*** 288 惑星ケット 3/7 ***
そんな生活が続いていた或る晩のこと、わたしはまたアレクにたくさん愛してもらって、ぐっすり眠っていたの。
もちろんアレクも疲れ果てて眠っていたわ。
そしたらね。夜のお空がものすごく明るく光ったのよ。
晴れた日の太陽よりも眩しいぐらい。
わたしとアレクはびっくりして飛び起きたんだけど、すぐに小屋の戸をノックする音と大きな声が聞こえて来たの。
「ご無事ですか! ご無事ですか!」って……
「あ、はい。大丈夫です…… 今戸を開けますね」
開いた戸の外に見えたのは、見知らぬひとだった。
とっても綺麗な顔をしていてなんだか雰囲気が全然違うの。
着ているものも白いマントみたいな服で、見たことの無い形だったわ。
「ああ…… ああ……
よ、よかった。ご無事でなによりです」
「あ、はい。2人とも無事です……」
「これで全員ご無事でしたか……
上流の方では水が少なくて危ない方もいらっしゃいましたけど。
それにしても皆さんの生き延びようとする努力には頭が下がります。
こうやって村を分散してまで……」
「あ、あの。
これは村長さんが代々受け継ぐ緊急避難方法なんだそうです」
「そうだったんですね……
どんな逆境でも希望を捨てない素晴らしい方々だ……
それにしてもなんというE階梯の高さでしょうか……
若い方々に資源を集中させて、自らは犠牲になってでも生き延びさせようとするとは……
自己紹介が遅れました。
私の名前はアイシャルです。
この地域を担当させて頂くことになりました。
これでも見習いAIなんですよ」
「あ、あの…… キャシーです……」
「あ、アレクです……」
「おお! お2人ともお若いですね! ご兄妹ですか?」
「い、いえ、これでも夫婦なんですけど……」
「これはこれは失礼いたしました。
それでアレクさん、キャシーさん。
もう大丈夫ですよ。
この惑星は、神界の『銀河救済機関』により、『激甚災害SSSクラス惑星』に指定されました。
畏れ多くもサトル神さまの命により、ただちに全面的な緊急援助活動が開始されます。
援助だけでなく、大陸改造も」
「は、はい……」
「それで、お2人はいったんわたしどもの船に来ていただけませんでしょうか。
ここから上流にあった避難村の皆さんも、もう集まっていただいていますから」
「お、お母さんとお父さんもいるんですか!」
「もちろん! それから村の皆さんも。
持ち物はあんまり必要無いですよ。
船には全部揃ってますから」
「で、でも食べ物とかお水とか……」
アイシャルさんはにっこりと微笑んだ。
なんだかとっても安心させてくれる笑顔だったわ。
「水も食べ物も超大量にあります。
この村のひとたち全員の1000倍の1000倍のそのまた1000倍のひとたちの100年分ぐらいありますし、万が一足りなくなっても、緊急援助部がすぐに届けてくれますよ。
なにしろこの大陸中のひとたち全員に、いったん船に避難していただく計画ですからね」
「あ、あの……
わ、わたしたち、お金なんかぜんぜん持ってないんですけど……」
「ははは。まったく必要ありません。
すべてはあの偉大でお慈悲溢れるサトル神さまの思し召しなのです。
まあ、食べ慣れたものや腐りやすいものがあったら、わたしの部下が持って行きますから。
無駄にしてしまったらもったいないですからね」
小屋の周りの壁の外には、不思議な色をした四角い小さな家みたいなものがあったの。
わたしたちがアイシャルさんの後に続いてその家みたいなものに入ると、すぐにものすごく広いところに出たんでびっくりしちゃった。
なんでも『てんいのまどうぐ』って言うんですって。
それから薄らと光っている不思議な廊下を歩くと大きな部屋に着いたんだけど、そこには村中の人たちが集まっていたのよ。
「お母さん! お父さん!」
わたし、また大泣きしちゃった。
でもお母さんもお父さんも大泣きしてたから仕方無いわよね。
村長さんも嬉しそうにまたわたしの頭を撫でてくれたわ。
それからすぐに元の村のお年寄りや小さい子たちも連れられて来て、みんなで再会を喜びあったの。
そうしてみんなで隣の部屋に移動して朝ご飯を食べたんだけど……
びっくりしちゃった。
白いパンも具がたっぷり入ったスープもお肉もお野菜もあって、ものすごく豪華なんですもの。
まるで結婚式のときのご馳走みたい。
ううん、それ以上だったわ。
だって卵まであったし、最後には甘いお菓子まで出て来たし。
『でざーと』って言うんですって。
もうみんな夢中で食べてたわ。
しかも、お茶やお水も飲み放題なのよ。
食事中にアイシャルさんがみんなに小さな子を紹介してくれたの。
アイシャルさんと同じような服を着ている15歳位に見える女の子なんだけど、やっぱりなんだか違って見えたのよね。
「この子はミニAIのアイラと言います。
皆さんがこの船にご滞在下さっている間に、皆さんのお世話をさせていただきます。
わからないことがありましたら、なんでもこのアイラに聞いてください」
「アイラと申します。皆さまどうぞよろしくお願い致します」
アイラちゃんはそう言って、ぺこりと頭を下げたの。
髪を白いリボンで結んだとっても綺麗な子だったわ。
大満足の朝ご飯が終わると、アイラちゃんが家族ごとに、さっきの大きな部屋から延びる廊下沿いの部屋に案内してくれたの。
お母さんに一緒に住むかって聞かれたんだけど、わたしもうアレクの奥さんなんだからアレクと住みますって答えたんだ。
だってそうしないと、夜アレクにエッチなことしてもらえなくなっちゃうもん。
それにアイラちゃんが用意してくれたわたしとアレクの家は、お母さんとお父さんの家のすぐ隣だったから寂しくなかったし。
わたしたちは部屋に案内されてまたびっくりしちゃった。
だってものすごく広くって綺麗だったんですもの。
広い居間に大きなテーブル、それから広いベッドのあるお部屋。
それになんと水浴び場までついているのよ。
しかもお湯まで出るんですって。
「あの…… 水浴びは月に何回ぐらいまでしていいのかな?」
わたし、アイラちゃんに聞いてみたんだけど、アイラちゃんが微笑みながら言うのよ。
「何回でもお好きなだけどうぞ。
なんでしたら、1日に5回でも10回でもお好きなだけ」
本当にびっくりしちゃったわ。
きっとアイシャルさんたちって大きな井戸をたくさん持ってるんでしょうねえ。
それからは、みんな昼は最初の大きな共同リビングルームっていう部屋で過ごして、夜は家族の部屋に戻って寝る生活が始まったのよ。
もうひとつびっくりしたのは、朝ご飯と夕ご飯だけじゃあなくってお昼のご飯まであったことね。
しかも食べ放題で、毎回あの甘いデザートまで付いてるんですもの。
共同リビングにいる間は、みんなでアイラちゃんに質問ばっかりしてたわ。
「こんなにたくさんのお水や食料を頂いて、いったいどうやってお礼をしたらいいんでしょうか」
「ご心配なく。すべてはあのサトル神さまの思し召しでございますから」
「それでも命まで助けていただいたんですよ。
いったいどうやってこのご恩をお返ししたらいいものやら」
「それでは皆さん。
サトル神さまがお喜びになられることをお伝えさせていただきます」
「な、なんでもしますよ。
どうしたらサトル神さまはお喜びくださるんでしょうか」
アイラちゃんはにっこりと微笑んだの。
「まずはサトル神さまに感謝の祈りを捧げてください。
あ、そんなに頻繁でなくてもいいですよ。
そうですね。
お食事の前に、10秒ほど祈って頂くことで十分でしょう。
それから……」
「そ、それから?」
「みなさん、惑星改造が終わって作物がたくさん実るようになったら、たくさん子孫を増やしてくださいね♪
それこそがサトル神さまの御心に叶うことなのです」
わたし、思わず顔が赤くなっちゃった。
だって、村の大人たちはもうみんなけっこうな歳だし、わたしとアレク以外の子供もまだ小さいし。
だから村の子供を増やすのって、まずはわたしとアレクの仕事になっちゃうんだものね。
それにしても、たくさんエッチなことして子供を生むことでサトル神さまがお喜びくださるなんて……
サトル神さまって、ちょっと変わった方なのかしら?
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「ふ、ふ、ふ、ふぇっくしょん!」
「おや、あなたさま。お風邪を召されたかの?」
「うーん、風邪じゃあないと思うけど……
そうそう、そういえばアダム、あの『激甚災害SSS指定』された惑星ケットってどうなった?」
(さきほど現地から報告映像が届きましたが、ご覧になりますか?」
「是非見せてくれ……」
30分後。
「あなたさま……
なんという…… なんという勇気ある人々でしょうか……」
「大勢死ぬのを覚悟の上で村を分散し、中でも若い2人に資源を集中させて生き延びさせようとするとは……
アダム、この連中のE階梯はいくつだ?」
(惑星平均で5.1、この村の平均は5.9もございます)
「やはりな。
この惑星に派遣している救援部隊の規模は?」
(1個軍団、AI81名とドローン部隊4万です)
「至急12個軍団に格上げしろ。
特別ドローン工兵部隊3個軍団も送れ。
なんとしてでも惑星住民全員を救うんだ」
(畏まりました)
それでこの星の話をローゼさまが『ガイア観察日記』に書いたんだ。
そしたらもう大反響よ。
あっという間に週間ヒット数が5京件になっちゃったそうだ。
つまり銀河のヒューマノイドの5人に1人が見てるそうだな。
まあ無理ないか。
技術力も文明度も高い神界認定世界の住人からすれば、こうした後進星の暮らしそのものが衝撃的なんだろう。
しかもその世界で、自然災害によって今まさに人口の9割までもが死につつあったんだから。
おかげでまた銀河宇宙全体から、とんでもない金額の寄付金が神界に贈られて来たそうだ。
「これであの惑星や同じように困っている星を救ってくれ!」って……
ついでに俺はローゼさまに頼んで『ガイア観察日記』に広告を入れて貰ったんだ。
『VRゲーム機の販売収益は、全てこの救済事業の為に使われています』ってな。
その方がゲームの普及率が上がって、銀河全体のE階梯上昇が早まるんじゃないかって思ったんだ。
実際に使ってるし。
まあ本当はその分だけじゃあ全く足りないから、相当に持ち出しになってるけど。
惑星ケットの全住民一時避難は順調に進んだらしい。
もともと住民は8000万しかいなかったし、その住居も乏しい水場の近くに集中してたからだそうだ。
俺と奥さんたちも、毎日惑星ケットからの報告を受けて、ようやく少し安心出来るようになった。
他の要救済惑星についても、当初の救済部隊計9000個師団に加えて追加の工兵ドローン部隊も大量投入されてるから、もう大丈夫だろう……




