*** 298 惑星ヴォルフ 5/7 ***
怒グロ注意。
翌朝。
連合軍は、台地から湿地帯の中の道を進み、帝都から台地までの真ん中にある直径3キロほどの広場に再集結している。
広場の端、帝都に続く道の入り口には、ナゼかお立ち台が作ってある。
その後ろにはヤワな造りの木の柵もあった。
連合軍は、各国につき横10人ほど、総計1万人ほどの突撃部隊を用意して柵の前に整列している。
ほう。一番乗りの武功を得ようとしとるんか。
隊列の先頭は柵を壊すために斧を担いだ奴隷たちだが、そのすぐ後ろはそれなりに派手な軽鎧を着た貴族兵っぽいな。
柵を壊したらすぐに突撃するつもりなんだろう。
あー、最後尾にいる輿に乗った王族連中はにたにた笑ってるわ。
(それじゃあそろそろいくよぉ~♪ えーい!)
相変わらず気合いの抜けるピコの声と共に、突然直径3キロの円筒が宇宙空間から転移して来た。
外側は黒一色だが、内側は照明で輝く天井以外は鏡面になっている。
広場を囲むように落ちて来た巨大な円筒が自重でずぶずぶと沈み、高さ200メートルほどで安定した。
「「「「「「「「 !!!!!!!!!!!!!!!! 」」」」」」」」
円筒内部の連合軍は、驚愕で声も出んようだな。
まあ、そらそうか。
突然自分たちの10倍の軍勢に囲まれたように見えるんだろうからなあ。
王都の旧王城前広場からも驚愕のどよめきが聞こえる。
なんせ巨大スクリーンに写っていた連合軍が、突如巨大円筒に覆われちまったんだから。
もちろんすぐに円筒内の映像に切り替わったけど。
さて、それじゃあ俺のショーを始めるとするか!
俺は円筒内のお立ち台に転移し、大音声を上げる。
「連合軍の諸君! 地獄の罠へようこそ!
俺が新ガイザル帝国帝王のガイザルだ!
今日はお前ら全員をブチのめして、明日から俺はこの惑星ヴォルフの統一皇帝になる予定である!
さあ、それでは1対120万の戦争を始めるとするか……」
王族や上級貴族は、ようやく周囲の壁が鏡であることに気づいたようだな。
「ええい! こ、これは鏡というものだ! まやかしだ!
あ、相手はたったの1人だ! 全軍突撃せよっ!!!」
鏡なんぞ見たことも無い一般兵や奴隷兵に大声で命令しているようだ。
さすがは閉鎖空間だ。声がよく響いてるじゃあねえか。
円筒内の側面全周に12個の超巨大スクリーンが現れた。
その全てが俺の姿を映し出している。
これで120万人の軍勢全員に俺がよく見えることだろう。
「ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――っ!」
俺は控えめな150デシベルの音量で吼えた。
同時に巨大化も始める。
相変わらず物理学をコケにしているようなサトル神さまの神力で、俺はみるみる体長50メートルになった。
体重は2000トン。しっぽの長さは100メートルだ。
俺はその姿で連合軍将兵を睥睨する。
(おいピコ……)
(なあにガイザル?)
(この円筒、換気扇は無ぇのか?)
(無いよ~)
(120万匹の狼がみんな漏らしちまったようで、すっげぇ臭ぇんだけど、鼻に詰める脱脂綿くれ)
(ダメだよう。
帝王さまが戦争するときに鼻栓なんかしたらカッコ悪いよう)
(やっぱダメか……)
後で聞いたんだけど、旧宮殿前広場もみんな漏らしまくって酷ぇ匂いだったらしいな……
そのとき前列近くにいた金属鎧の槍兵たちが10人ほど、雄叫びを上げながら突進して来たんだよ。
連合軍からは、「おおっ!!」って感嘆の声が上がってたな。
そうして槍兵たちは俺の足に槍を突き刺そうとしたんだが。
まあクラス60のフィールドなんかに刺さるわけは無いよなあ。
俺は屈み込んで、まとめてその10人を捕まえた。
「おお、ちょうどいい。朝メシ喰って無かったからなあ」
俺は片手に持った1匹目の鎧野郎の頭を喰い千切った。
胴体から鮮血が迸り、前列にいた兵士たちにシャワーのように降り注ぐ。
すぐに胴体も口に放り込んでぐちゃぐちゃと咀嚼した。
下品な喰い方は俺の趣味じゃあ無ぇが、まあ、演出ってぇところだ。
12個の巨大スクリーンに俺の口元がどアップで映し出されている。
2匹目をつまんで口に入れようとすると、そいつが大声で叫んだんだよ。
「や、やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ~!
く、喰わないでくれぇぇぇぇぇぇぇ~!」って。
「うるせえっ!」
俺は一声吼えてそいつの胴体を2つに千切り、まず上半身をボリボリと喰ってやった。
下半身からはピンク色の腸と白い腹膜と黄色いマーガリン細胞がハミ出ていてカラフルだ。
俺はブラ下がる腸をラーメンを啜るようにずるずると飲み込み、下半身も咀嚼する。
3匹目は「い、生きながら喰われるなんてぇ~!」とか叫んでいたが、指で頭をつまんで引き抜くと、脊柱まで一緒に引き抜かれて出て来やがったぜ。
あははは。
目玉が裏返った首の下に背骨だけくっついた、悪役魔法使いの杖みたいだぜ!
俺はニヤリと笑ってしゃがみ、それを近場の狼共にもよく見せてやったんだ。
辺りからは壮烈な排出音と爆臭が漂って来た。
ったく、人が食事してるっていうのに下品なヤツらだぜ!
それからも、「た、頼むから喰わないでくれぇぇぇぇぇぇ~!」とか、「お母ぁちゃぁ~ん!」とかいう悲痛な叫び声を無視して、俺は槍兵たちを喰いまくった。
最後の1匹なんか手足を1本ずつ引きちぎって喰ってやったもんな。
魂が軋むような声で悲鳴を上げてたけど、両手両足を喰われた辺りで沈黙してたなあ。
最後にぺっと鎧の残骸を吐き出す。
骨と血と肉と金属がひと塊りになった10匹分の残骸が、軍勢の真ん中に転がった。
全周のスクリーンには、その残骸がまたもどアップで写し出されている。
あー、120万匹の狼どもが全員吐きまくってるじゃねえか。
口から吐くだけじゃあ足りなくって、前からも後ろからも壮絶な勢いでなんか出してるわ。
体の中身全部出す気かよ……
それから俺は、口から血を滴らせ牙から腸をブラ下げたまま、また大音量で叫んだんだ。
「お前ら全員鎧脱げっ! やっぱ金物は不味いぞぉっ!」って……
それで前列から俺に近い方の30万匹ぐらいは気絶したようだな。
へっへっへ。
上手くいったようだなあ。
ん?
もちろん狼なんざ喰ってないぞ。
あれはみんな昨日の夜のうちに忍び込ませておいた俺のマペット兵だよ。
遠隔操作で演技も出来るけど、自我は無いヤツだ。
ニセの内臓や骨や血もたっぷりと詰まってるけど。
だが……
1匹は体にチョコレートが詰まってたぞ。
またピコのイタズラかよ……
いっぺん説教してやらんとイカンな……
俺は気絶した狼どもを足で蹴散らして進んだ。
いやあ、踏まないようにするのがたいへんだったよ。
この戦争で一番神経を使ったかな。
途中でメンド臭くなって、しっぽで掃除しながら進んだけど。
後方の王族やら上級貴族やらに近づいたところで、俺はまた貴族っぽい格好をさせたマペット兵を何匹かつまみあげて喰った。
泣き喚くそいつらは、口に入れた途端、絶叫と共にすぐに沈黙する。
俺が歯を剥き出しにしたままぼりぼり齧ると、その血や内臓がぼとぼとと王族連中に降り注ぐ。
中央のメスチーヤ国王の前には、血走った目を恨めし気に見開いてだらりと舌を出す、狼の生首が落ちたようだな。
俺は凶悪な微笑みを浮かべて言ったんだ。
「ああ、やっぱり生きたまま喰う『踊り食い』は旨ぇな。
口の中でびちびち跳ねるのがたまんねえよ」って……
10カ国の王族たちは、滝のように小便を撒き散らしながら、狂ったように鎧兜を脱ぎ棄てて、泣きながら裸の腹を見せて仰向けに寝転んだ。
手首は曲げて、いわゆるちんちんの形だな。
犬や狼の完全服従のポーズだわ。
「ぐぅわおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~っ!!!」
俺は500デシベルの超絶大音量で勝利の雄叫びを上げた。
同時に目が300万カンデラの閃光を放つ。
まあ、それぞれ地球で使われているM84スタングレネードの3倍近い威力だからなあ。
しかも閉鎖空間で全面鏡張りだあ。
120万匹の狼どもが完全に気絶しとるわ。
続けて天井部からのべ1万条の広域ショックランスが降り注ぐ。
まあ死にはしないけど、これで狼野郎共の毛は一本も残らずに燃えちまっただろ。
辺りにはコゲた匂いと狼どもの吐瀉物と排泄物の匂いが充満している。
俺は鼻をつまんで涙目になりながら転移して、旧宮殿前広場に戻ったんだ。
あ! 体の大きさ元に戻すの忘れてた!
広場の俺の市民たちや元貴族たちも全員気絶しちまったじゃねえか!
翌日。
旧宮殿前広場にふんぞり返る俺の前に、10匹のつんつる狼が引き出されてきた。
全員耳もしっぽも切り取られて、不思議生物になっている。
広場の向こうの凱旋門には、毛の無いネズミみたいなしっぽが120万本もぶら下がっていて、実にキモい風景を作り出していた。
なんだか巨大イソギンチャクの魔物みたいだ。
(ガイザルくん、ちょっと吼えてみてぇ~♪)
(なにをするつもりだ?)
(いいから吼えてよぉ~)
仕方ねえな。
「がうっ!」
途端に凱旋門を覆う120万本のしっぽが一斉に逆立ってゆらゆらと動いた。
(バカヤロ! つまんねえギミック仕込んでんじゃねえっ!)
(えー、ウケると思ったんだけど……)
その後、俺は首を振りながら、10カ国の王たちが順番にハラを見せて降伏と王権譲渡を表明するのを聞いていたんだ。
(ガイザルおつかれさま~♪
3日ぐらいしたらまた少し働いてもらうけど、それまでゆっくり休んでてね~)
(おいピコ! そういえばお前、マペット兵にチョコレート詰めたろ!)
(な、なんのことかなー……)
(ったく、みょーなイタズラばっかしやがって……
後は任せたぞ!)
(あいあ~い♪)
その後は120万匹の捕虜たちに円筒の中を掃除させたようだ。
そのまま収容所にするそうだからな。
入り口も作って物資や食糧も運び込んでやってるようだ。
時折内部がびかびか光ってるのは、旧貴族階級がエラそーにするたびにショックランスを浴びてるからだろう。