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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第2章 銀河宇宙篇
286/325

*** 286 惑星ケット 1/7 *** 

 



 わたし、キャシー。

 辺境の国のそのまた辺境の小さな村に住む13歳の女の子なの。


 私たちの村は森に囲まれた窪地にあるんだけど、森の恵みを街や王都に届けるために御先祖様が切り開いた開拓村だったんだって。



 村に住む人たちは全部で100人ぐらいしかいないの。

 しかもほとんどは15歳以上の大人ばっかりで、子供は私も含めて6人しかいないのよ。

 それも4人はまだ6歳以下の小さな子で、同じぐらいの年の子は14歳のアレクだけなんだ。


 街や王都に行けば、子供が大勢集まる学校っていうのもあるらしいんだけど、わたしたちは、村長さんの家で字の読み方や書き方を教わっただけなのよね。

 学校ってどんなところかしら?

 いつか行ってみるのがわたしの夢だったんだ。


 だけど、一番近くにある街でも大人の足で5日かかるし、王都までは30日もかかるんだもの。

 子供の足だと無理だから、大人になったら行ってみようと思って楽しみにしてたの……



 でも……

 もう無理かもしれない……


 大人たちが暗い顔で話してるように、今年は雨が少なすぎるの。

 村の東にある井戸の水がどんどん減って来ちゃってるんだもの。

 だから村の畑に撒く水が足りなくなりそうなんだ。

 このままだと大飢饉になってみんな死んじゃうかもしれないんだって……


 それで大人たちがみんなでもっと井戸を深く掘ってるから、私とアレクが水を汲んで村に運ぶ仕事をしてるの。



 村長さんに教えてもらったんだけど、この国やその隣の国やそのまた隣の国も含めて、この大陸は火山灰っていうものに厚く覆われているんだって。

 大陸の真ん中には大きな大きな山があって、大昔にその山が噴火したときに積もった火山灰だそうなんだけど。

 だから雨は降るけど、みんな地面にしみ込んじゃって、川っていうものが出来ないのよ。

 川ってどんなものなんだろう?



 この村から大きな山に向かって緩やかな斜面を100日ぐらいかけて登って行って、大きな大きな山のふもとまで行くと川っていうものがあるらしいの。

 でもすぐに地面にしみ込んじゃって『ふくりゅうすい』っていうものになっちゃうんだって。


 村長さんのおじいさんが子供のころには、その川のあるところにも村を作ったそうなんだけど、でもそこは寒くって作物がほとんど実らなかったそうなの。

 それにその辺りは大きな獣も多くって危険だったんですって。

 だからふくりゅうすいに沿って斜面を下って来て、暖かくて大型獣が少ないところに今の村が出来ていたのね。


 斜面を下れば下るほど、ふくりゅうすいが深いところを流れるようになるそうなんだけど、この村はご先祖様たちが苦労して掘って作った窪地にあるの。

 たいへんだったでしょうねえ。



 それでも井戸を掘るのは大仕事なのよ。

 井戸の周りの土がすぐに崩れて埋まっちゃうから、お茶碗みたいな形に窪地を掘っていくしかないのよね。


 村の近くでは30メルトぐらいの深さまで穴を掘ると、穴の底が固い土になって水が湧き出て来るんだけど。

 でも、雨が少なくなったせいで、そのふくりゅうすいも減って来ちゃったんだ。


 だから大人たちがあと10メルトぐらい穴を深くしてるの。

 土も固いし周りの火山灰もどけなきゃなんないんでたいへんなのよ。

 だって、今でも井戸の周りは100メルトぐらいある大きな穴なんだけど、それを150メルトまで広げるんっていうんだもの。

 大人たちが全員で掘っても、50日ぐらいかかるんだって。




「ねえ、アレク。お水たくさん出るようになるかなあ」


 わたしは水桶を乗せた荷車を押しながら、前で引っ張るアレクに聞いてみたの。


「ああ、大人たちが、水がたくさん出るまで掘り続けるって言ってたからな」


「でも、もし出なかったら……」


「そんなことみんなの前で言うなよ。みんな頑張ってるんだから」


「うん……」




 わたしたちの仕事は、村の20軒の家を順番に回って水がめに水を入れていくことなの。

 いつもと違って少し土が入って濁った水だったけど、しばらく経つと土が水がめの底に沈むから、そーっと上の方の水をすくえば大丈夫。

 それでもときどきパンやスープに土が混ざるのよね。


 桶の底に残った土だらけの水は、畑に撒くの。

 畑の土は、井戸を掘ったときの土を持って来た少し茶色いものなんだけど。

 でもやっぱりすぐに水がしみ込んじゃって、表面もお日さまに照らされてすぐに乾いちゃうんだ。



「こむぎさん、こむぎさん。

 今お水を撒いたから、早く吸ってね。

 早く吸わないと土の奥の方まで滲みていっちゃうから」



 わたしとアレクはまた空の荷車を曳いて急いで井戸に戻ったの。

 全部の家の水がめをいっぱいにするにはあと8往復ぐらいしなきゃなんないし、そのあとも畑の小麦さんに水をあげるために10往復はしなきゃなんないのよね。

 いつもは大人たちが交代でやってる仕事だけど、今は大人たちはみんなで井戸を深くしているから、わたしたち一番大きな子供が頑張らなきゃ。



 村長さんが言ってたんだけど、10年ぐらい前にもおんなじように雨が降らなかったときがあったんだって。

 それで作物が実らなくって、村の人が大勢死んじゃったの。

 特に体力の無い子供とお年寄りが死んじゃったそうなんだけど……


 わたしとアレクのおとうさんは狩人だったから、何日も何日も森の中に入って獲物を狩って来てくれたのよ。

 村のみんなにも分けてあげたんだけど、それでも体力の無い小さな子供から死んじゃったんだって。


「お前たちは特別な子供だったのかもしらんな」

 村長さんはそういって微笑みながら、やせ細った手で生き残ったわたしとアレクの頭を撫でてくれたのを覚えてるわ。



 その年は、王都からの救援物資が届いてなんとかなったの。

 王さまがお城の蔵が空になるまで財宝を売って、それで遠い国から食料を買って国中に分けてくださったんだって。


 でも……

 村長さんが暗い顔で村の大人たちと話をしてるのを聞いちゃったんだけど、どうも今年の水不足って、10年前よりもひどいらしいんだ。

 行商人さんによると、隣の国もそのまた隣の国も水不足なんだって。



 大人たちが一生懸命深く掘った井戸がとうとう完成したんだけど、でも水の量はそんなには増えなかったわ。

 それも日に日に細って来てるらしくって、大人たちはみんな元気が無かったの。


 井戸の水が私たちが飲む分しか無くなったころ、村の集会場に大人たちが全員集まって集会を開いたみたい。

 わたしとアレクはまだ子供だからって参加させてもらえなかったけど……





「もう畑に撒く水が無くなってしもうた。

 このままでは小麦も野菜も全部枯れてしまうだろう」


「どうしよう。このままだと……」


「先週息子を王都に向けて出発させた。

 10年前のように国王さまからの救援物資が届くのかどうか確認させにな。

 だが……」


「行商人の話だと、今年の水飢饉は10年前より遥かに酷いらしいぞ。

 王都も隣の国もそのまた隣の国も雨が降らずに苦しんでいるようだからな」


「この村の食料はあと半年分ぐらいしか残っていないか……」


「その前に井戸が枯れたら全滅か……」


「どうしようか村長」


「みんな聞いてくれ。

 もうこの国の村長たちに代々伝えられている緊急避難策を取るしかないようだ」


「そ、それはどんな方法なんだね」


「あと50日ほどで王都に向かわせた息子が帰って来るだろう。

 運が良ければ救援食料とともに。

 だが、それを待っているだけでは、もし救援食料が無かったらみんな死んでしまう。

 たとえ食料があったとしても、飲み水が無ければ全滅だ。


 だから、これからみんなでいくつかの伏流水沿いに斜面を登って、昔の井戸跡を掘って行こう。

 まずは1日登ったところにある狩り小屋の井戸からだな」


「だが、あの井戸を深く掘ってもそんなに水は出ないし、その水で作れる作物もせいぜい数人分だぞ」


「だからそこで水を補給したら、更に斜面を登って行って、昔の井戸跡を深くしてその脇に小屋を建てて小さい畑も作るんだ。

 幸い大昔に作られた小屋跡と井戸跡が何本かの伏流水に沿ってたくさんあるからな。

 そうして、水の出た井戸の周りに小屋と畑を作って、数人ずつに分かれて暮らしていこう」


「で、でも、そんな方法だと村人全員が助かるのは……」


「残念ながらそうだ。全員が助かることは無理だろう」


「「「「…………」」」」


「だが何人かは生き延びられるかもしらん。

 昔からこの国の住民は、水飢饉の度にそうやって人数を減らしながら生き延びてきたそうだ」


「そうか…… もうそれしか方法は無いだろうな……」


「この村の井戸も畑も10人ぐらいまでだったらなんとかなるだろう。

 残すのは老人と幼い子供か。

 体力のある大人は斜面を登って小さな避難村を作っていくわけだ」


「最初の狩り小屋はせいぜい2~3人が限界だぞ」


「みんな。それで提案があるんだが聞いてくれるか」


「なんだ?」


「最初の狩り小屋の住民なんだが……」




 翌日から、大人たちは子供と老人を残して全員で斜面を登っていったの。

 みんな持てるだけ食料と水を持って。

 そうして伏流水沿いに小さな小さな避難村をたくさん作って行くんですって。


 わたしとアレクは村に残って水汲みなんだ。

 もう村の人数は10人ぐらいしかいないから水汲みもすぐ終わるし、畑も10人分だから畑に撒く水も少しはあったのよ。

 大人たちはときどき村に降りて来て、食べ物を持ってまた登って行ったわ。


 そうして50日が過ぎた頃、村長さんが村に降りて来たときに、息子さんがボロボロになって王都から戻ってきたの。


「ああ…… ああ…… まだ村がある……

 で、でも村のみんなは……」


「落ちつけ。みんな無事だ。今のところはな。

 今みんなは伏流水沿いに斜面を登って、昔の井戸跡を掘り返しているところだ。

 周りに小さな畑も作って小規模な避難村をたくさん作っているんだ」


「そ、そうか…… とうとう最後の手段を始めたんだね」


「そんなことより王都はどうだった?

 救援物資は期待できるのか?」


 村長さんの息子さんは力無く首を振ったわ。


「いや。王都の様子はこの村よりももっと酷かった。

 井戸を80メルトまで掘ったけど、もう住民1人当たり1日2リットの水配給しか無いんだ。

 畑に撒く水なんか無いから作物がみんな枯れ始めてたよ」


「ほ、他の国は?」


「周りの国も同じような状況だそうだ。

 とても救援物資なんか期待できない……」


 そう言うと息子さんはがっくりと肩を落としたの。


「そうか…… 

 100年ほど前にも同じような酷い水飢饉があったそうだな。

 そのときは人口が10分の1になったそうだ。

 それから100年かけて今の人口に戻ったが、またあれをやり直すのか……」


「うううううっ……」


「さあ、それでも我々は生き延びる努力を続けるんだ!

 最後の最後まで!」




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