*** 230 ガイア国国民の今後 ***
ガイア国、或る日の大族長会議の場にて。
「みんなお疲れさん。
膨大な数のヒト族を受け入れて、みんなタイヘンだろうけど何か問題は発生しているか?」
「そうですの。大平原や大森林の部族の多くを受け入れて来ていましたから、手順には慣れております。
まあ、単に規模が大きくなって作業が多くなったというだけで」
「最初は皆ヒト族に怯えておりましたが、直接の接触はほとんど無く、もし直に会う必要があっても、アダムブラザーさんたちが対応してくださいますからの。
皆安心して働いておりますわ」
「うむ、相手が獣人や亜人であるかヒト族であるかだけの違いであって、やることはほとんど変わりませんからのう」
「でもまあ、それもサトル神さまが凶悪犯罪者を隔離して下さっているからこその話ですじゃ」
「それはもちろんですな。
彼らへの応対は、全てアダムブラザーさんやイブシスターさんたちがやって下さっておりますからの」
「ただ……
少々問題があるとすれば、ヒト族が食料を溜め込みたがることでしょうか」
「そうそう、れすとらんで供される食べ物を、そのまま居住区に持ち帰って溜め込みたがりますのう」
「まあ、我々も街に移って来た頃は、同じようなことをしておりましたがの、ははは……」
「仰る通りですが、それでも1カ月もすれば大分収まっておりましたぞ」
「それが、ヒト族の場合はなかなか収まらんのですわ。
もう移住して半年も経つ者もいるのに、食料の溜め込みが続いておるのですよ。
溜め込んだパンなどはとっくにカチカチになって、カビだらけになっているというのに」
「うーん、大切な食料がもったいないですなぁ」
「なにかいい対策はありませんかの」
「そうですな、まずは、『れすとらんにいくらでも食糧があるのだから、当日の夜食やおやつ以外は居住区に持ち帰らないように』、『数日以上経過したものは体に害があるかもしれないので食べないように』という警告を発しますか。
それでも食料の溜め込みが減らないようでしたら、アダムブラザーさんに頼んで、居住区にある古い食料を全て転移させて貰うのは如何でしょうか?」
「ついでに転移させた古くて食べられない食料を、レストランに山積みにして、『みなさんは貴重な食料をこんなに無駄にしています』と報知してみたらいかがでしょう?」
「おお、それは良いお考え!」
「それでも溜め込みが減らないようでしたら、また別の手段を考えますか……」
「サトル神さまは、どう思われますか?」
「うん、そのアイデアを是非試して貰いたいと思う。
まあ、ヒト族のほとんどは、常に飢えの恐怖に晒されていたからな。
食料が潤沢にあるという状態がなかなか理解出来ないんだろう。
それにしても、みんながこうして問題点を出し合って、その解決方法を相談し合っている姿は、ありがたいと思うし頼もしいよ。
これからも、こうして考えて行って欲しいと思う」
はは、みんな笑顔になったな。
「ところで俺の方からみんなに相談があるんだが……」
「是非拝聴させて下さいませ」
「あのな、アダムに調べてもらったんだが、ガイア国にいる種族の内、どの種族にも多かれ少なかれ魔法の素養があるそうなんだ。
まあ、フェンリル族は既に魔法で火や岩を出せるし、ドラゴン族はブレスを吐けるし、ドワーフ族には塩の抽出をして貰ってるけど。
それ以外の種族も練習次第で魔法が使えるようになるそうなんだよ」
「おおおお…… そ、それは素晴らしい……」
「それでさ、土木部の連中もそろそろ神界に帰ることだし、今度はガイア国のみんなにも魔法の練習をして貰ったらどうかって思ったんだ。
大族長たちはどう思う?」
「是非!」
「素晴らしいことであります!」
「ですがサトル神さま、我々などが魔法を使えるようになって、本当によろしいのですか?」
「万が一にも魔法の暴発で事故など起こりますと……」
「もちろん危険性もあることはある。
だが、実は魔法を使えると言っても、それは『マナ使用権限』というものを与えるに過ぎないんだ。
そして、実際に魔法を使うときには、全てアダムを通じて発動しているんだ。
もちろん俺もそうなんだけどな。
だから、実際の魔法使用時は全てアダムの監督下にあるから、危険な使用は極力抑えられると思うんだよ」
「おお! それならば!」
「うーむ、実に楽しみですのう」
「但し、まだみんな『体内マナ保有力』も『マナ操作力』もレベルが低いから、ちょっと魔法を使っただけですぐ気絶しちゃうぞ」
「はは、確かサトル神さまも、最初は『水球(小)』2発で気絶されていましたのう」
「それで、気絶すればするほど魔力が上がるとか」
「その気絶と言うのはけっこう苦しいものなのですかの?」
「あー、そうだな、最初の内はけっこう不快だったな。
でも不思議なもんで、10回、20回と気絶しているうちに、どんどん不快さが減って行くんだわ。
それで、もし良かったら、みんなそれぞれ種族の仲間と相談して、交代で魔法研修に参加して貰えないかな。
もちろん最初は大族長や族長たちに試して貰いたいんだが……」
「それは我らも参加出来るものなのか?」
「ああフェンリー、もちろんだ。
お前たちはもうかなり魔法を使えるけど、攻撃魔法ばっかりだろ。
だから簡単な『キュア(初級)』とか、飲み水を出す水魔法とかも覚えると便利だぞ。
威力の小さい火魔法と水魔法を合わせれば、お湯も作れたりするぞ」
「ふむ、自分たちで風呂を沸かせられるようになるのか……
それは素晴らしい。
我らが水たまりに火球をブチ込んでも、瞬時に蒸発して湯にはならんからのう……」
「あははは、そりゃそうだ。
ということでだ。
もし良ければ各種族から交代で100人ほどずつ3カ月ほどの研修を受けて貰いたいと思ってるんだ。
最初は大族長や族長たちだけど、その後は成人したばかりぐらいの若い奴から研修に派遣して欲しいと思っている。
慣れたらもっと人数を増やしてもいいかな」
「そ、それで我らの研修はいつ始められるのでありましょうか!」
「はは、張り切ってるな」
「「「「それはもう!」」」」
「システィの神域に神界土木部が作業に使っていた部屋があるから、いつからでも始められるぞ」
「それでは明日にでも始めましょうぞ!」
「「「「「 おう! 」」」」」
ということで、今度はガイア国のみんなに魔法を教えていくことになったんだ。
まあ、資源抽出までは難しいだろうけど、みんなが生活魔法ぐらい覚えたら、もっと暮らしが楽になるだろうからな。
研修初日には俺も顔を出したけど、翌日から講師はアダムブラザーたちに任せた。
アシスタントは塩抽出で相当に魔力を上げていたドワーフたちだ。
アダムが神界土木部の鍛錬を見ていたおかげで、アダムブラザーたちの教え方も見事なもんだったよ。
さて、俺がやることは当面終わったか。
それじゃあみんなが働いてる場所の査察でもしてみよう。
「なあフェミーナ、お前自身が見たり各族長さんたちに聞いたりして、俺がみんなの仕事ぶりを視察する日程を組んでくれないか?
どうやらみんな、一生懸命仕事してるところを俺が見てお礼を言うと喜んでくれるみたいだからさ」
「はいサトルさん、早速スケジュールを組んでみますね♪」
それで俺、いろんな場所を回ったんだよ。
世界樹森林公園で働いてる精霊たちや、蜜を集めてくれてる蜜蜂族たちや、レストランで料理を出してくれてるスタッフたち。
それから、各地の保育園や幼稚園で働いてくれてる保育士さんたち。
リゾートでみんなの世話をしてくれてるメンバーたち。
もちろんヒト族の移民のために、各種食料や資材を用意しているスタッフたちも。
いやガイア国も大きくなったもんだね。
もうこんなにたくさんの職場が出来てたんだなぁ。
それになんか、俺が視察して、「ご苦労さん」とか「いつもありがとうね」とか声をかけるとみんなすっごく喜んでくれるんだ。
というか、ほとんどみんな泣いちゃってるし……
こんなにみんなが喜んでくれるんだったら、俺ももっと頻繁に視察に回ってみるとしようか……
そうだな、1年以内に全員に会えるぐらいに……
「あ、サトル。
今、神界のゼウサーナさまの秘書システムさんから連絡があって、わたしとサトルに最高神政務庁の執務室に来て欲しいって言うのよ。
サトルは明日空いてるかしら?」
「まあ、ゼウサーナさまからの呼び出しだったら無理矢理開けるけどな。
でも明日はもともとヒマだから問題無いぞ」
「それじゃあ明日の朝10時にお邪魔するって、連絡を入れておくわね」
「うん」
翌日の神界、上級神ゼウサーナの執務室にて。
「システィフィーナ初級神、サトル初級神、よく来てくれた。
わざわざ呼び出して済まないが、神界からの公式通達を伝えるためなのでまあ許せ」
「公式……通達ですか……」
「そうだ。
だが、まったく深刻なものではない。
故に懸念する必要も無い」
「は、はぁ……」
「早速だがの、来週から1カ月の予定で、神界最高顧問会議の査察団を受け入れてもらいたい」
「さ、最高顧問会議……」
「そうだ、長年に渡る銀河世界への貢献を終えられて引退された中級神や上級神が、神界への最後の貢献として就く役職だ。
皆それぞれ、過去には何千何万という世界の管理をしてきた神たちなので、世界や知的生命体を見る目は確かだぞ」
「そ、そうでしょうねえ……」
「そして、その職務は、最高神さまの重要な意思決定に当たって、最高顧問会議としての助言を行うことにある。
もちろん強制力は無いが、最高神さまも彼らの意見は非常に重要視されておられるのだ。
まあ、賢人会議のようなものだの」
「な、なぜそのような方々が、ガイアに査察など……」
「ははは、心配か……」
「は、はい」
「彼らの目的は、まずはガイアに対して正式に試練合格認定を出すための最終チェックだ」
「もう合格判定を頂戴出来るんですか?」
「うむ。まあ特別な措置であるが故に、このような査察が行われることになったという側面もある。
もちろんそれだけが目的ではないが」
「と、ところで査察団の方々は、総勢何神さまになりますか?」
「査察団の人数は、上級神20名と中級神30名の合わせて50名だ」
「そ、そんなに……
ホテルにそれだけの上等な部屋があったかな……」
「いや、そなたの造った街にはまだ空き部屋がたくさんあるだろう。
そこでいいそうだ」
「そんな…… 上級神さまや中級神さまにそんな待遇でいいんですか?」
「うむ。実際に住民と同じ生活をしてみたいそうなのでな。
むろん特別な食事も不要だ。
そなたの作ったレストランを使わせてもらえばよい。
そうだの、必要なのは道案内用の担当者ぐらいかの」
「畏まりました。
なあシスティ、それならいつでも受け入れ可能だよな」
「ええ、大丈夫ね」
「この査察団の表向きの目的は、ガイア世界に早期試練合格判定を出すための最終判断のためということになっておるが……
まあ、合格については内定しているも同然だ。
故に心配は要らぬ。
最高顧問会議の面々も、余程のことが無ければ文句は言うまい。
だがの、実はこの査察には他にもいくつかの目的があるのだ」
「他の…… 目的ですか……」
「その目的には、そなたという男の資質が大きくかかわっておる」
「そ、それじゃあわたしも質問攻めにあったり、なんか試験とかもされるんでしょうか?」
「はは、その心配も無用だ。
顧問官たちに言わせると、そなたが造り上げた世界を丹念に観察することで、そなたの資質は充分に判断出来るそうだ。
まあ、ガイア国の国民にはさんざんヒアリングすることになろうがの」
(ガイア国の連中、俺の悪口言ったりしないよな……)
「それで、他の目的とはいったいどういうものなのでしょうか?」
「うむ、それについては試練合格後に伝えよう。
あまり先入観を持たれても困るしの」
「わかりました……
あ、ところで、例の『資源抽出』の魔法についてはどうしましょうか?
査察団の方々に見られてもいいもんなんでしょうか……」
「はは、最高顧問会議の査察にはいかなる秘匿事項も無い。
既に彼らにも、新しい神界の財源については説明してあるしの。
それに、査察内容に関しては守秘義務もある。
安心して全てを見せてやるがよい。
それでは来週早々に査察団が訪れるのでよろしく頼んだぞ」
「「はい」」