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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第2章 銀河宇宙篇
253/325

*** 253 感動の人体実験 ***

 


 そうこうしているうちに『ごんちゃん』が到着したらしい。


 どたどたと足音が聞えた後、応接間に飛び込んできた老齢の巨漢を見て俺は驚いた。


(総理事長先生……)


 そう、ごんちゃんとは瑞宝権三郎氏。

 瑞宝学園初等部、中等部、高等部、大学の総理事長にして医学博士。

 稀代の教育者として全国的に有名な、瑞宝権三郎総理事長のことだったらしい。


 因みに瑞宝というのは、この地域の古名だ。

 自分の名字を学園名にしたわけじゃないようだ。



「みっきー、どうしたんだ。キミが頼みごとをするなんて……」


(みっきー…… あ、そうか、夫人の名前は確か美月さんだったか……)


 俺は、総理事長先生のイメージがガラガラと崩れるのをなんとか阻止した。



 みっきーこと斎藤夫人は、ごんちゃんに事情を説明した。

 途中で父さんが説明を代わり、装置や実験について詳しく説明する。



 説明が終わると、ごんちゃんが俺に向き直った。


「よくぞ我が瑞宝学園大学に入ってくれたね。

 それにしても目元が健悟君そっくりで、実に聡明そうだ」


 ごんちゃんは俺の手を握ったまま父さんに話しかける。


「真行寺君。立派な後継者が出来てよかったな」


「はい」


「もちろんわしは実験を承認する。

 これを承認しなかったら、わしが天国でジローに怒られるからな。

 ああ、でも1日だけ待ってくれるか。

 明日、臨時理事会を招集して理事会承認を得るからの」




 後で聞いたが、斎藤次郎前教授と美月さんと瑞宝権三郎氏は幼馴染だったそうだな。

 瑞宝理事長は、斎藤前教授の脳はまだ一部活動しているとの信念を持っているそうで、脳死判定の後も斎藤前教授の体を厳重に保護していたらしい。

 美月さんと相談して葬式すら出さなかったそうだ。





 数日後、瑞宝大学医学部付属病院。

 大会議室に設置されたベッドに横たわる斎藤前教授の周囲には、父さん、勇悟叔父さん、俺の姿があった。

 それ以外にも、総理事長、美月夫人、医学部の教授多数、工学部の教授多数の姿がある。

 ほとんどの理事会メンバーも揃っていた。


 その他には真行寺技研の実験助手さんたち、土曜日だったんで見学の沙希の姿もあった。

 因みに沙希はこの春に瑞宝学園中等部から高等部への進学が決まっている。


 沙希は、錚々たるメンバーに囲まれて実験の準備をする俺をうっとりした目で見ていた。


(悟お兄ちゃん…… ステキ…… 沙希惚れ直しちゃった♡)





 実験が始まった。

 俺はまず、最新型脳波計で斎藤前教授の脳全体のスキャンを行う。

 会議室の大型スクリーンに、脳の3次元映像が表示された。

 そうして、そのごく一部に明滅する微かな光が現れたんだ。


 会議室にどよめきが走る。

 だがまあ、ここまでは事前の予備実験でわかっていたことだ。


 俺は光の明滅する部分をクローズアップした。

 スクリーンには大きく小さく、そして極めてゆっくりとだが鮮明に発光する光が現れた。

 しかも赤青緑と色とりどりである。

 ざっと見たところ12色ぐらいだろうか。


 さらに大きなどよめきが起きる。

 今の厚生労働省が定めた基準では、脳死判定を出さざるを得なかった医学部の学部長は顔面蒼白になっている。

 その場の全員が光を見つめて呆然としていた。

 美月さんの目からは涙がぽろぽろと落ちている。


(さてと、この光の点滅は偶然なのかな、それとも有意信号なのかな……)



 突然沙希が立ち上がって叫んだ。


「ああっ!」


 沙希は口に手を当て、大粒の涙を零している。


「どうした沙希!」


「こ、これ、校歌です! わ、わたしたちの学園中等部の!」


「なんだと……」


「ほら、見てください! 赤は『ド』の音です! オレンジは『レ』、そして緑色は『ミ』、青は『ファ』、それ以外の色も、みんな音階になってます!

 そして、ゆっくりとですが全体で校歌になってるんです!」



 俺は即座に思考速度を10倍にし、録画された画像の光の色をPCに入力してそれを音階に変換していった。


 しばらくして、コンピュータのスピーカーからゆっくりとだが紛れもない音楽が聞こえて来た。

 これが瑞宝学園中等部の校歌なんだろう。


 会議室が騒然となったが、美月さんと総理事長だけは静かに涙を流しながら座っている。


「やっぱり生きていらっしゃったのね、次郎さん……」


 美月さんの声が微かに聞えた。


 もちろん斎藤前教授も美月さんも瑞宝学園の卒業生だった。



 録画画像の光の色をコンピュータに打ち込む作業は真行寺技研の助手に任せ、俺もスクリーンを見つめる。

 神の手を持つとからかわれる助手さんが、とんでもない速度でキーボードを叩いていた。

 おお、とうとう録画じゃなくってリアルタイムでスクリーンを見ながら叩き始めたじゃないか。 

 スゲえな。



 光の明滅が止んだ。しばらくしてまた明滅が始まった。


「こ、これは、学園高等部の校歌です……」


 10分ほどもかけて高等部校歌が終わると、今度は大学の校歌になった。

 その次は大学の応援歌だ。

 勇壮なメロディーが、ゆっくりと会議室に流れている。

 その場にいたほとんどのひとが滂沱の涙を流していた。


 応援歌が終わると、光の点滅がさらにゆっくりになる。

 それは童謡だった。

 懐かしいメロディーが流れ始めた。


 だが、これだけでは斎藤前教授の脳に意識があるという証明にはならない。

 単に記憶野の記憶だけなのかもしれないのだから。




「それでは実験の次の段階に進みます」


 俺はそう言うと、脳内に電子信号を送り込む装置を起動させた。



 斎藤前教授の研究目標の一つが、脳とコンピュータの直接通信だったために、前教授はモールス信号も堪能だ。

 だから俺は今、敢えて『ハロー』という意味のモールス信号を送っている。

 いきなり音声で会話したりしたら、いくらなんでも飛躍しすぎだろうからな。


 この装置はもちろん信号を送り込む範囲を拡大、縮小出来る。

 俺は、主に見学者のために装置の動作部分を動かして、脳内をスキャンしていった。



 突然光の明滅が止まった。

 俺は脳の範囲を特定して、その部位に少し強めの信号を送る。


 スクリーンに強く大きく輝く金色の光が現れて明滅した。

 これもモールス信号だろう。


 同じくモールス信号に堪能な父さんが、それを日本語に翻訳した。



「あ な た は か み か ?」



 美月さんが泣き崩れた。

 俺は鳥肌が立った。



 会議室の全員、それぞれの分野で最先端の研究者たちが、身じろぎも出来ずに硬直している。

 まあ、そりゃあそうかもだ。

 なんせ今、科学の歴史を塗り替える場面を目撃したんだもんな。



 俺は用意していた『音声入力、モールス信号変換ソフト』を起動させる。

 こっそりアダムに命じて改良させて高性能にしたものだ。

 俺の発した言葉が自動的にモールス信号に変換されて、PCの画面に表示されるとともに斎藤前教授の脳内にも送り込まれている。



「いえ、わたしはしんぎょうじさとる、しんぎょうじけんごのむすこです」


「お お、 お お」


「いま、となりにはみつきさんもいます」


「お お お お」


「あ、あなた、やっぱり生きていらっしゃったのね……」


 高性能ソフトがその声もモールス信号に変換する。


「お お、 み つ き、 し ん ぱ い か け た ね。

 も う か ら だ も う ご か せ な い し、 み み も き こ え な い け ど、 こ う し て は な す こ と は で き る み た い だ。 

 ま た き み と は な す こ と が で き て、 す ご く う れ し い よ」


「あ、あなた…… よ、よくぞ生きていてくださいました……」


「は は、 ひ ま だ っ た ん で う た ば か り う た っ て い た よ」



 これだけの会話に10分近くかかったが、会議室の全員が硬直したまま聞き入っている。

 歴史の目撃者になっているという畏れのためか、身じろぎすらしない。



 瑞宝総理事長が身を乗り出す。


「ジロー、権三郎だ。今は大事な実験中なんだ。

 俺とキミしか知らないことを何か言ってくれ」


「お お、 ご ん ち ゃ ん。 ひ さ し ぶ り。

 こ ど も の こ ろ、 ご ん ち ゃ ん が、 た ぬ ま の こ え だ め に お ち た。

 そ れ を み て わ ら っ て い た ら、 お こ っ た ご ん ち ゃ ん に い っ し ょ に こ え だ め に お と さ れ た。

 み つ き が す ご く お こ っ て ご ん ち ゃ ん も ぼ く も な い た」



 総理事長と美月さんの目から涙が噴き出している。


「うううっ、そ、そんなこともあったな……」


「は は、 こ れ で よ か っ た か な ?」


「ジロー、これは画期的な、いや偉大な研究だ。

 これからも実験の対象になってくれるか?」


「も ち ろ ん だ よ。 

 こ の の う が す り き れ る ま で つ か っ て く れ。

 よ う や く ゆ め が か な っ た き ぶ ん だ。

 あ あ、ち ょ っ と つ か れ た ん で ね む る。

 み つ き、 ま た き て く れ る か?」


「もちろんよあなた。毎日くるわ」


「そ れ は   た   の   し   み   だ」



 そう言って、斎藤前教授の脳は沈黙した。

 それからは、睡眠状態を表す脳波が続いていたんだ……





 瑞宝総理事長が皆を振り返り、涙も拭かずに発言した。

 ものすごい貫禄だ。


「ここにおいでの理事各位、教授各位。

 私は総理事長提案として、この我が校の偉大な研究と偉大な装置を開発した真行寺技研を、我が瑞宝学園グループの総力をもって支援したいと思う。

 ご賛同いただけないだろうか」


 その場の全員が頷いた。

 ほとんどの人が感動のあまり泣きながら……





 翌日から美月さんと斎藤前教授の会話が始まった。

 もちろん夫妻の協力の下、その会話はすべて記録され、真行寺研究室の研究対象になっている。

 なんでも他の研究はすべて中断し、研究室の全員で取り組んでいるとのことだ。


 また、斎藤前教授の脳も随分と活性化されて、会話のスピードも上がった。

 父さんと学術論議までするようになったそうだ。




 実験の翌日。

 瑞宝権三郎瑞宝学園グループ総理事長は、入試部門の責任者を呼び出して、俺の入試成績を聞いたらしい。


「そうか…… 

 高卒認定試験もセンター試験も、受験科目全科目満点か……

 本物の天才が、神のごとき天才が降臨されたのかもしらんな……」


 そのとき自宅に居た俺の体に鳥肌が出た。






 それからはタイヘンだった。


 折から開かれた『日本脳学会』で、父さんが最新の実験成果を報告したんだ。

 驚いたことに論文の研究者の欄には、父さんと連名で俺の名があった。



 そのうちに国内や海外からも研究者が見学にやってくるようになったんだけど、最初は疑わしそうに実験を見ている連中も、途中で感動のあまり泣き始めることが多かったな……




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