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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
203/325

*** 203 二流商会と超一流商会 *** 

 



 その日の夕刻、豪華な馬車が広場の端に止まったかと思うと、中からぶくぶくに太った男が転がり出て来た。


「こ、こら! なんだこの騒ぎは!」


「岩塩の販売ですがなにか?」


「い、1キロ銀貨3枚で岩塩を売っているというのは本当か!」


「はい本当です」


「な、なんということを……

 塩の販売価格は、かの大聖国大神殿さまが1キロ大銀貨1枚と定めているのを知らんのかっ!」


「あの、あなたはどなたでしょうか?」


「お、お前はわしの顔も知らんでこの国で商売をしとるのか!

 わしこそは、塩ギルドのズワスデン王国支部長にして、ギルイラ塩商店の会頭のギルイラだ!」


「ああそうでしたか、それは失礼をば」


「わかったのならすぐに塩の安売りをやめい!

 こともあろうに岩塩を適正価格以下で売るとは……

 しかも適正価格から7割引きだと!

 そのようなことをしていると大聖国の神聖騎士団に捕縛されるぞ!」


「はて、そうなのですか?」


「しかも塩ギルドへの挨拶も無しに塩販売を始めおって!

 すぐに神聖騎士を呼んでキサマを牢にぶち込んでやる!」


「ふう、あなたは単に自分の店の塩がまったく売れなくなったので、ヒステリーを起こしているだけでしょうに。

 もう少し頭を冷やして冷静に考えてみなさい」


「な、ななな、なんだとぉっ!」


「この国の塩商人と言えば、大聖国が認可した商業2種免許の取得者ですよね」


「そうだ! わしは、長年の信用と財力が無ければ取得出来ない大商人の証たる商業2種免許の持ち主だぞ!」


「2種免許でしたら、確かに塩はキロ当たり大銀貨1枚で売らねばならないのでしょうが……

 あなたは、私どもがこうして正々堂々と塩の安売りをしているのは、なにか理由があるとは思わないのですか?」


「な、なにっ!」


「我がサロモン商会は第1種商業免許を頂いておるのですけど……」


「げえっ!

 だ、だだだ、だからといって塩の廉売をするのは大聖国大神殿の定めた『塩販売法』に抵触するぞ!」


「申し遅れました。

 我が商会は同時に『特別商業許可免許』も頂いておるのですよ。

 あなたのような零細商人には縁が無いかもしれませんが、この特別免許を持つ者は、あらゆる商品をあらゆる価格で自由に売ることが出来るのです」


「げげげぇっ! と、『特別商業許可免許』……

 あ、あの取得するのに大金貨5万枚(≒500億円)以上必要という……」


「つまり塩ギルドに加入せずとも塩の販売が出来ますし、またその塩をいくらで売ってもかまわないのですよ。

 ご理解頂けましたでしょうか?」


「そ、それにしてもだ!

 岩塩の卸値は大聖国岩塩庁が1キロにつき銀貨7枚と定めておる!

 そ、それを銀貨3枚などで売ったら大赤字だろうにっ!」


「あはは、ご心配はいりません。

 これでも充分な利益を出しておりますので」


「い、いったいどこから仕入れているというのだ!」


「あのぉ……」


「なんだ! 早く仕入れ先を言えっ!

 こうしている間にも、お前はわしの貴重な時間を無駄にしているのだぞ!」


「商品の仕入れ先は各商会の秘中の秘でございましょうに。

 それとも第2種免許しか持たない二流の商会では、お互いに仕入れ先を教え合うのが常識なのですか?

 そんなことをしているから、長年商売をしていても二流のままなのですよ」


「なっ! なななななな……」


「さあ、いつまでも特別許可免許取得の超一流商会の邪魔をしていないで、早く帰って二流の商売にでも励みなさい」


「ぐぎぃぃぃぃぃーっ!

 こ、この大商人のわしにそのような口をきいて、こ、後悔するなよっ!!!」



 憤然として馬車に向かったデブ男は、何故か途中のなにも無い場所でハデに転んだ。


「ぶぎゃぁぁぁ~!」


 そうして列に並んだ人々の失笑の中、赤ら顔をさらに紅潮させながら馬車に乗り込んで立ち去ったのである。






 直後のズワスデン王国内大聖国教会。


「ご注進っ! ご注進にございますっ!」


「なんだ騒々しい……」


「ザムワール中級司祭閣下! 一大事でございますぞ!」


「なんだギルイラではないか。

 お前の大声は耳に悪い。もそっと静かに喋れ。

 しかもだ。先触れも無く突然押し掛けて来るとは……

 毎年多大な寄進をしているお前でなければ叩き出しておるところだぞ」


「そ、それが本当に一大事なのでございます!

 サロモン商会と名乗る辺境の商人が、塩の廉売を始めたのでございます! 

 それも1キロ銀貨3枚などという非常識な価格で!」


「そのような行為を取り締まるのが、お前たち塩ギルドの役目であろうに」


「そ、それが……

 奴らの申すことによれば、サロモン商会は大聖国の中央大神殿より、第1種商業免許のみならず、特別商業許可免許までも取得しておると言うのです!」


「ほう、特別商業許可免許といえば、あらゆる商品を好きな価格で売ることが出来る免許であったな」


「こ、このままでは我がギルイラ商会の塩が全く売れません!

 な、なにとぞザムワール中級司祭閣下のお力で……」


「お前はこのわしに中央大神殿の決定に逆らえと申すのか?」


「とっ、ととと、とんでもございません!

 で、ですがこのままでは我が商会の利益はゼロどころか赤字になってしまいます!

 そ、そうなればザムワール中級司祭閣下への寄進も出来なくなってしまうのですぞ!」


「人聞きの悪いことを申すな。

 あれは教会への寄進であって、わしへの寄進ではないといつも言っておるだろうに」


「は、ははっ! 申し訳ございませぬ!」


「まあよい。わしも、より早く上級司祭に任ぜられるために、当地を管轄する下級司教閣下への個人的な寄進も必要だ。

 お前にはもっと働いてもらわねばならん」


「ははっ! そ、それでは……」


「まったく、お前も少しは頭を使わんか。

 よいか、サロモン商会と言えば、この大陸東部のビクトワール大王国に本拠を置く大商会だ。

 その商会が塩の投げ売りを始めたということは、裏にいるのはビクトワール大王国と見て間違いないだろう」


「げぇっ!」


「ふふ、ビクトワールめ、大方あのガイア国とやらに捕虜にされた将兵の買い戻しのために、資金が必要になったのであろうの。

 それで、国内の塩価格を下げずに安売りが出来るよう、ここ大陸西部で売り出し始めたのであろう。

 だがいくらビクトワールの岩塩鉱山があるといっても、かの国からこの地までは1万キロ近い距離が有る。

 例え奴らがバックといえども、運び込まれる塩の量には限りがあるだろう」


「はぁ」


「だから、お前がサロモン商会の岩塩を全て買ってしまえばいいだけの話だ」


「おおっ!」


「そうしてお前が買った塩は、今まで通り1キロにつき大銀貨1枚で売ればよかろう」


「さ、さすがはザムワール中級司祭閣下でございますっ!」


「だがの、大聖国岩塩鉱山産でない岩塩を、この大陸西部で売るのはちと問題もある。

 その問題を解決するためにも上層部への工作資金が必要となろう。

 よってお前が得た利益、キロ当たり銀貨7枚のうち、4枚分はわしに寄進せよ。

 よいな」


「そ、それでは当商会の利益が……」


「それでお前は、今まで通りキロ当たり銀貨3枚の利益が得られるではないか。

 それともこのまま破産する方がよいのか?」


「う、うはははぁっ!

 そ、それでは早速買占めに取り掛かろうと思いますが、果たして奴らは我がギルイラ商会に岩塩を売りますでしょうか……」


「まったくお前は阿呆よな。

 そんなものはお前の商会の従業員に買わせるか、町人どもに小遣いでもやって買い集めさせればよいだろうに」


「は、ははっ! 

 さ、さすがはザムワール中級司祭閣下でございまするっ!」





 サロモン商会支店前。


「おい、岩塩10キロよこせ」


「はい、大銀貨3枚でございます。

 おや、あなた先ほども岩塩を10キロお買い上げ頂いていましたね」


「ひ、ひと違いだろう」


「はは、あなたはギルイラ商会の従業員でしょうに。

 帰ったらギルイラ会頭にお伝えください。

 わたくしどもサロモン商会は小売りと卸売りの区別は致しませんよ。

 このような小細工をしなくとも岩塩は売って差し上げます」


「ほ、本当か!」





「なあ、サロモン商会さんよ。

 卸しでも構わないって本当かい?」


「ええ、本当ですが……

 ですが、一般の商人の方が塩を安く売ると大聖国の『塩販売法』に触れてしまいますよ」


「い、いやそうじゃねぇんだ。

 俺ぁ村を回って商売をしている行商人なんだけどさ。

 俺が回ってる村々の連中が『塩不足病』に罹ってるみたいなんだ。

 それでいつも商売してくれるお礼に、ここで買った値段と同じ値で塩を分けてやろうかと思ったんだが……」


「塩不足病と言えば……

 あの激しい倦怠感や眩暈や、酷いときには意識も失うというあの病気でしょうか」


「そうなんだ。大事な商売相手っていうこともあるんだが、子供たちが倒れたりしてるの見るとな……」



(おいアダム。こいつに塩30キロタダ渡してやってくれ。

 その代わりにサロモン商会の宣伝も忘れないようにってな)


(はい)



「それはそれは……

 それではこちらの塩30キロを無料で差し上げますので、あなた様の回っている村で無償で配って下さいませ」


「い、いいのか?」


「その代わりに、『これはサロモン商会の好意です』と村の方々にお伝えするのをお忘れなく」


「あ、ありがとよ!」




(サトルさま、よろしかったのですか?)


(もちろんこいつにはナノマシンを張り付けてくれ。

 それで塩を横領したり高く売って利益を出したりしたら収容所送りだ。

 だが、もし本当にタダで塩を配ったら、サロモン商会の従業員として雇おう)


(畏まりました)




「なあなあ、サロモン商会さんよ。

 お、俺も行商人なんだけど、担当の村に塩を配りたいからタダでくれや」


「そうですか、それでは『行商許可証』を見せてください」


「き、許可証は家に置いて来ちまったんだ」


「そうですか……

 それではあなたが回ってる村々のことを詳しくお聞きしたいので、支店の建物の中にどうぞ」


「お、おう……」


(E階梯0.2、罪業カルマポイント30、『称号:詐欺師』ですか……)



 まもなく支店の中からピカピカと白い光が漏れて来た。

 同時に微かに人の悲鳴のようなものも聞こえたようだが、誰も気にも留めなかったようだった……




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