*** 27 ローゼマリーナセンセイが羨まし過ぎる…… ***
そんなグロい映像が流れちゃったもんだからさ。
実は俺、ちょっと心配してたんだ。
せっかくローゼ様の『ガイア観察日記』に人気が出て来たっていうのに、あんな放送事故でその人気に陰りが出ちゃったら気の毒だよなって……
でもアレは報道番組であって、直接ローゼさまの報告じゃあなかったから、幸いにもクレームは全部報道担当神のところに行ったそうだ。
なんせ神界中で膨大な数のマーライオンが出現しちまったそうだから。
でも、ローゼさまのところにはクレームはまったく来なかったそうなんだ。
それにこれ後で聞いたんだけど、ローゼさまのところにクレームが来るどころか、実際はまったく逆で、かえってローゼさまの『ガイア観察日記』の人気が急上昇したんだと。
しばらくして弩グロ衝撃映像から立ち直った神さま達が、俄然地上界に興味を持ち始めたらしいんだよ。
神界にいて今はエラくなっている神さまたちも、大昔には初級天使として現実の地上界のお世話をしていたわけだろ。
それで急に自分が担当していた地上界が懐かしくなっちゃったらしいんだ。
それで今の担当者からの報告書を読み返してみたりしたらしいんだけど、これがぜんぜん面白くないんだってさ。
そりゃそうだよな。
そんな世界なんて、もう完成されて進化しまくってる世界だもん。
そうじゃなかったら昔の担当天使が神さまなんかに成れてるはず無いんだもの。
だけど、このガイアって未完成どころか最低最悪の世界だろ。
原始的どころか暴虐と殺戮の嵐が吹き荒れてるんだから……
どう考えたって救うのは超絶困難だよな。
だからその世界を救うために、俺が文字通り死ぬほどの努力をしていたんだし。
ほとんどの神さまたちがマーライオンになっちまうほどの努力を。
神さまたちは、もし自分が若かりし頃にガイアを担当していたとして、果たして自分が使命を果たせただろうかって不安になるらしい。
それで不可能事に挑戦している俺たちを見て、応援したくなるらしいんだ。
しかもガイアの物語って、終わってしまって幸福になった世界のお話じゃあなくって、現在進行形の世界なんだもの。
ひょっとしたら、来週号の『ガイア観察日記』までに、俺が地上界で実際に死んじゃうかもしれないんだから。
見ていてもハラハラ度が格段に違うらしいんだわ。
特にローゼさまがあとがきとかで、「来週はいよいよサトルが地上界に降ります! システィフィーナ天使の加護の無い場所で、サトルが実際に死の危険に晒されるかもしれません!」とかアオリ書くと、もう読者はみんなたまらんそうなんだ。
ったく、傍観者はお気楽でいいよなあ……
<或る日の神界とガイア間の通信記録……>
「いやあ! ローゼマリーナ先生っ!
先週号のお話も大反響でしたよぉ!
新規ブクマが5000人分も付いて、ポイントも10万以上入ってました!
もー、神界のネット報告サイト『観察者になろう』は、センセイのおかげでアクセス数爆上がりです!
それにしても、相変わらず『爆撒英雄サトル』の活躍は素晴らしいですねえ!
そ、それでですね。
そろそろまたシスティフィーナ中級天使とのエッチシーンも盛り込んで……
い、いやいや、彼女の人気も相変わらずなもんですから……
え? 『これはノンフィクションであって、フィクションでは無い』ですと!
い、いやいやいやいや……
せ、センセイ…… 読者の要望もまた重要で……
あ、そうだ!
ローゼセンセイが直接サトルを誘惑してみられたらいかがでしょうか!
いやー、素晴らしい。
実体験に基づくヒト族のリアルなエロスを是非読者にお伝えください!」
そ、そういえばさ……
な、なんか最近ローゼさまの衣装がやけにエッチくなって来てるんだけど……
売店にも地球から取り寄せたセクシーランジェリーとか増えてるんだけど……
それもローゼさま以外絶対着られないようなJカップのブラとか……
な、なにがあったんだ???
………… ローゼマリーナセンセイが羨まし過ぎる件について …………
或る日、みんなで夕食を取っているときに、エルダお姉さまが言い出したんだ。
「そういえばシスティや。ローゼさまから家賃や食費は受け取っておるのか?」
「そ、そんなもの! い、頂く訳にはまいりません!」
「ふむ。元初級神であらせられたローゼマリーナさまともあろう御方が、それでよろしいのでございますかな?」
な、なんかエルダお姉さまから、また黒いオーラが立ち昇っているのが見えるんですけど……
「ご、ごめんなさい……
わ、わたしも心苦しいんですけど、でもどうやってお支払いしたらいいものかと……
私の世界管理用ポイントや神界通貨を差し上げようにも、この世界では使えませんし……」
「ふむふむ。ローゼマリーナさまは、払えるものなら払いたいと……」
「ええ、もちろんです。
ゼウサーナさまや最高神さままで楽しみにして下さってる『ガイア観察日記』を書くためですもの」
「それでは及ばずながら、不肖このわたくしエルダリーナがお手伝い申し上げましょうかの」
「ぜ、是非お願い致します……」
「それでは詳しいご相談は別室にて……」
「は、はい……」
なんかエルダお姉さまの黒いオーラが、渦を巻いて荒れ狂ってるんですけど……
俺はシスティと管理システムに頼んで、神域内に『コントロールルーム』を作ってもらった。まあ、作戦室だ。
コントロールルームには、大型のスクリーン3面の他、小型のスクリーンを備えたコンソールが20個ほどある。
一段高くなったところには、俺とシスティの指揮用コンソールと椅子があった。
はは、まるで宇宙戦艦の艦橋みたいだぜ。カッコいいなこれ。
設計はベギラルムだったんだが、どうやら地球の宇宙戦闘系アニメを参考にしたらしい。
俺たち幹部一同は、コントロール室の一角にある会議用テーブルについた。
メンバーは、俺とシスティ、大精霊たちとベギラルム、それからオブザーバーとしてエルダリーナさまとローゼマリーナさまだ。
まあ、いつものメンバーだよ。
ローゼさまはメモ帳片手に目をキラキラさせていた。
きっと『ガイア観察日記』のネタ探しなんだろう。
会議の冒頭、まずは俺の発言だ。
「それではこれよりガイア救済のための会議を開始する。
俺が用意した議題として、いよいよガイアの地表に俺たちの拠点を作ろうと思う。
そのためには、まず大陸中央部の環境を整える必要がある」
中央大スクリーンと、各人の前にある小型ディスプレイに大陸中央部の地図が表示された。
「まず第1段階は、この丘に小屋を建てて、俺たちが滞在出来る空間を確保することだ。
まあ、この天使域と地上界とは行き来自由だが、将来俺たちの国の中心になる場所だから、そういう住環境も必要だろう。
最終的には行政府が入る部分も作って小さな城のようにするつもりだ。
どうだ土の大精霊。建設を頼めるか」
「任してくれろ!
でも…… 建築様式はおらに任せてもらってもいいだか?」
俺は微笑んだ。
「もちろんいいぞ。カッコいいのを頼む」
「へへ、頑張るだ」
「それから、小屋の建設に並行して、その周囲に半径1キロほどの規模で壁を作って行きたい。将来の官公庁の予定地だ。
まあ、取りあえず厚さは1メートル、高さは3メートルほどでいい。
後でまたいくらでも大きく出来るだろうからな」
「材料はどうするべか?」
「管理システムに頼んで砂漠の砂を転移してもらってくれ。
アダム、頼めるか?」
(お任せくださいませサトルさま)
「それからせめて拠点の周囲だけは濃過ぎるマナを吹き飛ばしておきたい。
いつもマナで曇り空になっていると気が滅入るからな。
風の大精霊、頼めるか?」
「アタシらにまかせてちょ!」
「まあ、お前たちなら大丈夫だろう。
いつものマナ拡散の仕事は見事だったからな」
「えへへへへへ……」
「それで砂漠の砂の処理なんだが……
これを一度収納しておく倉庫って、どこかに作れないかな。
まあ、平均半径300キロ、砂の厚さも平均500メートルに及ぶ広大な砂漠で、砂の量もおよそ15万立方キロにも及ぶ膨大な量なんだけど……」
「大丈夫よサトル。
管理用ポイントを10万ポイントも貰ったから、倉庫ぐらいだったら私の天使域内にいくらでも大きいのを作れるわ♪
その他にもいくつか倉庫は作っておくわね♪ 食糧倉庫とか」
「悪いが頼む。食料を新鮮なままキープ出来るやつな」
「ふふ、悪くなんかないわよ。わたしたちの世界の為ですもの♪」
「それでエルダさま、各種食料を5億円分ぐらい買わせて頂けませんでしょうか。
小麦粉なんかの基礎食料からケーキやハンバーガーやコーヒーなんかの嗜好品まで」
「任せておけ。
これからも食料は大量に必要になろうから、ハンバーガーショップと菓子業界にも進出する予定だ。ラーメン屋も検討している。
そうだの、そろそろ地球のヒト族も従業員として雇おうかの」
(就職先の社長が天使で上司が悪魔だって知ったら、就職したヤツもさぞかし驚くだろうな……)
「そ、それからベッドや毛布なんかの日用雑貨類もお願い出来るものでしょうか。
あんまりたくさんお願いすると『過剰関与』になってしまいますかね?」
「ふふふ。
先日神界法務部にお伺いを立ててみたのだがの。
環境に影響を与える動植物や兵器以外の日用品や食糧であれば、いくらでも取引お咎めなしという許可をもらったぞ。
まあ、タダだと過剰関与になって問題があるそうだが、正当な対価を受け取ればかまわんということになったわ」
「い、いいんですかね?」
「はは。なにしろこの世界は今神界中が大注目しておるからな。
ヘタに制限でもかけようものなら、法務部にクレームが殺到するのは間違い無いらしい。それで法務部トップの上級神さまから特別許可が下りたそうだ」
「あ、ありがとうございます。
それでは一通りよろしくお願いいたします」
「うむ。任せておけ……」