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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
198/325

*** 198 大陸東部国家の衰退開始 ***

 


 こうして、大陸東部のヒト族国家は順調に衰退を始めたんだ。


 まあ王族たちも、税を払ってくれる国民がいてこそ国が成り立っていて、そのおかげで自分たちも贅沢が出来てたってようやく気づいたようだな。

 普段は虫ケラのように思っていた国民だけど。


 後はアダムとサロモン商会と神界防衛軍に任せておけば大丈夫だろう。

 皆には、まずは辺境の小国24カ国ほどをターゲットに、無理せずゆっくりと作戦を進めるように言っておいた。



 この大陸東部の国家群は興味深い分布をしている。

 まずは中央部にあるビクトワール大王国を中心に、その周辺に10カ国ほどの中規模の属国群がある。

 そうしてその周囲には、それぞれの属国につき2つから3つ程の衛星国家群を持っていたんだ。


 まあ交通網はおろか通信網も無い世界だからな。

 広すぎる統一国家を造っても、それを維持することが出来ないもんだから、こうした形態になっていたんだろう。


 つまりはまあ、大陸東部60カ国のうち、中心部にある36カ国はビクトワール大王国の属国とそのさらに属国だったんだけど、それ以外にも周辺に24の小国があったんだ。

 超好戦的で、周囲の小国を攻め滅ぼし、中規模になっていたノーブ王国は俺が事実上滅ぼしたから、例外も無くなったし。



 これら小国群は、中央から遠過ぎたり農業や漁業以外に主な産業が無かったり、または人口が少な過ぎたりして、あまり大国からの侵略の対象にはなっていなかったようだ。

 それでもまあ、小国同士略奪したりされたりする可能性はあったわけで、皆それなりの軍備は持っていたんだけど。

 小競り合いは頻繁にしてたし、国の名前も国境線もしょっちゅう変わっていたようだ。



 俺の目から見て、こうした国々で不自然に見えたのは、人口に占める常設軍の割合だった。

 いくら兵のほとんどが奴隷兵だったとしても、国の全人口に占める兵の割合って、普通は5%ぐらいが限界のはずなんだよ。

 余程に農業生産が盛んな農業先進国だとしても、非生産人口である専任兵士が8%もいたら、もうギリギリだよな。

 だから日本の戦国時代なんかは、農民兵が主力だったわけだ。

 普段は村にいて農業をしてるけど、戦が始まりそうになると足軽という戦闘要員として狩り集められるっていう形の兵だ。


 まあ、それは日本みたいな狭い地域ならではの発想で、もっと大きな国ではどうしても『常設軍』が必要になるんだろう。

 なんでかっていうと、例えば敵が国の南側から攻めて来たとして、その国の北部地域から農民兵を招集しても、連絡して招集して戦場に移動しなきゃなんないわけだからな。

 それに3カ月もかかっているようだと、もう既に戦に負けちゃってるかもしれないから。


 だから通常は、国境周辺は比較的精強な軍備を持った辺境伯に守らせて、その後詰として国王直轄の『中央軍』を置くところが多かったんだ。

 敵が侵攻して来たら、まずはその辺境伯軍が足止めをして、そこで稼いだ時間で中央軍が駈けつける形だ。


 このとき、狭い地域の辺境伯軍だったら、常設軍が少なくて農民兵が多くてもなんとかなるだろうが、即応体制が必要な中央軍は、どうしても『常設軍』が多い方が有利になるわけだ。



 こうして、戦乱の激しい地域ほど農民兵が少なくなって常設軍が増えて行ったんだ。

 日本で初めて常設軍を持ったのは織田信長って言われてるけど、信長は周囲の国を併合して最終的には上洛するつもりだったからこそ、そうした常設軍を発明して戦力を充実させてたんだよ。


 それともうひとつ、信長が途中まで成功を収めていた理由としては、その常設軍を養うための資金として、農民に重税を課すんじゃあなくって国内の商業を盛んにしたことが大きいだろう。

 いわゆる楽市楽座っていうやつだ。

 国を富ますのに、農業力ではなく商業力に目をつけた最初の戦国大名と言われる所以だ。

 別の言い方をすれば、国を支える経済っていうものは、蓄えたストックではなく、カネの回転フローに依存するっていうことだ。


 現代の地球だって、国の豊かさを表す尺度は国富じゃなくってGDPだろ。

 あれは年間に動いた経済をカネの移動のフローで表した数字だからな。

 そういう意味で、財政難に陥った江戸幕府がたびたび倹約令を出したのは愚の骨頂だったわけだ。

 普通、フローの無いところにはストックも生まれないんだから。



 でもこのガイアでは、そもそも王族や貴族なんかの支配層が好戦的過ぎたんだよ。

 兵を養うための経済力が必要なら、他国から略奪すればいいっていう発想しか無かったから、農民には生きて行くのに最低限のモノしか与えずに、常設軍の拡充に力を注ぎ続けたんだ。

 しかも奴らはE階梯が低くって特権階級意識も強いから、その農民が重税で飢えて死んでもなんとも思わなかったし。


 もちろんそのときは常設軍も喰わせて行けなくなるんだけど、そうなったらやっぱり隣国に攻め込んで、略奪したり奴隷にして連れて来て農民にすればいいと思っていたんだ。

 そのために、普段からそれこそ限界まで非生産職である常設軍を増やしていたんだな。



 だから俺たちの戦略があれほど効いたのかもしれない。

 その国の農民をどんどん移住させちゃって、さらに国全体を城壁で囲って侵略も奴隷狩りも出来ないようにさせるっていう戦略が。

 それで一気にその国の人口が100分の1から1000分の1になっちゃうからなあ。


 考えてもみてくれよ。

 人口10万だった国が、半年ほどで人口1000人とか100人になっちゃうんだぜ。

 それってもう国としての体を為してないよな。

 もちろん税の重い国ほど人の減少率が大きいんだけど。


 豊かで税も軽い国だったら、そもそも誰も移住なんかしないよ。

「ガイア国に行けば、今度の冬に餓死しないでも済むかもしれない」って思ったからこそ移住する気になったんだろう。



 それに、中央のビクトワール大王国とその主要周辺属国のトップ連中は俺が封じ込んじゃってるからさ。

 空白地帯になった辺境地域を侵略しようにも、総司令官がいないワケだ。

 国に残った国王一族が内乱の末に国王を継ごうとしても、いつ本来の国王たちが解放されて戻って来るかわからないから、あんまり過激なことは出来ないし。

 まあ実際に内乱が激しくなりそうだったら、その国の王族だけ解放してみようかとも思ってるけどさ。

 はは。





 或る日のビクトワール大王国謁見の間。


 その場にいるのは第8王子イシス・ビクトワールとその護衛、それから宰相と少数の文官のみだった。



「それではイシス殿下。

 どうあっても、次期国王に就任されるおつもりは無いということなのですか……」


「当然であろう。

 私は王位継承権を持っていないからな」


「ふう、それでは残されたのは第7王子殿下のみということになりますが……」


「まあそうなるな。

 シギストワル兄上に臨時国王代行にご就任頂くしかあるまい」


「ですが、第7王子殿下は、どうやら政争と暗殺の恐怖のあまり御心の病を抱えていらっしゃるご様子。

 ここ3年ほど、防備を固めたお部屋から一歩も外に出られてはおられませぬ」


「ならば宰相、あなたが臨時摂政として国政を担えばよいだろうに。

 子爵以上の貴族、すなわち国王一族や上級貴族がすべてあの城に捕えられた今、そうする他はあるまい」



 宰相はため息をついた。

(殿下はわたしにこの国の幕引きの役割を担えと仰せか……)


「仕方がありませんな。

 それでは臨時摂政として、あと数年ほどは働かせて頂きましょうか」


「その臨時摂政殿に頼みがある」


「なんでございましょうか……」


「わたしを廃嫡してくれ」


「なんと……」


「陛下の藩屏としてお守りする立ち場でありながら、陛下のみならず国王一族をほぼ全員捕えられてしまった罪は重い。

 その責を負って廃嫡を申し出たい。

 ここらで、イシス・ビクトワールからイシス・ビリンゲスに戻るべきだろう」


「畏まりました……

 ですが、もしよろしければ臨時摂政補佐として、今後も少々お力を拝借してもよろしいでしょうか……」


「ふむ。まあそれぐらいならかまわんか。

 それでは月に1度ほど、臨時摂政殿の執務室にお邪魔するとしよう」


「痛み入ります……」




 おかげでイシスがかなり自由に動けるようになったんだ。

 現在はほとんどガイア国に住みついていて、月に一度ほどビクトワール大王国に転移の魔道具で帰るだけになっている。

 イシスのガイア国での仕事は、受け入れた難民や捕獲した犯罪者の生活環境をチェックすることだ。



「ところでイシス、ヒト族の暮らしについて、なにか勧告する改善策はあるかい?」


「それが…… ほとんど無いのですよ。

 今さらながら、サトルさまのご配慮とガイア国の方々の働きぶりに驚いておる次第です。

 特に子供たちの扱いについては素晴らしいとしか言いようがありませぬ。

 暖かい家と充分な旨い食事を用意してやるだけで、あれほどまでに生き生きとした目をするようになるとは……

 アダム殿に伺ったのですが、E階梯の伸びも目を瞠るほどです」


「犯罪者たちについてはどうだ?」


「ややE階梯が高い者、そうですな、1.5以上で戦場以外での殺人数も数件までの者に関しては比較的矯正の余地がございます。

 正当防衛以外の殺人でも、家族や同族の者を飢えさせないために行った結果であったりしますし、また常習性も無かったということですので。

 ですが、旧貴族やE階梯1未満の者、もしくは殺人数2ケタ以上の者はもはや見込みがございません。

 このまま少数人収容所で隔離して余生を送らせるのが得策かと」


「イシスもそう思うか……」


「はい。

 彼らには矯正の見込みはありませぬ。

 このまま子供たちの目に触れぬところに居させるのがよろしいかと。

 そうしてあと30年も経てば、彼らも寿命でひっそりと死に絶え、この世界全体の平均E階梯上昇に寄与してくれることと思います」


「そうか……

 俺もそう思っていたんだが、イシスもやはりそう思ったか。

 サロモンはどう思う?」


「御意のままに……」


「お前さ、俺のやることが全て正しいとか思い込むなよ。

 お前の重要な役割の一つに、俺の失敗を未然に防ぐために意見することがあるんだからな」


「はて、今後もそのような機会があるとは思えませぬが……

 それでもその意見がお役に立つのであれば、鋭意努力させて頂きますです」



「ひとつ具申させて頂いてよろしゅうございますでしょうか」


「なんだいイシス?」


「最近サトルさまが始められた大陸東部での施策、あれは実に効果的だと思われます。

 結果としてテストケース地域での罪業カルマポイントの伸びが大幅に減少し、その減少分以上にここガイア国のヒト族の幸福ハピネスポイントが増加しておりますので」


「うん、上手く行ってよかったよな」


「さすればあの封じ込めと移民募集政策を、もっと広げて行かれては如何でしょうか。

 わたくしの見るところ、神界防衛軍の方々やガイア国の移民受け入れ態勢にもまだまだ余裕があると思われますので」


「俺もそれを考えてみたんだが……

 それよりもまず、この大陸最悪の国家である西の大聖国をなんとかしたいんだ。

 だから大陸東部の24の小国はこのままゆっくりみんなに任せて、俺とアダムは大聖国対策に注力してみたいと考えている」


「なるほど。

 東部で於いてはまずビクトワール大王国とその主要属国を沈黙させ、西部に於いてはその中心である大聖国を滅ぼされようとされるのですな」


「そういうことだ。

 それで明日、あと数名のメンバーを加えた上で、俺の戦略を皆にチェックして貰いたいと思っている。

 その中で必要な事前準備を指摘して欲しい」


「畏まりました……」




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