*** 297 惑星ヴォルフ 4/7 ***
俺は120デシベルの大声で全員に伝えた。
「これより南の城壁を崩し、その石材を使って幅100メートルまで道を広げる。
サボタージュした者は雷撃刑の上メシ抜きだ。
まあ、いままでお前たちが奴隷兵にさせてきたことと似たようなもんだな」
「ったく公爵のワシにそんな下賤の者がするような仕事をさせるとは……
新王とやらは人の使い方がわかっとらんようだの」
途端にそいつが発光すると同時に、「バリバリバリバリ!」という盛大な音がした。
「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!」
悲鳴と共に元公爵閣下の剃り残しの毛が燃え上がる。
後に残されたのはぷすぷすと煙を上げる公爵閣下のコゲて倒れた体だけだった。
「実験台ご苦労。
これが雷撃刑だ。まあ死にはしないから安心しろ。
しばらくの間コゲ臭いかもしらんが。
まだ理解していない者も多いようだから言っておく。
この国には、帝王である俺と市民階級と、キサマたち労働刑に服している者しかいない。
貴族制度は廃止した。諸悪の根源だからな。
まあ、刑期を終えればお前たちも市民にしてやるから、最終的には帝王と市民しかいなくなるが。
ひと言でも自分は元貴族であるとかヌカしたり、労働刑をサボったヤツは、そこに転がってるおコゲとおなじになるからな。
それでは作業を始めろ」
つんつる狼どもはアンドロイド部隊に促されて城壁の解体を始めた。
それ以降も5分につき1人ぐらいの割合でおコゲが出来ていったが、30人を数えるころには全員学習したようで静かになったようだ。
まあ、全員にナノマシン達が張りついてるからなあ。
監視体制はカンペキだよ。
それに雷撃とは言っても、実際には極低出力のショックランスだから死にはしないし。
さすがは狼たちでけっこう力もあるし体力もあるようだ。
南の巨大な城壁がみるみる崩されて、道も広がっていった。
もう当面の俺の仕事は終わったかな。
俺はその場に寝そべってあくびをした。
「おい、キサマ気でも狂ったか」
元帝王の檻から声が聞こえる。
「あ゛? なんか言ったか?」
「キサマは気でも狂ったのかと言ったのだ。
城壁を崩して道幅を広げるだと。
そんな真似をすれば他国に攻めて来て下さいと言ってるようなもんだろうが。
数日中には密偵を通じてこのアホな作業が大陸中に広まるだろう」
「はは、それはラクチンだな」
「なんだと?」
「こっちから出向いて個々の国を滅ぼすより、あちらさんが来てくれた方が楽だろうに。
そんなこともわからんのか?」
「わはははははは! 確かにその方が楽だが……
だが連合軍でも組まれてみろ。その軍勢は80万を超えるぞ」
「ふぁ~っ…… むにゅむにゅ……
あー、なるべく早く連合軍が来てくれんもんかなあ。
そいつら全員ぶっ飛ばせば、俺の仕事も終わってのんびりできるんだが……」
それっきり元帝王さまは沈黙しちゃったよ。
どうやら俺なら可能かもしれないってわかったようだな。
それから1週間後。
攻め滅ぼした隣国を支配するために残っていた第1皇子が攻めて来てくれたよ。
市民たちと労働刑従事者たちは、宮殿前広場に集まって、ピコが設置した巨大スクリーンを見ている。
半分崩された南の城壁の前に立っているのは俺だけだ。
10キロ先の台地に並んだ旧ギルゴル帝国の旗を見た元貴族連中が歓声を上げた。
だが、すぐに全員ビカビカ光っておコゲになって沈黙してたわ。
バカだろこいつら。
第1皇子軍は、奴隷兵を先頭に立てて突進して来た。
奴隷兵の後ろには槍を持った督戦兵たちが続いている。
怯んだり逃げ出したりする奴隷兵を殺すための部隊だろう。
ちっ! 俺が最も嫌いな戦い方だぜ。
俺は、ピコを通じて上空に待機している光学迷彩付き戦闘輸送機に命令を出した。
槍を構えた督戦兵部隊が轟音とともに雷光に包まれる。
あはははは。
まだ全身の毛が残ってるからよく燃えてるぜ!
一瞬で500匹ほどの黒コゲ狼の出来上がりだ。
毛を剃る手間が省けてちょうどいいかもしらん。
まあ極低出力のショックランスだから死にはしないけど、あれけっこう痛いらしいなあ。
俺は10キロ先まで聞こえる150デシベルの音量で声を出した。
「戦う意思のある奴隷兵は、そのまま武器を持って走って来い!
戦う気が無い者は、武器を捨ててやっぱり俺の前まで走って来い!
たらふくメシを喰わせてやるぞ」
1万人ほどの奴隷兵が走って近づいて来たけどな。
武器を持ったままなのはそのうちの1割もいなかったよ。
まあそいつらも俺のしっぽで吹き飛んで山になってるけど。
後の連中はモノも言わずにメシ喰ってるよ。
つい音量下げるの忘れて、「あんまりいっぺんに喰うとハラ壊すぞ!」って言ったら半数が気絶してたわ。
道の先の大地に残された、一般兵やキンキラの鎧たちは呆然としてたな。
中には後ろを向いて逃げ出そうとしてる連中もいるみたいだ。
だが……
ずずずずずずずずずず~ん!
そいつらを囲むように3方を塞ぐ壁が出現した。
一辺が300メートルもある艶々の黒一色の壁だ。
もちろん軌道上の輸送船から空間移転で送り出したシロモノだ。
おーお、みんなびびってるびびってる……
へっへっへ…… みんな捕まえたぜ。大漁大漁……
俺はマッハ1の速度で10キロの道を踏破した。
息も切らさずに第1皇子軍の前に仁王立ちになる。
おー、感心なことに何匹かのキンキラ鎧が俺に突進して来るじゃねえか。
俺は丁寧にそいつらをしっぽで薙ぎ払い、周囲の壁にブチ当てて気絶させてやったよ。
遥か後方の宮殿前広場から歓声が聞こえた。
まるで戦場にいるかのような臨場感のある映像を見て、興奮してるみたいだな。
はは、ピコのやつ、南門前広場にもスクリーンを設置して、投降した奴隷兵にも映像を見せてやってるわ。
俺は身長を3メートルにして、しっぽを5メートルにした。
そのまま第1皇子軍に向かってゆっくりと歩き始める。
あー、なんだこの小便臭さは!
なんか半数ぐらいのヤツが漏らしてるぞ。
臭えから早く終わらせるか。
俺はまた吼えた。
300デシベルの極大音波衝撃が第1皇子軍に襲いかかる。
3万人ほどのキンキラ鎧と一般兵たちが一斉に気絶した。
ついでに戦闘輸送機に命じて広域ショックランスもお見舞いする。
「「「「「んぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁ~っ!」」」」」
おー、金属の鎧なんかつけてるからショックランスがよー効くわ。
ぷすぷすと煙を上げる鎧狼たちは、あらかた毛が焼けてこんがりくんになってるな。
後はしっぽと耳を切り落として懲役者の首輪を嵌めるだけだから、アンドロイド特殊部隊もラクチンだろう。
俺は第1皇子らしきデブ狼のしっぽを千切って掲げた。
すっかり毛が焼けたしっぽが、ねずみのしっぽみたいでキモかったけど……
宮殿前広場からは更なる大歓声が聞こえて来てたよ。
その後はまず黒い壁を輸送船に送り返し、南門前広場に収容所を作って奴隷兵と黒コゲ狼を収容していったんだ。
湿地帯の周囲ではときどきビカビカとランスが光っていたよ。
周囲100キロに渡って展開させていたナノマシンたちが、発見した他国の密偵らしきやつらを戦闘輸送機に報告して、こんがり焼いて丸裸にしてから集めているようだな。
まあ、黒壁の罠の存在を敵国にわざわざ教えてやるこたぁないからなあ。
その後俺はしばらくぶらぶらしてたんだ。
まあピコたちは忙しそうだったけど。
南側の城壁を全て破壊し、南の大地に続く道の拡幅工事が終わったようだ。
その後は東西の城壁と北の城壁を崩して、南の大地までの道の途中に直径3キロほどの埋め立て地を作っている。
帝都の旧皇族、旧貴族や一般兵どもに加えて、第1皇子軍の全員が懲役刑者の首輪を嵌めて石を運んでいた。
「なあ、ピコ。なんでわざわざ懲役者たちに石を運ばせてるんだ?
工兵ドローン師団にやらせりゃあ1日で終わるだろうに」
(あー、それね。まあ一種の思想教育だよ)
「なんだそれ?」
(連中まだ階級意識が抜けて無いからさ。
肉体労働させることによって、連中の特権階級意識を壊してるんだ)
「ふーん。なるほどなあ」
道の中間地点に広場が出来上がると、そこには工兵ドローン部隊が入って綺麗に整地を始めたようだ。
いかにも軍隊が集結しやすそうな広場だ。
ぐふふふふ。
懲役者たちには今度は宮殿を解体して、その石を王都の西3キロぐらいのところを流れている川沿いまで持って行き、堤防を作る工事を始めさせた。
宮殿の解体が終われば、次は貴族街の番になる。
早く王都を更地にして市民住宅や刑務所を作ってやらんとな。
そうそう。
このころになると、旧奴隷階級、現市民階級の連中が労働奉仕を申し出て来たんだ。
まあ毎日メシ喰うばかりでヒマだったんだろう。
俺は体力の戻った連中に、懲役者に混じっての作業を命じた。
これには旧特権階級も堪えたみたいだな。
なにしろ一緒に石を運んでるのが元奴隷たちだからなあ。
そうこうしているうちに、大陸中の残る10カ国が協議を始めたようだ。
大陸全土に撒いたナノマシンたちからの報告によれば、300キロほど離れた大陸第2の国、メスチーヤ王国の首都に各国軍の重鎮たちが集まって、連合軍設立の軍議をしているそうだ。
同時に離れた国々からは、それぞれ正規軍が集結の為に移動を始めている。
どうやら旧ギルゴル帝国の密偵や、俺の特殊部隊たちの情報戦に引っかかってくれたようだわ。
へっへっへ。
俺は懲役者たちと市民たちに埋め立て工事を急がせた。
まあ、けっこうな重労働だろうが、食事が日に日に豪勢になって行くんで、狼共もそれなりに頑張って働いていたよ。
そのうちに女子供も小さな石を運んで手伝うようになってたわ。
連合軍が来るまでに城壁も宮殿も貴族街も全部潰して、いかにも攻めやすいように見せてやらんといかんからなあ。
1カ月ほども経って、ようやく連合軍が南の台地に集結を始めた。
まあそれだけ時間があれば俺たちの準備も万端だわ。
台地に点在する村々からは、すでに家財ごと農民たちを帝都に避難させてるし。
どうやら、連合軍が俺の国を征服した後の分配は、兵数と武功に応じてすることになったらしく、動員兵力は総計120万に達しているようだ。
まあ、全ての国が最大兵力を出したんで、留守中に侵略される危険が減ったから、余計遠征し易くなったっていうこともあったんだろう。
連合軍の南台地への集結が終わったようだ。
あー、馬鹿狼どもの王族までほとんど集まってるな。
まあ、先陣は奴隷兵に強制するにしても、この星じゃあ強いヤツが王だから、戦争には王も出張らんといかんのだろう。
呆れたことに、夜になると連合軍の王族どもは宴会を始めたようだ。
その様子は、ナノマシン達からの中継で映像や音声まで筒抜けとも知らんでな。
奴隷兵のメシは薄い粥一杯か……
ムカつくヤツらだぜ……
「ふはははは、あのギルゴル王を打倒して王権を簒奪したというのでどれだけの器かと思えば。
新国王になった途端に城壁も王城も破壊してつまらん干拓工事を始めるとはな」
「武勇があり過ぎて少々脳ミソが足りんやつのようだな」
「まさか本当にあの大城壁を崩していたとは……
これは本当のバカモノよのう」
「これで旧ギルゴル帝国もおしまいか……
我が国は12万もの兵力を動員したので、奴隷と財宝の1割は頂きますぞ」
「あの宮殿、欲しかったんだがな。また奴隷たちに作り直させるか」
おーお、好き勝手言ってくれてるのう。
それにしても危機感の無い連中だわ……