*** 21 ローゼマリーナ様(巨大胸部装甲付)登場! ***
2カ月後……
エルダさまから連絡があった。
どうやらまたこちらに来て下さるそうだ。
「そうそう。客人をひとり連れていくからの。
話はすべて行ってからにするとしようか……」
(客人か…… どんなひとなんだろう……)
エルダさまは、いつもの通りお付きの悪魔たちを引き連れてやってきた。
そうして客人として紹介されたのは、20代後半ぐらいに見える優しそうな天使だった。
やはり金髪碧眼だったが、その背には3対6枚の翼が見える。
それもシスティよりは大分大きい翼だ。
(この翼を持っているということは……)
「ローゼマリーナさま。
こちらがこの世界を管理している初級天使システィフィーナと、その使徒サトルでございます。
システィ、サトル。こちらは上級天使ローゼマリーナさまだ。
わたしやシスティの管理する世界を統括されるお立場の方だ」
俺とシスティは、跪いて頭を垂れた。
まあ、エルダお姉さまがここまでへりくだる方だからな。
「どうかお立ちください、システィフィーナさん、サトルさん……」
おお、この上級天使さま、声も優しそうだな……
挨拶が終わるとローゼマリーナさまが言ったんだ。
「まずはお二方に神界を代表して深くお詫び申し上げます……
もちろんわたくし自身のお詫びも含めて……」
そうしてなんと上級天使さまは、両手を胸に当て、跪いて深く深く頭を垂れたんだよ。
もう頭が床につきそうなぐらいに。
「お、おおお、お顔をお上げくださいませ! ローゼマリーナさまっ!」
システィが慌てて言った。
まあそりゃ慌てるわな。俺はもっと慌ててるけど……
顔を上げたローゼマリーナさまは涙まで流していたし……
俺たちはソファに落ちついた。
みんなは大悪魔が用意してくた紅茶を飲んでいる。
俺はいつものようにコーヒーだった。
ベギラルムや大精霊たちは遠くで俺たちを見守っている。
「サトルさん。あなたが飲んでいる飲み物は、なんという飲み物なのですか?」
本当に優しげな声だな。
なんか心が癒される声だ。さすがは上級天使だよ。
「は、はい。コーヒーという飲み物です。
前世で好きだった飲み物なのですが、あまり飲めなかったもので……」
「もしよろしかったら、わたくしにもそれをいただけませんでしょうか……」
もちろんすぐに大悪魔が用意した。
「まあ! 素晴らしい香りだこと。それにお味もとっても素敵……」
「ローゼマリーナさま。
砂糖とミルクはいかがですか?
それを入れるともっと味がまろやかになりますが……」
「もしよろしければ、わたくしのことはローゼと呼んで頂けますでしょうか……」
「はっ、はい、ローゼさま……」
「まあ! お砂糖を入れると本当に美味しいわ!」
見てる間にローゼさまは砂糖を3杯も追加したよ。
甘党なのかな。
ローゼさまはすぐに空になったカップを残念そうに見ていた。
大悪魔がすかさずお代わりをサーブする。
あ、今度は最初から5杯も砂糖入れてる……
「こちらにおじゃまする前に、マナの大噴気孔を見せてもらいました。
間違いなくあれは経年劣化による事故です。
そしてそれを放置していたのは神界の怠慢です。
初級天使の試練の場であるのに、試練の会場そのものに不備があったとは。
しかもそれで40人もの初級天使が不合格になって、天使見習いに降格されていたとは……」
俺はつい言ってしまったんだ。
「あの……
本当に気づいていなかったのでしょうか……
そして本当に単なる怠慢だったのでしょうか……」
あ、エルダお姉さまがこっち見た。すっげぇ嬉しそうな顔してる。
ローゼさまがカップを置いた。
「あなたが周辺環境からこの試練世界の不備に気がついたのでしたね。
ほとんどこのシスティさんの天使域で暮らし、大噴気孔を一度見ただけでこの不備の真相に気がつくとは……
素晴らしい知力です。
もはや上級天使に匹敵すると言っても過言ではないでしょう。
そのあなたから見て、これは単なる見過ごしや怠慢ではないと思われたのですね?」
「はい。見過ごしや怠慢で片付けるにはやや不自然かと……」
ローゼさまは大きくため息をついた。
「よいでしょう。当事者には知る権利があります」
「本当によろしいのですか、ローゼさま。
一介の使徒などにそのようなお話をされて……」
エルダお姉さまが興味深そうな顔になってるよ。
「あまり隠蔽を重ねてはいけません。
今回のことはいずれ神界の広報として発表されるでしょう。
この方たちが今知っても、それはいくぶんか早めになっただけのことです。
サトルさん。
あなたのご指摘の通り、この世界を管轄していた初級神は、このタイプRS-7の世界の事故に気づいていました。
どうやら、初級天使が10人連続で不合格になった辺りで部下から報告が上がり、異常があるらしきことに気がついていたようです」
「やはりそうでしたか……」
「彼もさすがに10人連続で不合格になる不自然さに気づき、密かに調査を行ったのでしょう。
ですがそれでマナ噴気孔の事故が発見されても、その事実を報告せず、また修理も行いませんでした。
それまでこの瑕疵を見逃していた責任を追及されることを恐れたからでしょう」
「加えて、今まで不合格になっていた初級天使たちの再テストが面倒だったこともあるんでしょうかね?」
「ふふ。本当にサトルは賢いのですね。まるで中級神さまとお話しをしているようです。
そうなんです。それで彼は隠蔽を選びました。
『不運のタイプRS-7世界』などという噂まで流させていたようです。
どうやら、有力な神一族に生まれ、同期トップで初級神になれたプライドが邪魔をしていたようですね」
(ったく…… 神の世界も地球の役人たちと変わらんな……)
「その初級神さまとやらはどうなったんですか?」
「最高神さま直属の最高監査部によってすべてが明るみに出た後、神威を剥奪されて神界を追放されました」
「神界追放…… ちょっと厳しすぎませんか?」
「最高神さまのご判断ですから。
それに神界では正義と信義はなによりも重いのです。
それこそが神界の存在意義のひとつなのですから……」
「そうですか……
それで処罰はその初級神だけだったのでしょうか……」
「ふふ。もちろん関係者全員が処罰されましたよ。
皆1階級から2階級の降格です。
実はわたくしも2カ月前までは初級神でしたが、今は降格されて上級天使になりました」
「そ、それはどうも……」
「いいえ、当然の処罰です。
それで、わたくしは上級神さまから新たな任務を3つ与えられたのです。
ひとつ目は、すべてのタイプの試練世界を詳細に調査して、この世界と同様な瑕疵が発生していないか調査することです。
これは今、わたしくしの配下たちがすべての世界を回って調べています。
瑕疵が発見されれば、速やかに改善されるでしょう。
2つ目は、わたくし自身がこのガイアにしばらく滞在して、この世界に関する詳細な報告を上に上げることです。
その報告はまず、上級神ゼウサーナさまが主宰される最高監査会議に於いて検討されますが、場合によっては最高神さまの御許まで上がって行くかもしれません。
ですから、システィフィーナさん。
わたくしをしばらくこちらの世界に滞在させて頂けませんでしょうか」
「は、はい。もちろんですローゼマリーナさま……」
ローゼマリーナさまは微笑んで続けた。
「3つ目はあなた方と面談して推薦状を書くことです」
「推薦状……」
「あなた方は、神界が見逃していた不備を見抜き、あわせて不正行為の存在まで明らかにしたのです。
これは大きな功績となるでしょう。
ですから、わたくしの推薦状により、使徒サトルは『天使見習い』を飛ばして『初級天使』に昇格となります。
そうして、新たな世界で試練を与えられることになるでしょう。
もちろんシスティフィーナさんも、サトルさんを使徒として育てた功績で中級天使に昇格することになります」
途端に大精霊たちが、ものすごい勢いで俺に飛びついて来たんだ。
そうして涙をぼろぼろ零しながら言うんだよ。
「し、使徒しゃま、どっか別の世界に行っちゃうの?」って……
見ればシスティも大粒の涙をぽたぽた落としていた。
ああ、いつの間にか1200人の精霊たちが俺を取り囲んで泣いてるよ……
俺はにっこりと微笑んで言ったんだ。
「ローゼマリーナさま。
誠に申し訳ないのですが、その昇格推薦は辞退させていただけませんでしょうか」
「えっ……」
「わたしはシスティに約束したのです。
この世界を平和な世界にして、システィを合格させると。
それから…… その約束を果たした暁には、システィの産む子の父親にならせてくれともお願いしました……
それに、この精霊たちや悪魔たちとも絶対に別れたくありません。
みんな命よりも大事な俺の仲間達ですから……」
途端にシスティが大泣きしながら抱きついて来てくれたんだ。
それから精霊たちも飛びついて来て、俺はもうもみくちゃだった。
もみくちゃって言うよりもはや『精霊だんご』だな。
直径5メートルぐらいの……
エルダお姉さまが嬉しそうに、「やれやれ、ヒト族が天使族への昇格を断るとはな」って言ってる声と、大悪魔ベギラルムが大号泣している声が微かに聞えたよ。
ああ……
前世、ひとりも仲間がいなかった俺が、なんという幸せを手に入れたんだろうか……
こんな幸せを、たかが昇格ごときで奪われてなるものか……
そんな俺の気持ちを読み取ったのか、ローゼマリーナさまも微笑んでくれたよ……
その日の夕食は、また大悪魔達が用意してくれたフレンチのフルコースだった。
さすがは元初級神のローゼさまで、実に上品なマナーだったな。
ナプキンで口の端を押さえたりする姿も、なんかすっごい品があったし……
でも……
食後のデザートとして、小さなチョコレートケーキが出て来たんだ……
それを興味深そうに見ていたローゼさまは、フォークで少しだけ切り取って口に入れた途端に雰囲気が変わった。
ぱく……
ぱくぱく……
ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく……
そうしてあっという間に空になったケーキ皿を寂しそうに見たあと、執事の大悪魔を上目遣いにじーっと見てるんだよ。
もちろん大悪魔はすぐにケーキのお代わりをサーブしたんだけどさ……
ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく……
ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく……
ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく……
結局ローゼさまは3回もお代わりすることになったんだ。
そういえば翼もぷるぷる震えてたし。
カミサマって激甘党なのか?
その晩は、やっぱり4人で風呂に入ることになった。
どうも天使やカミサマって裸を見られることに羞恥心無いんだよなぁ……
ローゼさまは……
もう女性としての魅力に加えて母性すら感じさせてくれるお体でありますた。
特に巨大な胸部装甲が……
ローゼさまはエステも楽しまれて、ツヤツヤテカテカになっていた。
「わたしもここに神域を作ろうかしら……」とか言ってたぞ。