*** 220 旧神聖騎士団軍崩壊 ***
「ガイア国精鋭軍、前進再開っ!」
旧神聖騎士団軍の前線に、またもや超巨獣・巨人軍団が迫り始めた。
もはやヒト族兵士たちで立っていられた者はほとんどおらず、皆腰を抜かして座り込んでいる。
「ヒト族の兵に告ぐ!
降伏する場合は、速やかに鎧を脱ぎ、武器も捨てて横にどきなさい。
さもないとそのままベヒーモスに踏み潰されますよ!」
この勧告に、まず前線兵士の7割が従った。
脚に力が入らずに立てなかった者も、転げ回りながら鎧を脱いで鎧下だけの姿になり、四つん這いで横に逃げてゆく。
残りの3割の兵も、超巨獣・巨人兵が近づいてくるにつれて、狂ったように武装を解いて横方向に逃げて行った。
中には狼狽のあまり下着まで脱ぎ棄てて走ってゆく兵士もいたほどである。
辺りには20万の兵士たちが捨てた武器と鎧が散乱している。
そこに横一列に並んだベヒーモス重装歩兵100頭が到達した。
彼らは全てを踏み潰して前進してゆく。
もちろん敵の作った防塁も例外ではない。
3カ月かけて造り上げた複雑な構造の防塁群も、1万5000トンのベヒーモスの脚の下で全てが平らになってゆく。
その後ろに続く300頭のフェンリルに騎乗した300のオーガ兵、その横には身長30メートルのミノタウロス兵900と、トロール兵900。
彼らもその場の全てを踏み潰して進軍を続けた。
ようやく大城壁基部の安全地帯に辿りついた20万のヒト族軍軍勢も、固唾を飲んでその光景を見つめている。
大堅牢城の城壁まであと500メートルの地点で、全軍に停止命令が下った。
城壁の上の兵たちはとうに城内や城の後ろに逃げ出していたが、城壁の裏に居た200名ほどのヒト族兵は、アダムブラザーたちが全員転移させる。
これで城壁を破壊しても死人は出ないだろう。
ごごごごごごごごごごごごごごご……
周囲の全てを震わせる重低音とともに、間もなく巨大戦艦が前進して来た。
その艦底から、直径20メートルもの巨大レーザー砲が3基現れて下を向き始める。
その砲身からぶっといレーザー光が迸った。
出力1ペタワットのレーザーが5分ほど城壁の東面に照射され、レーザー光が当たった部分が瞬時に気化して岩石蒸気爆発を起こし始めている。
まあ、いかなる構造物といえども、日本の年間発電総量75年分に匹敵するエネルギーを浴びたら、ひとたまりもないのは当然だろう。
気化した岩石のようなアブナイ物質は、敵味方ともに吸わせるわけにはいかないので、このシーンでは絶対フィールドと、岩石蒸気を転移させる魔道具が大活躍していた。
それにしても……
超巨獣・巨人兵の巨体であれば、たかが18メートルの城壁などひとまたぎなのだが、なぜにこのようなハデなことをしなければならなかったのか……
それはもちろん、ノリノリで巨大戦艦を建造していたサトルに誰も何も言えなかったからに他ならないのである。
「城内のヒト族軍に告ぐ。
今から10分後にバリオン城を破壊すべく攻撃を始めます。
あのちっぽけな城壁と同じ運命を辿りたくなければ、ただちに武装を捨てて巨大城壁沿いの安全地帯に避難しなさい」
城の内外から予備兵10万が走り出した。
必死になって元の城壁の西部にあった門を開けると、そのまま周囲を囲む大城壁の基部に向かって駈け出して行く。
(アダム、城内にヒト族軍は残ってるか?)
(総司令官とその幕僚達は天守閣に立て籠っておりますが、兵たちは皆逃げ出しております。
あと2分少々お待ち下さいませ……)
(うほほ、ワクワクするな)
(………………)
「それではこれより、システィフィーナ神さまの命により、その使徒サトル神さまが、ヒト族軍に神罰を与えます。
ここにいる旧神聖騎士団の将兵だけではなく、すべてのヒト族国家の王族、貴族もよく見ていなさい。
そうして神の怒りの恐ろしさを存分にその目に焼き付けるのです。
(とくにやり過ぎサトルさまの所業を思い知るといいですね)」
(やったー、やっと出番だぜ!)
俺は戦場の上空1000メートルに転移して、自分の体を身長100メートルに拡大した。
そうして神威の翼も全開にして、ゆっくりと地上に降りて行ったんだ。
「な、なんだよあれ……」
「ひ、人だ……」
「ば、莫迦言うなよ! あ、あんなデカい人がいるわけないだろうに!」
「あ、あれがサトル神なのか……」
俺はバリオン大堅牢城の手前100メートル程に降り立った。
「この地に居る全ての旧神聖騎士団軍の将兵、及びスクリーンでこの光景を見ている全てのヒト族に告げる!
これより全ての戦闘行動を止めよ!
また、武力による恫喝や略奪も全面的に禁止する!
これはシスティフィーナ神さまのご意思である!
もしも神の意思に反して武力を行使した者がいたならば、その者には神の怒りが下されるであろう。
それではこれより、神の国ガイア国を侵略せんとしたヒト族軍に対し、神罰を与えることとする」
俺はバリオン城に近づいて行った。
城の至近まで行くと、腰をかがめて天守閣を覗き見る。
天守閣内では、旧神聖騎士団軍の総司令官と幕僚たちが、俺の顔を見て腰を抜かしていた。
まあ高さ20メートルの城の最上階のバルコニーにいたのに、身長100メートルの巨人に覗き込まれたらふつーは驚くわな。
はは、天守閣内のカメラも、エラそーに着飾った軍人どもが腰を抜かしている姿や、俺の巨大な顔が睨みつけている絵をばっちり撮影しているようだ。
俺は腰を伸ばして天守閣を指差した。
「このガイアの地には、もはやヒト族の軍は不要である!」
そう宣言するとともに、天守閣内にいた将軍たちをすべて魔力で拘束して外に引き出した。
そのまま20人ほどを宙に浮かべる。
はは、アダムのカメラが近寄って来て、総司令官たちをアップで映してるわ。
「キサマたちもこのガイアの地には不要である!
消えろっ!」
豪勢な鎧を着込んだ男たちが消えた。
まあもちろん『重罪犯用収容所』に転移させただけだけどな。
「武力行使を禁じたと言うことは、もはやこのような軍事拠点も不要であるということだ。
よって、これよりこのヒト族軍の武力の象徴であるバリオン城を破壊する」
俺は100メートル程浮かんでバリオン城から離れ、腕を上げて指先も上に向けた。
同時に大城壁沿いにいる全てのヒト族とガイア国軍を、最高強度の絶対フィールドで覆う。
俺の指先上空300メートルに、青白い光が現れた。
次第に大きさも温度も上げて、直径200メートル、表面温度3000度ほどのプラズマ球を形成する。
はは、俺やプラズマ球の周囲には30個ぐらいのカメラが浮かんでるわ。
これきっとあらゆる角度から撮影してるんだろうな。
俺は腕を下げてバリオン大堅牢城を指差した。
同時にプラズマ球も高度を下げて天守閣を包み込む。
じゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~。
城を構成していた岩石が一部蒸発しながらも溶け出して行く。
アダムがチェックしていた通り、この岩石は二酸化珪素の比率が低いようで、粘度が随分と低いさらさらの溶岩になってるわ。
真っ赤に焼けている溶岩が地面に広がり始めた。
さらにプラズマ球の高度を下げると、城が溶け出す勢いも激しくなった。
溶岩流もその勢いを増している。
「おっ、おい…… あ、あの溶けた真っ赤な石……
こ、こっちに近づいて来るぞ……」
「に、逃げろ……」
「逃げるってどこに逃げるんだよ!」
ははは、ヒト族軍が大城壁にへばりつき始めたか。
まあ少しでも溶岩流から逃れたいんだろうから、気持ちはわかるけどな。
大堅牢城のぶ厚い壁と、城壁の残骸が全て溶融して周囲に流れ出して行く。
もう厚さ数メートルの溶岩で出来た水たまりみたいになってるよ。
お、大城壁沿いの石畳のセーフティーゾーンに到達したな。
ヒト族の悲鳴も聞こえるか。
でもそこは絶対フィールド張ってあるから大丈夫なんだけどな。
あははは、見えない絶対フィールドに囲まれて、溶岩のプールみたいなもんが出来てるわ。
これ、或る程度冷えてからフィールドを消したら、でっかい円筒形の溶岩ドームが残るんだろうなあ。
ひょっとしたら将来は観光地になるかもだよ。
『神の怒りの地』とか言って、大城壁沿いの回廊にホテルや土産物屋でも作るかな……
それにしてもすげぇ光景だわ。
直径9キロの円筒に閉じ込められた真っ赤な溶岩が、ぐつぐつ煮え滾ってるんだもんな。
中央部には青白い大火球があって、岩石がしゅわしゅわ言いながら蒸発してるし……
あれ?
上空に積乱雲が出来始めたぞ。
あ、ぽつぽつと雨も降り始めた。
ここは滅多に雨の降らないステップ地帯だったのに……
ああそうか、プラズマの膨大な熱量が上昇気流を作り出したのか……
それが雨を振らせ始めたんだな。
(なあアダム。
これ、このプラズマ球を消滅させないで放置してたらどうなるかな?)
(この地は極めて降雨量の多い地域となるでしょう。
そのため、ここは数年で緑の沃野に変わり、30年後には熱帯雨林になっていることと思われます)
(そ、そんなにプラズマ球が保つのか?)
(先ほどサトルさまがプラズマに込められた魔力量からすれば、このプラズマ球はあと50年ほど燃え続けることと思われます)
(また少しやり過ぎちまったか……)
(いつものことでございますね。
まあ燃え尽きた後は、『プラズマ生成の魔道具』でも設置すれば、半永久的にこの地の降水量は充分なものになるでしょう。
ついでに『絶対フィールド』の魔道具も設置しなければなりませんが)
(それじゃあ、ヒト族の兵たちを収容所に転移させ終わったら、このまま100年ほどこの状態をキープ出来るようにしといてくれや。
そのうち北部大山脈から水路でも引いて、川も作ってやろう)
(畏まりました……
サトルさまの『やり過ぎ』もたまには役に立つのですね)
(は、ははは……)
こうして旧神聖騎士団軍とガイア国軍の戦争は、実際の戦闘行為が行われないまま、ガイア国の大圧勝に終わったんだ。
まあこれからが大変なんだけど。
まずは35万人のヒト族を仕分けして、それからこいつらを喰わせてやっていかんとならんからな。
でもまあそれは優秀なるスタッフたちに任せて、俺は2~3日お休みを貰うとするか……