*** 200 岩塩頂き! ***
「さてと、それじゃあアダム、本格的な行動はサロモンの支店網が整ってからにするとして、それまでに俺たちが出来る準備を進めたいと思う」
(はい)
「それで頼んでおいた地質調査なんだが、どんな具合だった?」
(推定ではございますが、ガイア大陸の岩塩の最大埋蔵量は120兆トンほどになります)
「そんなにあるのか……」
(はい。
ご存じのように、この大陸の北部大山脈は、約8000万年ほど前に当時の南大陸がプレートテクトニクスで北上し、元からあった南大陸とぶつかり合って形成された褶曲山脈であります。
そのときたまたま南大陸の北部が凹状の形をしていたために、推定海水量4000兆トンに及ぶ広大な内海が形成されておりました。
この内海が300万年ほどかけて干上がり、塩化ナトリウムが結晶化して出来上がりましたのが現在の岩塩鉱床の元でございます。
その後大陸同士のぶつかり合いによる褶曲山脈形成により、主に北部大山脈の内部に巨大な岩塩鉱床として存在するに至りました)
「結晶化の過程や地圧でにがり成分が分離されたのか」
(はい。そのため、やや赤茶色をした岩塩の周囲には、黒い不純物も一緒に埋まっていることが多くなっております)
「それにしても、そんなに鉱床があると掘り出すのも大変だよな。
山も崩れちゃうかもしらん」
(ですがサトルさま。
推定最大埋蔵量のうち、地表にほぼ露出しております部分は約0.012%ほどしかございません。
また、地表から1キロ以内にある鉱床は全体の約3%ほどでございまして、残りはすべて北部大山脈中央部の深い岩盤の中にございます。
現在のガイアのヒト族の技術水準では、大鉱床中央部に達することは到底不可能でございましょう)
「とすると、ヒト族国家が『岩塩鉱』と呼んでいる部分は3兆6000億トンほどだということか……
あの中央大平原の砂漠の砂の8%ぐらいか。
それならなんとかなりそうだな」
(地表から1キロ以内に大量の岩塩鉱が埋まっている場所は、北部大山脈沿いに52カ所ほどございます。
このうち、大陸西部は20カ所ほどございますが、その中でもヒト族が発見して実際に採掘を行っている場所は6カ所でございますね。
それら6カ所の合計埋蔵量は約4000億トンになります)
「そうか…… その鉱山を保有している国の名は?」
(6カ所の鉱山のうち、2カ所はミジル王国とセイラスリー王国という国に存在しますが、いずれも大聖国の属国になっております。
あとの4カ所がある国は、300年ほど前に相次いで大聖国に滅ぼされ、現在では大聖国直轄領になっておりますね。
『システィフィーナさまからの賜りものである岩塩鉱山は、当然大聖国中央神殿に寄贈すべきである』と称して武力で侵攻した結果です)
「ったく、ほんと大聖国っていうのはロクでもない国だよなぁ。
それから金鉱山はどうなってる?」
(大陸西部では、砂金の採れる河川が5カ所、そのうち3カ所では河川の上流に金鉱山がございまして、つい100年程前から金鉱石の採掘が始まりました。
このうち採掘量の少ない砂金採掘場所2カ所を除いた6カ所が、やはり大聖国の直轄領になっております)
「なあアダム。
今さらだけど、今のガイア国と大聖国の関係をどう思う?」
(大聖国はガイア国に対し、まずは一方的に莫大な金銭を要求して来ました。
それを拒否すると5000の兵力で武力侵攻を企て、それも失敗すると、主力軍の一部である軍1万をもって侵攻して来ました。
つまり、現在両国は明確な戦争状態にあると理解しています)
「お前もそう思うか。
だったら俺がどれだけ大聖国を攻撃してもかまわんよな」
(はい)
「それじゃあサロモンの準備が整うまでの間、やれるだけやってみるか……」
俺は、アダムが探査してくれた北部大山脈の高原地帯に降り立った。
ここは標高にして4000メートル、大陸西部最大の岩塩鉱山の北側上部に当たる。
むろん周囲にはヒト族の姿は見られない。
どれぐらい時間がかかるかはわからんが、とりあえずやってみるとしよう。
「現地点より南方300メートル地点を中心に、直径500メートル、深さ100メートルに渡って円筒状に岩石を砂化し、システィの神域倉庫に転移させよ」
途端にその場に巨大な穴が開いた。
見る間に岩石が粉砕されて倉庫に転移して行っている。
うん、これぐらいなら楽勝か……
マナ操作力はほとんど使ってないし、体内マナも0.002%しか減って無いな。
「同様にして、今開けた穴の底部から下方向に直径500メートル、深さ1000メートルの穴を掘削せよ」
はは、岩石が砂に変わるとともに転移させられてるから、突然穴が開いていくようにしか見えんな。
穴の側面を少し固めておくか。
俺はその作業を7回繰り返したが、やはり負担には感じなかった。
うーん、こうした土木工事は久しぶりだが、俺も進化したもんだわ。
あっという間に深さ7000メートルもの縦抗が出来上がったよ。
穴の底面は標高マイナス3000メートル程になる。
その縦抗の側面からは、数カ所で地下水が噴き出していた。
「アダム、縦抗の底に溜まった水は海に転移させておいてくれ」
(畏まりました)
俺は体に転移の魔道具と送風の魔道具を纏い、周囲を絶対フィールドで固めた。
これで穴の底が酸欠状態になっていても大丈夫だろう。
更に自分の上に強力な『光の魔道具』を8つほど浮遊させて穴を降り、底部から1000メートルほどのところに側面から張り出す足場を作った。
「アダム、岩塩鉱までの方向と距離の指示を頼む」
(はい。サトルさまの位置から真南に向かい、仰角6度で32.5キロ掘り進んでくださいませ)
「了解。『ここより真南に仰角6度で直径100メートル、距離32.5キロの円筒状の岩石を液状化し、この縦抗に流し込め。
流し込んだ液状岩石は砂化した上で神域倉庫に転移させよ』」
おー、すげぇな。
どどどどどーとか音を立てて液状になった岩石が流れ落ちて来てるよ。
まあすぐに砂化されて倉庫に消えて行ってるから、俺が生き埋めになることはないけど。
まあ万が一埋まっても絶対フィールドがあるし、すぐに転移で逃げられるからな。
こうしてものの30分ほどで長大な斜抗が出来上がったんだ。
もちろん斜抗の側面は密度を上げて強化するが、斜坑から湧き出て来た地下水もそのまま縦抗に流した後で海に転移させている。
そうして俺は、斜坑を32.5キロ進んで岩塩鉱の切端の前に立ったんだ。
すげぇなこれ。
つるつるの塩の1枚板か……
まずはその切端部分手前の岩石を削って、直径300メートルほどの空間と俺の足場を作る。
「アダム、この地点からヒト族の岩塩鉱山の切端までどれぐらいの距離がある?」
(おおよそ5.5キロでございます)
「さんきゅ。それじゃあ始めよう。
『この地点から真南の方向5.2キロに渡って存在する塩化ナトリウムを全て液状化せよ。同時に岩塩鉱に接する部分の岩石面を圧縮して強化せよ。
流れ出た塩化ナトリウムは縦抗の底に溜めた後に、直径3ミリほどの粒状に固化した上で神域倉庫に転移させよ』」
おおー、これもすげぇな。
なんか赤茶色の水がどんどん流れ出しているわ。
あ、なんかがぼんがぼんって凄い音がしてるぞ。
そうか、岩塩が流れ出した分、斜坑から空気が入り込んで来てるのか……
俺は絶対フィールドのおかげで何も感じないが、この空洞内の気圧の変化が凄そうだ。
これだとけっこう時間かかっちゃうかもだな。
仕方ない、空気の通り道を作るか……
俺は今いる直径300メートルの空間から斜め上に向けて、直径30メートル程の穴を掘り始めた。
もちろん、流れ出る液状岩石はすぐに砂化させて倉庫に転移させている。
はは、空気穴が完成したら、急に勢いよく岩塩が流れ始めたか。
それにしてもたくさんあるもんだ。
「なあアダム、ここの岩塩ってどれぐらいの量があるんだ?」
(おおよそ20立方キロ、約600億トンでございます)
「けっこうあるなあ」
(ええ、ヒト族国家では岩塩は1キロにつき大銀貨1枚(≒1万円)で取引されておりますので、ここだけで大金貨6億枚の財産になりましょうか)
「うわー、日本円で600兆円、日本の国家予算の6年分かよ!
仮に塩の価格が日本並みに1キロ100円になったとしても、6兆円分か。
もっともそんなに塩を大量放出しても誰も喰えないだろうがな。
それともガイアの住民2400万人が全員高血圧になっちまうか……
あはははは」
(実際には各地に運ぶ輸送費が大半を占めているのでしょうが、それにしてもガイアの塩価格は高いですね)
「岩塩鉱山を独占している大国が価格を吊り上げているんだろう。
採掘コストや輸送費を含めても原価はせいぜい1%だろうな。
まったくボロい商売だぜ」
(それで今後はどういたしましょうか?)
「ヒト族側の岩塩鉱山の切端から50メートルほどを残して、残った塩もすべて転移させよう。
それからこちら側をマナ建材で薄く覆っておくか。
そうすればタイミングを見て、大聖国の主要岩塩鉱山のひとつを完全に枯渇させてやれるだろう」
(それではその作業はわたくしにお任せを。
もしよろしければ、サトルさまは次の岩塩鉱山にご転移くださいませ。
既にわたくしのブラザーが待機しております)
「はは、さすがだな。
このペースだと、明日中には大聖国の岩塩鉱山の岩塩をほとんど全部頂いちゃうことになるな」
(さすがなのはサトルさまでございますよ。
金鉱山でも同じように採掘されるおつもりなのですか?)
「おう、こんなに簡単に岩塩を採掘出来るとは思ってなかったからな。
ただまあ金鉱は岩塩と違って金が塊りで存在してるわけじゃあないから、もう少し時間がかかるんじゃないか?
金鉱脈探査の方も頼んだぞ」
(既にブラザーたちが終えておりますです)
「それじゃあ明後日からは金鉱山を頂くとするか」
(はい)




