*** 202 サロモン商会岩塩販売開始 ***
俺たちはまず、ズワスデン王国王都のサロモン商会支店の強化を始めた。
まずは夜中に支店の建物をそっくり転移させて、外見はあまり変わらないものの、マナ建材製の強固な建物に変える。
もちろん絶対フィールドの魔道具や転移の魔道具もたっぷりと設置した特別製だ。
周辺の地所も買収して倉庫も追加で建てさせた。
さあ! いよいよ対大聖国戦争の開始だぜ!
ズワスデン王国王都にある大聖国の教会支部にて。
「お忙しいところ申し訳ございません、ザムワール中級司祭さま」
「おやシスター、どうしましたか?」
「サロモン商会と名乗る者が、孤児院の孤児を引き取りたいと申し出て来ております」
「はて、サロモン商会といえば大陸東部最大の商会のはず。
それも従業員のほとんどが孤児院出身者でしたね。
そのサロモン商会が孤児を引き取りたいというのですか……
それではいつも通り、孤児1人につき小金貨5枚(≒50万円)のお布施を要求しなさい」
「それが…… サロモン商会の申すところによれば、当孤児院の孤児たち35人全員を引き取りたいとのことなのです。
それだけでなく、この国の全ての小教会支部にいる孤児125名も全員引き取りたいそうでございます」
「全員ですか……
思い出しました。
今月の大聖国大神殿の広報によれば、サロモン商会はつい先日、大聖国の大神殿総本部に大金貨5万枚(≒500億円)も払って、大陸西部全域の第1種商業免許と特別商業許可免許まで取得していましたな。
ということは……
大陸西部での展開を睨んで、将来の従業員も確保しておこうということなのでしょう」
「いかがいたしましょうか……
通常通りの寄進でよろしゅうございますか?」
「それでは孤児1人当たり大金貨1枚(≒100万円)の寄進が必要だと言いなさい。
教会支部の孤児の分も、すべてこの王都教会で払うようにと言うのを忘れずに。
それから、5カ所にある小教会孤児院からの孤児引き取りのための紹介料として、別に大金貨10枚を要求してみなさい」
「通常の倍額でございますか……」
「まあ多少の値引きはかまわんが、あまり安くしないようにな」
「それでは、仰せの通りに……」
1時間後。
「ザムワール中級司祭さま」
「おおシスター、孤児たちは高値で売れましたか?」
「はい。サロモン商会は言われるままに大金貨170枚(≒1億7000万円)を支払って、孤児たちを全員引き取って行きました。
わ、わたくし、このような大金を目にしたのは初めてでございます……」
「はっは、言ってみるものよの。
それとももう少し価格を上げられたかな?
まあよかろう。
それでは大金貨80枚は教会の金庫に入れて、半分の40枚は中央神殿への上納金に回しなさい。
残りの大金貨90枚はここに置いていくように」
「はい……」
「そうそう、これでシスターたちで何か美味しいものでも食べなさい」
「こ、これは大金貨(≒100万円)……
よ、よろしいのですか?」
「かまわん、その代わり皆でスラム街でも巡回して、孤児集めを増やすように。
この分だとサロモン商会ももっと孤児を買って行きそうだからな」
「仰せの通りに……」
(なあアダム、こいつら完全に人身売買組織だよな)
(はい……)
(よし、完全に破滅させてやろうか……)
翌日のズワスデン王国王都、サロモン商会の支店前広場にて。
大きな台の上に乗ったアダムブラザーが声を上げた。
「ご通行中のみなさま!
このたび我がサロモン商会は、塩の大安売りを始めさせて頂くことになりました!
通常1キロ大銀貨1枚(≒1万円)の岩塩が、今なら銀貨3枚(≒3000円)でございます!
どうぞみなさま奮ってお買い求めくださいませ!」
「おいおいサロモン商会さんよ。
そいつぁいくらなんでも安すぎねぇかい?
俺が生まれてこのかた、ずーっと塩は1キロ大銀貨1枚だったんだ。
それがたったの銀貨3枚たぁな」
「はは、これより我が商会では当分の間1キロ銀貨3枚ですよ」
「そいつぁ…… 混ぜ物でも仕込んだのかい?」
「いえいえ、混じりっけ無しの純粋岩塩です。
あちらにたくさん積んである塩をご覧ください。
あれをこちらの1キロ用の壺に入れてお売りさせて頂きます」
「へぇー、綺麗な赤茶色の岩塩だなあ。
黒っぽい不純物が全然入って無いじゃないか」
「うーん、これほんとに全部塩なんか?」
「どれどれ、俺は塩に関しちゃあちったぁうるさいんだ。
おう、1キロ買わせてくんな」
「毎度ありがとうございます」
「お…… こ、こいつぁほんまもんの岩塩だわ……
お、おい、すまんが水をくれるか。
岩塩は水で溶くとその質がよくわかるんだ」
「どうぞどうぞ、こちらに」
「おいおい、これマジで特上の岩塩じゃねぇか!
混ぜ物どころか不純物すら無ぇぜ!
あんたらこれ本気で1キロ銀貨3枚で売るんか!」
「ええ、よろしければもっとお買い上げ下さいませ」
「わかった! あと10キロくれ!
これで俺の食堂のメシももっと旨くしてやれるぜ!」
「お買い上げ誠にありがとうございます」
「あ、あの。お兄ちゃん、塩って100グラムだけ買わせてもらえるの?」
「ええええ、もちろんですよ。
おや、おつかいですか。感心ですね」
「う、うん。ほ、ほんとに大銅貨3枚でいいの?」
「ちゃんと計算で来てえらいですね。
もちろんですよ。
多くても少なくても1キロにつき銀貨3枚の割合ですから、100グラムだと大銅貨3枚(≒300円)ですね」
「ありがとう!」
こうしてすぐに、サロモン商会の支店前には大勢の人が集まり始めたんだ。
「みなさま、1キロ以上お買い上げの方には岩塩をこちらの壺に入れてお持ち帰り頂きます。
1キロ未満の方は、こちらの紙袋でどうぞ」
「おいおい、こんな綺麗な壺、ほんとに貰ってもいいのかよ!
壺だけで銀貨3枚以上しそうだぞ!」
「それに紙の袋って…… これだって銀貨1枚はするだろうに……」
「はは、サロモン商会からのサービスです。
もしよろしければ、みなさんお知り合いの方にも教えてあげていただけませんか?」
「おう! 飲食店ギルドの連中にも伝えて来るわ!」
間もなく支店前には数百人の群衆が集まり始めたが、揃いの制服を着たサロモン商会の従業員達が手際よくロープを張って列の整理を始めた。
なぜか皆よく似た従業員達である。
「さあさあ、こちらの列は1キロ以上ご購入の方用です。
こちらは1キロ未満の量り売りの方用で、中身の塩を調べたい方はこちらの列にどうぞ」
「おい! キサマら邪魔だどけ!
俺様を列に並ばせる気か!」
「あー、みなさま恐縮ですが列に並んで下さいませ」
「なんだとゴルァ!
俺を誰だと思ってやがるんだ!
つべこべぬかすとブチ殺すぞ!」
そのとき突然その場に白い服の男たちが登場した。
なぜか全員満面の笑みを浮かべている。
「はいアナタ、威力業務妨害でアウトぉ~!」
びかびか!
「ぐえっ!」
どうやらお客さまに配慮して、今回の神威の衝撃波は控えめになっているようだ。
列に割り込もうとした男は、ぐったりしたまま白い服の男たちに支店の裏手に運ばれて行った。
(これで小官も逮捕500名達成だ)
(ということは5個目の勲章だな)
(あんまり手ごたえが無いんで、本当にそんなに勲章貰っていいものかと思うなぁ)
(まあ、すべてはここガイアとサトル閣下のおかげだな……)
「おうおうおうおう、手前ぇら誰に断ってこんなハデな商売してやがるんでぇ!」
「はい。ズワスデン王国国王府の許可を頂いております。
あとは大聖国神殿の許可も」
「なんだとこの野郎っ!
ここいら一帯を仕切ってる俺たち『金の矢』の許可を得てねぇだろうに!
ナメた口きくと叩っ殺すぞ!
ショバ代払わなくてもだ!」
「はいアナタ、威力業務妨害と恐喝未遂でアウトぉ~!」
びかびか!
「「「ぐげぇーっ!」」」
(ははは、もう503人目だ……)
「な、なあサロモン商会さん。
あいつらこの辺りで威張りくさってる愚連隊なんだけどさ。
だ、大丈夫かい?」
「だいじょうぶですよ、ウチの警備部隊は大陸最強ですから。
例え近衛兵が来てもおなじです」
昼ごろになると、サロモン商会の支店前広場は1000人を超える群衆で膨れ上がっていた。
だが、商会の制服を着た従業員たちは異様に手際が良く、20カ所近い岩塩販売カウンターを設置して客を捌いているために、特に混乱らしきものは起こっていないようだった……




