表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第2章 銀河宇宙篇
260/325

*** 260 幸せな村 *** 

 


 翌日、私は家族と一緒に教会前の広場に行ったの。

 すごかったわ。

 村の人が全員集まってるんだもの。

 まるで一足早い収穫祭みたい。

 わたしも久しぶりに学校時代のお友達に会えて嬉しかったわ。



 お昼の鐘がなると、神父さまが出て来たの。

 その後ろには中央神殿の司祭さまもいてびっくりしちゃった。

 神父さまはいつもにこにこしているけど、今日はもうさらに嬉しそうに微笑んでいらっしゃるわね。



「さあみなさん。

 まずは創造神さまに感謝の祈りを捧げましょう」


 村人たちは一斉に跪いてお祈りを始めた。

 黙ってお祈りをするひと、口に出して感謝の気持ちを伝えるひと。

 お祈りに決まった形は無いんだけど、今年は豊作だったんでみんな真剣に感謝の祈りを捧げていたわ。



「それではみなさんお立ちください。

 中央神殿の司祭さまより重大な発表があります」


「みなさん。よく聞いてください。

 先日この村に創造神さまがご降臨なされたのです」


 村のみんなが固まったのがわかった。

 もちろん私も固まっている。



「創造神さまは、村の丘を歩き、ウサギたちと戯れ、温泉に入られた後にこの村をご覧になられました。

 そうして皆の幸せそうな様子を見て、大変にご満足為されたそうです。

 創造神さまの側近であらせられるアダムさまによれば、涙までお流しになってお喜びくださったとのことですね」


(ま、まさかそれって……)



「その後、創造神さまはアダムさまにお命じになられました。

 我々の住むこの世界を創造神さま直轄の『最高保護区』にご指定くださったのです。

 これで天候は安定し、作物の実りも何倍にもなることでしょう」


 村のひとたちからどよめきが上がる。

 みんなにこにこしてて嬉しそうだ。

 村長さんが声を出した。


「司祭さま。

 創造神さまのそれほどまでのご好意に対し、我々は何をすればよろしいのでしょうか?」


 司祭さまは本当に嬉しそうに微笑まれた。


「何もする必要はございません。

 創造神さまは、この世界のあるがままの姿をお喜びくださったのです。

 みなさんに望まれることは、『このまま幸せに暮らしてくれ』とのことだけだそうです。


 ですが、創造神さまからみなさまへのご命令がひとつあります。

 それは創造神さまを幸せな気分にしてくれた、ウサギたちと温泉を大事にしてやって欲しいとのことでした。


 たった今から、創造神さまのご意思により、この辺り一帯のウサギたちを狩ることは禁止されます。

 その分みなさんの食料が減るかもしれませんが、作物の実りが何倍にもなることで充分な食料が確保できるでしょう」


 村人たちは一斉に頭を下げた。



「それから……

 アリスさん、いらっしゃいますか?」


「は、はいっ!」


 司祭さまは私を見て実に嬉しそうに微笑まれたの。


「どうかこちらに来ていただけませんでしょうか」


「は、はい……」


 そうして司祭さまは、私が近づくと、なんと跪かれてわたしの手を取って額につけたのよ。


「ああ…… この手が創造神さまのお背中を流して差し上げたのですね。

『神に触れた御手』…… 

 その御手にわたくしも触れさせて頂けるとは……」


 わたしはもうびっくりしちゃって、ただただ固まってることしか出来なかったの。



「そしてアリスさん。

 あなたは創造神さまから金貨を賜ったそうですが、どうかそれを見せていただけませんでしょうか……」


 わたしは、厚い布に包まれた金貨を司祭さまにお見せしたの。


「おお…… おお…… 

 ま、まさしく創造神さまの尊い気が感じられる……


 みなさん。

 創造神さまはこの世界だけでなく、他にも10万を超える世界をお創りになられました。

 言ってみればこの世界もすべて創造神さまからの賜わり物です。

 ですが、この金貨こそはこの世界で唯一、創造神さまからの直接の賜わり物なのでございます。


 アリスさん。

 どうかこの金貨を大神殿にお譲り頂けませんでしょうか。

 この世界の他のみなさんにも見て頂きたいのです。

 その代わりとして金貨10枚をご用意させて頂きました。

 どうかお願い申し上げます……」


 もうわたしは驚きのあまりこくこく頷くことしか出来なかったわ。


「あ、ありがとうございます!

 この金貨は中央神殿に、いや…… この村の教会に、いや……

 温泉宿に飾らせていただくことに致しましょう!


 そうすれば世界中から巡礼がやって来ます。

 そうしてその方たちも、畏れ多くも創造神さまが楽しまれた温泉に入ることが出来るのです。

 ああ、なんという素晴らしいことでしょうか。

 村長さん、お願い出来ますでしょうか」


「は、はい…… よろしいのですか?」


「もちろんですよ。

 そうすれば創造神さまからのもう一つの御指示である、『この村の温泉宿を栄えさせよ』という思し召しにも沿うことが出来ますでしょう。


 それではみなさん。

 幸せに暮らしてください。

 それこそが創造神さまの御心に叶うことなのです」





 それからはたいへんだったの。

 まずは王都から国王さまがご家族とご一緒にお見えになったわ。

 そうして創造神さまの金貨の前で長いこと跪かれて、その後わたしの手を取って額に当てられるんだもの。

 びっくりしちゃったわ。


 それから国王さまは、ご家族で露天風呂にお入りになられたの。

 なにかご用命は無いかって聞きに行ったんだけど、国王さまとお后さまは湯船に浸かったまま涙を流されていたんで、わたしはそっと帰ったんだ。


 それからも国中から、いえその隣の国からもそのまた隣の国からも、大勢の人たちが温泉に入りに来たわ。

 番頭さんとわたしとお手伝いのおばさんたちでは到底手が回らなかったんで、たくさんの子供や大人たちが温泉宿に雇われたのよ。

 おかげで仕事が減っちゃった猟師さんたちも、新しい仕事が見つかって喜んでたわ。


 そうそう、わたし村長さんに聞かれたの。

 村で教会か村長さんのお手伝いをする仕事に就かないかって……

 でも創造神さまへのお礼の意味も込めて、わたしこの温泉宿で働きたかったの。


 それに、私がお手伝いして作ったお料理を、お客さまたちが涙を流しながら食べてくださるんですもの。


「ああ…… 創造神さまのお背中に触れた御手が作ってくださったお料理だ……」って言って。


 だから丁寧にお断りしたんだけど……

 そしたら村長さんはものすごく嬉しそうな顔をして、わたしの頭を撫でてくれたわ。



 それからは国王さまがお命じになって、大勢の大工さんたちが来て、宿の拡張工事が始まったのよ。

 露天風呂も、今までの小さな露天風呂から流れ出るお湯を使って、100人ぐらい入れるようなものすごく大きなお風呂も出来たし。

 創造神さまがお入りになった湯船のお湯は、みんなビンに詰めてありがたそうに持って帰るようになったの。


 もちろん宿の部分も食堂も増設され始めたわ。

 それでもお客様を全員お泊めすることが出来なかったんで、村の宿屋もたくさん作られることになったのよ。

 村のみんなは冬の間の仕事が出来たって喜んでたわ。


 温泉宿の周りにも新しい宿が出来たし、商店も出来始めたし。

 王都や他の町からの定期馬車便まで出来たもの。

 馬車便屋さんも馬車便の護衛さんも、ものすごく仕事が増えて喜んでたわ。


 ふふ、もう少ししたらここも小さな村みたいになるかもしれないわね。



 それでもっと大勢のお客さまが来るようになったんだけど、宿は不思議なぐらい静かなの。

 だってみんな創造神さまの金貨を見て泣き、温泉に入って泣き、わたしのお手伝いしたお料理を食べてまた泣いているんですもの。


 お夕食が始まる前には番頭さんが私を連れて前に出て、「こちらのアリスが創造神さまのお背中を流して差し上げた娘です。今日の夕食はこの娘が下拵えさせていただきました」って挨拶するのよね。


 それでお客様が大泣きして喜んで下さるのはいいんだけど……

 でもぜんぜん慣れなくって、いつも顔が真っ赤になっちゃうの。



 村の子供たちも大勢温泉宿に雇われたわ。

 もう学校を出た後の就職先には困らないんでみんな嬉しそう。

 お給料も増えたし……


 子供たちの統率は、女の子がわたしで男の子がジニーなの。

 2人で力を合わせて頑張らなきゃ。

 ジニーはカッコよくって優しいから、他の女の子たちからちょっと羨ましがられてるけどね。



 そうそう、いつごろ始まったのかわからないんだけど、丘を囲む柵や石垣も出来始めたのよ。

 ウサギさんたちをオオカミやクマから守るためのものなんだけど。

 いつからか巡礼者さんたちもそのお手伝いを始めるようになったの。

 そのうちに、裕福な巡礼者さんたちは、馬車に材木を積んでこの村に来るようになったみたい。

 それほど裕福でないひとたちも、途中で石を拾って来て石垣を作ってるし。


 創造神さまが愛されたウサギさんたちを守る柵を作る手助けをするのが、巡礼者の役目みたいに思われてるらしいわ。

 ウサギさんたちも「創造神さまの御使いさま」って呼ばれるようになったし、宿や商店では小さなウサギさんのお守りがものすごく売れてるし。


 そろそろ丘を囲む柵も出来上がりそうね。

 周囲が2キロメルトもあるすっごく立派な柵なんだけど、そのうち村全体を囲む20キロメルトもある柵にするらしくってみんな張り切ってたわ。



 もちろん畑は大豊作で、大人たちも子供たちも食べ物も仕事もいっぱいあってみんな幸せそうなの。

 はあ、これも全部創造神さまのおかげなのね。



 でも……

 わたし、もう一度でいいから創造神さま、ううん旅人さまにお会いしたいのよ。

 これって、年長の子供たちが言ってる『恋』っていうものなのかしら……



 そう言ったらジニーがちょっと不機嫌になっちゃったの。

 えへへへ、ジニーったら妬いてくれたのかな。

 それもなんだか嬉しかったんで、わたしのお顔がにこにこになっちゃったんだ。

 そうしたらジニーが私の顔を見て真っ赤になっちゃうんだもの。

 おかげでわたしまで顔が赤くなっちゃったじゃない!



 創造神さま。

 本当にありがとうございます。

 わたし、今とっても幸せです……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ