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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
197/325

*** 197 テストケース小国終了のお知らせ ***

 


 こうして1週間もすると、近隣の奴隷商に子供奴隷はいなくなったんだ。

 そうなると、奴隷商の対応は2つに分かれるわな。


 真面目な奴隷商(なんか論理矛盾な言葉だが)は、近隣の村を回って子供を買い集めようとするわけだ。

 サロモン商会はまだまだ奴隷を買うつもりらしいから、仕入れれば仕入れるほど売れるから。


 この時点でようやく俺にも分かり始めたんだ。

 この酷い世界では奴隷商も必要悪だったんだって。

 理由は簡単だ。

 奴隷になれば最低限の食べ物は与えられる。

 飢え死にさせたら奴隷商にとっては仕入値が丸損だから。


 だが、誰も子供を奴隷として買わなかったとしたら……

 不作だった年には、冬を越せずに一家全員飢え死にするかもしれないわけだ。

 実際不作のときには、例え子供を売っても充分な食料が買えずに、残された親たちが飢え死にしてたケースも珍しくは無いそうだ。


 だけど子供たちは奴隷商館にいる間は少なくとも生きていけるし、奴隷として売られてからも最低限の食事は与えられることが多いんだ。

 買い手としても奴隷に死なれたら購入費用が丸損だからな。


 戦争で捕虜になった奴隷はもっと悲惨だ。

 なにしろ売れ残った奴隷には、鉱山奴隷になるか飢え死にするかの選択肢しか無いからな。

 鉱山奴隷になっても3年生きられればいい方だっていうし……


 つまりさ、奴隷商って、『このままだとほぼ確実に死ぬ』っていうヒトを引き取って、最低でも食事が有って生きていける環境に送り込んでやる、っていう役割を担ってたんだ。

 そんな役割を担わなきゃなんない奴が必要とされること自体、ヒト族社会が腐ってる証拠ではあるんだが……


 こうしてマトモな奴隷商たちは、サロモン商会の旺盛な需要をチャンスと見て、懸命に農村を回って子供奴隷を買い集め始めたんだ。

 多少仕入れ価格に色をつけてでも。



 だが…… マトモではない奴隷商たちは……



「へっへっへっへ…… 

 ほんとにガキ一匹で大銀貨2枚も頂けるんですかい?」


「そうだ、どこぞの農村に行って早く捕まえて来い」


「それじゃあ早速遠征に出るとしやすか……」


「なるべく傷モノにするなよ」


「へい。ああ、大人は要らねぇんですかい?」


「当分はガキだけでいい」


「それじゃあ邪魔な野郎は始末しやすか」


「もし大人でも捕えて連れて来られるならそいつは大銀貨1枚だ」


「おおー、そいつぁ豪儀なこってすな。

 でも俺たちは馬車持ってねぇんであんまり大勢は無理ですぜ」


「そんなもん縄で繋いで連れて来ればいいだろうが」


「それじゃあ万が一衛兵にでも見つかった日にゃあ……」


「この旗を持って行け。これはワシの商館の旗だ。

 商館の仕事で奴隷を仕入れて来たと言えば大丈夫だ」


「へっへっへ。それじゃあひと稼ぎさせて貰うとしますかね♪」



 そのとき突然、またもや白い軍服姿の男たちが現れた。


「なっ、なんだお前たちはっ!」


「はいアナタたち、誘拐未遂でアウトぉ~!」


「はいアナタ、誘拐教唆でアウトぉ~!」


 びかびかびかびかびかびかびかびか!


「「「「 ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁ~っ! 」」」」




 まあこのテスト地区では、1平方メートル当たり10個のナノマシンが配置してあるだけじゃなくってさ。なんと人間1人当たりにも10個のナノマシンが張り付けてあるんだわ。

 そんなんで犯罪なんか出来るわけないよなー。


 ただ困ったのは、この商館にいた成人奴隷の扱いなんだ。

 勝手に連れてくわけにもいかないし、仕方ないから当面の間水や食料を転移させて面倒見てやることにしたよ。

 それでもマトモな奴隷商からのヒアリングによれば、こうした主が居なくなった商館の奴隷は、いったん領主の物になって、それからすぐ別の商館に払い下げられるんだと。


 それで俺たちは次の段階に進むことにしたんだ。

 つまりまあ成人奴隷の購入開始だ。

 もうこの国の子供奴隷はほとんど買っちゃってたから。

 この地域の奴隷商人の間では、もうすっかりサロモン商会も顔だからなぁ。

 購入は順調に進んで行ったよ。


 ついでに悪徳奴隷商もその子飼いのチンピラや盗賊団も随分と捕まえてたから、奴隷狩りの発生件数ももうそんなには無かったんだ。




 だけどこのころから、また新たな動きが始まっちゃったんだわ。

 奴隷商って、領主からその活動を保護されている代わりに、奴隷販売代金の1割を領主に収めていたそうで、それで貴族たちにもこの国の奴隷販売が絶好調って知られてしまったんだ。


 それでさ、いくらなんでもとは思ってたけど、この貴族ども、領軍を使って奴隷狩りを始めやがったんだよ。

 それもさすがに自国内はマズイっていうことで、こっそり隣国に入ってそこの農民たちを捕えようとしたんだ。


 それでまあ、俺は予め作らせておいた土台の上に、一気に城壁を造ってこの国を封じ込めることにしたんだ。

 小さい国だったから城壁の総延長も80キロほどしか無かったし、高さも30メートルだったから大したことは無かったわ。

 10分もかからずに造れたし、俺の体内マナも1%も減ってなかったし。


 そうして城門は2カ所しか造らずに、そこに『神界防衛軍』に常駐してもらったんだ。

 門には『違法奴隷の通過、ならびに武装兵の通過は認められません』って書いておいたけど。


 そしたらさ、密かに領主に命じられて隣国で奴隷狩りをしようとしてた領軍が焦ったわけよ。

 このまますごすご帰ったら、領主に処罰されちゃうからな。


 だから城門を通ろうとして神界防衛軍とぶつかるわけだ。



「我らを誰だと心得るかっ!

 邪魔立てすると成敗してくれるぞ!」


「だめですよ。あなたたち隣国で奴隷狩りしようとしてるでしょ。

 だから城門の通過は認められません」


「ええい! 者ども、こ奴らを叩っ切れっ!」


「「「「「 おうっ! 」」」」」



「はーいあなた方、恐喝未遂と傷害未遂と誘拐未遂でアウトーっ!」


 びかびかびかびかびかびかびかびかびかびかびかびか。


「「「「「 ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ! 」」」」」




 こうしてこの国の領軍兵はどんどんいなくなっちゃったんだ。

 とうとう怒り狂った領主が領主軍の主力を率いて城門に攻めて来たけど、これも全滅というか全員行方不明な。

 同じことしようとした国王直轄軍も全軍行方不明だ。


 その後は、各村に設置したサロモン商会の出張所を通じて、すべての村で炊き出しと同時に『ガイア国移民募集』を始めたんだ。


 村人たちも、旨いもの喰った後に『ガイア国には税がありません。自分が作ったものは全部自分の物です』っていう広報を映像で見て、続々移民に応募して来たわ。

 やっぱりテレビの威力ってすげぇな。




 こうしてこの小国では、

 まず孤児院の孤児がいなくなって、

 次にスラムの子供たちがいなくなって、

 スラムの大人たちもいなくなって、

 スラムのチンピラもいなくなって、

 子供奴隷がいなくなって、

 村の子供たちも奴隷として売られてすぐにいなくなって、

 成人奴隷もいなくなって、

 悪徳奴隷商とその手下のチンピラもいなくなって、

 領主の貴族とその配下の領主軍もいなくなって、

 国軍も司令官ごといなくなって、

 そうして最後に村の農民もいなくなっちゃったワケだ。


 つまり残されたのは、国王と官僚、それから街の商店主と村の村長ぐらいだけになっちゃったんだな。

 はは、この国の来年の税収が楽しみだわ。


 残された商人やマトモな奴隷商たちは、すぐに国外に出て隣国でまた商売始めてたよ。

 まったく商人はたくましいわ。



 こうしたテストケースの大成功に自信を深めた俺たちは、この国の隣国でも同じような作戦を始めたんだ。

 まあ2カ国分もやればみんな慣れて来たんでさ。

 後はサロモン商会やアダムたちに任せて、俺は毎日報告だけ受けてたんだ。

 


 でもすげぇんだぜ。

 毎日毎日、奴隷もスラム住民も農民も軍も、万人単位でガイア国に流れ込んで来るんだもんな。

 ついでに各地の小国がどんどん城壁に覆われて、もう隣国と戦争どころか小競り合いすら出来なくなっちゃってたし。


 おかげでこうした地域に限っていえば、日々の罪業カルマポイントの増加数がゼロになっちゃったんだわ。

 もちろん住民もほとんどいないから、この地域の幸福ハピネスポイントの伸びもゼロだけど。

 でも、ガイア国の移民希望者収容所に入った連中が、旨いもの喰ったり暖かい風呂や布団に入ったりするたびに、山のような幸福ハピネスポイントを計上してくれるようになったんだ。


 来年ぐらいには、税収がほとんどゼロになってびっくりしている王族たちにも、『ガイア国への亡命のお誘い』とか作って送りつけてみるか……






 或る日、テストケースの小国の王城にて。


「陛下、来年度の国家予算案が出揃いましたので、最終確認をお願い致します」


「あ゛? なぜ王室費が100分の1になっておるのだ!

 これでは晩餐会も出来ないではないか!」


「晩餐会はもう必要ございません」


「何故だ!」


「国内の貴族は、全員領軍とともに行方不明になっておりますので。

 また、国軍もほとんど皆行方不明になりましたので、国軍維持費は300分の1になっております」


「そ、それで余ったカネを王室費に回せばよいではないか!」


「おカネは余りません」


「な、なぜだ!」


「来年度の税収はほぼゼロになりますから」


「な、なぜそんなことになるのだ!」


「もうこの国には、王室と役人、侍従や侍女ぐらいしか人が残っていないからでございます」


「ど、どうしてそんなことになった!」


「ご報告申し上げておりましたのに……

 村人は重税に耐えかねてガイア国に移住してしまいました。

 もう誰も農作物を作っていません」


「それでは奴隷を買って作物を作らせろ!」


「もはやこの国の奴隷は皆買われてしまいましたし、もし隣国などで買おうにも、10人も買えばすぐに王室費もゼロになります」


「そ、それでは商人から多めに税を取ればよかろう!」


「それを見越して商人たちも続々と国外へ出て行っております。

 商品を取引する相手の農民もいなくなりましたし」


「そ、そやつらを捕まえろっ!」


「誰がですか?」


「な、なんだと!」


「誰が商人を捕まえるというのですか?

 もう国軍はほとんど残っていないのですよ?

 来年は兵の給与も払えませんので、残った兵も続々と国外に出て行っております」


「な、なんということだ!」


「ということで、わたくしもガイア国に移住しようと思います。

 税収がゼロになった国では、例え宰相といえども食べていけませんのでね。

 それではこれでお暇させて頂きますです。

 これからもどうかお健やかにお暮らし下さいませ、陛下……」




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