつめの解任動議案の本会議での採決を行うか否かの採決をお取りください!」
「それでは、この動議を取り上げて、本採決を行うことに賛成の方はコンソールの青のボタンを押して下さい。
反対の方は赤のボタンを。
棄権される方は白のボタンを押して下さい」
ははは、1番から350番辺りまでが真っ青になったぜ。
んー、550番から後は真っ赤で、後は白か……
なるほど、棄権した連中は、ジジババどもが『銀河救済機関』を乗っ取った後に、おこぼれを貰える約束になってるのか……
「賛成348、反対342、棄権189。
定足数の20%以上の賛成が得られましたので、本動議は本採決を行うこととなりました。
それでは引き続き本採決に移ります。
『サトル中級神の降格と銀河救済機関の長からの解任議案』に賛成の方は青のボタンを、反対の方は赤のボタンを、棄権される方は白のボタンを押してください。
賛成348、反対342、棄権189。
賛成多数により、この議案は可決されました」
「わははははははははーっ!
ザマを見ろ若造っ!
権威ある管区担当中級神に逆らうからこうなるのだ!
ささ、議長閣下。
それでは早速この無礼者に議場からの退出をお命じくださいませ」
「いいえ、この議決案が効力を発揮するのは、最高神さまのご承認が得られてからになりますのでそれは出来ません」
「なるほどなるほど。
そう言われてみればそうでございましたな。
そうだ、惨めな若造にひとつだけ教えてやろう。
この管区統括中級神会議発足以来1億8000万年の間、我らの可決議案に最高神さまのサインが頂戴出来なかったことは一度も無いのだ!
ふはははは、お前もこれで終わりだの。
それでは早速に最高神さまのサインを頂戴しに行くとするか……」
そのとき突然議長閣下が議長席から離れ、その場に跪いたんだよ。
お、これって……
そのとき演壇の中央部、俺の目の前が強烈な光に包まれたんだ。
あー、やっぱり最高神さまご登場だよ……
仕方ないな。
俺も椅子から降りて跪くとしようか……
「おおおおおおお、これはこれは最高神さまではございませぬか。
今ちょうど管区統括中級神会議の可決事案にサインを頂戴しに行くところでございました。
この無礼な若造の……」
「この無礼者めがぁぁぁぁぁぁぁーーっ!
最高神さまのお言葉も待たずに直接話しかけるとは何事だぁぁぁーーっ!」
「うひぃぃぃぃーーっ!」
うわっ、初めて聞いたよゼウサーナさまの怒鳴り声……
け、けっこう迫力あんのな。
なんかキンタマがきゅっとしちまったぜ……
お、俺のキンタマを縮ませるとは……
さ、さすがだ……
ん?
なんか後ろで『バチバチ』って音がしてる……
あ! あれシュリフィスラーナ最高顧問会議議長だ!
うっわー、雷纏ってるよー。こえー。
あ、なんかあと3人いるぞ……
あ、あのひと拳にメリケンサックつけてる……
あれが『拳神』か!
あ、あのひとは古代ギリシャのパンクラチオンのときみたいな革鎧着てるわー
あれが『闘神』だな……
あっ、あのひと死神の鎌みたいなデスサイズ持ってるっ!
おいおいおいおい!
『首狩り神』って女性神だったのかよっ!
そ、それもあんな小柄で若く見える姿で……
あ、あれが言うこと聞かない王にブチ切れて、首狩って1000年間の謹慎を申しつけられてた神サマかー……
最高神さまが御言葉を発せられた。
「ミルラスルーン議長代行さん、それからサトル中級神くん。
お疲れさま。
どうぞ椅子に座って下さいな」
そうか、それじゃあお言葉に甘えて……
っておいおい!
最高神さま浮かんだまま近づいて来て、俺のヒザの上に座っちまったよ!!!
あー、みんな驚いてる驚いてる……
一番驚いてるの俺だけど……
「今までのこの会議の内容は全部見せてもらったよ。
それで第3管区統括のザイサスフォーナ中級神くん」
「はっ、うはははぁぁぁぁぁーっ!」
「キミが提出して可決された議案だけどね。
ボク、サインしないから」
「は?」
「あのさ、どんな前例にも終わりは来るんだ。
あの議決案には最高神として公式に拒否権を発動するからね♪」
「…… えっ? ……」
「それじゃあサトルくん♪
もう少しみんなに説明してあげてくれるかな。
特にこの会議を5日もやってた理由とか……
あ、喋り方は今までの調子でいいからね♪」
「か、畏まりました最高神さま。
うー、おほん。
それじゃあお前ら、なんでこの時期にこんな会議を長々と5日間も開催してると思ってた?」
「そ、それは前議長閣下が辞任されたから……」
「あはははは、やっぱ小悪党は頭も悪いな。
そんなもん、お前らをここ神界に引きつけておいて、神界最高監査部が全員の管区本部に家宅捜索に入るために決まってるだろうに」
「「「「「「「 !!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」」」」」
「どうやらお前らの部下たちも全て白状したようだな。
『解任をちらつかせられて、脅されてやりました』って言って、全員罪を認めたそうだ。
なんという忠実な部下たちだろうかねえ」
「「「「「「「「「「 ……………… 」」」」」」」」」」
「っていうことでだ。
さっきから証拠証拠って煩かったけど、その証拠は最高監査部が全て手に入れたようだぞ……」
「そ、そんな報告は受けていない……」
「そんなもん、最高監査部の監視下にある部下たちが本当のこと言うはずないだろうに。
それからお前らがこの神界で交わした会話も念話も、すべて神界管理システムに傍受されてたからな」
「「「「「「「「 !!!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」」」」」」
「お前ぇら、みんなして俺を解任して『銀河救済機関』の資産の半分を山分けする相談をしてたそうだな。
本来は飢えた民の口に入るべき資産を。
そうそう、この会議ではなるべく俺を挑発して暴言を吐かせて、それで解任の理由にするつもりだったんだよな。
まあ俺もせいいっぱい演技して挑発して付き合ってやったけどな。
そしたら逆に自分たちがキレやんの。あははは」