*** 301 銀河救済機関の活動上の問題点 ***
こうして神界未認定世界のうち、紛争世界もどんどん平和になって行ったんだ。
それから試練克服困難だった世界500からも、ぼちぼち合格が出始めているそうだ。
神界認定世界から出ていた救済要請も、既に50万件ほど解決してたし。
それでまた俺たちは或る日会議を開いていたんだ。
「なあアダム、今やってる仕事でなんか問題ってあるか?」
(『救済する側』、つまり我々『銀河救済機関』に於いては全くございません。
驚くべき順調さで任務が進んでございます)
「うーん、『救済する側』には問題は無いっていうことは、『救済される側』には問題があったということなのか……」
(はい)
「それってどういう『問題』だったんだ?」
(当初我々は神界の『ヒューマノイド管理部門』からの出動要請に基づいて救済出動をしておりました。
その要請は、惑星地域政府から惑星政府、そして惑星担当天使、象限統括神、管区担当中級神経由で神界の『ヒューマノイド管理部門』に上げられ、そこでトリアージが為された結果、我らに出動要請が来たものでございます」
「まあそれが公式ルートだろうからな。それで?」
(その公式ルートからの救済依頼は、当初かなり少ないものでございました。
それも非常に興味深い分布を為していたのでございます)
「興味深い分布?」
(こちらのグラフをご覧ください。
当初2カ月の中級神管区ごとに救済要請数をとったグラフでございます)
「なになに……
なんだこれ、500番以降の管区からの救済要請はかなりの数があるけど、管区のナンバーが少なくなるにつれて要請数がどんどん減って行くのか。
200番以内の管区では要請はほとんどゼロじゃないか。
なあアダム、この管区ってナンバーが小さい程科学技術や文明が発達しているのか?」
(ナンバーが小さい程銀河中心部に近いためにおおむねそうなります。
ですが神界は試練世界を銀河各所に配置しているために、ナンバー100以下の世界にも技術レベルや文明レベルの低い惑星は多くあります)
「それじゃあなんでこんなに管区ナンバーと救済依頼数に相関があるんだ?」
(管区担当中級神さまは、中級神拝命以来の年数順に管区に配置されております。
最も中級神在任期間が長い方から、ナンバー1管区より順番に配置されておられるのです。
そうして昇格や引退などで管区担当神の席が空くと、500年に一度配置換えが行われることになっています)
「ということはだ。
当初2カ月は、在任期間の長い中級神管区からの救援要請はほとんど無く、新任の中級神の管区ほど救援要請が多かったっていうことになるのか」
(はい。
そして、2カ月後からはサトルさまの御指示通り、ここ救済機関本部と個別の惑星政府との間に『救済ホットライン』が設置されました。
その結果、救済要請が劇的に増加したのであります。
こちらのグラフをご覧ください)
「なんだこれ。
管区ナンバーの小さい管区ほど要請が多くて、ナンバーが大きい管区ほど少ないじゃないか……」
(両者を合計したグラフがこちらでございます)
「なんだよなんだよ。
どの管区からも平均して救済依頼が来てるじゃないか。
あ、それでも若干ナンバーが低い方が少ないのか」
(このグラフに於ける救済依頼数は、その管区の技術レベルや文明レベルとの間に密接な相関関係がございます。
やはり、技術や文明のレベルが低い世界からの救済要請は多かったようでございますね)
「ということはだ。
まさかこれって、当初は在任期間の長い中級神ほど、各惑星からの救済依頼を握り潰してたっていうことなのか?」
(はい、仰る通りです。
実際に救援活動を行った結果、各惑星政府から、
『担当天使さまを通じて管区担当神さまに救済要請を上げたところ、当初2カ月は何の対応も無かった』、
『そこで新たに設置されたホットラインを通じて銀河救済機関に直接救済を依頼したところ、その日のうちに食料が届き始めたので驚くとともに大変に感謝している』
という証言が多数得られております)
「そうか……
やっぱりゼウサーナさまに頼んでホットラインを作らせて貰ってよかったな」
(さすがのご慧眼でございます。
ですが……
どうやら問題はそれだけでは無いようなのでございます)
「どういうことだ?」
(ホットライン経由で救済依頼を出した惑星政府にヒアリング致しましたところ、
『管区本部経由で救済依頼を出した際に、神界へのお布施を強要された』または、
『救済食料の代金を請求された』との証言が多数得られました)
「なんだと……」
(おかげで実際に食料を持ち込んだところ、代金を振り込んで来た星までございました。
もちろん直ちに返送しておりますが)
「まさか……」
(それから最近では、管区ナンバーの小さい世界からの救済要請のうち、半数以上が『救済の必要無し』と認定されております。
つまりは救済資材の取得詐欺と見られるケースでございます)
「多数の世界が同時に同じことをし始めたのか……
それって追求したのか?」
(はい、いくつかの惑星政府から『象限本部や管区本部から救済依頼を出すよう強要された』という証言が得られております)
「まさか詐欺の主犯は管区本部なのか……」
(さらにこちらのグラフをご覧ください。
これは直近3カ月間の各管区からの救済依頼でございます)
「なんだよこれ……
管区ナンバーの小さいところからばっかりじゃないか……」
(これらの依頼はすべて、『救済食料配布は管区主導で行うので、食料は直接管区中級神の神域倉庫に運び込め』というものでございました。
念のため食料配布先の惑星の明細を聞きましたところ、
『管区担当中級神さまのご任務の内容を聞き出そうなどという行為は僭越である』
として断られました)
「そうか……
その食料は今どうしてる?」
(サトルさまのご判断を頂いてからと思い、送付は保留しております。
万が一実際に救済を必要としている世界があったとしても、直接ホットライン経由で依頼が来るでしょうから)
「なあアダム……
それさ、大した量じゃなくって構わんから、救済食料を管区担当中級神の神域倉庫に送ってやれや。
もちろん大量の追跡調査用ナノマシンを入れてな……」
(畏まりました)
「それからこうした中級神たちの疑惑の行動について、調査レポートをまとめておいてくれ」
(わたくしがそのレポートを作成致しますと、それはそのままゼウサーナさまの秘書官AIに届くことになりますが、構いませんか?)
「もちろん構わん。むしろそれが目的だ」
(はい)
「ケイちゃんたちはなんか問題点を感じているかい?」
(現状の我々救済を行う側の任務につきましては全くございません。
それにしても神界の神々にも困ったものですな)
「そうだな、長年中級神なんかやってると、腐ってくるやつが多いんだろ」
(嘆かわしいことでございます)
「それじゃあさ、たぶんこの後『神界運輸部門』の立ち上げをすることになると思うんだ。
まあ、最高神政務庁から許可を得てからの話なんだが」
(間違いなく許可は降りると思われますな)
「それで、出来る準備は予めしておこうと思うんだよ。
俺としては『運輸』だけするんじゃ無くって『運輸・通信部門』にしたいと思ってるんだけど」
(まずはサトル神さまがそうした『神界運輸・通信部門』が必要だと思われた理由をお聞かせ頂いてもよろしゅうございますでしょうか)
「まあ単純なことなんだけどさ。
銀河世界って、今資源不足で困ってるだろ。
でも、近隣の恒星系の生命非居住惑星とかで資源採掘をしようにも、大規模恒星船の輸送コストが高すぎて採算に合わないし。
まあ、作ろうと思えばいくらでも大きな恒星船が造れるんだろうけど、それは将来の恒星間戦争抑止のために神界が禁じているからな」
(はい)
「だから、神界自身が輸送能力を持って、それを貸してやれば問題は解決するんじゃないかと思ったんだ。
(そうして銀河の資源不足を解消してやれば、幸福ポイントも上昇して人口も増えるだろうということなのですな)
「まあそうだな」
(ですがその結果、貧富の格差が増大するとも思われますが、その点はいかがお考えですか?)
「別に貧富の格差は拡大してもいいんだ。
貧困層の生活の底上げさえ出来ていれば。
そうだな、富裕層の収入が10倍になったとしようか。
だけど貧困層の所得が倍になってたら、それで問題無いんじゃないかって思うぞ。
もしそれで貧富の差に怨嗟の声が上がっても、それって単に貧乏人の僻みに過ぎないんだから、どうでもいいんじゃないかな。
金持ちがそれに付随する権力で貧乏人から搾取して貧富の差が広がってるようなら、そいつに『神界運輸・通信部門』を使わせなければいいだけの話だし。
それに資源輸送が順調に行われるようになったら、インフレも起きにくいだろ。
だから貧困層の生活水準も相当に改善されるんじゃないか」
(さすがは『智慧の怪物』サトル神さまでございますな。
よくわかりました。
ところで『通信部門』の目的はどのようなものでございましょうか)
「実は俺も驚いたんだけどさ。
銀河宇宙って恒星間のインターネットワークが無いんだよ。
あるのは神界報道部の広報ネットだけで。
まあ考えてみれば、こんだけ広大な銀河系に超空間ネットとか作るには莫大なカネがかかるんだろう。
そんなもん、多少の広告収入じゃあ賄えるわけないだろうし。
だから俺が作ってやりたいなって思ったんだ。
それから他種族間同士での交流もあんまり無いだろ。
高いカネ払って恒星船に乗ってまで交流を図りに行くこともないから。
でも、やっぱり平和やE階梯の基本って、『他者を知ること』だと思うんだ。
だから銀河インターネットワークがあれば、みんな他の種族にも興味を持つようになって、もっとE階梯が上がるんじゃないかと思ったんだよ。
それからさ、地球でもガイアでも、みんなのE階梯を上げてやるのにテレビの果たした役割って実に大きかったと思うんだ。
各惑星にインタープラネットネットを繋いでやったら、みんな自分の星の人気テレビ番組とか流すようになると思ってな。
それってなんかすっげぇ楽しそうじゃないか?」
(なるほど。
つまりサトル神さまは、『輸送部門』によって銀河経済の底上げを図り、併せて『通信部門』によってE階梯すらも上げて行こうと思われていると)
「まあそういうことだ」
(そして、それにかかる超莫大な資金も全てご自身で負担されると)
「うーん、まあそういうことでもあるんだけどさ。
でも考えてみれば、岩石惑星とかってもともと銀河にあったものだよな。
それに俺の『資源抽出』の魔法だって、元を糺せば神界から貰った能力だからなあ。
だからあの莫大な資源だって、どうも俺のものだという認識に乏しいんだろうな」
(はは、さすがはサトル神さまでございますな。
喜んでご協力させて頂きます。
それで、わたくしどもからもお願いがございますのです)
「なんだい? お願いって」
(サトル神さまの『魔道具』につきまして、もう少々研究させて頂きたいのです。
併せてかなりの研究開発費もかかってしまいますが、それもご寛恕願えればと)
「別に構わないけど、どんな研究なんだ?」
(例えば最大強度の『絶対フィールドの魔道具』の限界強度測定、それから『慣性吸収の魔道具』の最大耐性Gも計測してみたいと思っております。
加えて『転移の魔道具』の転移可能距離の限界も試してみたいかと。
その際に、AI族の方々のご協力も頂戴出来ないかと思います)
「それさ、どういう目的のためなんだ?
単に興味本位か?」
(いえ……
サトル神さまにとって、『神界運輸・通信部門』のご任務に役立つための研究でございます……)
「なんだそうか。
銀河宇宙のためになる研究だったら、いくらカネも資材を使っても構わんぞ。
取敢えず100兆クレジット(≒1京円)の予算を渡しておこう。
アダム、研究協力者の人員確保を頼む」
(畏まりました)