*** 305 更なる挑発 ***
俺は議長閣下をチラ見した。
はは、議長が微かに口の端を上げて頷いたわ……
俺は目の前の演壇を転移させて消した。
そうしてゼウサーナさまの応接室にあった、豪華な椅子をその場に転移させたんだ。
その椅子にふんぞり返って座り、大きく脚を組む。
もちろん靴の裏を最前列のジジババ共に向けてだ。
まあこれは地球では最悪のマナー違反だけど、どうやら神界でもおなじようだな。
ただでさえ怒りのあまり赤かったジジババどもの顔が、さらなる怒りでドス黒くなっていったよ。
あ、議長閣下の笑みが深くなったか……
俺は巨大なひじ掛けをとんとん叩きながら、『隠蔽』を1%ばかり解除した。
「おいジジイ。
お前ぇ管区内の要救済惑星のために、自分の神域倉庫に食料を運べってエラソーに命令して来たよな。
しかもどの惑星を救済するかは言えないと称して……」
「な、なんだと!」
「い、言うに事欠いてジジイとはなんだ!」
「議長! 議会侮辱容疑でこの男の逮捕を要求します」
「その要求は却下します。
当初からあなた方はサトル中級神に対して、『キサマ』とか『お前』という敵対的な2人称を使用していました。
従いまして、この会議では当初から敬称の省略が行われていたものと看做されています」
「な、ななな、なんだと!」
「このような無礼な男と我ら神々を同列に扱うと言うかっ!」
「まったく何故最高神政務庁はこのような上級神を議長代行に据えたのか……」
「通常であれば前議長閣下が辞任為された後は、我らの内序列1位の神が昇格して議長の座に就くものを……」
「しかもこんな使えない若造を議長代行に据えるとは!」
「ただいまの『使えない若造』という発言は、明らかに議場侮辱罪に当たります。
即座にこの議場から退場して、懲罰房で謹慎していなさい」
「なっ……」
あー、警備員が来て第2管区統括神を連れてっちゃったよ……
そうか、前議長が辞任したから、次の次の議長は自分だってほくそ笑んでたんだろうなぁ。
「それじゃあ続けようか。
お前ぇは、自分の管区内の要救済惑星のために、自らの神域倉庫に食料を運べってエラソーに命令して来たよな。
まあ1カ月前に3個だけ食料衛星送ってやったけどよ」
「た、たったの3個で足りるわけが無かろう!
の、残りの分はどうした!」
「残りの分を云々する前に、お前ぇその食料衛星が今どこにあるか知ってるんか?」
「そ、それはもちろん我が神域倉庫に……」
「なんですぐにも救済活動を始めなかったんだぁ?」
「そ、それは全ての食料が揃ってから平等に分配するために……」
「あの食料衛星はだな。
届いたその日のうちに隣の管区本部の神域倉庫に転移させられたんだ。
管区本部同士の転移だったんで、神界転移部門も不審には思わなかったようだなぁ。
それでその衛星は、その地の大手食料商社に売却されて、今ではその星の衛星軌道を回ってるよ」
「!!! う、嘘だっ! い、言いがかりだ!
だ、第一証拠はどこにある!」
「証拠だとぉ?」
「ああ証拠だ!
証拠も無しにそのような出まかせを言うと、名誉棄損罪に該当するぞ!」
「あのさあ、俺や銀河救済機関が、そんな衛星1個丸々盗まれるようなマヌケな真似する訳無いだろうに。
あの衛星や食糧の中には、追跡記録用のナノマシンが山のように仕込んであったんだぜ」
「「「「「「「 !!!!!!!! 」」」」」」」
「ナノマシン達は受け渡しの現場も記録して報告して来たよ。
お前ぇの配下の初級神と先方の商社の仕入れ担当との会話もだ。
どうやらあの衛星ごと1つ10億クレジットで売っぱらったそうだな。
時価30億クレジットの衛星と食料を、なんでそんな安値で売ったんだ?
まさか統括神のくせに、救済に必要な食料の価格も知らんかったんか?
それとも悪事を働くことで気が引けて、そんな安値で売ることに合意したんか?」
「ぐぅぅっ…………」
「さらにだ。
お前ぇ、俺がその隣の管区本部倉庫に送った食料衛星を自分の神域倉庫に受け入れただろ。
それでそれをすぐに配下の世界の食料商社に売っちまっただろ。
つまりお前たちは、受け取った救済物資を自分の管区では売らずに、お互いの管区世界で売り払うっていう隠蔽工作をしてたんだ。
それもご丁寧に偽名口座まで作ってカネのやりとりをしていた訳だ」
「い、いいい、言いがかりだっ!」
「な、何度も言わせるな! 証拠はどこにある!」
俺は『隠蔽』の解除率を3%に上げた。
はは、ジジババどもの顔が蒼くなって来たか。
赤くなったり青くなったり、交差点の信号みたいなやつらだな……
「お前ぇさっき、残りの食料はどうしたって慌ててたよな。
まあそりゃそうだわな。
食料商社の連中とは全部で30の衛星を売り払う契約をしてたし、もう前渡し金も受け取ってたんだろ?
それが3つしか渡せてないんじゃあなぁ。
このままだと違約金取られるから慌ててるんだよな?」
「う、嘘だ! そ、そのような事実は無いっ!」
「そおかあ?
それじゃあその契約書の写しを後で神界最高監査部に見せてもいいんだな?」
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅ……」
「そ、それから、わたくしの管区からの救済要請は450件ありましたが、そのうちの250件には、当初調査員とやらが来訪した後は一切救済活動が為されておりませぬ!
これも逆差別に該当しますっ!」
「それでよくも『救済は順調』などとヌカしたな!」
「わはははは。
おいババァ、お前その250の惑星政府に『救済機関に食料供給を求めて、そのうち半分を管区統括神本部に引き渡せ』と命じただろう。
もちろんそれら惑星には飢饉の兆候なんかカケラも無かったのにだ!」
「っ!」
「よくもまあそんな酷ぇ詐欺を思いついたよな。
しかも思いついただけでは無く実行までするたぁなぁ」
「え、冤罪ですっ!
ち、中級神たるこのわたくしがそんなことをするはずがありませんっ!」
「そうか、流石に中級神としてそこまでの詐欺やったらマズイってぇことぐらいはわかってたってぇことか。
でもな。
俺ん所の調査員がすべての証拠を手に入れて、神界最高監査部に渡すぞって言ったら、惑星政府の連中が全部吐いたぞぉ。
『管区統括本部の命令で仕方なくやりました』ってな。
「!!!!!」
「それからお前ら、前議長に口封じのためのために献金までしてたろ。
なんで議長閣下が突然辞任なんかしたと思ってるんだ?」
「そ、それは健康上の理由で……」
「いいや。
前議長は、お前たちの横領行為を知りながら神界への報告を怠った罪と、口止め料受領の罪を問われて辞任したんだ」
「「「「「 !!!!!!! 」」」」」
「もっとも自分では直接横領行為はしていなかったんで、『辞任』で済ませてやったそうだがな。
それで『解任』と『神格剥奪』を恐れるあまり、お前たちの行動について知り得るところは全て白状したそうだぞ」
「よ、よしんばそうした行為が行われていたことがあったとしてもだ!
それはわしの部下が勝手にやったことだ!
わ、わしは一切関知しておらん!」
「ほほー、お前確か食料商社に衛星を売っぱらった後、すぐに神殿の建設を始めてたよな。
自分名義の神殿建築を知らなかったとでも言うんか?」
「だ、だからそれは忠実な部下がわたしのためを思って勝手にやったことで……」
「お前ぇよ。
悪事を働くんだったらもう少し頭ぁ使えや。
そこまで事実を掴んでいる俺たちが、神界監査部に報告を上げないワケぁねぇだろうに。
それともそいつぁ、監査部の尋問に耐えられるほどお前ぇへの忠誠心が篤いんか?」
「な、なんという無礼な真似を!」
「わ、我々中級神を疑ってそのような調査まで行っていたとは!」
「す、少しは年功序列というものを考えて、年長者を敬う気持ちは無いのかっ!」
俺は『隠蔽』の解除率を5%に上げた。
わはははは、みんなビビってるビビってる。
そうそう、念のために事前にゼウサーナさまの副官AIさんに確認してみたんだけどさ。
もしも俺が『威圧』を放出したら、それは傷害罪に当たるかもしれないそうなんだけど……
『隠蔽』の解除って、言ってみれば俺本来の姿を見せるだけだろ。
だから『傷害』には当たらないんだそうだ。
「ですが、神界の神全体の9割が気絶するかも知れないので全解除は絶対にしないでくださいね」
って言われちまったけどな……
「それじゃあ『年功序列』について考えてみようか。
お前ぇらの頭でもわかりやすいように俺がよぉーっく説明してやるよ。
まずは年功序列のうちの『年』についてだ。
俺が中級神になったのはちょうど1カ月前だ。
それに対してお前らが中級神になってからの平均在位年数は約3万年だわな。
ということで、俺とお前らでは『年』には36万倍の差があるということだ」
「そ、それみろ…… 我らとお前にはそれほどの差があるのだ……」
「そ、そうよ…… 神界やヒューマノイド世界への貢献にしても、それほどまでの差があるのよ」
「にもかかわらずお前はなぜ我らに敬意を払わないのだ……」
ははは、『隠蔽解除5%』にビビって元気が無くなって来たか……