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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
211/325

*** 211 称号『ガイア国代表代行サトル神の戦友』 ***

 



 或る日。

 今日もオガリクルス将軍は、部下を率いて大陸西部某国の王都郊外にある中規模の教会の破壊作戦に従事していた。

 と、そこへ……


「どけどけどけぇ~っ!

 男爵嫡男のブスカルさまの馬を邪魔する奴は轢き殺すぞーっ!

 おのれ異形の者どもよ! このブスカルさまが退治してくれるわ!」


 そのとき逃げ惑う人々に押されて、道の真ん中でひとりの少女が転んだ。

 その少女目がけて、男爵嫡男の駆る馬がいささかも速度を減じることなく迫って来る。

 誰もが哀れな少女の死を想って硬直した。



 だが……

 そこに弾丸のような影が飛び出した。

 そうして、見る間に嫡男の馬に迫ると、少女を抱えて馬に背を向けたのである。


 どがぁぁぁぁぁぁぁ~ん!


「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!」


 男爵嫡男が馬もろともはじけ飛ぶ。

 大きな馬は街道に叩きつけられて泡を吹いている。

 嫡男はどうやら畑に弾き飛ばされて無事なようだ。



 オガリクルス将軍は、7歳ほどに見える少女を守っていた手をほどいた。


「怪我は無いか?」


「お、お兄ちゃんが助けてくれたの?

 助けてくれてどうもありがとうございましゅ」


「そなた…… 目が見えんのか……」


「うん。小さい頃熱病にかかって目が見えなくなっちゃったの。

 それでおとうちゃんとおかあちゃんに、『システィフィーナさまに見放された子』って言われて捨てられちゃったんだ……」


「その歳でよくぞ生きて来られたものだ……」


「えへ、わたし、そのひとが優しいひとか怖いひとかがわかるの。

 それで何回かみんなを助けたら、スラムのお兄ちゃんたちが仲間にしてくれたんだよ。

 それに優しいパン屋さんがいつもパンをくれるんだ♪

 お顔はとっても怖いらしいんだけど、ほんとはとっても優しい人なんだよ。

 お兄ちゃんも、今まで会ったことが無いぐらいやさしいひとだね♪」



「お、おおお、サユリィ……」


「あ、パン屋のグルガおじちゃん♪」


「「「「「 サユリィっ! 」」」」」


「あ、お兄ちゃんたちも♪」


「ぶ、無事だったのか…… よ、よかった……」


「うん、無事よ。このお兄ちゃんが助けてくれたの」


「そ、それはそれは……

 もしやガイア国のオーガ族の方で……」


「うむ。まあ助けたと言っても単に馬を弾き飛ばしただけだが……」


「う、馬を…… お、お怪我は……」


「この体はシスティフィーナさまの使徒さまに加護を頂戴しておるのでな。

 馬ぐらいはなんでもない」


「し、使徒さまのご加護を頂いた身でいらっしゃいましたか……」


「それよりも……

 アダムさま。サトルさまにお願いして、こちらの少女の目を治してやって頂けるものでございましょうか……」


(もちろんです。今いったん皆さんを転移させますので……)


(待てアダム。俺がそこに転移する)


「お、おお…… さ、サトル神さま……」



 俺はその場に出現した。

 一応本人確認のために神威の翼も出して宙に浮いてもいる。

 はは、周囲の連中が軒並みひれ伏したぜ。


 俺はまず、道に倒れて死にかけていた馬に『キュア(初級)』をかけてやった。

 すぐに立ち上がった馬は、そのままどこかに走り去って行く。



「それではサユリィ、こちらへ。その目を治してやろう」


「は、はい……」


 俺が『キュア(弩神級)』を唱えると、少女は強烈な光に包まれた。

 あ、ヤベぇ……

 また気合い入れ過ぎた……

 サユリィの髪の毛が金色に光り始めちゃった!


「あ……」


「ど、どうしたサユリィっ!」


「み、見えるよ! 目が見えるの!」


「「「「「「う、うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ!」」」」」」


 奇跡を目の当たりにしたギャラリーがさらに平らになった。



「あはは、グルガおじちゃんってほんとに怖いお顔してたんだね♪」


「ううう、うぉぉぉぉぉぉぉ~ん!」



 そのとき、畑に飛ばされた男爵嫡男がよろよろと立ち上がり、剣を抜いて近寄って来た。


「こ、この無礼者めっ!

 お前ら全員、このブスカル様自ら剣のサビにしてくれるわ!」


 俺は前に出ようとするオガリクルスを手で制して前に出た。


 そうして男爵嫡男の剣を弾き飛ばし、胸倉を掴んで持ち上げたんだ。


「お前ぇ、少しは空気読めよな。(怒)」


「あ、あわわわわわわわわわわ……」


 俺はそいつに優しく往復ビンタを喰らわせた。

 本気でやると首が飛んでっちゃうからな。

 優しく優しく、10秒間でほんの100回ほどの往復ビンタだ。

 首が捩じ切れる前に反対側から叩いてるから大丈夫だろう。


 そいつの顔は見る間に腫れ上がっていった。

 そうして俺は、そいつを魔力で吊るして『変身』の魔法をかけ、あの醜いオークの姿に変えたんだ。

 同時に服も消して裸にする。


「おまえはそこで3日間ほど浮いて晒し者になれ。

 おい、こいつの家はどこだ?」


「あ、あちらの大きな邸です……」


「そうか……」


 俺はその邸を指差しながら、建物を構成する石や木を全て0.1ミリ以下の粉に変えた。

 ははは、男爵一家が粉の上に座ってびっくりしてるわ。





「サユリィ」


「はい、使徒さま」


「お前とその仲間たちを招きたいと思う。

 ガイア国に来るか?」


「はい! お兄ちゃんたちも来てくれるよね♪」


「あ、ああ……」


「パン屋のグルガ」


「ははぁっ!」


(E階梯は5.0か…… やはりな……)


「お前に家族はいるのか?」


「い、いえ……

 女房はとっくに亡くなってますし、娘もこのサユリィぐらいのときに熱病で……」


「そうか…… ならばガイア国に来ないか?

 この子たちの親代わりになって面倒を見てやって欲しい。

 お前にならその資格は充分にあることだろう」


「も、もったいないお言葉を……

 わ、わしなんかでよろしければ……」


「それでは明日の昼、みんなでこの場に来るように。

 ガイア国にはなんでもあるからな。

 荷物はほとんど必要ないぞ」


「あ、ありがとうございまする……」





「それではオガリクルス」


「ははぁっ!」


「そなたの今回の働きを讃え、『ガイア国代表代行サトル神の戦友』の称号を与える」


「うははははぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!

 あ、ありがたき幸せーっ!」


 あー、オガリクルス将軍、泣いちゃったよ……





 パン屋のグルガとサユリィ、それからサユリィの仲間のスラムの孤児たちは、サロモン商会の本拠地があるガイア国の『サロモン街』に落ち着いた。

 グルガには大通りに面した間口20メートルの店と、小麦やら酵母やら砂糖やらジャムやらのあらゆる素材を与えてパン屋をやって貰っている。

 開店初日からサロモン商会の従業員や家族たちが列を作り、併設された孤児院にも納入を始めて大繁盛しているようだ。


 どうやらサユリィだけはパン屋の2階に住んで、スラムの仲間たちはその周囲の家に落ち着いたようだな。

 サユリィや仲間たちは、毎朝早くからパン生地の仕込みを手伝っているということだ。



「こらこら、パンもスープも果物も、サトル神さまがいくらでも下さるからな。

 そんなに急いで食べなくっても大丈夫だぞ」


「へへ、親方、ついスラムのときのくせでね……」



「それじゃあグルガのおじちゃん、わたしたちこれから小学校に行ってくるね♪」


「あ、ああ、気をつけてな……」




 そして放課後……


「ねぇねぇおじちゃん!

 今日学校のお料理の時間に、クッキーの焼き方を教わったの♪

 今から9時街のミノタウロスのおばさんのところに行って、バターを貰ってくるわね♪」


「お前はサトル神さまから『てんいのまどうぐ』を使う許可を頂いてるからな。

 それにしてもミノタウロス族って…… 怖くないのか?」


「やだなぁおじちゃん。

 わたしが優しいひととそうでないひとを見分けられるって、知ってるでしょ。

 ミノタウロスのひとたちも、とってもいいひとたちよ。

 それじゃあいってきまーす♪」




「ミノルネおばちゃんこんにちは♪」


「あらあらサユリィちゃんじゃないかい!

 よく来てくれたねぇ。

 その金色に光る髪はいつ見てもすばらしいわ。

 あのサトル神さまのご加護の御印だから当然だけど」


「えへへ、今日学校でクッキーの作り方を習ったの。

 それでおばちゃんちのバターを頂けないかって思って……

 おばちゃんのバター、とっても美味しいんだもの」


「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

 それじゃあアタシが出したミルクでダンナが作ったバターをあげるから、たくさん持っておいきなさいな」


「おばちゃんありがとう!

 クッキーが出来たら持って来るね!」


「楽しみにしてるわよ♡」





 その晩のこと……


「こ、これが『くっきー』か……」


「どう? グルガおじちゃん、美味しい?」


「ああ、こんなに美味いもん喰ったことが無いよ……」


「うふふ、よかったぁ。

 明日、お兄ちゃんたちやミノルネおばちゃんにも持って行ってあげようっと♪」



「な、なあサユリィ」


「なあにおじちゃん?」


「あ、明日はお前の誕生日だろう。

 そ、それでなにか欲しいものはないか?

 もっともこの街だと欲しいものもなんでも手に入るけどな……」


「あ、あの…… 

 サユリィ、おじちゃんにひとつだけお願いがあるの……」


「な、なんだい? なんでも言ってくれ。

 お、俺で出来ることだったら……」


「あのね…… 

 明日から、おじちゃんのこと、『おとうちゃん』って呼んでもいい?」


「うっ、うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!

 ぐっ、ぐうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!

 おおおおおおおおおおおおおおおおお~んっ!」



 その夜、パン屋の周囲100メートルの住民たちは、パン屋の主人の野太い号泣で一晩中寝られなかったそうであった……




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