*** 26 最後の爆撒訓練で大惨事…… ***
………… 弩グロ注意! …………
しばらくして、『神界叙勲部』の中級神さま御一行がガイアにやってきた。
俺はヒト族なんで神界には行けないらしく、わざわざ俺に勲章を授与するために来てくれたそうだ。
普通は出張叙勲は部下の初級神に任せるそうなんだが、どうもヒト族への銀聖勲章授与は史上初めてらしくって、俺を実際に見てみたかったらしい。
それに、最高神さまですら気にかけているガイアに一度来てみたかったんだと。
ローゼさまの『観察日記』のおかげで、神界でのガイアの知名度も急速に上がって来てるらしいからな。
それからなんか、叙勲部の神さまたち以外にも、撮影機材を担いだ若い連中が20人ほどいたんだ。
どうやら俺の叙勲式やシスティ達の昇格式の様子を、神界で報道するためのカメラクルーらしかった。
なんだか大げさだよな。
『神界銀聖勲章』授与式は、ローゼマリーナさまやエルダリーナさまやシスティ、それから1212人の精霊たちと98人の悪魔たちが見守る中で、中級神さまにより厳かに執り行われた。
まったくこそばゆいぜ。
そうして、中級神さまがシスティとエルダお姉さまを厳粛な所作で祝福すると、2人の背中にもう2枚ずつ大きな翼が生えて来たんだ。
なんだか元の翼も大きくなっているようだった。
ちょっと感動しちゃったぜ……
あ、なんかまた「ぴろりろり~ん」が来たぞ。
「『称号:創造天使システィフィーナの使徒(中級)』が、『称号:創造天使システィフィーナの使徒(上級)』にレベルアップしました」
おお!
俺もいよいよ上級使徒か。
勲章貰うとこういうこともあるんだなあ。
(サトルさま)
「おおアダム、どうした?」
(システィフィーナさまの中級天使ご昇格に伴い、わたくしとイブも自動的に『中級世界管理システム』に昇格させて頂きました)
「おお! それはおめでとう!」
(これもすべてサトルさまのおかげでございます。
厚く御礼申し上げます)
「まあ、お前たちには世話になってるからな。
これからもよろしく頼むわ。
そうそう。中級に昇格するとどうなるんだ?」
(マルチタスク能力が飛躍的に上がりました)
「それって、例えば並列CPUがたくさんついたようなもんなのか?」
(はい、おかげさまで100人ほどの方から命じられた作業を同時に別個に行うことが出来るようになりました)
「す、すげえなそれ……
ま、まあとにかくこれからもよろしくな」
((こちらこそよろしくお願いいたしますです))
授与式が終わるとパーティーが始まった。
翌日には俺の最後の『爆撒パフォーマンス』が予定されている。
順番が逆だと、中級神さまたちがせっかくのメシを喰えなくなっちまうからな。
中級神さまご一行は、ハンバーガーに感激し、ラーメンにもっと感激し、いちごのショートケーキを爆喰いし、砂糖山盛りのコーヒーを鯨飲してたいへんご満足の様子だった。
パーティー食にしてはずいぶんとチープだが、噂を聞いた中級神さまからの要望でもあったんで仕方が無い。
しっかし神さまってよく喰うよな……
食後は可愛らしい子精霊たちに取り囲まれて、みなさん至福の表情だったわ。
「いっちょにゲームちてー♪」とか言われて、蕩けるような顔して仲良く携帯ゲーム機で遊んでたし。
システィに神界の通貨渡して、売店でゲーム機買ってた神さまもけっこういたわ。
そうした様子はカメラクルーがすべて撮影していた。
後で編集して明日の訓練の前に放送するらしい。
それを見て、なぜかエルダお姉さまが少し黒オーラを出していたんだ。
小さな声で「くっくっくっく」とか笑いながら。
あれなんだったのかな?
翌日は予定通り俺の爆撒訓練の公開だ。
どうやら神界では編集ではなく生中継で報道されるらしい。
大丈夫なんかね?
翌日。
5台のカメラが俺とベギラルムを取り囲んだ。
さすがに射線は避けているようだが、俺から20メートルほど離れた5方向からの撮影のようだ。
『神界叙勲部』の中級神さまご一行も、俺たちの横、30メートルほど離れた席に座っている。
最初観客席はもっとずっと離れていたんだが、どうやら中級神さまのご要望で近くに寄って来たようだわ。
「強力な防御の加護をかけましたから怪我はありえません。大丈夫ですよ」ってにこにこしながら言ってたんだけど……
おいおい、そんなに近くてほんとに大丈夫かよ。
どうなっても知らねえぞぉ。
まあ、これが俺の最後の爆撒訓練になるだろうからな。
一丁盛大に爆撒してやるとするか!
実況アナウンサーは、相変わらず興奮した声でなにやら喚いている。
「これは編集一切無しの生中継です!」とか、
「これがおそらく使徒サトルの最後の爆撒訓練になるでしょう!」とか、
「みなさん絶対にお見逃しなく!」とか、
「今席をお立ちになると一生後悔します! 瞬きすら出来ません!」とかアオリまくってるんだな。
いよいよ『爆撒訓練』の開始時刻になった。
どうも神界の夕食どきのゴールデンタイムに合わせたらしい。
おいマジかよそれ。どうなってもしらねえぞ……
ベギラルムが、闇魔法で直径20メートルほどの【物理衝撃波(スーパー超特大)】の暗黒球を出現させると、実況アナウンサーを含む見学者全員が息を呑んだ。
まあ、彼らはこんな恐ろしげな攻撃は、喰らったこともちろん、間近で見たことも無いだろうからさ。
普段神界で平和に暮らしている神さまたちには、ちょっと恐ろしいんだろう。
はは、アナウンサーが思わず1歩下がってるぜ。
なんせ、暗黒球内側では強力なエネルギーが雷のように荒れ狂っていて、その内包されたエネルギーを誇示してるからなあ。
バチバチと恐ろしげな音も聞こえるし、周囲には黒いオーラみたいなもんが禍々しく発散されてるし。
まあベギラルムが1時間もかけて貯め込んだエネルギーを、一気に放出して作ったんだから相当なもんだわ。
最近では俺の防御力もかなりのもんなんで、デーハーに爆撒するためにはこれぐらいの威力は必要だと思ったんだ。
ま、まあ、事前に実験はしてないけどな……
そうそう。みんなけっこうカン違いしてるんだけどさ。
あの暗黒球って、物理「衝撃波」を起こすものなんだよ。
つまり高熱を出したり爆発を起こしたりするものじゃあないんだ。
その球体に触れたモノを衝撃波で粉砕するだけのものなんだ。
まあ、その衝撃力は超強大なんだけど。
だから俺の体も燃えはしないんだな。ただ粉砕されて飛び散るだけなんだ。
もし燃えて灰になっちゃったら復活出来るかどうか自信がなかったからさ。
つまり、俺は『爆発』して燃え尽きながら飛び散るワケじゃあなくって、衝撃波で『爆撒』、つまり『爆ぜて撒る』だけなんだよ。
最初から、『爆撒訓練』って言ってたろ?
しかもその衝撃波に指向性は無い。
つまりだ。
あの暗黒球は、俺に触れた瞬間に内部にエネルギーをブチ込み、俺の肉体を内部も外部も衝撃波で破壊するんだ。
そうして俺の体は衝撃で細かく千切れて、そのとき俺がいた場所を中心にして飛び散って行くだけなんだよ。
だからまあ、射線を避けてもあんまり意味は無いんだけどなあ……
こうして、いつもより大きなスーパー超特大の物理衝撃波で『爆撒した』俺のカラダは、いつもより激しく飛び散り、半径50メートル以内に血肉と骨片と臓物の雨を降らせたワケだ。
まあ俺の体も内臓も含めてけっこう頑健になってきてるから、あれだけのエネルギーでも撒る範囲はそんなもんなんだったよ。
そんなに激しく爆るわけでもないし、ところどころ原形を留めた内臓もあるし。
もし一般人が喰らったら、半径30キロぐらいに1万分の1ミリ角以下の破片が飛び散るんじゃないか?
それでもそれは今までで最大最強の爆撒だった。
俺を取り囲んでいた中級神さま御一行や報道クルーの着ていた白いトーガが、全部赤白マダラ模様になっちまったほど……
まあ俺の脳ミソ浴びたやつは白と灰色のマダラだったけど……
まあ、スプラッタ・スプラッシュってぇヤツだな。
中級神ご一行様は全員気絶した。
報道クルーも、アナウンサーも含めて全員気絶した。
さすがにカメラマンは踏み止まっていたんだが……
でも、俺の湯気の出てる薄いピンク色の腸が飛んで来て、偶然そのときのメインカメラのレンズやクルーのアタマに、『びたん』って音を立ててへばりついたそうだ。
おかげでその瞬間に、そいつはマーライオンと化して壮絶に中身をリバースしたんだわ。
「オロロロロロロロロロロロロロロロ~」って……
いくらなんでも近くで撮り過ぎだったんだよ。
しかもカメラ付属のマイクが、その噴き出し音声もバッチリ捉えちゃってたんだわなあ。
よくアメリカのホームコメディなんかで、なんかギャグやった瞬間に後ろで笑い声が流れるだろ。
「さあみなさんここでご一緒に笑いましょう♪」みたいなカンジで。
あれって、ひとは誰かが笑ってるときの方がつられて笑ってくれやすいからだそうなんだけど……
俺のあんなシーンを映した直後に、そんなリバースの音声まで流しちまったもんだからさ。
「さあみなさんここでご一緒にリバースしましょう♪」みたいになっちゃったらしいんだわ。
しかも映像は神界報道部が誇る3Dの超高精細度映像だったし……
カメラのオートフォーカスが、レンズにへばりついた腸まで鮮明にどアップで映しちゃったし……
おかげで夕飯どきの神界のお茶の間では大惨事が相次いだそうだ。
お、俺の責任じゃないかんね!
生放送だったんで、その10秒後には画面が切り替わって、『お見苦しい映像を放映してしまい、お詫び申しあげます』っていうテロップが出たんだよ。
なんかディレクターも気絶してたんで画面の切り替えが遅れたんだと。
お見苦しい腸で悪かったな!!!
まあ、誰も俺の腸なんか見たくなかっただろうけど……
でも、『裏返って中身がへばりついたままの大腸』じゃあなかったのは幸いだったね。
それさすがに俺も恥ずかしいし……