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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
23/325

*** 23 神界最高神政務庁内特別監査部 ***

 



<上級天使ローゼマリーナ視点>



 タイプRS-7世界ガイアでの1カ月に渡る調査の後。

 わたしは上司たちへの報告の為に神界に戻ることになった。

 なんか、お土産に大量のアンパンとコーヒーとお砂糖を持たせてもらえて嬉しい。



 翌日。神界の上級神ゼウサーナさまの執務室。


「これより最高監査部内にて、試練世界の不祥事についての報告会を行う」


 上級神ゼウサーナさまの声と共に、その場にいた8名の中級神さまたちが頭を下げた。


(さすがの中・上級神さまたちだけあって、凄まじい神威ね……)

 わたし、ローゼマリーナは背筋を伸ばした。


「それでは上級天使ローゼマリーナ。報告を始めなさい」


「はい。かしこまりました。

 まずは今回問題となったタイプRS-7世界ガイア以外の試練世界についての調査でございます。

 結論から申し上げれば、いずれの世界に於いても重大な瑕疵はございませんでしたが…… 3つほどの世界に於いて、いくつかの経年劣化や事故などの小さな瑕疵が放置されておりました。

 試練結果に影響を与えるほどのものではございませんでしたが、このまま放置すればその世界の知的生命体に浅からぬ影響が出るものと推察されます」


「ふむ。その3つの世界を統括していた初級神は誰か」


 上級神ゼウサーナさまの重厚なお声を聞いて、私は声が震えないように願った。


「はい、いずれもタイプRS世界ガイアを管理していた元初級神、スメルコーナの担当していた世界でございます」


「シャスラータよ。

 過去スメルコーナから上がった管理下世界の不都合報告は何回あったのか」


「まったくございませんでした。ゼウサーナさま」


 副官の初級神さまが答えると、ゼウサーナさまのお顔が厳しくなった。


「そうか…… 不都合報告を上げぬことで、自身の管理能力を欺瞞していたのか」


(あ、監査官の中級神がひとりわたしを睨んでる……

 あの方って確か……)



「畏れながらゼウサーナさま。

 不都合報告を上げないことすなわち欺瞞と決めつけるのは如何なものでございましょうか。それにこの一介の天使の調査で結論を出すのも早計かと。

 もしよろしければ、わたくし自ら再調査に赴いて、正義を為す所存でございます」


「サウサリジェンナよ……

 まさかそなた、一族に連なるスメルコーナを庇うために、この上隠蔽を重ねようとしておるのではあるまいな」


「まっ、まさか! そのようなことはあり得ませぬ!」


「スメルコーナの隠蔽は、本人の判断ではなく、一族の高位者からの指図であったとの疑惑も浮上しておる。

 このまま隠蔽工作を続ければ、その高位者のみならず、一族一同そろって神界への反逆罪に問われることとなるが……

 そなたの再調査が行われ、もしも瑕疵無しなどという報告が上がれば、私自らが再々調査に赴いてそなたの調査を精査することになる。

 それでも構わんのなら調査に赴くがよい」


「め、滅相もございません! ぜ、ゼウサーナさまのお手をわずらわせるなど……」


「ふむ。サウサリジェンナよ。

 当面は大人しくしくしておいた方が身の為だぞ。

 この件に関しては、最高神さまも大いに関心を寄せられておる。

 万が一にもあのタイプRS-7世界に、事故を装った逆恨みの報復なぞ目論むようであったら……

 そなたを含む一族全員が神界追放の上、封印刑に問われることになろうぞ」


「と、ととと、とんでもございませぬっ! ほ、報復などと……」

(これはまずい。まずいぞ…… 

 最高監査部は一族ぐるみの隠蔽工作に気がつき始めておる……

 あのバカ孫はしばらく隔離して監視せねばなるまい……)



「それではローゼマリーナよ。

 タイプRS-7世界ガイアについての報告を始めなさい」


「はい、かしこまりました。

 ガイアにつきましては、中級天使エルダリーナよりの上申書にございました通り、世界へのマナ再供給路が地下21キロ地点に於きまして完全に破断しており、周囲200キロ以上に渡って崩落しておりました。

 現地の使徒の推察通り、プレートテクトニクスによる大陸移動が原因と思われます」


「ふむ。もしもその推測が正しければ、その瑕疵は一時に起こったものではなく、数千年から数万年に渡って発生していたことになるな。

 その間一度も調査していなかったということか……

 いや話の腰を折ってすまん。続けなさい」


「は、はい。

 そのために行き場を失ったマナが、地殻の弱い部分を突き破って、20万年前ほどに大爆発を伴って地表に大噴気孔を作った模様です。

 そのために噴気孔付近の地表は、半径300キロ以上に渡って完全に砂漠化しております。

 その大噴気孔周辺部のマナ濃度は通常の1000倍を超えてしまい、半径3000キロ近くにも及ぶヒト族の住めない地域を作ってしまっておりました。

 その周囲も2000キロに渡って居住困難地域であり、ヒト族はほとんど居住しておりません。

 また、ご存じの通り、マナは空気よりも僅かに重いため、世界に拡散して行くことも困難な状況にありました。

 大陸東部、西部のヒト族居住地帯に於きましても、地表のマナ濃度は通常の10倍から50倍の濃度でございます」


「は、半径5000キロだと……」

「それでは大陸の3分の1近くが無人状態ではないか……」

「通常マナ濃度の50倍の居住地域か……」

「あの世界のヒト族が異常に凶暴だったのはそのせいだったか……」



 多くの中級神さまの呟きが聞えたが、ゼウサーナさまが手を上げるとすぐに静まった。


「それほどの規模の異常であれば、軌道上から観測しただけでもわかろうというものだが…… 元初級神のスメルコーナは一体何をしていたのだ?」


「あの…… 元初級神の世界管理用事務所の使い魔たちへのヒアリングによれば、スメルコーナは管理下の世界への視察はおろか、管理事務所にすら一度も来なかったとのことでございます……

 また、3回ほど試練中の初級天使から異常に濃いマナ濃度についての調査依頼が上がっていたそうなのですが、スメルコーナはそれを握り潰したのみならず、まもなく架空とみられる理由によってそれら初級天使を失格にし、天使見習いに降格していた模様でございます……」


 また会議室がザワついた。

 中級神サウサリジェンナさまだけは唇を噛みしめている。

(あのバカ孫め……)



「それでは現在のガイア担当初級天使システィフィーナが苦労していたのも当然だな」


「はい。風の精霊たちを創り、必死でマナを世界に拡散させようとしておりました。

 また、異世界より優秀な使徒を召喚して、ヒト族の戦争を止めようとしておりました」


「そういえば、今回の瑕疵を推測し発見したのはその使徒だったそうだが。

 ヒト族であるにもかかわらず、かなり優秀な者だと聞いたが相違無いか」


「はい。実に優秀です。

 限られた情報ソースから今回の瑕疵の原因を推察したのみならず、その後も考察に加えて甚大な努力を注ぐことによって、事態の改善方法まで見出しておりました」


「ほう…… その改善方法とはなにか?」


「お手元の報告書に詳細を記しておきましたが……

 端的に言って、自らの天使力の行使レベルを異常なまでの鍛錬によって引き上げ、また彼らが『魔法』と呼ぶ新開発の天使力行使によって地殻中の岩石を変形させ、自分たちでマナトンネルを復旧させようとするものでございます」


「そのために『世界管理用ポイント』を使用して、初級天使並みの能力を手に入れておったというのか……」


「いえ。彼はそのポイントを使用して大きな能力を手に入れてはおりませんでした。

 というより出来なかったのです」


何故なにゆえか?」


「初級天使システィフィーナは、その管理下の世界を救うために、既にあらゆる努力をしておりました。

 そのせいで、もうほとんど管理用ポイントが残っていなかったのです。

 彼女の最後の望みが『使徒』サトルの召喚でした。

 サトルはそのシスティフィーナの意に応え、総合レベル1の状態から自らを鍛え上げ、マナトンネル修復用の力を手に入れようとしております。

 このまま行けば、あと10年ほどでその力を手にすることになるでしょう」



「彼らは何故神界に助けを求めなかったのか?」


 副官のシャスラータさまに聞かれた。

 ゼウサーナさまを見やると頷いている。


「あの…… 

 初級天使システィフィーナは、これも試練の一部だと考えておりました。

 神界などに助けを求めたら、試練に落第して自らの創り出した愛する生命体が消去されてしまうことを恐れていたのでございます。

 また、使徒サトルは、それに加えてもう一つの理由を述べておりました」


「その理由とはなにか」


「実はサトルは、このガイア世界の瑕疵放置が、怠惰による見逃しではなく、隠蔽による意図的なものだということを見抜いていたのでございます。

 それ故に、へたに救援を求めたりすれば、その隠蔽工作を行った者に握り潰されるだけでなく、場合によっては自分たち自身もその者に抹殺されることを懸念しておりました」


 ゼウサーナさまの眉間のしわが深くなった。


「またしても使徒サトルの推測が正しかったということなのだな。

 スメルコーナの行状を見る限り、その可能性は十分にあったことだろう……」


 あ、中級神サウサリジェンナさまが小さくなってる……

 つまり有り得たっていうことなのね……



「ところでこの最高監査部に上申書を上げて来たのは、彼らではなく中級天使エルダリーナだったはずだが、それは何故なにゆえだったのか」


「はい。天使界の慣例では、管理担当の初級神を飛び越えて、この特別監査部に上申書を上げられるのは中級天使以上になります。

 エルダリーナ中級天使は、かねてよりシスティフィーナ初級天使と親交が深かっただけではなく、使徒サトルは元々はエルダリーナの世界を前世としておりました。

 エルダリーナが、若くして亡くなったサトルの能力とE階梯の高さを惜しみ、システィフィーナに使徒として推薦していたのでございます。

 そして、彼女が上申書を上げた理由は、彼女の言葉を借りれば、『あの使徒サトルの、あのおとこの想像を絶する努力を見れば、私もリスクを冒す努力をせねばと考えるのは当然だ』だそうです……」


「ふむ。この特別監査部に直接上申書を送りつけるのは、中級天使といえども勇気の要ることであっただろう。

 それに中級天使エルダリーナと言えば、その能力もさることながら、信義に厚く、同期最優秀の誉れも高い者だったな。

 そのエルダリーナをして、そこまで言わしめたのか……」


「はい。自らの子の父親にしたい程だと言っておりました」


「ははは。そこまで言うか。

 ところで、そのエルダリーナをも感動させた使徒サトルの努力とはどのようなものなのだ? そうそう、そやつのレベルはいくらになったのか?」


「はい。召喚から1年と3カ月で、総合レベルがLv1からLv100にまで到達しておりました」


「な、なんだと!」

「1年少々でLv1からLv100だと!」

「Lv100と言えば地上界の全歴史を通じてもヒト族最高ではないか!」

「し、信じられん。い、いくら初級天使の助けがあったとしても、そんなことが起こり得るとは……」


「それではみなさま、もしよろしければ、使徒サトルの訓練風景をご覧になって頂けますでしょうか……

 予め申しあげておきますが、かなり厳しいものでございますが……」


「是非見せてもらおう」


「はい。

 それでは、当初初級天使システィフィーナが泣き叫び、中級天使エルダリーナが感動の涙を流し、そしてわたくしが気絶した、使徒サトルの訓練風景をご覧くださいませ……」





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