*** 290 惑星ケット 5/7 ***
翌日にはもう畑はほとんど完成してたの。
どろーんさんたちが夜通し働いてくれたんですって。
どろーんさんたちってほんとにすごいわ。
でもあんまり働き過ぎて疲れちゃわないといいんだけど……
それから、畑から少し離れたところに不思議なものがあったのよ。
やっぱり黒っぽい石で出来た細長い家ぐらいの大きな箱みたいなものなんだけど……
その南側の正面と天井だけ、四角く格子みたいになってるの。
そこに小さいドローンさんたちが、『がらす』を嵌めていってるのよね。
そんな大きな箱が全部で20個ぐらいもあるのよ。
「あれは何を作っているの?」
「あれは温室を作っているんですよ。
温室の中はとっても暖かくなるんで冬も作物を作れるんです」
「ええっ!」
「普通は超強化ガラスを使うなんてもったいないんですけどね。
なにしろこの星は、銀河有数のガラス原料の産地ですから」
アイラちゃんは10日ぐらいって言ってたのに、3日後にはもう畑も『おんしつ』も出来ちゃった。
「いえ、まだ畑を囲む石垣が出来ていませんから」
それからは一辺が50センタぐらいある大きな石の塊が、倉庫から大量に出て来たの。
いくらなんでもあんなにたくさん倉庫に置いてあるわけないわよね、って言ったら、別のところにある工場から『てんいのまどうぐ』で運んでるんだって。
はあ、便利よねえ。
それで3日もすると、畑と村を囲むとんでもない大きさの石垣が出来たわ。
厚さが2メルトもあって高さが3メルトもあるんですもの。
アイラちゃんは、これでもう獣が畑の作物を荒らすことは無いですね、って言ってたけど……
そうそう、森の獣たちも別の場所に保護してあるんですって。
大陸中のすべての村や町を覆う石垣が出来て、森も回復させたら獣たちも森に帰してあげる予定らしいわ。
翌日からはドローンさんたちは、倉庫から木を取り出して植林を始めたの。
見慣れた木もあったけど、見たことのない木もたくさんあるみたい。
「元の木はあまり大きくならない木でしたから。
ですから大きく育つ木と、腐葉土を作るための落葉樹と、あと果樹もたくさん植えておきますね」
っていうことは秋になると木の実がたくさん生るのかな。
えへへ。楽しみだわ。
それにしても、ドローンさんたちって本当に働き者よねえ。
或る日、わたしは川沿いの道を登って、薪置き場に薪を取りに行ったの。
以前に火山灰を取り除く前に一旦木を保護しておくとき、ついでに枝打ちして薪をいっぱい作ってたそうなんだけど。
でも一か所に置いておくと万が一火事になったときたいへんだから、何カ所かに分けて保管してあったのね。
それでわたし、今は畑で働く季節でもないし、上の薪置き場から村の置き場に少し薪を移動させようとしたんだ。
だって水汲みもしなくていいし、することが無いんだもん。
どろーんさんたちがあんなに一生懸命働いてくれてるんだから、わたしも働かなきゃ!
そうしてたくさんの薪をかついで歩いてたらね、上の方から大きなどろーんさんがごとごと降りて来たのよ。
「お嬢ちゃん、村まで行くんだか?」
びっくりしちゃった。
どろーんさんって喋れるんだ……
「う、うん。薪を村まで運んでるんだ……」
「えらいのう。じゃあもしよかったら、オラに乗って行かないか?」
「えっ、い、いいの?」
「そうだの。お嬢ちゃんが何度も往復するのはたいへんだろうから、まとめて薪を運ぼうかの。
それじゃあオラに乗ってくんろ。薪置き場まで乗っけてくから」
「あ、ありがとう……」
わたしは薪の山をどろーんさんの荷台に置いて、前の方に座ったの。
ちょっと座りにくかったけど、ドローンさんが腕みたいな部分を私の前に置いてくれて、それに掴まれたから大丈夫。
あー、すごいすごい! 坂をぐんぐん登って行く!
えへへ、らくちんらくちん。
「ほんとうにどうもありがとう。助かるわ。
あ、わたしはキャシー。あなたのお名前は?」
「オラは、第415特別工兵師団所属のTA型ドローンだ。
得意なのは溝掘りと資材運搬だあ」
「えー、所属じゃなくってあなたのお名前は?」
「お、オラ、名前は無いんだ……
認識番号は00539番だけんど」
「えっ、お名前が無いの?」
「んだ……」
「じゃあわたしがお名前つけてあげる!
だってこれからおしゃべりするとき不便だもの。
え~っと、TA型で00539番さんか……
あ! じゃあタゴサクさんは?」
タゴサクさんは突然ビタッと止まっちゃったのよ。
「あ、あの…… 気に入らなかった?
ご、ごめんなさい……」
「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!
お~んおんおんおん! ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!」
「そ、そんなに泣くほど気に入らなかったの!
ご、ごめんなさいっ! い、今もっと可愛い名前を考えるから……」
「お、オラ、ヒューマノイドさまに名前をつけてもらっただよぉう!
まるでミニAIさまみたいな大出世だよぉう!
う、ううううう…… うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!」
よ、よかった……
名前が悲しくって泣いてたわけじゃあないみたい。
でもそれからしばらくタゴサクさんは泣きやまなくって、少し困ったのは確かだけど……
だから頭みたいに見えるところをずっと撫で撫でしてあげてたんだ。
わたし、ようやく動き始めたタゴサクさんとずっとお話してたの。
「タゴサクさんは溝掘りが得意なのね」
「ううっ、ぐすっ。そ、そうだ。オラ溝掘りが得意なんだ。
ダムから流れる川の本流から、この村までの川を作っただ」
「うわー! タゴサクさんってすごいのねえ!
たいへんだったでしょう!」
「いんや。それがオラの仕事だし」
「でもありがとう! わたし、川って生まれて初めて見たのよ。
もう水汲みもしなくっていいし、畑にもいっぱい水を撒けるし。
タゴサクさんのおかげね!」
「そ、そそそ、そんな…… オラ任務を果たしただけで……」
「それでタゴサクさんは、わたしや薪なんかを運んでくれてていいの?
お仕事は大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫だぁ。
オラ、分隊本部に行って定期メンテナンスをするところだったから……」
わたしたちは薪置き場に戻ってたくさん薪を積んだの。
ちょっと多すぎるかなって思ったら、タゴサクさんが途中で道のわきを平らにしてくれて、小さな薪置き場をいっぱい作ってくれたのよ。
えへへ、これで薪運びがずいぶん楽になるかも。
あ、もう村に帰って来た。早いなあ。
「タゴサクさん、ちょっと待っててね!」
わたしは走って家に帰って、そうして水桶やたわしなんかを持って来たの。
「タゴサクさんの体、少し土で汚れてるから洗ってあげるね」
わたしがタゴサクさんを洗ってあげてたら、またタゴサクさんが大声でおんおん泣いちゃったんだけど……
そんなに喜んでもらえるんだったら、これからも洗ってあげようかな。
それからわたしは何度もタゴサクさんにお礼を言って、家に帰ったのよ。
翌朝早くに家を出たら、びっくりしちゃった。
だって、わたしたちの家の周りを囲んでどろーんさんたちがいっぱいいるんだもの。
「あ、キャシーさま……」
「違うわよタゴサクさん。さまなんかつけないで。
わたしたちは、もうおともだちさんなんだからキャシーでいいわ」
わたしがそう言ったら、他のどろーんさんたちからどよめきみたいな声が上がったの。
「そ、それでキャシーさん。
き、昨日はオラに名前をつけてくれて本当にありがとう……
そ、それで……
オラの仲間たちが羨ましがって、もしキャシーさんがよかったら、こいつらにも名前を……」
「あ、みんな村の為に働いてくれてるどろーんさんたちよね。
もちろんいいわよ。
あら、あなたは確か村の周りに木を植え直してくれてるどろーんさんよね」
「は、はい。わたしは植樹と森の整備用のドローンです。
認識番号は0038番です」
「あら、可愛らしい声。それに体も赤いし。
あなた女の子なのね。
そうかあ、0038番さんかあ。
あ! それじゃあ『ミーヤ』っていうお名前はどうかしら?」
「み、ミーヤ…… う、うぇぇぇぇぇぇぇぇ~ん!
か、可愛い名前をありがとう!」
「お、オイラは耕作用ドローンで、認識番号は0568番なんだけど……」
「じゃあ、『ゴロハチ』さんでどうかしら?」
「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!」
「え~っと、あなたたち3人は、みんな同じ形なのね……
001番さんと002番さんと003番さんか。
うふふ、3人兄弟なのね。
じゃあ『イチロー』さんと、『ジロー』さんと、『サブロー』さんね」
「「「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~ん!」」」
「それからあなたは……」
こうしてわたしはみんなにお名前をつけてあげて、そうしておともだちになったのよ。
翌日また驚いちゃった。
だってみんなが体に大きく名前を書いてるんですもの。
「タゴサク」とか「ゴロハチ」とか「ミーヤ」とか「イチロー」「ジロー」「サブロー」とか……
昨日の夜、『ぶんたいほんぶ』でみんなで書いたんですって。
よっぽど嬉しかったのねえ……
そうそう。
タゴサクさんの体の上に、椅子が出来てたのよ。
昨日私を乗せてくれたときに、私が座りにくそうだったんで作ってくれたんだって。
「試しに乗ってみてくんろ」って言うんで乗らせてもらったんだけど。
柔らかくってすっごく座り心地がいい椅子だったのよねえ。
そうしてタゴサクさんは川沿いの道や村の広場を走ってくれたんだけどね。
なんだか村の子供たちがみんなこっちを見てるのよ。
そのうち一番小さい女の子のジュニがこっちを指差して泣いてるし。
わたしはタゴサクさんから降りて子供たちの方に行ったの。
「どうしたのジュニ。なんで泣いてるの?」
「あ、キャシーお姉ちゃん。
こいつ、わたしもあれに乗りたいって泣いてるんだ」
「『あれ』じゃあないわよ。タゴサクさんよ。
それじゃあタゴサクさんに乗せてくれないか頼んでみたら?
きっと乗せてくれるわよ」
「うん! タゴサクしゃんに頼んでみる!」
ジュニはとてとてとタゴサクさんの前に走って行って言ったのよ。
「タゴサクしゃん! わたちも乗せて!」って。
それからはたいへんだったの。
4人の子供たちがきゃーきゃー言いながら、交代でタゴサクさんに乗せてもらったの。
村の大人たちもみんな広場に出て来てその様子を見ていたわ。
翌朝はまたびっくりしちゃった。
だってどろーんさんたちの体の上に、みんな椅子が出来てるんですもの。
タゴサクさんなんか体が大きいから椅子が8つもあったし……
椅子にもベルトみたいなものがついてて、それをカチッてすると椅子から落ちないようになるのよね。
しかも体の中からにょきにょきって小さな階段が出て来て、子供でも乗りやすいようになってたし。
どろーんさんたちったら、みんな自分を改造しちゃったのね……