*** 213 リザードマンしっぽ耐久選手権大会 (その1) ***
翌日俺は、しっぽのお礼に地球産の極上のお菓子を大量に持ってリザンナのところに行ったんだ。
リザンナも、美味しいお菓子を食べてすっかり機嫌を直してたよ。
「びっくりして逃げちゃったりしてごめんなしゃい」とか素直に謝ってたし。
そのときに、リザードマンの大族長や長老たちもぞろぞろついて来てたんで、みんなでお菓子を食べているうちに、いろいろと話が進んじゃったんだわ。
要はまあ、俺がみんなにどうにかして怖い思いをさせて、無痛でしっぽを落させてやるイベントをすることになっちゃったんだ。
みんなもう孫のいる世代だけど、リザードマン達も結婚年齢は低いから、大体30代後半から50歳にかけての者が多かった。
つまり壮年として、実力も経験も兼ね備えたリザードマン族の中核世代なわけだ。
まあ、巨人・巨獣族やオーガ族には及ばないものの、それでもかなりの強者たちであることは間違いない。
平均で総合レベル80ぐらいっていうところか。
落したしっぽは半分俺にくれるっていうんで、参加者にはリザードマンの好物の魚30キロをあげることにもなったんだけどな。
特に、彼らにとっての最高のご馳走である海の魚を俺が獲って来てやるって言ったら、参加者が山のように集まっちゃったんだ。
それを聞きつけたガイアTVが、番組も作ることになってもうタイヘンよ。
ついでに俺の恐怖演出に耐えてしっぽ落さなかったら、海の魚100キロ貰えることになって、参加者さらに激増だわ。
1カ月後。
或る日のゴールデンタイムのガイアTV。
「それでは第1回、【サトル神さまに挑戦! リザードマンしっぽ耐久選手権大会】を開催いたしまぁ~す♪
まずはこの大会のルールにつきまして、おなじみのベギラルムさんに解説して頂きましょう♪」
「はい。
もともとリザードマン族は、外敵に出会って怖い思いをすると、自然にしっぽが千切れて落ちるのです。
もちろん敵がしっぽを食べている隙に逃げるためなのですね。
まあ敵が好んでしっぽを食べるように、相当に美味しいしっぽになるよう進化して来ているそうなのですが。
単に引っ張ってしっぽを千切るとけっこう痛いらしいのですが、恐ろしい思いをして落すときには全く痛くないそうなんです。
そして、昔はしっぽはリザードマン族の非常食でもありました。
子供たちが飢えて苦しんでいると、その祖父や祖母がしっぽを落して孫たちに食べさせてやっていたそうなんです。
今ではサトル神さまのおかげで、そのような必要はまったくなくなりましたが。
ですが、リザードマン族の長老さんや重鎮さんたちが、昔を懐かしんで孫たちに自分のしっぽを食べさせてやりたいと思ったのがこのイベントの発端です。
参加者には漏れなく海の魚30キロが渡されるのですが、もしもサトル神さまの恐怖演出に耐えてしっぽを落さなければ、海の魚がなんと100キロも貰えるのです。
その代わり、落したしっぽの半分はサトル神さまに献上されることにもなっているんですよ。
ひょっとしたら、我々もいつかおすそわけで食べさせて貰えるかもしれませんね」
「なるほど、それでサトル神さまはいろいろな恐怖演出をお考えなのですね♪」
「ええ、当然のことながらその演出の内容は秘密なのですが、サトル神さまがどのような恐怖を演出して下さるか、非常に楽しみではあります」
「それでは視聴者の皆さま。
これよりガイアTVは、2つの番組を放送させて頂きます。
まだ小さいお子様や高齢者のいらっしゃるご家庭の方は、マイルド版のチャンネル1番を、それ以外の勇気あるご家庭の方々はノーカット版を放送するチャンネル2番をご利用くださいませ。
それから、この番組をご覧になる前には、予めお手洗いに行っておかれることを強くお勧めさせて頂きますです」
「ええ、なにしろ演出はあのサトル神さまですからねえ。
いったいどれほど恐ろしいやりすぎ演出が為されることやら……」
「そ、それではお手洗いタイムの後はいよいよ本番の放送です!
みなさまお楽しみに!」
お手洗いタイムの間には、リザードマン族の子供たちの歌とダンスが放映されていた。
みんな見事にしっぽを同調させてフリフリしている。
なんとも可愛らしいダンスだった。
しばらくして本番が始まった。
「それではまず、リザードマン族の大族長さんに意気込みを聞いてみましょう。
大族長さん、サトル神さまとの恐怖対決を前に決意はいかがですか?」
「まあ、サトル神さまも相当なご準備をされて下さっているようではございますが……
我々の戦士たちも普段から相当に鍛錬を重ねておりますからな。
そう易々としっぽを落すようなことはございませんでしょう。
これで大量の海の魚が手に入りますな。
はっはっは……」
「今日の意気込みを語るリザードマン族の大族長さんでした♪
それではカメラを会場に回しましょう!」
画面には、まるでコロシアムのような会場が現れた。
街から離れた荒野の中に建設されたコロシアムでは、観客席に100人のリザードマン達が並んで座っている。
みんな気合いの入っている顔をした中高年の大きなリザードマンだ。
ほとんどの者が、顔や体に泥を塗りたくっていた。
「べギラルムさん、リザードマンのみなさんは体中に泥を塗っていらっしゃるようですが……」
「あれはリザードマンの戦装束ですな。
森や川沿いで敵に見つかりにくくするための戦いの準備であります」
「み、みなさん気合いが入っているんですねぇ……」
「ええ、なにしろ海の魚100キロがかかっていますからね」
100人のリザードマンは、舞台のすぐ前に座っていた。
その舞台には大きな幕がかかっていて、舞台の中はよく見えない。
「あの幕の向こうに、サトル神さまの恐怖の演出が隠されているのですね」
「そうです。
今回はこの会場で2回、それ以外の特設会場で3回の恐怖演出が行われる予定になっています」
「それではいよいよ恐怖演出第1回目ですっ!
皆さまご注目を!」
テレビでは勇壮な音楽に続いてドラムロールが始まった。
合わせて画面上ではカウントダウンが始まっている。
「それじゃあフェンリー頼んだぞ。
強敵を前にした本気の威嚇を頼むわ」
「任せておけ。
それにしても、ここまで体を大きくしなければならんのか?」
「まあ、大きさはそれだけで恐怖の対象だからな」
画面のカウントがゼロになった。
そうして舞台の幕が突然消失し、そこに現れたモノは……
体長30メートルになったフェンリル族最強の戦士、フェンリーくんが全力で威嚇する姿だったのだ!
「ぐるるるるるるるるるるる……」
すぽんすぽんすぽんすぽーん……
ハナ先に皺を寄せて威嚇するフェンリーくんの巨体が現れた途端に、観客席のリザードマンのしっぽが飛びまくった。
まあなにしろ全員フェンリーくんから20メートル以内の位置に座っていたのだから堪らなかったのだろう。
「ぐうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ!」
さらにフェンリーくんが大口を開けて吼える!
5メートル近く広げられた口の中には、巨大な牙も見えていた。
すぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽーん!
さらに飛び交うリザードマン達のしっぽ!
だが……
なんと数人のリザードマンは、悲壮な顔をしつつもまだ耐えているではないか!
それに気付いたフェンリーくんの額に青筋が立った。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!」
太さ5メートルに及ぶ火魔法を口から噴くフェンリーくん!
その巨大な火焔は、高さ100メートル近くまで噴き上がって行ったのだ!
「ふんっ」
フェンリーくんは後ろを向いて舞台から去って行った。
後に残されたのは、しっぽを失って観客席に倒れ込む100人のリザードマン達の姿である……
その場に300人ほどの若いリザードマンが現れて、手分けして挑戦者たちを担架に乗せて去ってゆく。
悪魔族のテレビスタッフが、リザードマンのしっぽを舞台に運んで数え始めている。
倒れたリザードマンたちは微動だにしないものの、舞台の上のしっぽはびったんびったん跳ねているではないか……
「98…… 99…… 100!
この勝負、100対0でサトル神さまの勝ち~い!」
後でわかったことだが、この時点でチャンネル2番のノーカット版を見ていた視聴者が1万人ほど気絶していたらしい。
まあなにしろアダム特製の超小型カメラが、フェンリーくんの口の中にまで入り込んでいたし、火焔でレンズが溶けて行く様子まで鮮明に映されていたのだから無理も無い。
また、体長30メートルもの超巨大狼が100名の観客に迫る絵も、縦横上空から映されていたのだから……
「そ、それではしばらくの準備の後に2回目を始めますっ!」
「それじゃあベギラルム、頼んだぞ。
まずは腹這いになってくれ。
それからお前を50メートルの大きさにしてと……
そのまま顔だけ上げて前を向いてくれ。
さらに顔だけもっと大きくして……
そうそう、その状態で怖い顔をしてみてくれや」
「こ、こうですかの?」
「うーん、あんまり怖くないなぁ……
そうだ! 笑ってみてくれや」
「は、はい……」
「うへぇっ! そ、それ、俺が見ても怖い顔だわ!」
「とほほほほ……」
観客席には新たなリーザードマンたち100人が座った。
「それでは皆さま、第2回目のチャレンジですっ!」
舞台の幕が消失した。
そうして、そこに現れたモノは……
高さ30メートルに及ぶ、ベギラルムの怖い怖い首だったのである。
まあ本人は精一杯微笑んでいるつもりだったのだが……
「がう」
すぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ~んっ!
100本のしっぽが飛んで行った。
リザードマン達は全員倒れ込んで気絶しているが、今度のしっぽはさらに大きく跳ねている。
またチャンネル2番の視聴者が5万人ほど気絶した。
「こ、この勝負もサトル神さまの勝ちぃ~っ!」
システィの神域では、エルダさまたちはもちろん、ベギラルムの奥さんのベルミアですら怯んでいたそうだ。
笑顔できゃっきゃ笑ってたのは、お父さんがTVに映って大喜びのベルシュラちゃんだけだったそうである……
後日、ベギラルムからサトルに、ベルミアがしばらく寝室を共にしてくれなくなったと苦情が来た。
横にあの顔があると思うと、寝ているときにベルミアがうなされるんだそうだ……
「そ、それでは第3回戦は、北の高原リゾートにて行われますっ」




