*** 241 銀河クレジット&資源銀行(GCRB)口座開設 ***
或る朝目が覚めた俺は、周囲であられもない格好で寝ている可愛いパートナーたちを見渡した。
これがみんな俺の奥さんなんだな。
なんかすっげぇ愛おしく思えるわ。
それから朝の眩しい黄色い太陽を見ながら気がついたんだ。
なんて清々しい気分なんだろ。
なんか闘争本能なんかゼロになってるし、仕事への意欲もすごいや。
そうか……
愛する奥さんたちに、思いっきり性衝動を解放させてもらうとこんな気分になるんだな……
みんなありがとう。愛してるよ。
でもみんなも悦んでくれてたし、愛のあるエッチって本当に素晴らしいなぁ。
ということはだ。
これって、バーチャルな世界で理想の美女と恋愛出来てエッチ出来て、それで実際に射精も出来るエロゲ作ってやったら、ヒト族の異常な性衝動も相当に緩和されるんじゃなかろうか……
そうしたら暴力衝動も減って、ヒト族の社会も相当に穏健で建設的なものになるんじゃなかろうか……
俺はみんなを起こさないように気をつけて、自分の神域の書斎に転移した。
「なあアダム、ヒト族の為にVRエロゲを作ってやりたいと思うんだが、
お前に作れるか?」
(多少のお時間を頂戴出来れば可能と思われます)
「どんな方法でVRを体験させるんだ?」
(そうですね、まずは脳操作の魔法による脳の改変でございましょうか。
あの神界最高顧問の方々に頂戴したスキルの中に、そうしたことが可能になる『対人身体操作』や『対人身体改変』のスキルがございましたので、そのスキルで魔道具を作れば可能です)
「も、もう少し穏健な手段は無いかな……
た、例えば純粋に技術的な方法とかで……
それに、いくらなんでも魔道具を銀河世界に普及させるのはマズイかもしれないし」
(純粋に技術的なものも時間が有れば可能ではございますが……
そうした技術は既に銀河宇宙でも確立されております。
ですから、例え私が開発しても、銀河の知的財産権ルールに触れてしまいますでしょう)
「そうか…… それじゃあ使用料を払って使わせてもらおうか」
(あの、あまりにも先進的な技術を後進世界に持ち込むのは、神界によって禁止されておりますが……)
「な、なるほど。そりゃそうだよな……」
(具体的には、試練合格世界では、神界により科学技術レベルと文化レベルが評価格付けされております。
例えばサトルさまの前世の世界地球であれば、科学技術レベルは2.8、文化レベルは3.4でございますね。
そして、科学技術も文化も、星の格付けより0.2を超えて上の等級の物は輸入が禁止されているのです。
もちろん後進世界の独自の技術と文化の発展保護のためですが)
「ん?
っていうことはさ、地球でも銀河宇宙の産物を輸入出来たんか?
だけど地球人は、銀河宇宙社会や神界のことは知らなかったぞ?」
(それはエルダリーナさまのご方針でございますね。
エルダリーナさまは、少なくとも各国指導層の最低E階梯が5.0を超えるまでは、地球が銀河宇宙と接触するのを禁止されておられます)
「そうだったんか……
でも困ったよな。
それだと、例えヒト族のためにVRエロゲを作ってやれても、被検体のヒト族がいないよな。
ガイアじゃ技術等級が低すぎてコンピューターゲームなんか持ち込めないだろうし……
それじゃあ俺しか被検体がいないじゃないか……
出来れば地球のヒト族を対象にVRゲームをテストしてみたかったんだけど、なんかいい方法はないかな?」
(あの、今のエルダリーナさまがサトルさまのご依頼を断る可能性は皆無だと思われますが……)
「そ、それもそうか……
でも技術的な問題は……」
(それでは惑星イルシャムにご相談為されたらいかがでしょうか。
科学技術レベル2.8の惑星に持ち込める範囲内の技術で、VRゲームの基本ストラクチャーを構築して貰うのです)
「そ、そんなこと頼めるもんなのか?」
(あの惑星の本業は技術開発コンサルタントでございますからね。
この手の技術助言と開発は得意中の得意でございましょう)
(そうか…… それじゃあ出来るかどうか聞くだけ聞いてみるか……)
それで俺は、またアダムと一緒に惑星イルシャムに出向いたんだ。
ああ、もちろん短期訪問だよ。
数日に渡る訪問は、ウチのハーレムメンバーが絶対に許してくれないからな。
はは。
まあ、実際の転移はほとんど瞬時なんで、あんまり遠出した気はしないんだけどさ。
今度のイルシャムでの会合では、なんだか参加者がやたらに増えてたよ。
10億クレジットのせいなんか?
それにしたって、たったの10億クレジットで、なにも惑星大統領まで出て来ることはないだろうに……
最初の挨拶が終わると大統領が切り出した。
「あの、サトル神さま。
僭越ながら本日は私共よりご提案がございます」
「ご提案…… ですか……
それはどのようなものなのですか?」
「はい、まずは失礼ながら、サトル神さまは人物信用等級としては、AAの格付けをお持ちです。
これは銀河の惑星の中でも豊かで先進的な惑星政府と同程度の信用度でございます」
「わ、惑星政府とですか」
「ええ、なにしろ初級神さまであらせられることに加えて、『神界金星勲章』まで受勲されていらっしゃいますので当然でございます。
そこで、銀河クレジット&資源銀行(GCRB)での口座開設をお勧めさせて頂きたいのです」
「銀河クレジット&資源銀行(GCRB)ですか?」
「はい、銀河通貨クレジットや資源をお預け頂く、銀河規模の組織でございます」
「ほう」
「この銀行のネットワークにご資金や資源を預けて頂くと、わたくしどものような星系から技術や商品をお買い上げ頂いた際に、その材料資源や費用が自動的にネットワークから引き落とされます。
つまり余分な資源のお支払いもご無用になるのです。
また、当然のことながら、お支払いの信用度も格段に上がります」
(アダム、そんな制度があるのか?)
(はい、最高の信用度を誇る組織でございますね。
なにしろ監査の最高責任者は神界最高神政務庁の上級神さまですから)
(なるほど)
「よくわかりました。
それではそちらに資金や資源を預けることとさせて頂きます」
「そうして頂ければ、先日過分にお支払い頂いたクレジットや資源もそちらの口座に移しておけますので」
「あ、いや、クレジットの方は貴星で全額ご査収ください。
また、資源の方も余った部分から1000万トンずつはご査収頂きたいと考えます。
あれはお取引いただくご挨拶のつもりでしたので」
「あ、ありがとうございます……」
「それで、口座開設はどちらに行って行えばよろしいのでしょうか?」
「もしよろしければ、私どもで代行させて頂けませんでしょうか。
私どもは銀河クレジット&資源銀行(GCRB)の主要メンバーでもございますので、クレジットの口座はすぐにお作り出来ますし、資源倉庫の手配の方も出来ます」
「それでは宜しくお願いしたいと思います。
そうそう、不勉強で恐縮ですが、金という元素は銀河宇宙ではどういう扱いになっているんですか?」
「ええ、金は導電性がいいという以外にはあまり使い道がありませんので、電力損失ゼロのケーブルが普及している銀河世界では、資源としての使い道があまりありません。
また、距離の問題で恒星間では取引の際の通貨としてはほとんど使われていません」
「そうですか……」
「ですが、太古の昔から貨幣として用いられて来たという歴史によって、今でも一部世界では大いに人気があります。
交換通貨としては用いられていなくとも、信用準備としては立派に通用致しますよ」
「クレジットに換金は出来るんですか?」
「ええ、あまり価格が変動しないので投資商品としての魅力はございませんが、1グラム当たり500クレジットほどで支払いの代替にすることも出来ます」
(地球の10倍ぐらいか……)
「もちろん金による支払い信用口座もございます。
そうして、口座をお作り頂ければ、御指示によって金を含む各種資源をご売却する際には、私どものグループ内の商業惑星が代行させて頂くことも可能ですし、また、資源を貸し付けて利息をとることも出来ます」
「それは便利ですねぇ。
まあ、当面貸し付けはしないと思いますが」
「それで…… あの……
もしお差支え無ければで結構なのですが……」
「ああ、資源の種類と量についてですか?」
「は、はい。
じ、実は先日アバター製作用資源としてお預かりした鉄資源と銅資源とアルミニウム資源なのですが……
よ、よもやすべて純度100%の純粋資源だったとは……
あ、あのような貴重なものを……」
「貴重なんですか?」
「は、はい。
純度100%の鉄資源、つまり『完全鉄』は、純度99%の鉄の100倍の価格で取引されております。
もはや貴金属と言っても過言ではありません」
「銀河技術で『完全鉄』は作れないのですか?」
「い、いえ、今の銀河技術であれば、作れないものはほとんどございません。
全てはコストの問題なのです」
「なるほど」
「そ、それで、どのような資源をお持ちなのでしょうか……」
「あの、原子番号120番までの元素のうち、気体元素を除いたほぼ全てですけど……」
「そ、それらが全て純粋元素だと仰るのですか!」
「はい」
惑星大統領はハンカチを取り出して額の汗を拭いた。
その場の技術者たちはみんな仰け反っている。
だけど、大統領が微かに残念そうな顔をしたんだよな。
「あの、銀河宇宙では気体元素も必要とされてるんですか?
何分にも後進惑星の出身で、銀河のことはほとんど何も知らないものですから」
「し、失礼致しました。
実は銀河世界では、『純粋酸素』も重要な資源なのです」
「酸素……ですか……
でも酸素ってどこにでもありますよね?
宇宙にある氷の中とか地殻中の酸化物の中とか」
「それも全てはコストの問題なのです。
酸素は大気以外の自然界ではほぼ必ず化合物として存在しています。
それらを分解して純粋酸素を取り出すには、たいへんなコストがかかるのでございますよ。
まして、スペースを取らぬよう液体や固体の形で保存すれば、それもかなりのコストがかかります」
「なるほど」
(なあアダム、俺って岩石から酸素を抽出をすることって出来るのかな。
もし出来ても、液体や固体に出来るかな)
(可能です。
それに、『抽出』の魔法と同時に『固化』の魔法をお使いになれば、固体酸素の形で手に入りますが)
(そ、それって、超低温とか超高圧になってないか?)
(研究室などで固体酸素を作ればそうなりますが、『固化』の魔法であれば常温常圧の固体のまま保存可能です)
(じゃあ可能なんだな)
(はい)
(それに、そのネットワークにいろんな資源を預けられたら便利だし、俺やシスティの倉庫に積んである資源も無くなってスペースも空くから一石二鳥だな)
(そうですね)
「わかりました。
それでは金属元素に加えて純粋酸素も固体の形で預けさせて頂きましょう」
会議室にどよめきが起きた。
全員がハンカチを取り出している。
「そう言えば放射性元素はどうしますか?」
「放射性元素につきましては、後進文明でも比較的容易に大量破壊兵器の材料に出来ますために、神界によって恒星間取引が禁じられているのでございます」
「でしたら120番までの放射性元素以外の純粋金属元素と、あとは純粋酸素ですね。
もちろん金も預けさせて頂きたいと思います」
「あ、あの……
お預け頂ける量の方は……」
「固体純粋酸素の方は少々お時間を頂くとして、そうですね……
取敢えず純粋鉄は最低でも1兆トンとしましょうか。
固体純粋酸素も同量以上になるでしょう。
それ以外の元素は、当初は通常の地殻内存在比率に応じて、数百万トンから数千億トンになると思います。
あ、金は当初30万トンほどにさせて下さい」
大統領の額から汗が噴き出した。
周囲の随員たちは、仰け反り過ぎてアゴしか見えなくなっている。
「あ、あの……
それほどまでの預け入れ口座開設であれば、大変申し訳ないのですが、神界により口座名義人の人物調査が義務付けられておりまして、サトルさまは神族であらせられますので、神界への人物照会になります」
「構いませんよ。
そうですね、照会先は最高神政務庁のゼウサーナ上級神さまの秘書官にして頂けますか」
「さ、最高神さまの政務庁でございますか……
か、畏まりました……
あ、あと、その資源量ですと、加えて神界に預け入れ量の上限設定を申請しなければならないのです。
む、むろん、一個人や惑星による特定資源の買い占めや侵略戦争の準備を防止するための処置でもあります」
「それも構いません」
「そ、そうしてそれほどまでの資源をお預け頂いたならば……
あなた様の支払い信用格付けはAAAになりまして、おそらく個人としては銀河宇宙でも10指に入られるかと……」
「あの……
資源の預け入れって、神界が設定してくれた上限以内ならば自由なんですか?」
「えっ……」
「い、いや、多分ですけど、あと1年ほどでその1万倍ぐらいはお預けさせて頂くかも……」
「ひいっ!」
大統領の呼吸が止まった。
随員たちの何人かは白目になっている……