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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第2章 銀河宇宙篇
259/325

*** 259 NPCたちの暮らし *** 

 


 しばらくして落ち着いた俺は、またあのVR世界に行ってしまったんだ。


 夕食まではまだ時間があったし、なんだかあの村まで歩いて行ってみたかったんだよ。



 俺は、さっきウサギもどき一家と出会ったところに戻っていた。

 もうウサギもどきたちの姿は無い。

 俺はアダムに言って、パンに加えていくらかのニンジンやキャベツっぽい作物も草叢に置いた。

 野菜も食べなきゃな。




 俺は、清々しい空気を胸一杯に吸い込んでから、村に向かって丘を下って行った。


 しばらく歩くと、道から少しだけ引っ込んだ小さな木の門の前に、13歳ぐらいの少女が立っていたんだ。


(ああ、この娘はNPCか……)


 少女は中世風の粗末な服を着ていて、エプロンもつけている。

 短めの赤い髪の利発そうな美しい少女だった。



 少女が顔を赤らめながら、俺に向かってとてとてと走って来た。


「あ、あの、あのあの、た、旅人さまですか?」


 少女はなんだか勇気を振り絞ったような声で必死に言う。


「ああ、まあ、そんなようなもんだが……」


「あの、あのあのあの、お、温泉はいかがでしょうか!

 ろ、露天風呂もあるんです!

 け、景色もよくって、お湯もとっても気持ちいい温泉なんです!」


 よく見れば門の向こうに温泉宿らしきものが見える。



「そうか。こんなところに温泉宿があったのか」


「は、はい!」



(おい、アダム)


(はい)


(カネはあるか?)


(ジャケットの右のポケットの中の革袋に入れました)


(さんきゅ)



「それじゃあ温泉に入らせてもらおうかな」


 不安そうに俺の顔を見ていた少女の顔が、ぱああああっとほころんだ。


(なんだかすっげぇうれしそうだなぁ……)




 宿まで続く道を歩く途中、俺は少女に話しかけた。


「あんなところで客引きをしてたのか」


 少女は顔を真っ赤にした。


「あの、あのあの、い、いまは麦の刈り入れで忙しくって、お、お客様が少なくって……

 それに、お客様は村のひとたちばっかりなんで、旅人さまにも温泉に入ってもらえないかなって……」


「客が少ないと、給料も少なくなるのか?」


 少女はぶんぶん首を横に振った。


「そ、そんな、とんでもないです。

 でもなんだか、お客さんが少ないとお仕事してないみたいで……

 それにせっかく湧いて出て来たのに、お客さまに入ってもらえないまま流れ出てっちゃうお湯さんも可哀想で……」


「でもキミはちゃんと働いてたんだろ?」


「は、はい! 

 お日さまが出てすぐに村から宿に来て、水汲みとお掃除をしました!

 あと、お風呂のお掃除とお料理のお手伝いが私のお仕事なんです。

 でも……」


「でも?」


「なんだか、お客様が来ないと、わたしお仕事してないような気分になっちゃうんです。

 それで、この世界を創ってくださった創造神さまに申し訳ないような気もしちゃって……」


(それ、俺なんだが……)



「それに……」


「それに?」


「わたし、村の学校を卒業してから、この春にこの温泉宿に雇って貰えたんです。

 だ、だから、温泉宿が潰れちゃったら困るなって……

 それで、お昼休みだったんですけど、街道に立って旅人さんが通りかかるのを待ってたんです……」




(アダム……)


(はい)


(お前、ほんとにいい世界を作ったなあ……)


(お褒めに与り光栄です)



「それじゃあゆっくりと湯につからせてもらうよ」


「は、はいっ! どうもありがとうございますっ!

 番頭さぁん! お客様1名様ご案内でぇ~す!」



 嬉しそうな少女の声に、人の良さそうな初老の男が微笑んだ。


「いらっしゃいませ。ご入浴ですか」


「ああ、露天風呂が楽しみだ」


「それではおひとり様で、銅貨3枚になります」


 俺は革袋から銅貨を3枚取り出してカウンターに置いた。


(これ、便利だなあアダム)


(恐縮です)




 露天風呂は素晴らしかった。

 眼下にはさっきの丘の上から見た景色が広がっている。

 そして風呂がまた見事だったんだよ。

 微かに白く濁るお湯が、湯船の上の岩の割れ目からこんこんと湧き出しているんだ。


(源泉かけ流しか……

 この感触、本当に入浴してるのとまったく変わらないや。それも極上の温泉に。

 すげぇな。

 VRで風呂に入ってリアルで入らなくなる臭い奴が続出しそうだな……)



 湯船から上がると、さっきの少女が裾を上げた格好で洗い場に入って来た。


「あ、あああ、あのあの、お、お背中、ななな、流しますっ!」


 真っ赤な顔をしてそう言った。


「これも仕事なのか?」


「と、ととと、とんでもないです。

 た、旅人さまがお風呂に入ってくださったんで、うれしくって…… 

 それでわたし、お礼にと思って……

 お背中流すのなんて初めてです……」



(おい、アダム。まさかこれって……)


(はい、サトルさま。

 この後、2回ほどこの温泉宿に通った後に、村で偶然この娘に会うと惚れられます)


(ふう、この世界を俺の最高保護区に指定しといてよかったぜ。


 おいアダム、この宿を繁盛させろ!

 そうしてこの娘が一生幸せに暮らせるようにしてやれ!)


(はい!)




 帰り際に、俺は革袋から金色に光る大きな硬貨を取り出して、少女に渡した。


「!!! き、金貨っ!」


 番頭さんも驚いて俺を見ている。


「背中を流してくれたお礼のチップだ」


「で、ででで、でもこんなにたくさんっ!」


「実はな、俺はこの世界をお創りになった創造神さまに願をかけていてな。

 それでその望みが叶ったときに、神さまが出てきて言ったんだ。

『この後、最初にそなたの背中に触った者に金貨を渡しなさい』って……

 ラッキーだったな。それからありがとう」


「で、でもでも!」



「ありがたく頂いておきなさい」


 番頭さんの優しい声が聞こえて来た。


「それだけあれば十分に冬の食料が買えるだろう。

 お前の弟や妹たちもお腹いっぱい食べることが出来るよ」


 番頭さんが俺を見て深く頭を下げた。


「わたくしからも篤く御礼申し上げますです、旅人さま」


「いや、すべて神さまのお言いつけどおりにしたまでだ」


「それでは創造神さまが、毎日一生懸命働くこの子にくださったご褒美なのでしょうね」


(だからそれ、俺だってば……)



「もちろんそうだろうな。

 それじゃ」


 俺はそのまま歩いて村に向かった。

 門のところまで見送ってくれた少女の目に涙が光っているのがわかった……





(サトルさま)


「なんだアダム」


(さすがでございます)


「なにがだ」


(あの金貨チップは、一撃であの少女に恋愛フラグを立てるウラ技でございました……)


「バカヤロ!」






 1カ月後……


 ああ、今日もお見えにならなかったわ、旅人さま。

 あのあと村の宿屋でも聞いてみたんだけど、旅人さまは泊まっていなかったの。


 旅人さま…… どこからいらしてどこへ行ったのかしら。

 隣の村までは遠いし、どこかで野宿でもされたのかなあ。

 せめてお名前だけでも聞いておけばよかったわ。


 わたしは旅人さまから頂いたチップの金貨をそっと眺めた。

 いつもは番頭さんに預かってもらってるんだけど、ときどきこうして眺めて旅人さまを想い出しているの。



 小麦の刈り入れもそろそろ終わるから、その脱穀が済めば収穫祭で市も立つわ。

 去年までは家族が冬に食べる食糧もぎりぎりまでしか買えなかったけど、今年は旅人さまのおかげでたくさん買えるかも。

 ううん。無駄使いしちゃいけないわ。

 来年も使うかもしれないんだもの。

 でも…… 弟や妹にお菓子を買ってあげられるかも……

 ふふ。2人とも喜ぶだろうなあ。


 あれ? 誰かが村から歩いて来てる。

 あ、村長さんのところのジニーだ。

 こんなときにどうしたんだろう。


「やあアリス。こんにちは」


「こんにちはジニー。麦の刈り入れで忙しいのにどうしたの?」


「うん。父さんからの伝言があるんだ。

 温泉宿に着いたら番頭さんと一緒に伝えさせてね」



 わたしと番頭さんと、あとお手伝いのおばさんたちが揃うと、ジニーが話し始めたの。


「それでは村長からの伝言をお伝えします。

 明日は全ての仕事を休んでお昼に教会前の広場に集まってください。

 教会の神父さまから大事なお話があります」


 みんながざわざわした。



「ね、ねえ、ジニー。そ、それって良くないこと?」


「いや、僕も詳しくは聞いて無いんだけど。

 でもいいお話みたいだよ。

 神父さまが慌ててうちに走って来て、父さんと話した後に2人ともすっごく嬉しそうに笑ってたから」


「そう…… よかった……」


「そうそう、アリス。この前旅人さんからチップをもらったんだって?

 神父さまがね。そのチップを持って来てくれって言ってたよ」


「神父さま、どうしてわたしがチップを頂いたってご存知なのかしら?」


「さあ、なんか王都の中央神殿の司祭さまから連絡が来てたみたいだけど。

 詳しくはわかんないや」


「ありがとうジニー。お風呂に入っていく?」


「いや、これから村の人全員に伝えて回らなきゃなんないんで、また今度入らせてもらうよ」





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