*** 295 惑星ヴォルフ 2/7 ***
凱旋門にぶち当たって落ちて来た師団長サマに押し潰された行列の中から、一際デカいのが立ち上がって来た。
「誰だキサマは! 第2皇子の俺様に対して何たる狼藉!」
あーあ、また一人称に『様』つけてるよ。
しかも第2皇子だって……
やっぱこの星の支配層はバカばっかしだな。
「皆の者! 取り囲んでこ奴をひっ捕えろ!」
あー、やっぱり自分は手を出さずに、部下にやらせんのか。
しょーもねーなあ。
豪華な甲冑を着こんだ体格のいい連中が俺を取り囲んだ。
なんだなんだ? 300人ぐらいいるんじゃねえか?
メンドくせえなぁ。
よし! じゃあアレやるか!
(広場の群衆にはフィールドかけとくから、おもいっきりやって大丈夫だよ~♪)
ピコの声が聞こえた。
甲冑たちが飛びかかろうとした瞬間、俺は吼えた。
「ぐおおおおおおおおおああああああああああああ――――――っ!」
音量200デシベルの超絶大音量音波が甲冑たちに襲いかかる。
まあ、ジェットエンジンの至近距離での音量が120デシベルだからな。
その20倍のエネルギーを持つ音を聞いたら、半径50メートル以内のヤツは鼓膜全損で、30メートル以内だったら衝撃波に脳を揺さぶられて完全に気絶するわな。
あはは、俺の周りの甲冑はぴくりとも動かずに倒れてるけど、少し離れた甲冑は倒れたままびくんびくん痙攣してるわ。
やっぱ面白えなこの能力。
非致死性制圧兵器としては最高に優秀だわ。
俺のエネルギーもほとんど減って無いし。
へへ、らくちんらくちん。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……」
そのとき耳を押さえた第2皇子がよろよろと近寄って来た。
自分だけ後ろにいたのが幸いしたんか。
鼓膜は綺麗に全損しただろうに、まだ意識はあるようだ。
「この上は俺様が直々に成敗してくれる!」
だから一人称に『様』をつけるなってば!
第2皇子もしっぽを立てた。
おお、さすがは皇子だけあって、頭の上までしっぽが出てるじゃないか。
毛も立てて、太いところでは30センチぐらいの太さになってるな。
俺はニヤリと笑って自分のしっぽを立てた。
長さ2メートル、つまりまあ俺の頭の上に1メートル以上も立ち上がったしっぽが、さらに膨らんで太さ1メートルになった。
なんだかタヌキみたいで恥ずかしいのはここだけの話だ。
あははは。第2皇子がびびってるびびってる。
しっぽがふるふると震えてるわ。
「う、うううっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおお~っ!」
おお、それでも果敢に突っ込んでくるか。
それじゃあ俺も正面から受け止めてやるか。
俺は左手で鼻をほじったまま顔面でヤツのパンチを受けとめた。
ほー、1トンぐらいの衝撃力はあるかな。
まあ、さすがは第2皇子と言ってやろうか。
だが……
「う、うぎゃああああああああああああああああああああ~っ!」
今の俺の体重は5トン、体表硬度はダイヤモンドの1千倍のままだ。
それを1トンの衝撃力で素手なんかで思いっきり殴りつけたらどうなるか。
まあ、指から手首から腕まで壮絶な複雑骨折で利き腕終了だわなあ。
俺は鼻くそを皇子に向かってはじくと、のたうちまわる皇子の顎を軽く蹴って気絶させた。
そうしてそのしっぽの根元の方を両手で掴んで引きちぎったんだ。
「んぎゃああああああああああああああああああ~っ!」
おお、あまりの激痛に目が覚めたか。
俺はそのまま皇子を脚で押さえつけ、全身の毛を毟り始めた。
ぶちっ! 「うぎゃあ!」
ぶちっ! 「うぎゃあ!」
ぶちぶちぶちぶち! 「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーっ!」
あーメンドくせえなあ。
ピコ、残りの毛も頼むわ。
(あいあーい♪
アンドロイド特殊部隊に高性能バリカン持たせて丸刈りにしちゃうねー♪)
(そんなもんまで持って来てたんかよ……)
宮殿前広場では、しっぽを千切られた第2皇子が俺の目の前で全身の毛も刈られていた。
そのときなんだか丸っこいのが、きーきー言いながら貴賓席から走り寄って来たんだよ。
「ま、ままま、まあっ! な、なんてことを!
わ、わたしのジョニーちゃんになんて酷いことを!
お前たち! すぐにこの無礼者を捕まえて死刑にしなさいっ!」
なんだこいつ…… この星にはブタ人族もいたんか?
あ、ああ、よく見れば狼の特徴もあるのか。
マズルもあるし。
それにしてもなんだよこのキンキラキンの服は。
悪趣味の見本が歩いてるみたいだぞ。
「なにをしてるの!
第2王妃の私の命令が聞けない者も死刑にするわよ!」
それでも周囲の兵士たちは動かない。
あそうか、鼓膜全損で聞こえないんか。
俺を排除しろって命令されてることぐらいはわかるんだろうが。
でもまあ、目の前であんなもんを見ちゃあなあ。
俺があくびしたら、また音波攻撃が来ると思ったのか腰抜かしたしな。
あーあ、俺と目が合ったやつがじゃーじゃー洩らし始めたわ。
「んまあ! んまあ! 死刑よ! お前たちみんな死刑よ!」
あー、自分の命令が実行されないんでヒステリー起こし始めたな。
それにしてもうるせえから黙らせるか。
(おいピコ、こいつにもフィールドを頼んだぞ)
(あいあ~い♪)
おれはブタ狼ババアをちょんと突いて転ばせた。
「ひぃ~っ!」
ババアは見事に転がって巨大なパンツが丸見えになる。
俺はそれを見ないように顔をそむけて、片手でババアの両足首を掴んで振り回した。
最初はゆっくりと、次第に速く。もっと速く。
どどーん!
おお、音速突破の衝撃波か。
あはははケバい服が飛び散ってまっぱになってやんの。
あーあ、肉が遠心力でみんな首の方まで移動して顔が埋もれ始めてるわ。
俺はそのままその肉塊を城に向かって放り投げた。
ずどどどどーん!
肉塊がめり込んだ衝撃で、宮殿の外壁が崩れる。
ブタババアはみんなに尻を見せて、見事にひびの入った城の壁にめり込んでいた。
あー、垂れまくった尻の肉が醜いわあ。
そのとき3つ目の集団が凱旋門をくぐって宮殿前広場に姿を現したようだ。
「なっ、なんだこれはっ!」
そりゃまあ驚くよな。
広場には気絶した甲冑たちが何百人も転がっているし、宮殿の壁にはでっかい蜘蛛の巣状のヒビが入っていて、その中心には蜘蛛じゃあなくってケツがいるんだもんな。
ケツの巣ってなんなんだよそれ!
怖すぎんだろ!!
まあさっきの俺の咆哮が少しは聞こえただろうから、多少は騒動は予想してただろうけどさ。
「と、突然現れた狼藉者でございます!」
おお、まだ耳が聞こえるやつも残ってたんか。
「ええい! なんたるザマだ!
それでもキサマら栄光あるギルゴル帝国の兵士か!
弓隊前に出よ!
総員一斉射撃でこの不埒者を針山にしろっ!」
おお、さすがは指揮官だわ。
この状況を作り出した俺を警戒して中距離攻撃に切り替えるか。
俺の正面にはわらわらと300人ほどの弓兵が展開した。
ふむ。後ろは宮殿の壁だから民衆は大丈夫だろ。
「てぇ~っ!!!」
おー、300本の矢が一斉に殺到して来とるわ。
ふむ。まあまあかな。
50メートルの距離から射って着弾は250発か。
それも顔面と体の正中線に集中しとるじゃないか。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~っ!」
あはは。
流れた矢が蜘蛛の巣の中心のブタケツに刺さってら!
俺は周囲に散らばる矢を踏みしめながら指揮官に近寄って行った。
気だるそうにケツをぽりぽり掻きながらな。
俺のしっぽの威圧に耐えかねた弓兵たちが後ずさりして道を作る。
指揮官を囲むように守るキンキラキンの全身鎧たちは、必死になって立ってはいるが、みんな腰が引けているなあ。
俺は無造作にしっぽを動かし、全身鎧たちを四散させた。
10メートルほどの距離で対峙した指揮官は覚悟を決めたようだ。
「ギルゴル帝国近衛騎士団長、グレゴール・カルバドス、参る!」
ああ、さすがは近衛騎士団長だな。
素手で突っ込んで来たよ。
こういうバカは嫌いじゃないんで、俺もヤツの拳に合わせて拳を出してやった。
「ぱしゃっ」
不思議な音と共に、ヤツの肩から先が飛び散った。
辺りには血と肉と白っぽい骨が散らばっているだけだ。
そうか、マッハ5の拳速のパンチを受けると人体はこうなるんか。
まあ大半は音速突破の衝撃波の仕事なんだろうが。
激痛のあまりその場に崩れ落ちた近衛騎士団長に近づき、そのシッポを千切り取る。
騎士団長はびくんと痙攣しただけだった。
「おうピコ、こいつを死なんように介抱しといてくれ」
(あいあ~い♪
ついでに全身の毛も毟っておくね~♪)
そのとき、凱旋門の奥から一際デカい狼野郎がのしのしと出て来た。
おー、デカいな。
身長は2メートル50センチ。
体重も300キロ近くあるんじゃねえか?
こいつが親玉だな。
貴賓席からメス狼たちの歓声が上がった。
「きゃー! 帝王さまぁ!」
「そんなボロっちい服の田舎もんなんかワンパンでやっちゃってーっ!」
「そんなヤツ、早くやっつけちゃって、ハーレムでまた可愛がってぇ~!」
なんともお下品な后たちもいたもんだわ。
まあ、この下品な支配層にはふさわしいんだろうが……
「静まれいっ!」
デカブツの大声が響き渡る。
俺の音波兵器には比べるまでもないが、それでもなかなかの音量と迫力だ。
宮殿前広場を一瞬で静寂が支配する。
「キサマの帝権への挑戦、しかと受け止めてやる。
俺に勝てればキサマはこの国の帝王だ。
勝てればの話だがな……」
そう言うと、王はしっぽを掲げた。
長さは3メートル近い。太さも1.5メートルはあるな。
はは、さすがは王だぜ。けっこうな迫力だ。
だが……
俺は体をデカくしながら王に近寄っていった。
俺の身長は今、3メートルほど。
しっぽの長さは5メートルだ。
俺の背後に巨大なしっぽがそそり立った。
広場の群衆から声にならないうめき声が聞こえる。
「なるほど……
これほどまでの強者が現れたか。
ふふふ。相手にとって不足無しっ!」
うん。強者は強者を知るって本当だったみたいだな。
こいつ、俺の戦闘力がわかったみたいだ。
自分では到底敵わないだろうこともだ。
それでも悠然と立ってるじゃあねえか。
ああ、こういうヤツは嫌いじゃねえな。
「キサマの名は?」
「ガイザルだ」
「ガイザルに問う。
もしも俺に勝ててこのギルゴル帝国の帝王になれたとして、お前はどのような王になるつもりか!」
「いや。俺はこの国の王になるだけのつもりは無い。
この星の全ての国を併呑して、ガイザル統一帝国を作る」
「その国の目的は!」
「食糧生産を20倍にして人口を10倍にすることだ!」
王は声を小さくした。たぶん俺にしか聞こえないだろう。
「ふふふ、キサマなら出来るかもしらんな」
王はまた大音声で吼えた。
「よしっ! かかって来いっ!
ギルゴル帝国皇帝、マグダエル・フォン・ギルゴルが相手になってやるっ!」
(ピコ、こいつを死なせんようにフィールド頼んだぞ)
(あいあ~い♪ 任せてちょ~♪)
気合いの抜けるピコの声を聞きながら、俺は王に突進した。
マッハ10のパンチが王に襲いかかる。
ずがががが~ん!
石畳の広場にクレーターを作りながら王が飛んだ。
広場の壁を吹き飛ばし、貴族街を破壊して飛んで行く。
ガラガラと音を立てて崩れる石造りの邸宅をいくつか倒壊させたところで止まったようだな。
よかったよ。
貧民街には被害は及ばなかったようだな。
手加減した甲斐があったってぇもんだ……