*** 271 歓楽惑星スキモーノ ***
日本の俺の実家では、真悟叔父さん一家も加わって、全員でこの事件の報道番組を見ていた。
「神はおわしたのだ……」
ナレーターがそう言うと、俺も言った。
「はい、ここにいます♪」
「さ、さささ、悟くん……
こ、これみんなキミがやったのかい」
「ええ叔父さん、全部わたしと部下がやりました」
「「「「「…………」」」」」
「かみちゃましゅっごぉ~い♪」
はは、美樹が抱きついて来てくれたか……
沙希は……
なんかぷるぷるしてるぞ。
なんか目が巨大なハートマークになってるけど……
「死傷者は……」
「ひとりもいませんよ」
「だ、だがペンタゴンの中庭にもひとがいただろうに……」
「はは、もちろん事前に安全な場所に転移させていましたから。
議事堂の駐車場に居た運転手さんたちも同様です」
「転移……」
「爆撃機や爆弾をワシントンDCに移動させたのも同じ力ですね。
まあ俺がガイアからここ地球に来るときに使っている力とおなじものですけど」
「そうか……」
ところで沙希さんや。
どうしてキミはあれ以来、毎日風呂に乱入して来るようになったのだね……
自分が全世界80万の親衛隊を抱えるアイドルだっていうことを、もう少し認識した方がいいんじゃないか?
相変わらず俺のVRゲームの売れ行きは絶好調だった。
なあアダム、このVRゲームを銀河宇宙に持ち込んだらどうなるかな」
(もちろん銀河宇宙にも類似商品はございますが……)
「そらまあそうなんだろうけどさ。
でも昔日本のアニメ文化や漫画文化って、欧米各国では最初バカにされてたんだわ。
日本じゃあ大の大人が子供向けの絵本読んでるって言われて。
でも今じゃ日本アニメは世界中に翻訳されて輸出されてるし、世界各国で『日本の漫画を原書で読みたい!』って言って、日本語学習熱も凄いらしいんだ。
だからさ、ひょっとしたら地球のオタク文化も銀河に通用するかもしれないかもしれないだろ」
(はあ)
「まあ、これは俺の道楽だ。
まったく売れなくても大損するのは俺だけだし、ムダになるのは俺とお前の労力だけだ。
でも手伝ってくれないかな。頼むよ」
(サトルさまは、いつも我らの賜ったご恩を超絶過小評価されておられます。
アダム一家が受けたご恩、そしてAIたちが受けたご恩。
ガイアのAIたちがあれほどまでに熱心に働いている理由も……
サトルさまの為でしたら、例え道楽のためであっても寿命を縮めてでもお手伝いさせて頂きましょう)
「あ、ありがとな。
ま、まあ俺もお前やAIたちには随分助けられてるんだから、そんなに気にしないでくれな」
(いえいえいえいえ)
「まあ、ということでさ。
俺たちが集めた地球のVRゲーム機のユーザー情報を全部ブチ込んだ究極のVRゲームを作って欲しいんだ。
ついでに沙希の歌も10曲ぐらい入れてやってくれ。
バラードなんかの鎮静効果が高そうなやつ中心に。
それから人気のアクションゲームやカードゲームなんかも全部入れてな」
(畏まりました)
「そういえば、銀河宇宙の『神界認定世界』って、最低技術レベルってどれぐらいなんだ?」
(そうですね、最低でも6.0はございましょうか)
「それからE階梯が低かったり罪業ポイントが多かったりする星ほど技術レベルも低いんだろ」
(おおむねそうなります)
「そしたら、銀河宇宙には既にすごいVR技術があるんだろうけどさ。
そうした技術の中でもレベル8.0の自壊機能付きマシンで使えるように、VRゲームの中身だけ作り直して欲しいんだ。
地球のオタクが作り上げたエッチ妄想情報もテンコ盛りで」
(畏まりました)
数日後。
(サトルさま、銀河宇宙向け究極VRエッチゲームが完成致しました)
「もう出来たのか。さすがだな」
(お褒めに与り恐縮でございます)
「ところで、銀河世界でこうしたエッチコンテンツなんかを得意にしてる惑星ってあるんか?」
(はい、『歓楽産業』を主産業にしている惑星がございますね。
銀河のヒト族の男なら一度は行ってみたい星だそうです)
「なんだよそれ……
やっぱりヒト族の男ってしょーもないなー。
それで例えばベライムスさんに頼んだら、第830管区内のそういう星を紹介してくれるかな」
(サトルさまのご要望であれば、厚さ30センチの紹介状が用意されることと思われますが、間違いなくベライムスさまもご同行して下さるでしょう)
「ところでその歓楽惑星の名前は?」
(はい、『惑星スキモーノ』と言います)
「…………… あのさ ………………」
(は、はい)
「いつも思うんだけど、お前の翻訳システムのセンス、どうにかならんのか?
なんだよ『惑星スキモーノ』って……
まんまだろそれ!」
(こ、こここ、これは標準的な翻訳でございまして……
彼ら自身が自分たちの惑星をそういうニュアンスで呼んでいるのでございます……)
「ほんとか? お前の仕掛けたギャグじゃないのか?」
(誓って違いますです!)
「まあいい、それじゃあベライムスさんに言って、その惑星スキモーノの行政府にアポを取って貰おうか……」
数日後、俺がベライムスさんに連れられてスキモーノの行政府に行くと、正面玄関前には重厚なおじさんたちが30人ぐらい並んで出迎えてくれた。
「ようこそ惑星スキモーノおいでくださいましたサトル神さま、ベライムスさま。
わたくしはこの惑星の大統領を務めさせて頂いておりますネルギッシュと申します」
ガタイのいい禿頭のおっさんがにこやかに挨拶した。
(どっからどう見ても歓楽惑星の親玉に相応しい風貌だわ……
しかも名前までエネルギッシュだわ……
またアヤシイ翻訳しやがって……)
「うむ、出迎え御苦労。
本日はサトル神さまのご要望で、商談のために来訪させてもらった。
よろしくの」
「ははっ! それではこちらにどうぞ!」
通された大統領応接室はやはり豪華だったんだが……
なんかピンク色とかハートマークとかあって、噂に聞く高級ソープの待合室みたいなんですけど……
「まずはサトル神さま、篤く御礼申し上げますです……」
おいおい、なんか50人ぐらいのおっさんおばさんたちが、床に跪いて頭下げてるぞ……
「ど、どうか頭をお上げください。
そ、それにしても俺、なにかお礼を言われるようなことしてましたか?」
「さ、さすがはサトル神さま、なんとご謙虚な……」
それでしばしのやり取りの後、ようやく理由を聞き出せたんだよ。
「サトル神さまは、あの惑星イルシャムに、銀河宇宙広しといえどここ1000年でも最大のご商談を持ち込まれました。
しかも、『銀河宇宙に広く恩恵が齎らされるよう、下請けを分散させよ』と仰せになられたとのこと」
(それでお礼を言ったのか?)
「おかげさまを持ちまして、この第830管区でも、多くの工業、農業惑星に大変な活況と莫大な利益が齎されました。
そしてそれは乗数効果により、直接の下請けではない惑星も大いに潤したのでございます」
(ま、まさか……)
「そのため、臨時ボーナスを手にした男たちや少数の女たちが、ツアーを組んで多数の恒星船に乗り、我が惑星を訪れたのでございます」
(げげげげ……
ボーナス貰って歓楽街に繰り出すおっさんたちかよ!
地球とまったく変わらんじゃないか……)
「そのためここ半年というもの、来星客は前年同期比2倍、落としていったクレジットは3倍にもなりました。
このままいけば、我が惑星のGDPは前年比10%増と見込まれておりますです」
(ったくヒト族っていうのはどこ行っても変わらんなぁ……)
「これもすべてはサトル神さまのおかげ。
重ねて御礼申し上げますです」
「あー、どうか頭をお上げください。
あれは神界の任務のために行ったこと。
その余波でみなさんが潤ったのはたいへんに喜ばしいことです」
「「「「ははぁぁぁっ!」」」」
「ところで今日は少々お願いがあって参りました」
「な、なんなりとお申し付けくださいませ……」
「実は最近、これも任務の一助になるかと思い、あるゲームのソフトウェアを開発しましてね。
地球という後進星で実地テストをしてみたのですよ。
それで結果が良好だったために、銀河宇宙でも通用するかどうかテストをしてみたいと思ったのです」
「不躾ではございますが、それはどのようなゲームなのでございましょうか……」
「はい、恥ずかしながら、VR空間でユーザーに恋愛や性的行為を楽しんでもらうゲームなのです」
(あー、なんか大統領さんが気不味そうな顔したわ。
やっぱ、銀河宇宙でもおんなじようなもんがあるんだろうな……)
「あ、あの…… じ、実は銀河宇宙にも同様なものはございまして……」
「ええ、存じ上げております。
ですから、こちらの惑星で売り出したとして、まったく売れなかったとしても仕方がありません。
それで、広告費や販売管理費はすべて私が負担致しますので、試しに売り出してみて頂けませんでしょうか。
販売手数料は10%ということで如何ですか」
「か、畏まりました……
と、ところでおいくらで売り出されるおつもりですか?」
「そうですね、今のところ1つ500クレジットにしようかと思っています」
(あー、大統領さんさらに困った顔になってるわー。
きっとこれって、この手のソフトとしては相当に高いんだろうなー)
「か、畏まりました……
お、おまかせくださいませ……」
(うん、たぶんこれ、政府予算や自腹で少し買ってくれるつもりなんだろう……)
「そ、それでサトル神さま。
も、もしお時間がよろしければ、このあと我が惑星の主力産業である歓楽街をご視察頂けませんでしょうか。
もちろん私がご案内申し上げます」
(あ、これ、ぜんぜん売れなくっても俺が怒らないように、予め接待してくれようとしてるんだな……)
「残念ながら長時間は難しいのですが、表面的な視察でしたら是非見てみたいです」
「ははっ!」
「サトル神さま、こちらが大統領府も出資しております最高級の娼館でございます」
(大統領府が出資してるのかよ……)
「男も女も、ありとあらゆる最高の性的娯楽が楽しめる場所でございますよ」
(あ、なんかやたらにエロい格好をした娘たちが集まって来た……
み、みんな可愛ええ……)
「あー、大統領さんだぁっ!」
「また来て下さったのね。嬉しいわ……」
「ねぇねぇ、きょうは絶対わたしも指名してね♡」
「今日はどうするの? この前みたいに8Pにする?」
「それともお客様も一緒に16Pにする?」
「最近この星って大儲けしてるから、大統領報酬もすごいんでしょ♪」
「えへへ、今日はわたし、新しいボディなんだ。
わたしのバージン、 あ げ る ♡」
「これこれ、今日は遊びに来たんじゃなくて、お客さまをご視察にご案内してるだけだからね」
「「「「「「 えーっ! 」」」」」」
「はは、また今度来るから」
「「「「きっとよ!」」」」
「「「「絶対ね!」」」」
「サトル神さま、こちらの娘たちが我が惑星の誇る最高級セクサロイドでございます」
「セクサロイド?」
「はい。性的行為専門のアンドロイドでございまして、中には銀河最新鋭のミニAIが搭載されております。
もちろんそのボディも生身の女性と全く区別のつかない最高級品でございますよ。
みんな実に優しい素晴らしい娘たちでございます」
「そうだったんですか……」
(まあ、こんな可愛らしい娘たちがいたら、俺のVRエロゲが売れなくても当たり前かもな……)




