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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
223/325

*** 223 ヒト族文明の暴虐性とは ***

 



(なあアダム、それにしてもこのガイア世界のヒト族ってぇのは酷い奴ばっかりだよな。

 それも、支配層だけじゃあなくって末端の奴隷兵まで……)


(わたくしは見慣れておりますけれど、やはりサトルさまにとっては少々お辛かったようでございますね)


(なんかさ、おなじヒト族として悲しいと言うか信じらんないというかな……

 あー、忠告されていたのに、やっぱり少しメゲちまったようだ……)






 その日の夕食時。


「どうしたサトルよ。どうやらあまり元気が無いようだが」


「あ、エルダさま。顔にまで出ていましたか……」


「やはり少々落ち込んでおるようだの。

 それではあとで皆で風呂に入って慰めてやろうではないか。

 それとも慰められるのはベッドの上の方が良いかの?」


「は、はは。そう言って頂けるだけでなんか元気が出て来ましたよ」


「それにしても、お前ほどの男がどうしたと言うのだ?」


「実は……」


 それで俺、落ち込んでた理由を説明したんだ。




「なるほどの。

 ものごころついたときからE階梯が5を超えていて、現在では7.5にまで至ったお前にとっては、このガイアのヒト族の思考形態は、異次元のものだったということか……」


「ええ、姿形は俺と変わらないのに、まるでエ○リアンを見ているかのようでした……

 言葉が通じることと意思が通じることは別物だったんですね……」


「そうか…… アダムよ……」


(はい、エルダリーナさま)


「そのときの映像をダイジェストにしてわたしに見せてくれんか。

 その間にサトルはローゼさまやシスティや悪魔っ娘たちと風呂に入って慰めて貰って来い。

 ローゼさま、システィ、フェミーナ。

 どうかサトルが元気になるようお願い致しましたぞ」


「はい、喜んで♡」

「はい♡」

「畏まりました♡」




 1時間後。


「どうだサトル。少しは元気になったかの」


「は、はい。大変に癒されたひと時でした……」


「ふむ。それはよかった……

 ところでの。

 わたしも捕虜たちのヒアリングを見させてもらって少々驚いたのだ」


「やはりそうでしたか……」


「勘違いするでないぞ。

 わたしが驚いたのは、ここガイアのヒト族たちの言動が、50年ほど前までの地球のヒト族のそれと全くもって同じだったことなのだ」


「えっ……」


「奴隷から農民から兵士から司令官に至るまで、ここガイアのヒト族の言動や思考形態は、完全に地球のそれと同じだったわ」


「そ、そうなんですか?」


「うむ。

 地球で原人を進化させてヒト族を創造し、数万年も育てて来たわたしが言うのだから間違いは無い。

 あの司令官の発想も、元農民の奴隷兵の言動も、紀元前5000年ごろからつい最近までの地球のヒト族のそれと全く変わらん」


「そうだったんですか……」


「紀元前5000年のエジプト文明、その後のチグリス・ユーフラテス文明、ローマ帝国、北欧のバイキングたち……

 更にはイングランドや中国の戦国時代。

 そしてヨーロッパの中世暗黒時代、日本の鎌倉時代から江戸時代にかけて。

 極めつけは19世紀の列強の植民地政策だったかの。

 加えて西欧、特にアメリカによるアフリカの民の奴隷化。

 いったいいくつの部族が先進国の植民地政策の犠牲になって滅んで行ったことか。

 そうして最近ではナチスドイツの東方侵略、西欧列強による中国の分割。

 つまり、地球のヒト族の歴史もまた、そのまま虐殺と略奪の歴史だったということだ」


「……そうだったんですね……」


「ヒト族、特にそのオスは、性衝動の強さという点に於いて、銀河の知的生命体の中でも有数の存在だということはもう知っておるだろう」


「はい……

 確か性犯罪を犯したり性暴力を振るうのはヒト族だけでしたよね……」


「はは、第2次性徴期が始まれば、ヒト族のオスどもはいかにしてヤルかしか考えておらんからの」


「…………」


「しかもだ、例えヤレたとしても、すぐにまた強烈な性衝動に襲われるのだからな。

 まあ、その性衝動を何らかの攻撃衝動に転嫁せんといられなかったのだ」


「……攻撃衝動への転嫁……ですか……」


「そうだ。

 文明の初期に於いては、その衝動は生存のために周囲の環境に向けられていた。

 まあ、敵対する肉食動物の排除や食料調達のための狩りなどだな。

 この段階、つまり狩猟と採集が主になる社会では、実はヒト族内部での闘争などは相当に少なかったのだ。

 地球では5000年ほど前までの石器時代がこれに当たる」


「ま、まあ、そうだったんでしょうね……

 生きて行くのに精一杯だったんでしょうから」


「それからの。残念ながら、もともと肉食獣として進化して来たような動物と違って、類人猿は喰い溜めが出来んのだ。

 元は手を伸ばせばすぐに木の実や果実を得られる温暖な森に住んでいたからの。

 肉食獣なら1回の狩りで腹いっぱいになれば2週間は保つ。


 だがヒト族は、3日も食べなければそれを相当に苦痛に感じてしまうのだ。

 しかも、肉の長期保存は難しいからな。

 それゆえ日々の生活は、自分のための草木の実の採集で手いっぱいだったということもある」


「それじゃあ何をきっかけに、その初期のヒト族たちは略奪のために殺し合ったり奴隷制度を作るようになったんですか?」


「ふふ、滅多に殺し合いもせずに平和に暮らしていた原始人ども。

 それが略奪と殺戮に染まっていくようになったのは、ただひとつの発明のせいだったのだ」


「ただひとつの発明……」


「それはの、『農業』の発明によるものだったのだよ」


「えっ……」


「そうだ、『農業』だ。

 農業こそがヒト族にとっての諸悪の根源だったのだよ」


「な、なんか農業って言うと牧歌的で平和なイメージがあるんですけど……」


「まあ考えてもみよ。

 原始人たちは考えたのだ。

 この湿地に生えている草の実。

 粉にして団子にしたり、煮て食べると実に旨いこの草の実をもっとたくさん食べられないだろうかとな。

 それから草原に生えている草の実の中でも、特に旨い草の実をもっと食べたいとも。

 それで取敢えず知能は高かった彼らは、『畑』を作ったのだ。

 旨い草の実を食べずに土に埋めて水をやれば、半年ほどで何倍にも増えるということに気づいた奴がいたのだよ」


「それが『農業』の発明ですか……」


「だが考えても見よ。

 畑を作った奴は、その畑が自分の努力の結果得られたものであり、自分のものだと認識しているだろう」


「ま、まあそうでしょうね」


「だが、他人から見たらどうなる?」


「あっ、そ、そうか……」


「そうだ。単に旨い草の実がたくさん生えている場所としか思わないだろう。

 彼らには自然に生えている作物と畑に生えている作物の区別はつかないからの」


「それで闘争が発生したんですか……」


「そうだ。そして農業がもたらしたものは闘争だけでは無い。

 原始人たちに、初めて『畑』という所有の概念ももたらしたのだよ。


 広い土地を畑として開墾し、たくさんの作物を植えればたくさんの食料が得られる。

 そしてそれは自分や一族の生活を安泰にする。

 しかも、草の実、まあこの場合は小麦や米などだが、そうした作物の実は長期の保存にも耐えるという素晴らしいものだったのだ。

 おかげで、『農業』を発明した一族は、瞬く間にその数を増やしていったことだろう」


「ま、まあ、そうでしょうねえ……」


「一方でだ。

 その『畑』は、周辺のヒト族を相当に引きつけたことだろう。

 なにしろ命の糧でもあり、あの旨い草の実が大量にある場所なのだから」


「しかもまだ彼らには、畑を作る労働と所有の概念も無い……」


「そうだ、おかげで畑から作物を得ようとするよそ者と、畑を作った一族の間で闘争が発生するようになったのだ。

 これがヒト族に於ける闘争や戦争の萌芽であるの」


「『農業』の発明が、闘争や戦争をもたらしたんですか……」


「それだけではない。

 食物が充分に得られなかった周囲の少数ヒト族は、畑を所有する一族に闘争で勝てないと思えば、頼み込んで来ることもあったであろう。

『どうか我々にも食べ物を分けてくれ』とな。


 そして、その見返りに畑での労働を提供したことだろう。

 その者たちは、当然元からの畑の所有者の指示によって働くことになる。

 これが身分制度と命令系統の発生だ」


「な、なるほど……」


「さらにこうした畑作は、必然的にリーダーの発生を促す。

 畑での作業は各人がばらばらに動いて出来るものではないからの。

 ある者はまだ十分な実が実ってもいないのに収穫を始めようとし、またある者は季節にかかわらず種を播こうとしていたのでは、とてもではないがまともな農業は営めまい。

 まあ、初期のころにはそうした混乱した農業も多かったのだが、当然のことながら、そうしたリーダーのいない農業はすぐに淘汰されていったのだよ」


「そうして、リーダーのいる農業は生き残ったと……」


「そうだ。

 そのリーダーは、多くの場合その一族の長老格だった。

 そして、次のリーダーは、そのリーダーの行動を幼いころからつぶさに見ていた子孫たちが受け継ぐことが多かったのだ。

 これが『王権』の萌芽だ。


「な、なるほど……」


「しかもだ。

 彼らはさらに考えたのだよ。

 蓄えた食べ物を奪いに来る余所者を撃退するには、集団が大きければ大きい程有利だと。

 そして集団を大きくするには畑をもっと広げる必要があると。

 こうして『王』を中心とする『国』が出来て行ったのだ」


「そうだったんですか……」


「そしてここに至って、更に奴らは考えた。

 もっと国を大きくしてより安全になるにはどうしたらよいか。

 それは、自分たちが襲われているように、周りの畑を所有する一族を襲って殺し、その配下の畑と農民を自分たちの物にすればよいと。

 これが『戦争』の始まりだ」


「つまり……

 闘争や戦争や貧富の差、王侯貴族、農業奴隷などの身分制なんかは、すべて農業が発端になっていたんですね……」


「その通りだ」


「で、でも、農業は爆発的な人口増加も齎したんですよね……」


「それもその通りだの」


「ということは……

 人口増加には、戦争や略奪や奴隷制度がセットになっていたんですね……」


「うむ、残念ながらそういうことだったのだ……」




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