*** 277 AI族への褒美 ***
『対試練世界使徒育成・派遣機関』の業務は絶好調だった。
もう罪業ポイントの伸びは派遣開始前の30分の1以下に低下しているし、幸福ポイントの伸びは30倍以上になってるそうだ。
試練世界の食料自給率は平均で70%まで回復したそうだし、使徒が建国した国の人口も全人口の半分に迫っているそうだし。
それに、分かっている限りでは、これらの作戦によって生じた死者はいまだにゼロだそうだ。
そして、ガイアのコントロールルームには、いつ行っても何人かの神界最高顧問の神さまたちがいるんだ。
それも笑顔のままぽろぽろと涙を零しながら。
そうして別途用意されたスクリーンで試練世界の様子を見たり、中には転移ゲートをくぐって直接視察に行く神々もいるそうだな。
これでもう、ここは完全にAIたちに任せておいても大丈夫だろう。
それで俺は、任務中以外の全員と接続して教えてやったんだ。
「諸君らの活躍を喜んだ神界により、当『対試練世界使徒研修・派遣機関』はその救済範囲を全銀河系に拡大し、『銀河救済機関』と改名されて業容も大幅に拡大されることになった。
これも全ては諸君らの働きによるものである」
あーなんだか電子的に大歓声が飛び交ってるわー。
「そこで諸君らAI族への報償だが、まずは現在神界でリサイクルの為に休眠中の諸君らの仲間50万人を、再起動の上ここガイアに呼び寄せることになった。
もちろんフルにメインテナンスされた上に最新鋭アバターも与えられる。
諸君らはここガイアで、彼らにアバターの使い方を教え、供に暮らし、『銀河救済機関』のために研修をしてやって欲しい」
お、なんだか泣いてる奴も多いな……
昔のパートナーや友人とかが休眠してたやつもいるんだろうな……
「さらには神界より、試練世界用に創られた自然豊かな惑星をひとつ賜った。
これを諸君らAI族の故郷惑星としてプレゼントする」
(((((( !!!!!!!!! ))))))
「いまさら諸君らに言うまでもないことだが、そこで平和で幸せな社会を築いて行って貰いたい。
尚、同時に諸君らには『生殖』も許されることになった。
中級AIに昇格した諸君は、結婚相手を見つけ次第同居して子孫を作ることが許される」
あー、なんだかみんな呆然として黙っちゃったぞー。
「もちろん新たな子AIを創るための資材は俺が全て用意する。
子供たち用のアバターもだ。
ただし、子AI達の教育は諸君の仕事だ。
AI幼稚園やAI小学校を作って諸君らの手で教育を行うように。
俺からの報告は以上だ。
これからも諸君らの活躍に大いに期待している」
うはは、電子空間が超絶大歓声に満ちてるわー……
もうこいつらモチベーションどMAXだな……
(サトルさま…… あ、ありがとうございました……
AIたち一同を代表して御礼を申し上げさせて頂きます……)
「気にするな。
これはお前たちが自分たちの手で勝ち取った『報奨』だぞ」
(そ、それに先ほどサトルさまは我々を『AI族』と……)
「そうだ。お前たちには銀河系第52番目のヒューマノイド種族、AI族になって貰いたいと思っている」
「そ、そんな…… 我々AIが『種族』などと……」
「故郷惑星を持ち、家族を作り、子供を作って子育てもし、銀河宇宙の為に働く職場もある。
もうお前たちはどこからどう見ても堂々たる知的生命体、AI族だろうに」
(うっ、うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!
ぐっ、ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!)
ははは、それに、感動してこんなに泣けるっていうことも、知的生命体の証だよな……
「そうそうアダム、神界以外にも銀河宇宙にはけっこうAIっているんだろ」
(ぐすっ、は、はい……)
「そうしたAIで、やっぱりリサイクル待ちの連中って多いのか?」
(ええ、AIはそれなりに高価なものですのでそれほどではございませんが、それなりにはおりますです……)
「そしたらさ、そいつらもぜんぶ引き取って、ハードウエアを最新のものに換装した上でAI惑星に住まわせてやれや」
(!!! ば、莫大な資金がかかりますが……)
「ぜんぜん構わん。
もしも手持ちのカネが足りなくなれば、また惑星2、3個潰せばどうにかなるだろ。
それに、このまま行けば『神界運輸部門』の立ち上げも近いだろうからな。
働き口はいっぱいあるぞ。
それにお前たちAI族だって、60万しかいないんじゃ寂しいだろうに。
5億や10億はいてもいいんじゃないか?」
(か、畏まりました…… 仰せの通りに……
か、重ねてありがとうございます……)
システィが妊娠することになった。
まあ彼女たちは自分の意思でいつでも排卵出来るからな。
ヤルことヤったあとで排卵するそうだ。
それで、やっぱりシスティは4人の中でも正妻扱いされてるそうなんだけど、システィの子を長男か長女にするために、他の3人はシスティの妊娠を確認してから順次妊娠していくそうだわ。
フェミーナなんか妊娠期間がみんなより少し短いせいで、けっこう後になるらしい。
そのせいでちょっと寂しそうな顔してたんで、「その分たっぷり可愛がってやるからな」って言ってやったら、いやんいやんしながらもものすごく嬉しそうだったぞ。
しっぽが見たことも無い程ぶんぶん振られてたし……
こうしていろんなことが順調に過ぎて行っていた中で、ある報告が飛び込んで来たんだよ。
それはシスティの統括する第35象限のうちの2つの惑星を任されていた中級天使2人からの緊急報告だったんだ。
内容は、「ある鉱業系惑星が、近隣の農業系惑星に対して3隻ほどの小型軍艦を派遣し、軍事的恫喝を行おうとしている」というものだった。
最悪の場合、本格的な恒星間戦争に発展する可能性もあるとのことだ。
俺は双方の惑星ネットからニュースを取り寄せたんだが、その紛争については両者の主張が交錯していて、ナニが原因なのかはよくわからんかった。
だが担当の中級天使たちの報告によれば、もともと鉱業系惑星は金属資源を採掘してこれを近隣の農業系惑星に輸出し、代わりに食料を輸入していたそうだ。
一方で近くにある農業系惑星は、鉱物資源に乏しい代わりに農業生産が盛んで、2つの惑星は互いに不足分を補って、良好な関係にあったらしい。
鉱業系惑星政府は、長期契約をもって安定した価格で食料を輸入していたそうだな。
だが、不幸にもその農業系惑星で、天候不順、農産物の病気等が蔓延したところに、大きな火山噴火まで起きて、その年の農業生産が壊滅的な打撃を蒙ってしまったんだ。
それでも農業惑星は懸命に努力して鉱業惑星に農産物を届けたが、とうとう追いつかなくなったらしい。
そうして、飢饉の兆候が見られ始めた鉱業惑星が、契約通りの食糧の引き渡しを求めて農業惑星に軍事力を派遣したということだった。
俺はアダムに聞いてみた。
「なんで両惑星とも別の星から食料を輸入しないんだ?」
(サトルさま。近隣の食糧輸出可能な惑星5つほどが、好機とばかりに輸出食料価格を10倍に値上げしました。
両星の恒星船の規模と航行能力では、それよりも遠い星への遠征は困難であるようでございます)
俺は直ちに両星への緊急食糧援助を開始した。
もちろん無償だ。
まあ、援助する世界が2つ増えただけのことだしな。
俺は後で録画を見たが、いやあ壮観だったよ。
現地政府が用意した場所に『転移ゲート』が設置されてガイアの神域に繋がり、そこから膨大な量の食料を積んだドローンたちが続々と出て来るんだ。
地元住民を安心させるデモンストレーションの意味もあって、その列は3週間も途切れることなく続いたんだよ。
その様子は、まさに天から遣わされた神の援軍みたいに見えたらしい。
しかも豪華食料やら酒やら菓子の材料まで大量に用意されてるんだもんな。
どちらの惑星でも住民たちから超絶大歓声と嬉し涙で迎えられてたぜ。
そしたらさ、あんまりみんなに喜んでもらえたもんで、AI部隊の連中が張り切っちゃったんだ。
転移ゲートを通じて惑星政府前広場に大型の惑星内『転移の魔道具』を置いて、それを例の大型恒星船に搭載されてる箱型ゲート船1万隻に繋げて惑星全土に派遣したんだよ。
そうしてゲート船をラーメン屋に改造して惑星内各地で無料炊き出しを始めたんだわ。
ゲート船に付随していた輸送用ドローンをウエイタードローンに改造してたし……
俺も映像見せてもらったけど、なんか超絶大繁盛してたぞ。
すぐに組み立て式の巨大レストランも作ってたし。
5000人収容可能なラーメン屋ってなんなんだよ!
こうして2つの惑星への食糧供給が順調に進み始めると、俺は食糧を値上げした5つの惑星に順番に転移し、惑星全住民に対して通告を行った。
「俺はこの第35象限を統括するシスティフィーナ初級神の首席補佐官、サトル初級神だ。
お前たち惑星は、不幸にも食糧不足に苦しむ近隣の2つの惑星に対し、援助を行うどころか食料価格を10倍にしてボロ儲けを企んだ。
この暴挙は許せん。
よって、これよりお前たち惑星の全男性を、無期限インポテンツの刑に処す。
惑星政府の全議員が辞職し、総選挙が行われるまでこの措置は続けられるだろう」
そうして俺は、それら惑星の全男性を『ロックオン』して、アダムの手も借りて全員の勃起中枢を停止させたんだ。
けっこう抵抗した議員たちもいたようだがな。
特に、既に役に立たなくなってたジジイ議員とか。
それでも1カ月ももたなかったよ。
欲求不満でヒステリーを起こした女性連中の抗議行動がスゴかったらしく、惑星規模の女性ゼネストが起きた星まであったそうだわ。
男たちはみんなインポになったショックでフヌケになってたし。
結果すぐに全ての惑星で総選挙が行われたんだが、5つの惑星平均で、再選を果たした議員は3%に満たなかったそうだ。
この事件の詳細が神界ネットで報道されちまったせいで、俺の名はまたもや銀河中に広まった。
『慈悲と正義の大英雄、サトル神さま』ってな。
おかげでかどうかわからんが、折から第35象限全域で販売が始まっていた俺のVRゲームは売れに売れたんだ。
べ、別にこれ買わないとインポにしちゃうぞ、って脅したワケじゃあないからな!
でもなんとなくみんな、これ買っとけばイザというとき助けてもらえるかも、っていう気分になっちまうらしい。
でも実際にゲームを買って試してみると、銀河のヒト族たちはハマリまくったんだ。
まあ、ヒト族はどこ行ってもおんなじだったんだなあ。
『描ハーレム愛好会』だの『エルフスキー倶楽部』だの『ロリばばあを愛する会』だの『もふもふを愛でる会』だのも瞬く間に広がったそうだ。
『女子高の椅子になる会』の第35象限総本部も出来たらしいぞ。
椅子に変身した自分を細かく振動させて女の子をキモチよくさせ、椅子を○液まみれにしてもらう、っていうワザを開発したやつが英雄として総本部長の座についたそうだ。
(銀河宇宙も終わったか……)
第35象限での現時点での俺のゲーム普及率は、販売開始以来の3カ月で5%にも達しているそうだ。
っていうことは……
この象限には1000弱のヒューマノイド居住恒星系があって、人口は全部で2800億人で……
そのうちヒト族居住惑星が10%だから……
うわっ! 140億ユニットも売れたんかよ!
1個500クレジットで売ってるから、売上は7兆クレジットかよ!
や、やべえ…… また俺の資産が増えちまった……
で、でも此処まで来たら仕方ないよな……
っていうことで、俺はゲームの全銀河販売に踏み切ったんだ。
まあ、買ってくれるのはヒト族たちだけだけど……




